ちょっと薄め。本編いきたいけど、虹村兄弟辺りとか、あと、露伴先生書きたいし、話数増えそうです・・・
感想、評価ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。
誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56
「・・・・あの方は、寂しいところがある方ですから。」
そんなことを、己の父だとしか知らない人について、やっぱりまったく知らない女から聞いた。
「ほんとに大丈夫なんですか?」
東方仗助のそれに彼女は苦笑した。仗助がいるのは、ポリプスたちが借りているスイートルームだった。
品のいい家具の置かれたそこで、眼を覚ましたらしいポリプスの見舞いのために仗助は虹村兄弟と広瀬康一で彼女と、その隣には笑うクララがいた。
「うんめえ!!」
「兄貴、この焼き菓子うんめえぞ!!」
「億泰、止めろ・・・・!」
「ああ、いいですよ。」
ポリプスこと、ポルポはニコニコと笑いながら答える。
「・・・・あの、大丈夫なんですか?その、矢が。」
黙り込んでいた康一にポルポは軽く首を振る。
「今のところ支障はありませんよ。承太郎様たちとは話を付けましたし。ひとまずは、落ち着きました。ご心配をおかけしてすみません。」
腹をさすりながら苦笑するポルポに仗助は落ち着かない気分になる。
おそらく、軽んじるべきと言うか、舐めない方がいいのだろう。承太郎から聞いた限り、脛に傷があるタイプらしいのだが。
(ぜっんぜん見えねえんだよなあ。)
仗助は考える。何せ、その女はあまりにも、なんというか、無害な匂いしかしなくて。それこそ下手をすれば自分の母の方が強そうな印象を受ける。
(いや、まあ、そりゃあ。)
仗助は億泰の話をにこにこしながら聞くポルポの後ろ、そこでテーブルに着き、こちらを伺う三人の男を見る。
(あっちは、ただもんじゃねえってことは分かるけどよ。)
三人が三人とも、ただ者ではないと何かを纏っている。それがいるからまだ、承太郎の言葉を信じられているだけで。
(どーしたもんかなあ。)
仗助がそんなことを考えていると、ポルポが恐る恐る彼に問いかける。
「・・・あの、ところで仗助君、ジョセフ様とは話を?」
「あー、聞いてくださいよ、ポリプスさん!」
仗助はジョセフを自宅につれていく間にあったことを話す。
「まじで大変だったんですよ!?俺の金も!」
「ジョセフ様に言えば返してくださると思いますよ?それとも、承太郎様か。」
ポルポは苦笑しつつ、そっと紅茶の入ったカップを見つめる。
「ジョセフ様のこと、お嫌いですか?」
「・・・・あんたは、なんつーか、あの人贔屓だな。」
それにポルポは少し迷うような仕草をした後コップの縁を指でなぞった。
「あの方は、寂しいところがある方ですから。」
そう、まるで自分のことを語るかのようにポルポは寂しそうな顔をしていた。
それに仗助はこの女は、自分の知らない父親だという老人のことを、自分よりもよく知っているのだと理解した。
それが、とても鼻についた。
「・・・あんたはあの人のことよーく知ってるみてえですね。」
「不愉快ならばすみません。ただ、まあ、仲良くできればと思ってしまいまして。余計でしたね。」
紅茶に口を付ける女に仗助は何か苛々した気分が拭いきれずに指先で机を叩く。
「仗助よぉ。何そんなに怒ってるんだよ!?」
「怒ってねえよ!」
「・・・・気に入らねえだけだろ。」
「何がだよ、兄貴?」
「身内のことを、知ったような口で話されるのは良い気分じゃねえって話だ。」
「そうか?確かに、おめえ、親父さんのこと全然しらねえんだもんなあ。お、そうだ!ポリプスさんに聞きゃあいいじゃんかよ!」
億泰のそれにポリプスは首を振る。
「さすがに、ジョセフ様に勝手に話すわけには・・・・」
「いいっすよ、何か言われたら俺が言わせたっていやあいいですから。」
仗助はどこか開き直って答えた。
赤ん坊を助けたとき、仗助の中で血が繋がった男でしかないジョセフという男は、少しだけ彼にとって違う意味を持つようになった。
もちろん、正直、今でも彼に近づきたいと思うかと言われれば違う。
彼には彼の家庭があり、妻もいて、孫さえいる男にはもう自分は入り込む余地もない。
けれど、少しだけ、それは曖昧で、強いて言うなら興味でしかない感情だった。
けれど、あまり口数の多くない承太郎にも聞きにくい、彼らの話は仗助も少しだけ聞きたいと思った。
仗助のそれにポルポはカップを置き、簡単に、だけだと口を開く。
「ジョセフ様は、男の身内に少々縁が薄い方でしたので。」
「男の?」
「お祖父様、ジョナサン・ジョースター様は御子が産まれる前に船の事故で亡くなられていますし。肝心のお父様、ジョージ二世様も、ジョセフ様が産まれてすぐ、でしたっけ?空軍でパイロットをされていましたが亡くなられてしまって。お母様もジョセフ様の近くにはいられない理由があって、お祖母様に育てられたんです。」
「ええっと、俺の、曾ばあちゃん?」
「ええ、賢く、美しく、気高い方でした。エリナ・ペンドルトン。いえ、エリナ・ジョースター様ですね。教師をされていました。元々、医者の家系で、看護師の経験もあられましたね。」
「へえ・・・・その人も教師を・・・」
自分の知らない、父方の親戚の話はなかなかに面白い。母と同じ職業だったというエリナという人にも奇妙な縁を感じる。
「お祖母様と、そうして、ジョナサン様の旧友である男性を父親代わりに育ちましたが。旧友の方もお年でしたのでジョセフ様がお若いときに亡くなられましたし。親友と呼べる方もおられましたが。」
「ました?」
仗助がそう聞くと、彼女は、何か、なんだろうか?
とても、苦い目をしてじっと机の上に置いたカップをじっと見つめる。そうして、何かを振り払うように首を振った。
「・・・・時代が時代でしたので。戦いに巻き込まれ、三十にも満たぬ内に亡くなられました。すさまじい死に様で。」
時代という言葉に皆は顔を見合わせる。ジョセフの年齢からして、大戦を経験していても可笑しくはない年齢だ。
「・・・もちろん、奥様もご健在ですし。娘、ああ、仗助様にとってはお姉様ですね、その方も、お孫様の承太郎様もお元気で。ひ孫も生まれておいでですしね。ですが、どうも。」
私には、あの方が寂しいところがある方だと、少し、思ってしまうのです。
ポルポはそう言って、また、カップを手に取り、縁を指先でなぞる。
それに仗助は少しだけ理解、みたいなものがあって。
自分に拒絶されたときの、あの、なんだか物悲しい背中を思い出してしまうからだろうか。
そこでふと、女はゆっくりと目を細めて、そうして本当に、心から嬉しそうに笑った。
「・・・・本当に、よく似ておられますね。」
なんであんたがそんな顔をするんだと、そう問いたくなった。そんな顔だった。
それはきっと、自分がジョセフに似ているという意味なのだと思う。それが嫌みとかではなくて、何か、仗助の中に懐かしいものを見つけたかのような親しみで。
それが居心地が悪い。
寂しいなんて言葉で言われたって仗助には理解できないし、語られたことが本当かはわからない。けれど、仗助の、優しい青年には今まで老人が散々に受けた傷について考えてしまう。
だから、どうすればいいのだろうか?
父親として思えというのだろうか?
そんなこと、思えはしない。だって、自分は不倫の果ての子だ。
母は自分を産んだことを納得していて、祖父だって受入れてくれていて。
父親も自分の存在を知って駆けつけてくれる程度の誠実さがあるとして。
それでも、己の存在は、ジョセフの家庭にひびを入れてしまって、彼の妻は怒っていて。
誰かを不幸にしてしまうと分かっていて、ジョセフのことを受入れることなんて出来ないだろう。
母と会っても、母と夫婦になることも出来ない。だから、会わない方がましだと思う。
なのに、それなのに、歩み寄ってしまう自分がいることが嫌でたまらない。
自分の存在が誰かを傷つけると分かってなお。仗助は背けていた目をジョセフに向ける自分が嫌でたまらなかった。
懐古と寂しさの交ざった顔で女はそう言って。軽く首を振った。
「・・・いえ。ご不快でしたかね?」
「・・・・あんたはどうして、そんなにあー、ジョースターの家に詳しいんだよ。」
「縁が、少しだけあるのです。」
「それがなんなんだよ・・・」
含みを持たせた遠回しなそれが仗助には不満だった。そう言えば、彼女は悩むような仕草をして、そうしてなんだか清々しく笑う。
「・・・・とても、美しい人だったのです。ジョセフ様のお祖父様に当たるジョナサン様は。だから、ずっと焦がれて、知りたくて。そうあれればと思いましたが。上手く行きませんでしたね。」
ポルポはそこで言葉を切り、そうして、カップを置いた。
「・・・これ以上詳しい話は、ご本人に訊くのが筋でしょうからご勘弁ください。」
「わ、分かりました。」
「そ、それで、なのですが。」
ポルポはわざとらしく咳払いをし、そうして仗助の方に体を寄せて今までの哀しそうな眼など忘れてきらきらとしたそれを少年に向ける。
「あ、赤ちゃんが、ジョセフ様の元におられるんですよね?」
「あ、そっすね。スタンド使いで母親も見つかりそうにないんで。世話をしてますけど。」
「ぜ、是非会いたいのでジョセフ様にご連絡していただけませんか!?」
「は、はあ!?」
驚きの声を上げた仗助にクララはもちろん、話を聞いていた男たち三人もあーあというように肩をすくめた。
クララが苦笑気味に宣う。
「・・・お気にならず。ご主人は度の過ぎた子ども好きなんですよ。」
「まあまあ、女の子ですね。ふふふ、可愛らしい。」
ポルポはベビーベッドの中をのぞき込み、眼をキラキラさせて赤ん坊に微笑みかける。
それを見ていたジョセフがこそりとポルポを連れてきた仗助に問いかける。
(・・・受入れたけどのお、なんなんじゃ?)
(いや、そのですねえ。)
気まずそうな仗助のそれにずいっとクララが横から入ってくる。
(いやあ、申し訳ありません。その、ご主人が言ったとおり、子ども好きな方なので。)
(子どもが?)
(・・・・ええ、孤児院の支援やら、色々とされている方なので。特に赤ん坊は好きで、孤児院に泊まり込んで定期的に世話をされるぐらいには。)
その言葉にぞろぞろと付いてきた面々はベビーベッドをのぞき込むポルポを見た。その後ろにはやはり静かにリゾットが立っており、プロシュートは部屋の隅でそれを眺めている。
ホルマジオは部屋で留守番をしていた。
(・・・やっぱり、悪党、って感じじゃねえんだよなあ。)
にこにことこれ以上ないほどの笑みを浮かべて赤ん坊をのぞき込む女と、それを静かに見つめる男の様はそれこそ一つの家族のようだった。
その安寧とした空気感がやっぱり承太郎の言葉に疑問を投げかけてしまう。
それと同時に、何か、奇妙な居心地の悪さを感じる。
父母と子、完璧な家族のように見えるそれがそろった場面をこうやって会ったこともなかった父と見る今が妙に気まずい。
ちらっと見た父である老人はどこか興味深そうな眼で女のことを見ていた。
赤ん坊に会ったときに比べて、老人だった彼の言動は明らかに若々しいというのか。
違うものを感じた。
(なんか、眼が、承太郎さんに似て・・・・)
そこまで思ったときに赤ん坊がけたたましく泣き出した。それにジョセフが慌てて立ち上がり、赤ん坊の元に向かう。
先ほどまで自分をのぞき込むポルポにきゃらきゃらと楽しそうに笑いながら手を伸ばしていたのだが。
「ミルクもおしめもさっき終わったんじゃがなあ。」
抱き上げて調べる限り、どちらにも該当せず、泣き続ける赤ん坊を揺らすジョセフは視界の中でじっと赤ん坊を見つめる女の視線に気づく。
「・・・あの。その、泣き止ますのは、得意なので。私がしても?」
ポルポのそれにジョセフは少しだけ悩む。承太郎が視界の端に機嫌の悪そうな、というか、警戒心に満ちた眼をしていたが。
泣き止まない赤ん坊のそれにジョセフはものの試しにと女に渡す。
女は話の通り慣れた様子でしっかりと赤ん坊を抱く。
女が赤ん坊を抱くと、ぴたりと泣き止み、上機嫌そうに女のシャツを掴む。
「良い子です、良い子ですね。ご機嫌ですね。」
それは、なんというか、仗助はその光景に見とれてしまった。
黒い長い髪を垂らした女はふくふくとした赤ん坊を抱き、穏やかな笑みを浮かべている。
椅子に浅く座り、赤ん坊に赤い目を細めて柔らかな声で語りかけるその様は。
とても美しい光景だった。
もちろん、ポルポは際だって見目が良いわけではないし、痩せた体はどこか見ていると不安になるような体躯なのだ。
けれど、その、赤ん坊を慈しみ、愛するように目を細めるその様は妙に人を惹きつけるようだった。
それは西洋の画家がよくモチーフに使う聖母が赤子を抱くような絵に似ていて。そういった気質のものならば嬉々としてペンを手に取っていたことだろう。
(なんか、こう見ると、お袋に似てる気がする・・・・)
もちろん、見た目なんて似ていないのに、そんなことを考える。
「・・・・本当に泣き止んだのぉ。」
ジョセフが感心するようにそういう中、女はどこか気にせずに、というか、赤ん坊のことしか見えていないというように。
口ずさむように言った。
「良い子、良い子。ええ。そうですね。あなたはとても怖いのでしょう。」
赤ん坊はしっかりとポルポのシャツを握り、じっと女の顔を見る。それを女は赤い眼でのぞき込む。
「おかあさまがいなくて。そうですね、母様はどこでしょうね?わかりませんね。知らない人ばかりで怖いですね。」
語りかけるその言葉に従うように赤ん坊は強く女の衣服を掴み。それに女は赤ん坊の顔を寄せて、その小さな頬に自分のそれをぴたりとくっつけた。
「可愛い子。独りのあなたを抱き上げてくれた人はね、とても優しい人なのですよ。ええ、ええ、優しくて、暖かくて、軽やかな人です。ふふふ、本当ですよ。夜の一族、永久に他を喰らう闇夜に住むものを倒した、明るい、陽の使徒。黄色の、光を持つ人。戦士の祈りを受け継いだ方。ええ、ええ、火山に飛ばされても生きているぐらい、強い人です。だから、大丈夫、安心して。」
ねえ、可愛い子。もう、怖くないよ。だからね、お顔を見せて欲しいな。
とつとつと語るそれに部屋の殆どの人間は不思議そうな顔をする。その中で、ジョセフと承太郎だけが何かを察した顔をしていた。
けれど、それは幼い子どもに寝物語を聞かせるような。そんな優しい声だった。
何か、とても夢を見ているような気分になったのだ。
そんな中、ずるりと影の中からブラックサバスが現れる。それは朗々と語る。
「怖れるか、揺蕩うな。混ざることもなく、現れよ。」
「ええ、怖がらなくていい、あなたはもう迷子じゃない。紛れ込まずに、お顔を見せて。」
その言葉に、それに、赤ん坊の頭上、いいや、ポルポとブラックサバスの頭上に、何かが現れる。
それはまるで、何か、透明な何かが暴かれて現れたかのように。
何か、透明なそれが、どんどんと色づいていく。
それに仗助はそれが何かに似ていると感じ、思い立つ。
(あ、これ、モビールだ・・・)
赤ん坊をあやす、回る、おもちゃたち。
からからと涼やかな音がする。
それは、分かりやすく言えば、透明なクラゲのような形をしていた。ただ、クラゲの触手というのだろうか、手足に見える部分はそれぞれ独特な形に変形している。
淡い、水色の体は中央の部分はへこんでおり、傘のような形をしている。その端々に、モビールのような触手が揺蕩っている。
熊のぬいぐるみ、丸いボールが連なっているものや、愛らしい動物の形、そうして、星のモビールがくるくると赤ん坊とポルポと、ブラックサバスの上で回る。
「おお、おお、おお!産まれ落ちし影よ!」
ブラックサバスと、ポルポは同時に、それぞれに己の祝福すべきにものに微笑む。
「汝が名は、アクトン・ベイビー!」
「貴方の名は、静。静、です。」
ブラックサバスは両手を広げ、クラゲに掲げた。
「産まれ落ちし、影に祝福あれ!!」
「産まれたあなたに、目覚めた星へ、祝福がありますように。」
優しい、声だった。
いいや、いつかに誰だってそんな声を、少なくとも、その場にいた者たちは聞いたことがある気がした。
朗々と騒がしいブラックサバスの声と、柔らかなポルポの声に皆が奇妙に懐かしくて、どこか力が抜けるような安堵の気持ちに襲われる。
ああ、そうだ。
いつかにそんな風に誰かが、そうやって。
自分を見落として、そう、囁いてくれたような気がする。
「・・・・あの子、いいなあ。」
億泰が羨ましそうにそう呟いた。
その横で形兆は苦い顔をして、億泰を見ていたけれどすぐに視線をポルポに向けた。
(・・・・羨ましい。)
ポルポはそっと赤ん坊の頬を軽く拭った。そこには、赤ん坊のふくふくとした、まろい頬が浮かび上がっていた。
「おお、スタンド能力が!」
ジョセフが驚愕の声が上げる中、ポルポは赤ん坊に微笑みかける。
「そうね、おねむ?なら、お歌を歌いましょうか?」
微笑む女は静かに何かを口ずさむ。
それは、仗助の知らない、異国の歌だった。視界の端で、プロシュートが部屋を足早に出て行くのが見えた。
(にん、な?なな?)
何語かは分からない。けれど、それはきっと子守歌なのだ。女が歌うのに合わせて、ブラックサバスがメロディーを口ずさむ。
「・・・・イタリアの、歌か。」
誰かがそう、言っているのが聞こえた。
それにあわせてクラゲが、いいや、アクトン・ベイビーがからからと涼やかな音を立ててくるくる回る。
淡い、透き通った光がポルポに降り注ぐ。それは麗らかな小春日和の中にいるようだった。
「・・・・懐かしいのお。」
隣にいたジョセフがぽつりと呟く。それに仗助が視線を向ける。
「ホリーの時のことを。」
「娘さん、だっけ?」
自分の腹違いの姉で、そうして承太郎の母だという人の名前を何となしに口にする。ジョセフはそれに軽く頷く。
「おお、可愛かったなあ。」
うんと、一度頷いて、そうして無意識のようにジョセフは呟く。
「おまえさんの、仗助君の赤ん坊のころも可愛かったろうなあ。」
抱っこ、してやりたかったあ。
それは、本当に、ジョセフがきっと何と無しにその光景を見て思ったことで。そうして、それは切ない憧憬と、そうして心からの後悔と無念があって。
寂しい人、というポルポの台詞が思い出された。
それに仗助はああと、少しだけ、理解できた気がした。
この人はたぶん、愛したがりの人なのだろうと。
心を傾けた人だとか、そう言った人を抱きしめたがる人で。
そうかと、仗助は思う。
この人も、本当の父を知らずに育った人なのだ。父代わりの人がいても、本当の意味で、父という存在を知らない。
(・・・・寂しいか。)
祖父がいた、だから、寂しいと思ったことが、たった一度もないわけではなくて。
虚ろだったわけではないけれど、自分には母がいて。
目の前の人には、母も知らなくて。
だから、だろうか。
「・・・・でも、今は会いに来てくれたんでしょ?」
それにジョセフは驚いた顔をして、そうして、ぽつりと言った。
子守歌に混ざって、聞こえた。
「・・・・遅くなってしまったがなあ。」
「会いに来ただけ、たぶん、ましなんですよ。」
そう言えば、ジョセフは、そうかと頷いて。
そうだろうかと、何度も何度も頷いていて。
仗助は一度だけ、そうだろうと頷いた。
ある程度歌えば、赤ん坊はすやすやと眠る。けれど、ポルポは変わらずゆらゆらと赤ん坊をあやし続ける。それに背後からリゾットが近づき、ポルポに話しかける。
「・・・・ポリプス。」
「ああ、リゾット。見てください。可愛いね。」
「ああ。可愛いな。だが、もう、眠ったならベッドに戻してやりなさい。」
「ああ、そうですね、そう、ですね。」
彼女は名残惜しそうに赤子をベッドに横たえた。そうして、名残惜しそうに赤ん坊の頬を撫でる。
「おやすみなさい、可愛い子。」
そう言ってやっぱり、それはとびっきりの優しい笑みを浮かべた。それと同時に、アクトン・ベイビーは空気に溶けるように消えていく。
そうして、彼女はジョセフに振り返る。
「すみません、寝かしつけてしまって。」
「いや、それはかまわんが。」
まるで夢から覚めたかのような気分にその場にいたものはなった。
「・・・・赤ん坊のスタンドをどうやって引き出した。」
「魂を見ればわかる。あれはずっと不安なのだ。母がいない、幼子は母を求める。恐ろしいものから逃れるために、姿を隠す。己の事も、片割れのことも。私は、魂を見ただけのこと。」
「この子は、魂を捕らえられるのですよ。あの子の年齢からして、今後も能力が周りに広がる可能性がありますから。スタンドが姿を現し、このまま安心できる環境にあれば落ち着くでしょう。」
ブラックサバスはそう言ってポルポを背後から抱きしめる。
「魂・・・・」
「ところで、ポリプスさん。静、というのは。」
「あの子の名です。ただ、そう思っただけのですので。」
「いや、親御さんに、名前を聞かんと。」
それにポルポは何かをこらえるような顔をして、首を振る。
「この子の親御さんは見つかりませんよ。理由は言えませんが、それだけ、留意してくだされば。出来れば、ジョセフ様が引き取っていただけませんか?」
「・・・・それは。」
「死んでいるのか、捨てたのか、まではわかりませんが。スタンド能力を持って一般家庭で養育するのは至難の業です。能力が暴走すれば、悲劇以外のなにものでもなくなる。」
「まるで、そんなことをしってるみてえな口調だな。」
「・・・・ええ、赤ん坊の頃に殺してしまった子を。でも、その子は知らない親なんてどうでもいいと言っているので。よかったです。」
「よ、よかった、とは?」
ジョセフが驚きの声を上げる。それに彼女はああと微笑む。
「ええ、だって、そうでしょう?悪意なくしてしまったことの十字架を背負って長い人生を生きるなら。興味がないと自由に、幸せに生きてくれた方がきっと嬉しい。少なくとも私はそう思います。ただ、これを言った子は、ものすごい顔をしていたので。まあ、はい、言わない方がよかったんでしょうけど。」
赤い眼鏡をした素直な青年がぎゃんぎゃんと吠え立てている様を思い浮かべる。ポルポが苦笑交じりにそういう様に、ジョセフは困惑の表情をする。
「・・・・それは、あまり、良い考えではないだろう。」
「・・・・ですね。そうだとしても。幸せになって欲しい子なのです。」
苦笑交じりにそう言ってポルポは改めて言葉を続ける。
「ですので、叶うならジョセフ様が引き取ってくださればと思いまして。」
「それは君の願いではないのかい?」
ジョセフの脳裏には、先ほどの、子を抱く母の姿が思い浮かんでいた。それを気にかける男の姿も思い出して。
それはとても理想的な絵に見えた。
「いえ、いえ。私はそんな資格などないのです。など、なくて。」
そう言いつつ、女はそっとベビーベッドを振り返る。
名残惜しそうなその顔に女はやっぱり柔らかく笑ってのぞき込んだ。
「だから、貴方にお願いしたいんです。」
その物悲しい顔にジョセフは思わずこくりと頷いた。
「プロシュート?」
ポルポはひょっこりと、ホルマジオたちが寝室として使っている部屋に入った。
そこには彼にしては珍しく、上着も脱がずにベッドに横たわるプロシュートの姿があった。
「プロシュート?あの、すみません。」
「・・・何を謝ってるんだよ?」
プロシュートの冷たい声音にポルポはどうしたものかと悩む。プロシュートは何か、ポルポの子守歌を嫌っている。
嫌っているよりも聞きたがらないというのが正解だろうか?
「えっと、子守歌を。」
「俺はな!」
がばりと起き上がったプロシュートの顔は、部屋を閉め切っているせいでよく見えない。
「ホルマジオの奴に、お前に矢が刺さって!腹に飲み込まれたって聞いて!医者に掛かっても無駄だって分かってるからどうしようもできねえんだぞ!!目が覚めて、お前は何でそんなに平然としてるんだよ!」
プロシュートは言う気はなかった事を吐き捨てた。
「ああ、くそが!!」
だんとマットレスを殴る。言いたくないのだ、けれど、だめだ。
ポルポの子守歌を聴くと、どうしても、自制が利かない。昔、昔なんて言えるほど昔ではない、まだ彼がスタンド能力を持たなかったとき。
ポルポの家で、そこで、その子守歌を聴きながら居眠りをした時があって。それを思い出してしまうから、ふぬけてしまうから、だから、ポルポの子守歌は聞きたくないのだ。
ポルポは矢には触れるなと言った。
上にそう言われれば頷くのが道理だ。自分は目の前の女の部下で、女は上司で。
命じられれば頷くしかないのに。
反抗など、愚かだと分かっているのに。
ただ、ただ、赤ん坊を抱いて、リゾットに寄り添って微笑む女を見るとプロシュートは、ああと思う。
なあ、あんたの夢ってそれなんじゃないのか?
そう生きたいんじゃないのか?
分かっている、そんな夢を、女にとって栄光はどれほど遠いのかなんて、分かっているのだ。
分かっているのに、いつかに、女の叶えた夢を守って死んでさえしまうことを夢想する。
きっと、そう死ねたのなら、プロシュートはどんな暗がりと、惨めさの中でも己の生を全うできたと言えるのに。
何も、与えても、自分になされた今の全ての借りを返すことも出来ない自分。
女が死ぬかもしれないと、青白い顔で船から下りたポルポの顔を思い出す。
ああ、死ぬ、死なないで!
いいや、死んだって構わない!
それこそ、己たちの生き様と道理だから。
でも、でも、それでも。
なあ、死ぬなら俺の手で死んでくれよ。せめて、せめて、あんたの言った安らかな死を与えさせてくれよ。
老いていく今までの全ての殺した誰かを思い出す。そのたびに思うのだ。
こんな風に、老いて、衰えて、こんな風になるまであの女も死んでくれやしないかと。
それを、静かに眠るように死ぬ女を看取れたら。
(・・・どれだけ。)
「プロシュート?」
女の声がする。それに黙るプロシュートを女はそっと抱きしめる。
固くて、冷たい体だった。きっと、老いるのが遅い体だった。殺してやるにはあまりにも不釣り合いな命だった。
「大丈夫です。こんなことでは私は死にませんよ。」
「・・・・なあ、ポルポ。」
「はい?」
「子守歌、歌ってくれよ。」
それにポルポは戸惑ったような仕草をしたが、すぐに柔らかい歌声が聞こえてくる。
ブラックサバスがメロディーを口ずさんでいる。
抱きしめた体は、プロシュートの体温が映って、少しだけ温かった。
眠りについたプロシュートを見つめて、ポルポは暗い部屋の中で、ブラックサバスを見た。
「・・・ねえ、ブラックサバス。」
「ああ、なんだ?」
「あなたは、どうしてアクトンベイビーの姿がわかったの?」
ポルポは疑問に思っていることを口にした。原作の中で、あのスタンド能力は出てくることはなかったはずだ。けれど、今回は何故か現れた。
あの時は適当なことを言って誤魔化しはしたが、純粋にポルポには疑問だった。
「さあな?スタンドが産まれ墜ちるときと同様に私は問いかけただけだ。」
短いその言葉に、ポルポはそうだろうかと首を傾げ、けれど、分からないものは分からないと頷いた。
「ねえ、ブラックサバス?」
「ああ、なんだい?」
「あと、二年、頑張りましょうね?」
それにブラックサバスはぐっと背筋を伸ばし、首をねじるようにして微笑んだ。
「ああ、分かっているよ。可愛い子。」
一応ギャングって目立たないように生活してて、表向きの仕事があるらしいけど、暗殺人チームって表向きの仕事何してたんだろ?
ホルマジオとかは運送業とかイメージしやすいけど、ほかの面子はまったくわからん・・・