ちょっと薄め。次とか、その次とかぐらいに手フェチの人とか出したいなあ。
感想、評価ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。
誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56
はてりとポルポは首を傾げた。
ただ、暗い中にいる。
どこかはわからない。わからないけれど、特別居心地が悪いわけでもなく、ただ、ここはどこだろうと考える。
自分は、とポルポは考えていた。
そこでふと気づく。
膝の上に、いいや、自分が何か小さくて重たくて、温かな何かを抱いていることに。
見下ろす。
そこには“赤ん坊”がいた。
可愛い。
ポルポは無意識のように、当然のように赤ん坊に微笑みかける。そうして、赤ん坊をあやすためにゆらゆらと揺れる。
赤ん坊がきゃらきゃらと笑っている。
可愛いね。楽しい?いい子だね。
ポルポは微笑みかける。
暖かくて、愛らしい、顔も判別できないのに。それでも、可愛いと分かる。
愛しいなとポルポは微笑む。
おかあさん。
おかあさん?そうだね、君のおかあさんを探さないとね。
ううん、おかあさん。
うん、おかあさん、どこだろうね。
あなたが、おかあさん。
え?
早く産んでね、おかあさん。
それと同時にばさりと暗闇の中に何かが飛んでいくのが見えた。
白い、鳥?鳩?
何の鳥だろう、ああ、でも、綺麗だなあ。
まるで、天使様みたいで。
ばちりと眼を覚ます。
目の前にあるのは、見慣れたスイートルームで。ブラックサバスのためにカーテンの閉め切られた薄暗い部屋の中だった。
そこでがたりと何か重いものが床にたたき付けられるような音がした。
「ポルポ・・・・!!」
自分をのぞき込むように、覆い隠すようにリゾットが覆い被さる。
「起きたのか!起きたんだな!?体になにかねえか!?」
「・・・リゾット。」
「いや、先に医者か?プロシュートも呼んで。」
リゾットにポルポは微笑んだ。
「赤ちゃん、可愛いね。」
「は?」
「赤ちゃん、欲しいなあ・・・・」
ポルポはぽつりとそう呟き、そうしてまたうとうととし始める。リゾットは一瞬固まった後、ばたばたと部屋を出て行った。
「・・・・矢が?」
「ああ、そうだ。」
部屋に入ってきたのは空条承太郎とジョセフ・ジョースター。そうして、プロシュートにクララだった。
承太郎のそれにポルポはベッドに横たわったまま話を聞いた。別段、体に不調があるわけではないが、急に倒れ眠りこけてしまったポルポのことを慮っての事だった。
すでに音石は逮捕され、選定の矢と対になる弓は回収されていた。すでに時間も次の日になっていた。
ポルポは己の体に矢が刺さり、そうして、そのまま体に飲み込まれたことを知り勢いよく起き上がる。
「無理するな!」
プロシュートが褪せるようにそう言ってポルポの体をベッドに押し倒そうとしたが、彼女はそれから逃れるように叫んだ。
「サバス!ブラックサバス!!」
叫ぶようなそれに、ずるりと影から何か疲れたようにシオシオのブラックサバスが現れる。
「私の、可愛い、子・・・・」
ポルポはブラックサバスのそれに姿をぐるりと見回す。
(見た目は、変わってない。)
「能力は?」
「変わらん、変わらんよ。ただ、矢が、暴れて腹が変だった。ようやく落ち着いたが。疲れた・・・・」
ブラックサバスはそう言ってずるりとポルポに抱きつき、甘えるように首元にすり寄る。
それをポルポは抱きしめ、労るように背中を撫でる。
そうして、ポルポはブラックサバスと同時に呟く。
「「鎮魂歌は、未だ訪れず・・・・」」
何故だ?
それがポルポの素直な感想だった。
選定の矢が自ら何かに刺さったと言うことは。
スタンド能力が開花するか、それとも、レクイエム、つまりはスタンド能力が強化されることを意味する。
(いいえ、スタンドに刺さった場合だけ、だったはず。ならば、スタンド能力を発現した人間に矢が刺さった場合は。確か、スタンド能力が強化されたことがあったような。)
けれど、ブラックサバス自身に変りはないという。
ならば、矢は、ポルポに何をもたらした?
「っおい!!」
承太郎の怒鳴り声にポルポは意識を立ち返らせる。承太郎が自分を見ている。それに彼女は無意識のように微笑んだ。どんな顔をしていいのか、分からなかったから。
「・・・・俺たちには、お前に何が起こってるのかまったく分からねえ。分からねえが。たった一つだけ分かることがある。お前は、何かを知っている。矢の秘密を!」
「・・・・それも、二年後にお話しします。」
「二年後に何がある?」
「その時に分かります。」
「ポリプス!」
ポルポは胡乱な眼で空条承太郎を見つめた。
「今、語るべき事はございません。」
「そんなことがまかり通ると思うのか?」
それにポルポはまるで、嘲笑うかのように顔を歪めた。
「あなたは、もう、あなたの物語を遂行してしまった。なら、これ以上語るべき事なんてあるはずがない。」
「俺の物語だと?何を言っている?」
承太郎が一歩足を進ませると同時に、リゾットが何よりも早くポルポと承太郎の間に体をねじ込ませる。
「止めろ。」
「どけ。」
「全てを話すのは二年ごと取り決めをしているはずだ。」
クララとプロシュートが自分に駆け寄る。
「ご主人、大丈夫ですよ。」
「ああ、お前はもう休め。こいつらはとっとと部屋から追い出すからよ。」
にらみ合う承太郎とリゾットを見て、ポルポは止めようとしたが、それよりも先に閃光のように声が響く。
「承太郎!やめんか!!」
その声にポルポはジョセフのことを見た。そこにいたのは、変わらない、杖を突いた、背中のまがった老人で。
けれど、ああ、わかる。
それは、きっと、戦士の目だった。力強く、いつかに、戦いの中に飛び込んだ男が老いてなお、眼を覚ました目だった。
「レディを手荒く扱うもんではない。若いの、リゾットと言ったか。すまんな。あんたの恋人のポリプスさんだったか?彼女を傷つける気はない。ただ、わしらも矢について知りたい気持ちも分かって欲しい。」
ジョセフのそれにポルポとリゾットは、同じ赤い瞳をぱちくりさせる。
「・・・・そっちのじいさんの方が話が通じそうだな。あと、俺と恋人ではない。」
それにジョセフは、え?という顔をする。
「・・・・あーなら、兄妹とかか?」
その言葉にポルポはリゾットは一瞬互いの顔を見て、首を傾げ合う。
「部下です。」
「上司だ。」
互いを指さしてそういうそれにジョセフは胡乱な眼で今度はプロシュートとクララに向ける二人はなんとも言えない顔をする。
聞くな。そう言っているように見えた。
ジョセフはなんとも言えない顔をして息をつく。
「はあ、わかった。お嬢さん、それでのお。何故、話せないかは教えてくれるか?あなたは矢と弓がどんなもので、そうして、わしらがそれを持っていたDIOとどんな因縁があるか知っているはずじゃ。」
それにポルポは黙り込む。ちらりと見た彼。
穏やかな、優しい、ジョースターの顔。
いつかに、特別な力などなく、それでもとある吸血鬼に立ち向かった人。
その人の、眼に、よく似ている気がした。
「・・・・すみません。」
「それは、何に対する謝罪だい?」
「あなたを、また目覚めさせてしまった。」
それにジョセフは不思議そうな顔をした。
「あなたは老いるだけだった。あなたは、このまま、多くのことが曖昧で、おぼろげで、そんな中ただ息子君に会い、老人としてこのままこの街を去るだけだった。けれど、今のあなたの眼は、戦士の目だ。あの日、波紋を学び、友と過ごし、柱の男たちを戦ったあの日の、娘を助けるためにエジプトに旅だった、あの日の、戦士の目に戻ってしまった。」
あなたを眠りから、覚まさせてしまった。
それが申し訳ないと、女は言った。
「君は、知っているのか。本当に。あの、日々を。」
ジョセフが動揺するように言えば、強ばった顔からすぐに、どこか楽しいものを思い出させるように微笑んだ。
「ええ、エシディシ様からの結婚指輪も、あ、テキーラ娘も知ってますよ。」
その言葉にジョセフは思わずあの言葉を叫んだ。
「オー!ノー!なんでそんな余計なことまで知ってるんだよ!!!」
若々しい言葉にポルポは笑い、そうして、やはり、物悲しい顔をした。
「・・・・あなたは、波紋によってお若い姿を取られなかったのですね。」
「そんなことまで。いや、ああ、そうするには波紋の鍛錬を続けねばならんし。それに、これが正しい。永遠など、人には過ぎたものだった。」
「老いる、ということは戦えなくなることです。あなたは少しだけそれから一抜けたのでしょう。一抜けて、そうして、微睡んでおられた。私、嬉しかったんです。あなたが人の名前を間違えたり、杖の場所がわからなくなったり。そういうの、嬉しかった。」
「それが、嬉しい?」
承太郎のそれにポルポは、本当に嬉しそうに笑った。あの、いつかにスタープラチナに向けたのと同じ、無邪気な笑み。
「ええ、だって!あなたたちは、老いる暇もなく、瞬きのように、正しさに準じて、多くを失って死んでしまうから!ジョースターは、いつだって、そうだから!」
嬉しかったと女は、老いて、耄碌して、微睡むように日々がままならない老いたジョースターが嬉しかったのだと笑うから。
それが、空条承太郎を惑わせる。
多くを曖昧にして、語るべきことを語らないそれは本来なら軽快すべきなのに。それは本当に、自分たちのことを思っているようだから。
焦がれて、安寧の日々を生きてくれることを嬉しいと笑ってくるから。
血と死臭を纏えども、それを悪だと認識しきれない。
「私は、知っていることがあります。でも、知れば、あなたたちは戦うために足を進めるでしょう。でも、もう、あなたたちは戦わなくていいんです。あなたたちは十分に戦ったはずだ。花京院典明も、アブドゥルも、イギーも、シーザー・ツェペリも失って!あなたたちからこれ以上、何を奪うというのですか!?この戦いは、この物語は、あなたたちのものじゃない!」
これは、これは、これだけは。
「これは、私の、ジョジョの物語だ。」
脳裏に浮ぶ、金の髪。彼女の太陽。
ぎちりと掴んだシーツの皺の深さに、ジョセフは息をついた。
「わかった、何も聞かんよ。」
「いいのか?」
「先ほど、念写をした。」
「いつのまに。で?」
「矢のことを念写しようとしたが。暗闇に浮ぶ矢が浮ぶだけで何も出てこんかった。あの華奢な体を見ろ。あの腹の中にどうやってあの矢が収る?これはわしらの知らん、矢の何かがあるのだろう。」
「・・・・正直、今、私の腹の中に矢があるとは思えません。」
「いいや、ある。あるにはあるが。なんというか、腹の中とは違う?ポルポの中にあるのは確か、なのだが。」
ブラックサバスのそれにジョセフはまじまじとそれを見る。
「・・・・ところで、これは本当にスタンドか?中に人間でも入っとるんじゃなかろうな?」
「・・・・着ぐるみか、私は。」
「自己意識の高い子なんです。私が、孤独が苦手だから。」
ポルポのそれにブラックサバスは彼女のことを抱きしめて、ジョセフに話しかける。
「・・・・矢はこの子の中にある。だが、取り出す手段はない。あるにはあるが、どこにあるかがわからん。故に、だ。ジョセフ・ジョースター。」
ブラックサバスはずるりと、まるで猫が伸びをするように体を伸ばし、ベッドサイドの椅子に座るジョセフを上からのぞき込む。
「・・・・必ずや、矢は一本、スピードワゴン財団に渡すと誓おう。私たちもこれは想定外なのだ。今は、ひいてほしい。頼む。分からない状態で、下手なことはしたくない。そうして、この子の身柄を渡すことも出来ないのだ。」
ブラックサバスは承太郎の方も見て頭を下げる。それに承太郎はため息を吐いた。
そうして、ポルポではなく、ブラックサバスを見て言った。
「・・・・二年後か?」
「ああ。」
「はあ、やれやれだぜ。」
承太郎は息をつき、帽子を被り直す。
「約束は違えるな。」
「ああ、貴様を敵に回すなど、恐ろしくてたまらんよ。」
「わしも、かまわんよ。さて、お嬢さんは休んだ方がいいじゃろう。そろそろお暇するぞ。」
ジョセフはよっこいしょと立ち上がる。それを承太郎は支える。それを見て、プロシュートがポルポの体を支えてベッドに寝かせる。
「お前も休め。眠いんだろう。」
「・・・そうでしょうか?」
「ああ、珍しく体があったけえ。俺が仕事のしやすい温度だ。」
「ああ、それは、あったまってますね。」
ポルポは頷きつつ、部屋を出て行こうとするジョセフがああと振り向いた。
「そうじゃ、お嬢さん。」
「はい?」
「・・・・シーザーの名前を覚えていてくれてありがとう。」
「え?」
「もう、あいつの話が出来る人間はそうおらんからの。妻とも、そう、話せんし。別れが、ああじゃったから。久しぶりにあいつのことを思い出せたよ。」
ジョセフがそう言って出て行こうとする背中に、ポルポは思わず言った。
「あの!」
「ん?」
「もし、よろしければ。彼の話を聞かせていただけませんか?私は彼のことを、記録として知っていても。記憶として走らないので。だから。」
それにジョセフは穏やかに微笑み、時間を作ろうと頷いた。
部屋を出て行った背中を見つめた後、ポルポは起き上がる。それにプロシュートとクララは止めるが、彼女はそれを振り切り、シャツを脱ぎ捨てた。
「おい、ポルポ!」
ポルポは無言で、それこそ普段の彼女の慎ましさなど忘れたように下着姿で部屋を歩く。
そうして、部屋に取り付けられた大きな鏡の前に向かった。
「・・・・傷一つ無い。」
「私が確認済みです。でも、矢が。というか、本当にあの矢ってなんなんですか?」
クララがポルポの脱ぎ捨てたシャツを持ってきておろおろとする。ポルポはくるりと背中を鏡で確認するが、やはりそこには何一つない。
「あの矢に指されりゃスタンド能力が発現するんだろ?なんで壊すんだ?」
「・・・・スタンド能力が増えてもいいことはありません。特権とは少ない方がいいですから。」
表向き、ポルポが矢を壊そうとすることへの理由を答える。
彼らがポルポの不可解な行動を咎めず、そうして放っておいてくれることがありがたい。
「・・・・お前が直接動く必要があるのか?それに、矢が腹に入ってるんだぞ!?組織に言って調べられるスタンド能力者を探さねえのか!?」
「私が知る限り、こういったことに有用なスタンド能力者はいませんよ。言っても、ドットーレぐらいしか。」
「絶対言うな、止めろ!」
ドットーレは医師のことであり、チョコラータを指すためにプロシュートは吐き捨てるように言った。
「・・・サバス、本当に異常はないんですか?」
その言葉にずるりとブラックサバスが影から現れる。
「いいや、ない、わけではない。言わなかったが。」
「何か?」
「・・・・・狭くなった気が、する。」
「狭い?」
「何か、何か、窮屈になった気がする?」
ブラックサバスのそれにポルポは首を傾げる。それにブラックサバスはゆらゆらと居心地の悪そうな動きをする。
「・・・おい、そろそろ服を着ろ。」
「プロシュート、別に私は気にしませんよ。」
「女の裸を勝手に見るわけに行かねえだろう!」
ずっと気になっていたのだが、わざわざ自分に背中を向けて話すプロシュートにそう言えば男は叫んだ。
「プロシュートの兄さんって、めっちゃ古風な思考で、雑なとこあるのにあーいうとこありますよね。」
「カラマーロから叩き込まれてるからね。」
そう言いつつ、ポルポは服を着た。そうして、腹を撫でる。
(確かに、下っ腹に違和感が、あるような?)
はてりと首を傾げるポルポにずっと黙っていたリゾットが話しかける。
「・・・ポルポ。」
彼はそう言って、ポルポの後ろに立っていた。
パッショーネの矢はポルポが所持していた。
原作の通り、パッショーネの矢は“ポルポ”の元にあった。ただ、疑問はある。
矢を己の内に取り込んでいた原作のブラックサバスはなんの異常もなかったのか?
(・・・・スタンドは、宇宙から来た病原菌由来の力。矢は感染源。なら、例えば、ポルポというキャラクターの椅子に座る資格があるのは、それへの耐性がある?)
「・・・・あのお、一個いいですか?」
クララのそれにポルポと、そうしてそれを抱っこしていたリゾットが顔を向ける。
考え事から意識を戻したポルポと、腹に違和感があるとぼやくために彼女のそれを撫でていたリゾットが不思議そうな顔をした。
「お前ら、マジで止めろ。」
「いや、他意はないですし。ご主人がお腹に違和感あるっていうから心配して腹をさすってるのも分かるんですけどね。」
「見た目が意味深すぎるから、マジで止めろ。」
プロシュートのそれにポルポはそう言えばとリゾットを見た。
「そう言えば、リゾットは私のお腹に矢の存在は?」
「特別、何かしらのものはないな。」
「そうですか。」
体がだるいし、眠れそうであるのだが、奇妙な違和感が続いており落ち着かない。
(・・・・外に出てこようかな。歩けば、気分転換になるんだろうか?)
丁度、時刻は午前で夕方になれば自分が起きたことを知ったらしい虹村兄弟たちが来るはずだ。それまでは予定はない。
「プロシュートの兄さん、あれ、まじでどうしますか?」
「どうって、どうするんだよ?」
「うーん、普通に生きてれば結婚してるだろう社会性みたいなものを持ってた二人が恋愛とか度外視に信頼と情を積み上げまくって距離感バグりまくった末路だもんな。」
「あと、リゾットの奴、生粋のシチリアーノだからなあ。」
「私、あんまりあっちの人の知り合いいないんですけど。そんなにですかね?」
「身内意識が極端につええの多いからな。嫉妬深いって有名だろ?あいつはそれもあるし、あとは庇護欲の強い奴だからな。暗殺一つでやってた時は発散できなかった奴に、あれだけ分かりやすい女を何にも気にせずに守れる状態になっちまったからな・・・・」
「でも、なんというか、微妙に不健全ではありますよねえ。いや、別に距離が可笑しいだけって言えばそうなんですけど。」
「もう薬でも盛って閉じ込めるかぁ?」
「終わった後にメタリカでズタズタコースじゃないっすか。」
プロシュートとクララがそんなことをこそこそと話している中、リゾットがポルポに問いかける。
「・・・・ポルポ。」
「はい、なんですか?」
「お前、赤ん坊のことで気になることがあるのか?」
「え?何でですか?」
「・・・・いや、お前、起きた時に赤ん坊がどうとか言ってただろう?」
その言葉にポルポはああと頷いた。
「夢を・・・」
「夢?」
「赤ちゃんを抱いてる夢、可愛かったので。」
それをポルポは特別気にしなかった。
家族に恵まれなかった女が願った、愚かな願望を夢に見てしまったのだろうと。
「ポルポよぉ、お前本当に後でカラマーロに電話してくれよ。今すぐ日本に来るって大変だったんだからよぉ。」
ぐったりとした様子のホルマジオにポルポは彼への給金に色を付けることを固く誓った。
昼間、太陽が真上に来ている中、ポルポは結局眠ることが出来ずに散歩をしてくると言った。
それに散々にカラマーロとなだめていたホルマジオも同行する。
基本的に目立ちすぎる部下のことを考えて、分かりやすくホルマジオと歩き、リゾットが姿を消して付いてきている。
「・・・・なあ、ポルポよぉ。」
「はい、なんでしょうか?」
「お前、本当に今やってることは組織のためなのか?」
それにポルポはホルマジオの方を見た。すっかり嘘、というか取り繕うことが上手くなった。昔は怯えて体を千々込ませることも多かったが、暗殺人チームを手元に置くようになってから、孤児院を作ってから、部下が多くなってから。
ギャングのまねごとが上手くなって、ホルマジオのその威圧感も平気な振りが出来た。
「矢についてはよ、まあわかる。だがな、あの承太郎か?あの男への頼み事、俺も中身は知らねえけど。俺たちの組織と、ああいう奴は徹底的に相性が悪いだろう?」
お前、なんの目的だ?
じっと、薄ら笑いをして彼はポルポを見る。それに彼女は落ち着き払って答えた。
「・・・いえ、これは組織のためです。未来のボスはきっと喜ばれますし。あなたたちの覚えだってよくなりますよ。」
それにホルマジオはじっとポルポは見つめる。彼からそう言われるのは予想できた。彼にとって大事なのは、ポルポのためならば命だってかけてしまうあの子だ。
だから、こうやって釘を刺す。
「今回、矢が腹に刺さったこともか?」
「・・・おそらく、問題はないでしょう。」
元より、それを言うならば、ブラックサバスと癒着したように、それの体内から離れなくなっている矢だって気にしなくてはいけないのだ。
けれど、それとも長い付き合いになった。今更、己の体に埋め込まれたと深い意味はないのだろう。
「まあ、だろうな。お前はそんな奴だから、俺ら全員心配してるんだぜ?少しぐれえ我が儘言えよ?」
嘘は言っていないと、ホルマジオは判断して微笑んだ。それは彼の本心でもあると分かるから、ポルポは嘘は言っていないのだと地面に視線を下ろして歩き続ける。
(悪魔は望んでいない、けれど、太陽はこれを喜ぶでしょう。)
自分がいなくなった後、布石はできるだけ撃っておかなくてはいけない。
矢を壊そうとしたことは完全な私情だったけれど。
(ポルポが持っていた矢は確か、ジョルノに殺されたときに壊れた。なら、私の腹にあるらしい矢も同じ末路を辿るはず。ポルナレフ様と、承太郎様があの戦いに向かえば、レクイエムを引き越す矢はスピードワゴン財団預かりになるはず。)
それでいい。こんな力を引き越すものなんて、ないほうがいいのだ、きっと。
今でさえ、矢がどうなっているのかわからない。
けれど、二年だ。
ポルポはあの日まで変わること無く過ごし、そうして、ポルポの持っていた矢も壊される。
(・・・・ポルナレフ様の時のように。矢が複数、一度に同じ場所に集まったことはそうない。なら、これはさほど問題のないことなのかもしれない。)
「そういえばよぉ。」
「はい?」
「お前、妊娠とか、してねえよな?」
「・・・・待ってください、何の話ですか!?」
「いや、プロシュートとか、リゾットが赤ん坊ってなんかぶつぶつ言ってたからよ。もしかして、と思ってなあ。」
「あれだけ、おぼこといじられた私によく言えますね・・・・」
「だ、だよな!?そうだよな!?あー、よかった・・・・」
「何をそんなにあなたが気にするんですか?ギャングの私にそんな贅沢赦されるはずないでしょう?」
「いや、お前、そりゃ。お前の相手なんて想像に難くねえし。そうなった場合のカラマーロの反応とか考えろよ。まあ、確かに相手もいなくて妊娠なんぞ、聖母様もびっくりだろうが。」
「・・・聖母、様ですか。」
もう捨てたはずの名前と同じかの人のことを考えて、ポルポは久しぶりに自分の名前を思い出したとぼんやりと考える。
そんなことを考えていて、丁度、曲がり角。
ポルポは誰かにぶつかる。
「おいおい、大丈夫か?あー申し訳ないな・・・」
「すみません、前を見て折らず。」
「いいえ、大丈夫・・・」
その場に座り込んだ女が立ち上がろうと、ポルポたちを見上げ、そうして短く悲鳴を上げた。
「な・・・」
「な?」
「なんて酷い顔!?」
「・・・・貧相とか言われたことありますが、ここまでストレートな罵倒は初めてですね。」
「ごめんなさいね、はあ。その、見たこと無い顔、してるから。」
「は、はあ、いえ、そんなに変な顔してますかね?」
「ふっつーの顔だろ。特徴もねえ。」
ポルポに罵倒を投げかけてきた女、辻綾という女性はエステティシャンなのだという。彼女はなんでもポルポの顔に非常に興味を示し、見せに来るように強く勧めた。
ホルマジオはそれを回避しようとしたが、ポルポは目の前の女に興味を惹かれ、頷いた。
「・・・俺も着いていくぞ。それが条件だ。いいな?」
「本当はだめだけど、わかったわ。今回は私の興味の話だから、はあ・・・・」
(シンデレラか。魔法使いってことかな?)
連れてこられた店は普通で、女はとつとつと語る。
「人相、つまり顔の形で人は運が変化するものなの。」
「顔でえ?」
胡乱な顔のホルマジオに辻はまじまじと顔を見た。
「ふふふふ、あなたは、そうね。大抵適度に人と距離を置くタイプなのに。運命の人に出会って追いかける側に変わったって感じね?」
それにホルマジオの顔が珍しくひくりと震える。少々分かりやすい態度であるが、ポルポの脳裏には金の髪をした、美しい娘のことが思い浮かんだ。
(スタンド使いか?)
(そんなスタンド能力者のバーゲンセールみたいにいていいものじゃないんですが。)
ホルマジオとポルポがこそこそと話していると、辻は一息つき、ポルポを見た。
「・・・・・だからね、大抵、人っていうのはある程度、方向性っていうものがあるの。愛される可能性とか、例えば、愛されないのか、愛されるのか。愛するのか、愛さないのか。そういう方向性がね。でもね、貴方は違う。」
「は、はあ?」
「・・・・愛されるのに愛されない。人を愛しているのに、人から遠ざかる。まるで。」
魔法使いは目を細め、目の前の女に言った。
「あなた、数人の人間をぐちゃぐちゃに混ぜたみたいな、顔、してるのよね・・・・」
それにポルポは何と言えばいいのかわからなかった。覚えがある。自分が座った席に座るはずだった、信頼を重要視した、悪辣なる男。
死んで当然と言われた、スタンド使い。
「運命と言えるものが交錯しているの。幸せになれるのに不幸になるしかない。不幸が訪れるのに、幸せを甘受している。矛盾しているわ。人生がグラデーションになっていて。これは、どう、施術すれば。」
「・・・・おい、それって大丈夫なのか?」
「わからないわ。数人の顔が混ざっていて。定まっているはずの運命が、定まらず、不安定で。」
「・・・・辻様、私に施術は必要ありません。」
ポルポはそう言って立ち上がる。
「はあ?お前、いいのかよ。」
「大丈夫です、ホルマジオ。お互い、明日を見知れぬ身であることに変わりはございませんので。辻様。」
「え、ええ、何かしら?」
「・・・・私は元々、双子として産まれるはずだったそうです。」
「双子?」
「バニシングツインと呼ばれる現象ですね。あれは妊娠初期に双子の片割れが子宮に吸収されることのはずですが。もしかしたら、その子が混ざっているのもやもしれません。」
「・・・キメラ?」
「そうですね、そういったものなのでしょう。」
ポルポは微笑んだ。
「・・・・だから、私のこれはいなくなった片割れの分も背負っていきたいので。運命を変える気はありませんよ。」
心配してくださり、ありがとうございます。
そう言いつつ、ポルポは考える。あの夢はもしかしたら、思い出すことの少なくなってしまった片割れからの嘆きだったのかも知れないと。
辻はポルポのことが心配で、連絡先をくれた。彼女が自分の顔を変えるときは来ないのだろうけど。