このままだと四部をめちゃくちゃ長く書きそうなので、五部と四部交互に乗せていこうかと。鉄は熱いうちに打ちたいし。
うおおおお、頑張ります!
感想、評価ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。
誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56
「・・・・貴様は諦めただけだ。愛しい者を諦めた。貴様はただの敗北者だ。」
苦々しい声で誰かが言った。
「お。ブチャラティ。と、なんだ、一緒なのか。」
ブローノ・ブチャラティの部下である四人が食事をしている中、店にブチャラティが合流した。それにレオーネ・アバッキオが声をかけ、そうしてその後ろに女がいるのを確認した。
目立たない黒いスーツを着た、黒い髪の女だ。凡庸な容姿で、人混みに紛れれば見つけることさえ叶わないだろう。
唯一の特徴は、朝焼けのような瞳と、ブーツを履いていることだろうか?
ちなみに何故ブーツを履いているかというと、ヒールの高い靴は転ぶことが多く、さりとて革靴は似合わなかったための折衷案だ。
「あ!ポル、ぎゃ!」
女の姿に嬉しそうな顔をしたナランチャのそれに隣に座っていたアバッキオがためらいなく頭に拳を叩き込む。
ナランチャはそれにアバッキオを睨むが、それ以上の呆れた冷たい目に黙り込む。
「・・・・ポリプス、だ。」
「・・・・わかってるよ。あ、そうだ!今日はどうしたんだよ!飯一緒に食おうぜ!!」
無言でフーゴは立ち上がり、適当な椅子をテーブルにつける。
「おい、てめえら!」
「いえ、構いませんから。ナランチャ、ご飯はもう食べてきてますから。」
「えー、なんでだよ!ちゃんと食べたのか!またリゾットとかプロシュートに叱られるぞ。」
「ちゃんと言われてる分は食べましたから。」
ポルポはそう言ってナランチャの頭を軽く撫でる。それにナランチャはにかーと笑う。
「・・・で、珍しくあっちの兄さん方連れずに独りでどうしたんだ?」
「・・・ポリプスは、ポルポの命令を持ってきたんだよ。空港で涙目のルカの変死体が見つかったってな。」
「ああ。あのチンピラか。そういや、あいつ、珍しいタイプだったな。」
「俺は嫌いだよ、あいつ!弱いものいじめするし、この辺りで禁止されてる薬まで売っててさ!ポルポはなんであいつ、ほっといたんだ?」
ナランチャがそう言って自分の頭を撫でる女を見上げる。それに女は、淡く微笑み答えた。
「・・・彼は、少し、役目がありましたので。ただ、もうそれも終わったので対処はしようと思っていたんですよ。」
「で。色々と調べるように、って話だ。」
「それは、僕がやりましょうか?」
「いや、これは俺が言われたことだからな。ところで、フーゴ。」
ナランチャと戯れているポルポを見て嬉しそうに微笑みながらブチャラティはふと、窓際の席に座る男に視線を向けた。
それにフーゴが彼が、ブチャラティを朝から待ち続けているかたぎの客だと告げる。そうして、半年ほど前にひとり娘をなくしていることも。
足の悪いらしい男をブチャラティは椅子に座って待ち構えた。
一人で来たことをわびる男に、ブチャラティは問いかける。
税金を払っているかと。
ブチャラティは驚くほどの生々しさと冷たさを以て、男のしようとしていることがどれほど組織に借りを作ることなのかと問いかける。
それに、それに、男は、顔を強ばらせて口を開く。
そうだと、法律と道徳を信じ、働き、家族のために生き、子どもを育てたと。
そうして、その子は、去年の九月に十七歳になったと。
「・・・・ここから先は、あなたと二人だけで話をしたいのですが。」
「話を。」
「シニョーレ。少々よろしいでしょうか?」
ブチャラティの声を遮る形でポルポが声をかけた。今まで自分たちに背を向けていた女の顔に、男は驚いた顔をした。
「あ、あなたは!」
「・・・・こんにちは、緑の手を持つ人。」
哀しそうな女のそれに、ブチャラティは覚る。ああ。この人は、目の前の男のことも知っているし。そうして、死んだ娘ともきっと知り合いなのだと。
男はそれに目を見開き、そうして、女に手を差し出す。それに女は当たり前のように男に近寄り、力なく蹲る男の手を握った。
「ああ、ああ、そうですか!あなたが、“夜明けの人”なのですね!」
「・・・そのような、大層な名で呼ばれるような資格は持っておりませんよ。」
夜明けの人。
それは、ネアポリスの、それこそ住む住民達の間で囁かれる噂、というべきなのだろうか?
もしも、もしも、ネアポリスで正義というものだとか、報いだとか、そういった当たり前の何かを信じるのならば。
夜のような髪に、赤い、朝焼けの瞳をした女を探してみるといい。
彼女は問うだろう。
暮れぬ日はない。
それに答えればいい。
明けぬ夜もない。
もしも、それが素朴に生きた中で与えられる理不尽を憎むならば、その女はきっと力を貸してくれるだろう。
どんな対価を望むか、わかりはしないが。
都市伝説のようなものだ。
実際にあったと宣う者はいない。けれど、不思議と住民はその噂を身内以外には吹聴しない。それが、妙な真実味を増させるのだろうが。
「私が、今日、来たのは!」
「ええ、あの子のことでしょう?」
ポルポは息をつき、男に手を貸して椅子に座らせた。
「・・・・娘とは?」
「今から数ヶ月ほど前に。この方の娘に恋人が出来たんです。ですが、彼女は恋人の、若い彫刻家のマンションから彼が作った石を抱えてそのまま飛び降りて。」
ポルポが離すと同時に、男はわんわんと泣きわめく。それにポルポは、とても、とても、物悲しそうな顔をして男の背中を撫でる。
わかる、分かってしまう。
この人はそうやって、こんな、ある意味で当たり前のように転がる悲劇にさえも心を痛めてしまう。
「ポリプスさん、知っておいででしょう!あの子は、私の希望でした!若く、美しく、輝いていました!」
男は鞄を開き、大金を出す。
「私は娘の敵を討っていただきたいのです!あの男に、しかるべき報いを!」
がたりと、テーブルで食事をしていたメンバーが立ち上がる。
ブチャラティはちらりとポルポを見た。自分を見上げる男のそれに、女は静かに微笑み、そうして手を握る。
「・・・・・シニョーレ。あの子の事件のことは私もきちんと調べております。この町のことならば、私は住民がそれぞれ朝に何を食べて、夕方まで何をしていたのかまで、全て分かるのですよ。ゆえに、分かります。彼女は自殺です。」
「何故、何故!そんなことがわかるのですか!?そんな理由は。」
「
その言葉に男は目を見開き、けれど、それが嘘ではないと分かるのだろう。嘘をつく人間ではないと理解してしまっているのだろう。
「・・・シニョーレ。彼女は病気でした。」
「そ、そんな、聞いていない!」
「ええ、あなたたちには言えなかった。」
「それ苦に自殺を!?」
それにポルポはゆっくりと首を振る。
「いいえ。」
「なら、あの男が!」
「貴方を生かすために、あの子は死んだのです。」
誰かが言った、言葉は刃物で、そうして、時として弾丸のように人の魂を抉るのだと。
男はゆっくりと目を見開き、そうして、茫然とポルポを見つめた。
「足がだんだんと悪くなっているでしょう。彼女の病気は血縁でよく見られるそうで。あなたの普段の生活からそれが進行していることを覚り。あなたに己の臓器が移植されるように臓器バンクに手配をしておられたはずです。」
「そ、そんな、そんなことは!」
「・・・・彼女が亡くなられて、細君と相当落ち込まれていましたね。」
「嘘だ!あなたは嘘を、嘘を!」
男はとっさによろけながら杖を振り回そうとする。それをブチャラティが止めに入ろうとしたが、ポルポはそれよりも先に男の手をそっと掴んだ。
「・・・・検査を受けてください。こちらで紹介しますので。そうして、彼女が亡くなられたときのことをその恋人に聞いて参ります。」
それはやはり、優しい言葉だった。言葉で、そうして、それに男は泣き崩れる。
そうだろう、その女が嘘をつくわけがないと、男は知っているのだろう。
このネアポリスで、ずっと、影に紛れるように女は普通の女としてそれは生きて、誰かと生活を共にしていたから。
それが誠実に自分たちに接していると、男は知っていたから。
「う、ううううううう。」
「・・・臓器バンクについて話してしまったのは私なのです。彼女が死んだことを聞いて、様子をうかがいに参らなければいけなかったのに。」
「・・・・いえ、いえ、そんな、そんなことまで望むなど。」
女は男の名を呼んだ。男は、その、朝焼けの瞳をのぞき込んだ。
「・・・・・また、花を買いに行くので。」
「お待ち、しています。」
男の背を撫でてながら、ポルポはブチャラティに振り返った。
「仕事を頼めますか?」
「・・・わかりました。」
「ミスタ?」
「え、あ、はい?」
ミスタは花屋の男の娘の自死について調べることになった。そこで指名されて立ち上がろうとしたとき、ミスタの座っていた椅子に奇妙な、丸い石が置かれていた。
疑問に思ったミスタがそれに触れようとする、その前にポルポが声をかけた。
「・・・・ブチャラティがルカの件で動くのですが。その序でに私とあなたを送ってくださるそうですよ。」
「・・・・まじでいくんですか?」
「おや、足手まといですか?」
ポルポのそれにナランチャが口を開く。
「なあ、ポルポ、護衛役、俺もいってやろうか?」
「大勢で動くと目立ちますから。今日はお留守番ですね。」
「・・・・本当に兄さん方は呼ばなくていいのか?」
「今から呼ぶのも憚られるというか。」
そう言いつつ、ポルポはじっと椅子の上に置かれた石を見つめ、触れる。
ポルポはそれにじっと触れた指先を見つめた。
ぼそりと、運命と呟いたような気がしてミスタが声をかける。
「・・・どうかしたか?」
「いいえ、ただね。」
よかったなって。
何か、とても場違いな言葉に聞こえた。聞こえたけれど、いつも、どこかしけた顔をした女が心の底から嬉しそうに笑うから。
ミスタは嬉しくなって同じように微笑みかけた。
「・・・・本当にミスタだけでいいんですか?」
「これは組織ではなく、夜明けの人、案件ですからね。」
それにブチャラティは苦い顔をした。
夜明けの人は、ポルポの、言ってしまえばあまりよくない方の趣味だ。
ブチャラティが助けられた趣味と同様。
ネアポリス限定で、彼女は困っている人間の悩み事を解決する。もちろん、多かれ少なかれの代償は求められるが、殆ど無償だと言っていい。
助けられた人間が、助けを求める人間に合い言葉を伝え、そうして必死な人間ほど彼女の元にたどり着く。
そうして、夜が明けることを望むのだ。
使うのはポルポの個人的な資産だとか伝手であるし、組織側にもメリットはしっかりとある。
ネアポリスに入り込む外部組織だとか、警察の噂をいち早く掴むことは出来るし、そういった救済措置は住民達に小さな違法を無視させる。
あの時助けてくれたのだ、今ぐらいは目をつぶろうと。
ネアポリスはすっかり、ポルポの庭であり、彼女の箱庭だ。
だが、それがポルポの負担になっていないか、ブチャラティは心配だった。自分もその趣味で助かったとは言え、それでも夜明けの人が有名になればその容姿のポルポも何か危険な目にあうのではと。
といっても、凡庸な容姿の女はすぐに人混みに紛れてしまうし、朝焼けの瞳は相当近づかなければ分からない。
「そうですねえ、イルーゾォに頼もうかと思ったんですけど。女の子に振られたらしくてちょっとナイーブに。」
「どーせまた上から目線でいってふられたんじゃねえの?」
「・・・・ミスタ、なんでわかるんですか?」
素直なポルポの言葉に、ミスタはだあああと呆れたように言い放つ。
「やっぱりかよ!いつものパターンじゃねえか!」
「あの人も、普通に行けばいいのになあ。」
「・・・・良くも悪くも自信家な人ですからね。」
車の中の四人は思う。
品のある顔つきの男は、立ち振る舞いさえよければ好まれそうなのだが。
「でも、イルーゾォの言う台詞をプロシュートが言うと不思議と決まって聞こえるんですよね。」
「あの人はなあ。」
「兄貴は、まあ、別格だからな。」
女に声をかければそれこそ入れ食いの、彼らが知る中で一等に、容姿の面でも、魂の面でも男前を思い出す。
「やあっぱ、あのチームで一番もてんのってプロシュートさんなのか?」
ミスタのそれにポルポは考える。
「うーん、どうでしょ?プロシュートは嫌われる人には嫌われますからねえ。強いて言うなら、ホルマジオの方が好かれる感覚はあるような?」
「あの人、こええときはめちゃくちゃこわくね?」
「そりゃあ、仕事の時はみんな怖いですよ。」
「ギアッチョとメローネは?」
「うーん、あの二人はその辺り聞きませんね。教えてくれないんですよねえ。」
そりゃあ教えたくないだろう。からかってくることはないと分かっても、ナンパの勝率なんて絶対に教えたくはないはないだろう。
「ジェラートとソルベ、ペッシは番外編みたいなものだし。リゾットは、リゾットって、女の人に声かけるのかな?」
「リゾットの兄さんも除外でいいだろ。」
「ホルマジオもそうですけど、ミスタもモテます?」
「えーなに?褒めてもなんにもでねえぞ?」
ミスタがきゃいきゃい言うのを聞きながら、ポルポは思う。
でも、本気の惚れが多いのは、ブチャラティとかアバッキオなんだろうなあと。
そんな話をしながら、ポルポは追いかけてくる石を見て目を細めた。
「・・・・こんにちは。」
穏やかにポルポは微笑み、そうして、エレベーターの中で出迎えた青年と丸い石を見つめた。
ミスタに中庭を見てきて欲しいと頼んだ隙に、彼女はやってきたエレベーターに乗り込んだのだ。
「あなたは、誰、でしょうか?」
「ああ、そうですね、ご挨拶をしなければ。」
ポルポはそう言って微笑み、最上階のボタンを押してゆっくりと上がるエレベーターの中で優雅に礼をした。
「私は、私の名は、ポルポ。水底を這いずる臆病者でございますが、一時のことと思い、頭の端に止めてくだされば幸いです。」
緩やかに微笑んだポルポに、青年は困惑しつつ、それでも女の顔の形を取りながら未だに何か、迷うように変わりつつある石を見つめた。
「・・・・あんたは、その。」
「まもなく死ぬ運命であり、この石がその運命を示していることも。そうして、これに触れば、安らかに死ねることも知っていますよ。」
それに男は心底驚いた顔をした。
そんな男を見つつ、彼女はその意思に、ローリング・ストーンズに微笑みかけた。
「とても、優しい力ですね。」
それに青年は黙り込む。その沈黙の意味を理解して、ポルポは男に哀しそうな顔をした。
「ですが、私はこの石には触りません。」
「何故?そこまで知っていて、何故だ?」
男は石に内在した運命の話を語った。
「・・・ぼくたちは皆、運命の奴隷だ。ならば、それに従って、せめて安らかな時間を望むべきじゃないのか?」
それにポルポは床に視線を向け、そうして体の前で組んだ手を握り会わせる。
「私は、自分が死ぬときをずっと前から知っていました。だから、覚悟は出来ています。私の死は、あの瞬間、あの時でなければいけないと、そう知っています。」
「ならば、どうして、わざわざここに?あなたは、ぼくのこの力を知っているようだ。何の理由でここに?」
「・・・・この力はスタンド、と呼ばれる力で、圧倒的なマイノリティですが、他にも存在します。私が今日来たのは、あなたの恋人のことです。」
ポルポの口にした名前に、男はどこか哀しそうに目をそらした。
「警察か?」
「いいえ、ただ、そうですね。とある、夜明けを願った方に頼まれて参りました。」
ネアポリスに住まうものとして、彼はそれに顔を上げた。彼女は穏やかに微笑み、問うた。
「あなたは、彼女が死ぬと決めたとき、止めなかったのですか?」
私はそれが知りたいのです。
「・・・・・止めて、どうなる?彼女が苦しんで死ぬことを見届けろと言うのか?」
「それを選択肢として考えなかったのですか?」
ポルポのそれに男は顔を上げて女を見つめた。ポルポは彼女自身が考えていたことを、真実を知った花屋の主人がきっと聞きたがっているだろう事を口にした。
「苦しむと分かっても、それでも、最後までできるだけ長く共に生きて欲しいと願うことは間違っているのですか?」
「それも一つの選択肢だ。」
「あなたは、彼女を愛していなかった?」
「・・・・愛して、いた。でなければ、恋人に、なんてならない。」
「でも、あなたは、彼女の死を受入れた。自分の力を知るが故に、彼女の死を受入れた。」
「それが、彼女の願いだった!」
ポルポは少しだけ目を伏せた。
あの物語の中で、エピローグで語られた物語。
眠れる奴隷の話は、よく覚えていた。
自分たちは運命の奴隷であるのだと。決まり切った筋書きを辿り、そうして、死んでいく。
自分はどうだろうかと、ポルポは考えていたのだ。
自分は死ぬことで、あの瞬間、自分は役割を手渡すことで意味がうまれるのだ。
だからいい、覚悟もとっくに出来ている、運命を知れていて自分は良かった。
それまで、タイムオーバーまでしなければいけないことを、宿題もきちんとこなせたはずだ。
満足している、できるだけのことをしたのだと。
ただ、少しだけ、知りたかった。
後に残された人の顔を。
「・・・・そんなこと、言えるわけがないだろうが!」
叩きつけように男は叫び、ポルポに詰め寄った。
「なら、死ぬまで苦しめばいいと!?父親は死に、自分も病気で長くない!母親一人を置いて逝けというのか!?そんなこと、絶対に出来ない!」
彼女には、出来なかったのだと、男はそう言って。崩れ落ちるように座り込む。
それにポルポは笑った。
ああ、よかったと、そう笑った。
いつのまにか、エレベーターは最上階に着いていた。ちんとなり、扉が開く。
「・・・・ああ、よかった。」
「何を、喜んで。」
「ええ、だって。」
そこまで言ってポルポは目を見開いた。
「なんで!?」
視線の先、エレベーターの隅には、いつのまにかブチャラティの姿を形取ったローリング・ストーンズが置かれていた。
それに彼女は縋り付く。
そうして、男もまた驚愕するように目を見開いた。
「違う!私の運命を!ブチャラティの、運命じゃない!死の運命は私のものです!」
「あり、えない?何故だ?石が、形作る運命を、変えた!?今までそんなことなかったはずだ!!」
「いや!?やめて!おねがい、ローリング・ストーンズ!私を選んだはずだ!私の運命を、私の辿る、運命を!」
ポルポは泣きじゃくりながら、その石を抱きしめる。
「あの子は、まだ、死ぬ運命じゃない!」
そう言って、ポルポを石をなんとかしたいのか、持ち上げようとして、けれどよろけてそのままエレベーターの壁に頭をぶつける。
ごん、という音と共に女はずるずると崩れ落ちる。男はさすがに心配して立ち上がろうとした。
「・・・・忌々しい、干渉がたりんか。」
その声は、低く、今までの女の柔らかな声とはかけ離れた声だった。ゆっくりと女が起き上がると同時に、廊下の方から彼女の名前を飛ぶ声がした。
それに女は、忌々しいというように息をつき、そうして下の階のボタンを押した。
男は茫然とする。何せ、その横顔。
その、ぞっとするような、冷たい横顔!!!
いままでの女が真昼の、温かな春のような人ならば。
今、目の前に立つそれは、冴え冴えとした冬の夜のように冷たく、暗い目をしていた。
じろりと己を見た瞳、朝焼けなんてとんでもない!
(血だ!あの、温かな、命の色ではない!腐臭に満ちた流血の赤、だ!)
怯える男のことを一瞥して、その女は気だるそうに体の前で両手をクロスさせ、腰に手を添える。
興味を失ったらしいそれは、石を己の影で覆うように立ち、目を細めた。
「さあ、その運命、こちらでもらい受けよう。」
その言葉の後、石が、まるで粘土のようにぐずりぐずりと変化する。形はまるで決まらないというようにぐちゃぐちゃに石はのたうち回る。
それに、男は理解する。
今までの人生で、その能力がなんであるかを理解しても、それ以外、何も感じたことはないというのに。
そうだ、強いて言うのなら。
魂で、男は理解した。
「何故、何故だ!!!」
「何が、だね?」
「何故、一人の人間でありながら、複数の運命を持っているんだあああああああああ!?」
「・・・・ふむ、そういうことも時としてある、ということだ。」
「ありえない、運命は決まっている。決まっている運命が、複数、なんて!」
女は手をクロスさせた立ち姿でそのまま壁に寄りかかる。
ちらりと見た石は崩れはすれども、はっきりとした姿を写し取れていない。
「・・・貴様は、言ったな。人は運命の奴隷だと。果たして、本当にそうか?」
「それはどういう意味だ?」
「私の持論だが、運命というのは確かに存在する。だが、人はどんな運命を辿るのか選択肢だけは与えられているのだと。」
女はそう言ってエレベーターの中で大仰に片手を開き、もう片方の手を天井に掲げた。
「この世は舞台!人は役者!なれば、立つ舞台と、演じる役者を決めることは叶うのだと!」
「そんなことありえるはずがない!ローリング・ストーンズは、確かに運命を定めている!」
「私は、その呪縛から離れたというのに?」
それに男はちらりともう動くことはない石を見つめた。
「まあ、ブチャラティになり、選ばれる存在を変更すればなんとかなると私は思っていたからそうしたが。やはり弱かった。干渉しすぎたが。それがよかったな。思惑通り、これは、私か、あの子か、選びかねている。」
「・・・・二重人格?」
「それとは似て非なるものさ。運命は変えられる。方法を模索し、あがくことでな。」
「いや、そんなことはできない!できるはずが!」
わめく男に女は目を細める。それと同時に、男は服の襟首から何か、手が生えて自分の首を締め上げたことを理解した。
「あ、ぐ、ああああああああ!?」
「私はね、君。正直に言えば、君にとても怒っている、とは違うな。苛立っているんだよ?何故か分かるか?お前が愛しい者の命を諦めたからだ!無理だと、運命だと、納得に逃げたからだ!」
締め上げる手が緩み、男はそこに倒れ込む。そうして、膝を突いて絞り出すような声で言った。
「なら、どうしろというんだ?病気の進行は止められない。彼女は苦しんで死ぬ!父親もだ!なら、それならば!せめて楽な方を選んだ方がましだろう!?」
「いいや、いいや!違う!それはただの放棄だ!ならば、なぜ、せめてと足掻かない!?ドナーを探す努力も、医者に掛かる道も、最初から模索しなかった!?」
「運命は!」
「私は変えたぞ!その、運命を!」
流血の瞳が、光の加減で、鮮烈な赤に変わる。
朝焼けが、己を見る、己を貫く、叩きつける意思を見つめる。
「死という終わりを変えられないというならば、何故、それまでの過程を遂行することをやめたのだ!?」
女は憎悪するように吐き捨てる。
先に逝くものとして遺す言葉はあったはずだ。
先に逝くものとしてするべきことがあったはずだ。
見送る者として受け取る心があったはずだ。
見送る者として残された者にすべきことがあったはずだ。
「違うか!?それをしようとしない時点で、あの娘は一時の恐怖で飛び降りただけだ!お前は引き留めるべきだった。数ヶ月という先があるのなら、せめてすべきことはないのかと!生きたくないかと、愛するのならば問わねばならなかった!生かす努力を何故しなかった!?」
「ぼくに何が出来た!?金も、コネもないぼくに!」
「そのために夜明けをもたらす者をあの子は作ったのだ!」
夜明けの人、それが男の脳内に広がる。
どんな人間にも力を貸してくれる、そんなおとぎ話の、魔法のランプの精のような話を聞いた。
ありえないと思った。けれど、心のどこかでそれが真実だともわかっていた。
夜明けの人を語る人間は、けして、その噂を笑わないから。きっと、誰かが救われたのだ。救われて、どうか、このおとぎ話を穢さないでくれと伝えた誰かに願ったのだろう。
そんな、手触りの物語を。
男は、ずっと、心のどこかで信じたくて。
「それでも、無理な者は無理だ!臓器なんてそう手に入らない!」
「ああ、だろう!だが、それでも、完治は出来ずとも、寿命を延ばすことは出来たはずだ!その間に、出来ることあったはずだ!女にウエディングを着せてやることも!人生の晴れ舞台を演じさせてやることも!それを父母に見せてやることも!思い出を作ってやることも!」
出来ることは、若く、美しい、愛しい女へしてやることはあったはずだ!
貴様は敗北したのだ!全て、運命だと、そう諦めて過程を放棄した自分自身に貴様は負けたのだ!!」
貴様は諦めただけだ。愛しい者を諦めた。貴様はただの敗北者だ!
ちーんと、音が鳴った。
エレベーターが着いたのだ。それに、黒い髪をしたそれは交代するために出入り口へ振り返る。
「・・・・・あがけば、報われるのか?」
聞こえてきた男の声に、女は振り返り、少しの間沈黙する。
「ならば聞こう。戦う意思のないものに勝利だけが訪れると思うのか?どんな結末になれど、それでも、できることはあるはずだ。そうして、それによってずれ込む先があるのだと。」
女は静かに言った。
「・・・・眠れる奴隷。運命を辿れど、それを辿ることで大きな変化をもたらす者がいる。貴様はまるでそれが、特定の選ばれたものだけの話のように語るが。いいや、違う、生きるものは全て眠っているだけだ。ただ、皆が皆、目覚めても意味がないと、眠ることを選択しているだけで。貴様も、そうだったはずだ。貴様も、あの娘にとっての眠れる奴隷だったのだ。」
目覚めることを放棄しただけで。
それに男は目を見開き、そうして、歯がみする。体を丸めた男の、その下に広がる床には滴の跡が見えた。それに女は息をつき、そうして、目を閉じる。
次に目を見開いたそれは、穏やかな朝焼けの瞳をしていた。
そうして、エレベーターの中にあったローリング・ストーンズが消えていることに気づいた。
「ローリング・ストーンズは!?」
「・・・・消えた、あんたの形に変わって。あんたが安らかに死なないことを選んだのを理解したようだ。」
それにポルポはほっと息をついた。そうして、外の、階段の方から明らかに息切れしているだろうミスタとブチャラティの声がする。
「・・・・どうしよう、一階から七階、七階から一階まで往復させてしまった?」
そういって慌てるポルポの横を、男は通り過ぎて歩き出した。
「・・・・花屋の主人に、あの子の父親に伝えてくれるか?」
「・・・・はい、承ります。」
「ぼくは、負けたんだ。敗北した。」
男はじっと、床に視線を向ける。
呟くように言ったそれにポルポは頷いた。
「・・・・承知しました。」
ポルポは深々と頭を下げ、そうして男はふらふらとどこかに向かう。それにポルポはなんとなく理解した。
きっと、彼は、彼女の墓に向かうのだろうと。
息切れと、咳込みながら必死に体に鞭を打ってポルポのために駆け回った二人からしっかり叱られ、ちなみにカラマーロとリゾットにも話は行ったためにお叱りが続くことを知ってポルポはくーんと哀しそうな顔をしながらブチャラティを送った後の、フーゴの運転する車に乗っていた。
ひどいマラソンをさせてしまったミスタは疲労でぐったりしている。
それに申し訳なさを覚えながら、ポルポは出るだろうかと不安になり、そうして、繋がった。
相手は、花屋の主人だった。
「・・・・はい、やはり、彼女は自殺でした。」
『・・・・ポリプスさん、臓器バンクに電話しました。話は事実でした。紹介してくださった病院にはすぐに向かいます。』
「はい、それで、男から伝言を預かっております。」
『・・・・それは、なんでしょうか?』
ポルポは、それを告げたときの男の顔を思い浮かべ、口を開いた。
「“ぼくの愛は、恋人からの愛は、あの子の、娘の、父を想う愛に負けたんだ。だから、止められなかった”と、そう。」
それに電話の向こうで、花屋の主人が泣いている声が聞こえてくる。
『・・・・ありが、とう、ございます。』
「いいえ、お礼など結構です。」
『白い、デイジーが入りましたらすぐにお知らせします。また、あの、大柄な方とお越しください。』
「・・・・お気遣い、ありがとうございます。」
『赤い薔薇も用意しますので。』
「・・・はい。」
電話を切ったポルポは、最後の心残りを完遂できたことを喜び、そうして、空を見上げた。
青い、澄み渡った空を見た。
(・・・・ああ。)
もうすぐ、夜が明ける。
護衛チームで一番モテるのはたぶん、ブチャラティで、二番目がアバッキオかな?ミスタとか愛想はいいし、けっこう勝率高そう。フーゴとナランチャは未知数、分からん。
ジョルノはなんか異性辺りの想像が出来ない。
暗殺チームは、たぶん、ホルマジオとプロシュートがダントツでモテそう。
イルーゾォとリゾットも、人によって刺さりそう。リゾットはあんまり女の人に近寄るイメージないけど。
ギアッチョとメローネはわからん、未知数。
ジェラートとソルベは番外編、ペッシもあんまりわからんなあ。
遺言読んでてふと思いまして。
カラマーロは威圧感ありすぎて声かけられなさそう。クララは上手く躱す。
一番ポルポが声かけられる確率高そう。押しに弱そうだから。