蛸の見た夢   作:藤猫

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ジョルノ・ジョバァーナと、運命があることを信じている人たち

きりのいいとこで終わらせようとして無理でした。長いです。ジョルノ編はいったん終わり。
この話を書きながら、延々と、邪魔、を聞いてた。


感想、評価ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。

誤字脱字などは感想での指摘はご遠慮くだされば幸いです。
感想いただけましたらうれしいです。
お題箱作ってみました、何かあれば
https://odaibako.net/u/fujineko56


運命とは存在するか?

 

 

「すまないが、少し待つことになる。」

「・・・そうですか。」

 

ジョルノ・ジョバァーナの返事にブローノ・ブチャラティは頷いた。

そうして、息をつく。

 

「どうする?俺に判断が委ねられている時点で、お前のチーム入りは確定だ。先にうちのチームに会ってみるか?」

 

その言葉にジョルノは頷いた。

まとまらない思考を別のことに使いたかったためだ。

 

 

ポルポを恨んでいるのか?

その答えは、是であり、否でもある。

 

あの人には恩があり、そうして、ろくでもない人生を歩むはずだったジョルノを変えてくれた人だ。

死んで欲しくなかった、生きていて欲しかった。

 

一度でいいから、抱きしめて欲しかった。

 

その喪失と悲しみを薪に確かにポルポというそれに怒りが存在していた。存在していて、それでも、ジョルノにはわかっていることがあった。

 

きっと、彼は覚悟ぐらいしていたはずなのだ。

自分がすでに、他者を踏みつけるという生き方を選ぶ時点で、いつかに誰かに殺されることこそが末路だと覚悟をしている時点で。

 

あの人も、きっと、そんなことは覚悟の上だったのだろう。

 

(あの人は、どうしてギャングになったんだろうか?)

 

自分のような義憤だろうか?欲望を叶えるためだろうか?それとも、もっと別の理由だろうか?

 

わからない、その疑問に答えてくれる人は一生いない。

ただ、と思う。

喪服の女。黒で構成された女の言葉を信じるのなら、きっとあの人はジョルノとそう変わらない理由で。何か、譲れないもののために足掻いたのだろう。

 

だから、ジョルノはそれでいいと思う。

あの人が自分にとって嫌悪すべき何かではなくて、少なくとも、自分と同じ場所ではなくとも、同じ方向に向かおうとしていた人だった。

それだけで、十分だと思う心がある。

けれど、それと同時に、くすぶる怒りが消えたわけではない。

 

悪辣な女だと、そう、ポルポを評した言葉を思い出す。

もしも、ポルポというそれが、本当の意味でゲスであるのなら。

 

(ぼくは・・・)

「・・・・この辺りが、うちの組織の構成だ。」

「・・・・ええ、理解しました。ポルポ、さんの下にいるチームは他にも?」

「あの人は、少々事情が違ってな。」

「事情?」

「先ほども言ったが、あの人は臆病だ。そうして、女であることもあって、なんというか、舐められている。」

「幹部、なのにですか?」

「ああ、あまりのことに始末されるような奴が出てくることもあるんだが。それでも、あの人をなめてかかってふざけたことをする奴は多い。ただ、その代り、数が少ないが心酔してる奴が多い人だな。」

 

危ういな、それがジョルノの一番の印象だった。

少数精鋭と言えばいいだろうが、そういった心酔は一定の部分で人の判断を鈍らせるのだ。

ブチャラティは苦々しいと隠しもせずにため息を吐いた。

ポルポは金払いがよく、部下に対しても甘い。だが、少々ギャングにしては品性というのだろうか、モラルがありすぎる気がある。

 

金があるのなら、それを好きに使いたいというのが人情だろう。だが、彼女は過剰な非道を禁止しており、ある程度道を外れた人間からすれば好ましくないと思うものも多い。

故に、金払いが良くても、ポルポ以外の幹部の下に行きたがる者はある程度おり、そうして、彼女を蔑む幹部たちはそれを容認しているのだ。

 

「だから、あの人の下にいる下っ端は他の所よりも少ないな。といっても、そこまで大きな差じゃねえし。何より、あの人には優秀な部下も多い。」

「あなたのような、力を持っている人ですか?」

 

それにブチャラティはふっと笑う。それは、気持ちのいい潮風のような爽やかさと、子どもが隣を駆けていくときに感じる楽しさが混ざったものだった。

 

「お前もすぐに会える。あの人の下に就くならば。」

 

 

 

「みーちゃった、みーちゃった!!」

 

ブチャラティのチームが集まっているらしいレストランに連れて行かれる。丁度、皆が集まっている時間であったらしく、顔合わせだと連れてこられたのだ。

ブチャラティに紹介されはしたものの、その場にいた青年四人はあまりジョルノを受入れようとはしない空気だった。

 

ブチャラティがたしなめはするものの、彼らは意にも介さない。それをジョルノはなんとも思わない。何せ、ギャングの、それこそ結束の固そうなチームにそう簡単に受入れて貰えないと思っていたのだ。

 

故に、レオーネ・アバッキオのやらかし、といえるもてなしはありがたい部分があった。

掴み、というのは良くも悪くも重大であるし、彼らもポルポという存在の下にいるのならまずはそこから探りを入れたいと考えたのだ。

 

そこでアバッキオの茶を飲み干し、彼らの能力について発言したとき、少女の軽やかな声が響く。

 

声のする方、アバッキオの背後を見ると、そこには一人の、おそらく少女がいた。

自分よりも幾分か年上のそれはアバッキオの後ろに置かれた椅子の、背もたれの上に器用に腰掛けていた。

 

それは頬杖を突いて、アバッキオを楽しそうに見つめる。ややつり上がった、青い瞳を細める様はどこか人をからかう猫のように優美な印象を受けた。

水色のキャスケットに、どこか少年染みた服装をしているせいか、年齢が分からない。

 

「クララか!どうしたんだ?」

「用があるからいた、というのが正しいですね。」

 

ジョルノはいつの間にかあらわれた少女をじっと見つめる。それはブチャラティの質問に答えながら、それこそ猫のようにぐいっと彼に体を伸ばす。

 

「やあやあ、黄金の髪に、エメラルドのような瞳のあなた!新しい人が入るとは、聞いたような、聞いていないような?」

「・・・・つい、先ほど決まったことです。ブチャラティが。」

 

それにクララはじっとジョルノに向けて目を細めて、ああと頷いた。

 

「ルカを殺したのって?」

「ああ。」

「あー、なるなる、ですね。」

 

クララ両手で頬杖をついて納得したかのようにうなずいた。

 

「・・・・ほんと、なーに考えてるんですかね、あの人?」

「それで、どうしたんだ?」

 

ブチャラティのそれに彼女は首を振った。

 

「私はあくまでご主人専用の運び屋ですよ?すでに、運んでいますから。」

 

その言葉にジョルノは察する。がたりと立ち上がり、そうして周りを見回す。

 

(スタンド能力、そんなものがあるのなら、姿を消すことも可能!)

 

ジョルノが警戒すれども、周りの人間は意にも介さない。

 

「誰だ?」

「姿を消せるんならリゾットの兄さんだろ。」

「あの人、どういう原理で姿を消してるんでしょうか?」

「能力は突かない約束だろ?あの人らの役割的によ。」

「ジョルノ、落ち着け。」

 

ブチャラティのそれにジョルノは確かにと納得した。一応は、彼らにとって身内、なのだろう。ならば、ここで下手な挙動をしても不審がられるだけだ。

 

「リゾットの兄さんは違うだろう。あの人は基本的にポルポの側にいるし。なら、おそらく。」

 

ブチャラティがそう言ったとき、今まで黙って部屋を見回していたナランチャが叫ぶ。

 

「そこだ!!!」

 

彼が指さした先、そこは、装飾品が並ぶ棚だった。誰もいないはずなのだが、声が聞こえる。

 

「やっぱ勘がいいな、お前。」

 

それと同時に、ぬるりと棚の近くの机の影から男が一人現れる。

 

「ホルマジオ!!」

 

ナランチャが楽しそうに男の名前を呼ぶ。それに男は明るくけたけたと笑った。

 

「お前、マジでみつけんのうめえよなあ、ナランチャ。スタンド使ってねえか?」

「使ってねえよ、隠れるとこがわかりやすいんだよ!」

「そーかよ。」

 

ホルマジオが悠々と歩いてくるのに、その場にいた全員が挨拶をする。それにホルマジオは軽く手を上げることで答えた。ホルマジオは少しの間、ジョルノの顔を見つめ、すぐにブチャラティの方に顔を向ける。

 

「ホルマジオの兄さん、お一人で?」

「ああ、ちょっとな。来い。」

 

そう言ってそのままホルマジオとブチャラティはその場を離れる。それを見送っていると、クララがジョルノに話しかける。

 

「あの人はね、ホルマジオ。ポルポの側近というか、まあ、一番近いチームの人だよ。」

「ポルポの・・・」

「そそ。まあ、ご主人とは結構付き合いが長いから信頼というか、信用が厚いというか・・・」

「おい、勝手に話してんじゃねえよ。」

 

アバッキオが不機嫌そうに言えば、クララはぐるりと猛禽類のように体をくねらせて彼に視線を向ける。

 

「うお!」

「ブチャラティのチームに入るんです。その辺りは把握しておいてくれなくては困るんです。そ、れ、よ、りい。」

 

クララはずいっとアバッキオに顔を近づける。

 

「さっき、何してた?」

 

明るく、弾むような、愛らしい声から一転してなかなかにドスの利いた声をクララを吐き出す。それにアバッキオがはんと鼻で笑う。

 

「あ?可愛い悪戯だろ?」

「へえ、可愛い、か。」

 

ぐるるるるるると獣のうなり声が聞こえる。それにジョルノが声のする方を見れば、クララの足下に狼がいた。ジョルノは目を見開きながら、それをまじまじとみれば、所々が機械化しており、尚且つその場にいた人間達が動揺していないことを見てスタンドであることを覚る。

 

「私が言いてえのは、それは、ここでしていい悪戯かってことなんですよ。」

「行儀のいいことを言って。」

「ポルポは、ご主人が店を利用するときにいつも何て言っていたのか、わかりますか?」

「あ、そりゃあ・・・・」

 

アバッキオは何かに気づいたのか、クララから視線を逸らす。

 

「・・・・“いくら自分たちの方が有利な立場としても、けして信頼を裏切るようなことはあってはいけません。信頼を裏切り続ければ、しっぺ返しをいつか喰らうことになる。だから、最低限の礼儀は払うように”ですね?」

 

クララはずいっとさらにアバッキオに顔を近づける。それは変わらずに愛らしい笑みを浮かべていることが恐ろしい。

 

「ここはなんのお店ですか?」

「・・・・食事。」

「食事に関する商売において重要なのは、味だとか値段だとかもありますが?」

「衛生、関連。」

 

クララは気まずそうなアバッキオのそれに言葉を重ねた。

 

「それで、ここまで言えば分かると思いますけど。このお店、ご主人も利用するんですよね?」

あの人がその食器で食事をする可能性、考えてます?

 

アバッキオはそれに大きくため息をつき、そうして、ポットに入っていた液体を近くの阿観葉植物の鉢植えに流し込む。

 

そうしておもむろにジョルノの使っていたカップを手に取り、そうして床にそれをたたき付けた。がしゃんと勢いのいい音に店員が慌てて様子を見に来る。

 

「わりい、わっちまった。弁償はする。」

「は、はあ?」

 

店員はギャングであることは知っているのか、不思議そうな顔をして手早くそれを片付けて去って行く。

 

「これでいいだろ。」

「反省。」

「っち、悪かったよ。」

 

はあとクララは呆れたように息をつき、そうしてジョルノに視線を向ける。

 

「で、ごめんなさいね。」

「あ、いいえ。」

 

「怒られてやんの-」

「てめえらも止めなかっただろうが!」

「でも、俺らはしてねえし。」

 

そんな男たちの会話を聞きつつ、クララは呆れながらジョルノに近寄る。その足下には行儀のいい様子でスタンドが侍っていた。

 

「あ、この子は私のスタンドです。ハウリン・ウルフ。」

「・・・動物の姿をしたスタンドもいるんですね。」

「そうですねえ、ご主人の下に就くなら、これから嫌って程いろんなスタンドを見られますよ。にしても。」

 

クララはずいっとジョルノに顔を寄せる。それにジョルノは不快に思って払いのけようかと考えるが、今後のことを思えば愛想がいい方がいいかと悩む。

 

「・・・・うん?ティーポットはどうした?」

「アバッキオが壊したー、んで、弁償でーす。」

 

クララのそれにブチャラティは不思議そうな顔をしたが、そうかと頷き、テーブルに歩いてくる。その後を歩いていたホルマジオはアバッキオとテーブルを交互に見た後、納得したかのように頷いて笑う。

 

「アバッキオよ、お前、マジで変なとこでやることが裏目に出るな!!んで、クララは何してんだ?」

「ルカやった人なんですけど、顔見てました。」

「あー、そういや、ポルポが探してたんだっけか?へえ、可愛い顔してやるな、お前。にしても、クララよ、こういうのが好みなのか?」

 

ホルマジオは意地が悪そうな、というよりも下世話な色の見える声音を出す。それにクララは呆れた顔をした。

 

「馬鹿ですね、ホルマジオ。顔面なんて日々衰えていく程度のものですよ。重要なのは、相手がどれだけ不本意なことをしても赦せる可愛げです。こういう人はですね、年齢による可愛げがギリギリ残っているだけで年を取ればクソみたいな老獪な男になって面倒になることが分かりますよ。1ミリもタイプじゃないです。」

「うん、罵倒?」

 

なめらかな口調で朗々とそう告げるクララにホルマジオは少し切なそうな顔でジョルノを見つめる。

 

「この人と比べるならフーゴのほうがまだましです。」

「え、ぼく!?」

「まあ、私はもっと男らしい顔立ちが好みなので、二人みたいな軟弱そうな顔立ちは好みじゃないんですよ。」

「なんでこっちにまで飛んできたんですか!?」

 

フーゴの嘆きに周りがけらけらと笑うが、クララは気にしたふうもなく改めてジョルノを見た。

 

「ただねえ、ご主人って、こういうタイプ好きなのかなって。」

「ちげえよ!ポルポは黒い髪の奴が好きなんだよ!」

「えーそれ、俺も?」

「ミスタ、お前・・・」

「あ、待って、ブチャラティ。目のハイライトがない、待って!そんなんじゃねえから!」

「え?あー。確かに、ブロンドで、青か、緑系の目だもんなあ。」

「ホルマジオの兄さんよ、それだとフーゴもその対象だぞ?」

「ぼくは、違うと思いますけど・・・」

「でも、ご主人の好み的に、リゾットならそれも外れますよね。ホルマジオじゃあるまいし。」

「え?急に俺?」

「あー、ホルマジオ、ブロンド好きだもんな。」

「わかる、分かりやすい。」

「ナランチャ、ミスタ、どーいう意味だよ?」

「でも、あなた、ブロンドで、青い瞳の胸のある気がつよーい、女好みじゃないですか?」

「いや、まあ、恥じるもんでもないからいいけどよ。」

「そんなことしてる暇があるのなら、さっさと本命に言ってくださいよ。」

「ポルポとプロシュートの兄さんのどっちにぶちのめされるのか賭けてるんですから。」

「おれ、プロシュート」

「よっしゃ、てめえら表にでろや。」

「まあ、それはそれとして。ブチャラティ」

「ああ、なんだ?」

 

ジョルノは目の前で繰り広げられる自分を無視した会話に固まっていると、ブチャラティがそう返事をした。

 

「なーんでこの人、組織に入れることにしたんですか?ハウリン・ウルフのこと見えてるんだからスタンド能力は持ってるみたいですけど。だからですか?」

 

その言葉に、ブチャラティは少しだけ考えた後、じっとジョルノを見た。そうして、軽い口調で言い放つ。

 

「・・・ポルポの役に立つと思ったので。」

 

その言葉にクララはその、青い瞳を冷たく細めた。そうして、改めてジョルノを見た。

 

「ふうん?」

 

それはまるで狼のような目だった。

 

 

 

(・・・・ポルポ。)

 

ジョルノは時間になり、ブチャラティに連れられて彼女が待つという少しだけ街から離れた場所に向かう。

そこでジョルノはポルポの話を聞いた。

 

善良で、臆病で、人を愛する、そんな女の物語を。

チームの人間達は自分のことを警戒していたけれど、ポルポの話をすると不思議と口が緩んだ。

彼らは妙にポルポを慕っているようで、彼女の話をよくしてくれた。

 

金を稼ぐことが上手いこと。

入ってきたチンピラをしつけて、一般人に手を出させないようにしていること。

組織に入ろうとする者でもまだましな存在は支援をして表社会に返していること。

麻薬を嫌っており、部下にも、管轄にもそれを従わせていること。部下たちもそれに従っていること。

 

子どもが好きで孤児院を経営していること。

趣味が人助けなこと。

 

「人助け、ですか?」

「お、変だと思ったか?」

 

楽しそうに笑うグイード・ミスタは同意するように頷いた。

 

「確かによ、人助けが趣味っていうとおかしいが、そーいう奴なんだよなあ。」

 

その声音はなんというか、上司を語る口調ではなく少々手の掛かる身内に向けるものだった。

 

「これは他人から聞いてもわかんねえ。ただ、一回話しゃわかる。あー、こういうやつかってさ。」

「そんなに分かりやすいですか?」

「おー分かりやすいぜ!あと、俺はなんでジョルノをブチャラティに探させたのか分かってる!」

「は?なんでだよ!こんな、俺の時はあんなに反対したのによ、ポルポも、ブチャラティも!」

 

どうもその辺りが一番の不満だったらしいナランチャにミスタが笑う。

 

「だからだろ、スタンド使いで、ルカをためらいなくやって!そんなイカれた野郎が表でやってけるわけがねえ!」

 

だから、お前を背負い込むことにしたんだろ、ポルポは。

 

「そーいうやつなのさ。」

「どーいうことですか?」

 

思わず言い返せば、ミスタはにかりと笑った。

 

「言ったろ?会えば分かるって。」

 

 

憎むべき生き物、蔑むべき生き物、仇たる女。

怒りの炎が消えたわけではない。それは、ずっと、あの人が死んでジョルノの中でくすぶり続ける感情だった。

 

たった一人だけ。

たった、一人だけ、無価値な、力のない、夢もないジョルノに恩義があるだけで気にかけ続けてくれた人。

 

その人を殺した女に自分はあって、それでも、何も思わずに入れるのか?

 

「ジョルノ?」

「・・・あ、ああ、すみません。」

 

黙り込むジョルノにブチャラティが声をかける。それを誤魔化すようにジョルノは答えた。

 

「先ほどの、ホルマジオ、さん?が気になっていて。」

 

それにブチャラティは少し、考えるような仕草をして、そうして口を開く。

 

「あの人たちには敬意を払え。」

「それはポルポの側近だから、ですか?」

「そうだな、それもある。昔、あの人には何くれと世話にもなったしな。いや、そうだな。」

 

ブチャラティは息をつき、そうして、ジョルノに振り返った。何か、決意したかのような目で。

 

「ホルマジオの兄さんが所属しているのは、暗殺を専門にしているチームだ。」

「暗殺を?」

「ああ、組織に言われれば誰でも殺す。だが、俺はあの人たちに敬意を払う。何故か、分かるか?」

「・・・・教えて貰えますか?」

 

静まりかえった、人のいない道で、ブチャラティは答えた。

 

「俺たちは日陰者だ。そうして、それにそういった敵対する存在を消す仕事は必ず必要になる。俺は、そういったことをしたことはない。それは、あの人たちがそれを担ってくれていたからだ。」

 

日の射さない、道の中、上に青空が見える。けれど、太陽はジョルノとブチャラティを照らさない。

 

「ジョルノ、お前は組織を乗っ取ると言ったな?」

「ええ、そのつもりです。」

「その時、あの人たちのような存在は必ず必要になる。黄金の夢は、必ず、血に染まることになる。ジョルノ、だからだ。」

 

裏社会に生きるからこそ、俺たちはあの人たちに敬意を示さなくてはいけない。

 

「屍を積み上げて生きる道を、先陣を切って、あの人たちは歩んでくれているんだから。」

「・・・ブチャラティ。」

「ああ。」

「ポルポがその、彼らのチームを下に置いているのか、理由を知っていますか?」

「・・・チームにいた人の内、数人に恩があったりだとかそういう理由もあるだろうが。ただ、きっと違う理由があるんだろうさ。それが、俺には分からないままだ。」

 

ブチャラティはとても、寂しそうで、そうして悔しそうな声で呟いた。

前を歩くブチャラティの顔は見えなかった。

 

 

 

部屋を前にする。

ブチャラティに連れて行かれたのは少し街を離れた建物で、ジョルノはその、とある一室で立ち止まっていた。

 

「時間がどれほどかかるか分からない。俺は先に戻っている。」

 

立ち去ったブチャラティは、そういってその場を去って行く。ジョルノは言われたとおりの部屋に向かう。

 

そうして、扉の前で一息つき、ノックした。

かちゃりと、鍵が開く音がして。

 

ジョルノはゆっくりと部屋に入った。

 

 

そこは、とても薄暗い部屋だった。明るさに慣れたジョルノの目には部屋の全容をすぐに理解することは出来なかった。

ただ、一つ。

 

におい、がした。

 

柔らかな花と、そうして。

 

「あなたが、ジョルノ・ジョバァーナ?」

 

夕焼けのような、安寧の匂いがした。

 

 

 

運命の時とは、案外、そこまで動揺もなく迎えられるのだなとポルポはどこか遠いどこから見つめているような空虚な気分でいた。

 

「ジョルノ、でよろしいでしょうか?」

「ああ。はい。」

 

どこか放心したかのような様子のジョルノにポルポは声をかけた。この部屋に驚いたのだろうなと理解する。ブラックサバスに適合した部屋は、人には少々居心地が悪くなることもある。

自分が迎えるエピローグはとても、静かで、穏やかで良かったと彼女は思う。

 

「・・・座ってくれますか?お話を、少し聞きたいのです。」

「はい。」

 

ジョルノはポルポから少し離れたところに置かれた椅子に座る。それによって暗闇になれた目には、彼の顔がよくよく確認できた。

 

それにポルポはどうしようもなく、ただ、嬉しくて笑った。

きっと、彼には見えていないだろうけど。

だからこそ、笑った。

 

ああ、大きくなったね!

真っ黒な、星の一族の色ではなくて、夜の王だった父と同じ金の髪!

ああ、ああ、なんて、美しいんだろう。

 

ポルポは少し夢想する。その、金の髪が日光の下できらきらと輝く姿を見れはしないだろうかと。

きっと、フーゴだとか、プロシュートだとか、カラマーロとは同じで、けれど、違うような美しい輝きを宿しているんだろう。

リゾットの銀の髪のように、清廉で、柔らかに輝くのだろうか?

 

一度でいいから、日の光の下で、その美しい、己のジョジョの姿を目に焼き付けたいと夢想する。

それがどれほど身の程知らずか理解しているが故にその願いを口にすることはないのだけれど。

 

「ああ、気になりますか?」

 

ポルポはジョルノが、彼女のついた机に置かれた花瓶を見ていると感じた。そこには、彼女の好きな、白いデイジーの花が生けられていた。

 

「・・・・贈り物です。この匂いが好きで。ですが、そろそろ枯れそうなので、今日持ち帰ろうかと思っているんです。」

わざと顔を近づけてそう言った。

 

大事なのは動線だ。そうして、ポルポのその仕草も周りの人間には見知った事実だ。花から体を離して、ポルポはジョルノに話しかける。

 

「それとも、これですか?一応、護身のため、なんですが。」

 

机の上に置かれた拳銃に彼女はそう言った。自分で用意したものだ。秘密裏に、誰にも言わずに。

 

「・・・・ルカを殺したのはあなたですね?」

「ええ、空港で絡まれて、やむを得ず反撃を。」

「そうですか、彼は過剰にことを進めるので前から警告はしていたのですが。あなたがそうしてくださったのなら結構です。」

 

息をつく。

話をしたい。これが最後なのだ。ならば、最期に彼の話を聞きたかった。定期的に報告はうけていた。

けれど、彼の口から話を聞きたかった。

 

寒くはなかっただろうか?

お腹は減っていなかっただろうか?

学校は楽しい?

好きな人は出来た?

 

そんなたわいもないこと。あの日、一人で恩人の墓に来て、そうして、泣いていいと言ってようやく泣いた少年。

 

(・・・仇に、抱きしめられてようやく、泣いて。)

 

ずんと息が苦しくなる、ここから逃げ出したくなる、自分のことを見つめる青みがかった緑の瞳に蔑みの色が浮ぶことが恐ろしい。

 

それでも嬉しい。あの日、小さくて弱かった少年がこうやって会いに来たことが。自分の終わりを持ってきてくれたことが、嬉しい。

 

「・・・・組織に入ることにためらいは?」

「ええ、ないです。」

「家族とも縁が切れると思いますが。」

「・・・・ぼくに、そんなものはないも同然なので。」

 

知っている、彼がもう母とも、養父とも交流が殆どないことは。それでも、ためらいはないのだろうかと心配して。

そんな自分に呆れる。

 

運命が変えられた事なんて、一度だって無いのに。

 

彼が特定の友人なんて作らずに、誰にも好かれる青年として立ち振る舞っていたことも。

特待生でいるために勉強もちゃんとこなしていることも知っている。

 

話をしながらポルポは目を細める。

まだ十五歳なのに、もうずいぶんと高い背に、彼の中の星の一族の面影を重ねる。

 

もっと大きくなるんだろうか?

大きくなるんだろうね、君の弟たちももうとても背が高いんだよ。

また、会うことになるから。どうか、仲良くね。

 

言いたいことなんて山ほどあるのに、それを言える立場でないから無難な話をする。

 

「そうですか、今回、私はルカの状態にスタンド使いが関係していると考え、ブチャラティに探させたわけです。目論見は当たったようですね。」

「・・・ええ、その通りです」

「スタンドについては出さなくていいですよ。仕事を振るのはブチャラティですので。今のところはあの子が把握していればいいでしょう。さて、私の確認したいことは以上ですが。何か、あなたから質問はありますか?」

「・・・・そう、ですね。」

 

戸惑いを感じる。当たり前だ、これでは一般社会の面接だ。

ただ、この試験はただの形式上のものだ。

 

ジョルノ・ジョバァーナはパッショーネに入る。それが決まったことであるために。

 

「・・・・何故、ぼくをパッショーネに?ブチャラティに判断を任せたんでしょうか?決め手を聞きたくて。」

「・・・スタンド使いを逃す理由はありませんし。そうして、私はブチャラティを信頼しているから、でしょうか?」

「信頼。」

「・・・ジョルノ、仕事を任せることで一番重要なのは、その人が信頼できるか、どうかなのですよ。」

「何が出来るか、ではなく?」

「そうですね、例えば、AとBという人物がいるとします。Aは非常に頭も良く、何事もそつなくこなします。Bは平均的な人間で凡人です。大抵、仕事を任せるとしたらAを選ぶでしょうが。ですが、Aはとても嘘つきで、仕事をさぼりがち。Bは何でも報告し、仕事をきちんとこなすとしたら?」

「B、ですね。」

「ええ、仕事はもちろんどれほどの結果を生むか、も大事ですが。それと同時に堅実に、きちんと終わらせられるかのほうが重要なのですよ。」

 

ギャングとは無法の世界だ。

だから、ポルポは彼が信頼ができるという黄金のような価値を知って欲しいと思う。

ああ、よかった、これはきちんと伝えられそうだ。

 

「そうして、この世でもっともしてはいけないことは侮辱をすることです。人を下手に殺すということは、遺恨を残すこと。それは忘れた頃にしっぺ返しがやってくるもの。お金や利益だけですぐに殺人を犯すわけでない、ただ、侮辱をされれば話は別なのです。」

「それほどまでに?」

「侮辱をする、ということは相手の価値を下げてしまうこと。価値が下がれば、仕事を振られることもなくなりますし、生活する上での人間関係でも割を食う。故に、侮辱というものはしてはいけない。それをするとき、殺される覚悟をしなくてはいけない。それが流儀です。よくよく、覚えておいてください。」

 

ジョルノはそれに頷く。そのようにポルポは怖がらせてしまっただろうかと苦笑する。

ただ、ギャングの不文律は釘を刺しておいた方がいいだろう。

 

「ブチャラティは優秀です。それと同時に、あの子は信頼の出来る子なんですよ?」

「そこまで?」

「ええ、ええ、ええ!!あの子は諸事情で幼い頃から私の下にいるんですが。仕事もすぐに覚えて、頭も良く、情にも厚くて、ああ、人望まであります。住民ともほどよくやっていて・・・」

 

そこで気づく。何か、ジョルノが少しだけ不機嫌そうな顔をしていることに。

話しすぎたかとポルポは平然とした態度で流す。

 

「なので、彼が信頼できると想う人ならば十分です。あの子は人を見る目がありますから。あの子のチームも、全員、あの子が見つけてきた子たちですし。」

 

本当は、もっと話したい。

あの子たちはきっと、君の願う夢を認めてくれるだろう。

彼らがどれほど優秀で、優しいのか。

 

返り血を浴びながら、それでも、自分のような弱い女に付き合い続けてくれた彼らの話をしたかった。

信頼の置ける人たちだと。

 

脳裏に、誰かの尊厳のために戦い、闇に墜ち、されどもその業を背負っていき続けていた、女の理想。

銀の髪に、赤い瞳。自分とよく似た目の、人。

 

けれど、やっぱり、そんな話をする資格なんてポルポは持っていない。

 

「・・・質問は以上ですか?」

「はい、以上です。」

「そうですか、ならば、これが組織の人間の証の・・・」

 

わざとら顔をジョルノから遠ざけ、机の引き出しを探る振りをする。

そうして、組織の人間である証のバッジを彼に差出す。

 

「これを。パッショーネのバッジです。これが入団の証。当分はブチャラティの元で動いてくださればと思います。」

「分かりました。」

 

ああ。夢が終わる。

脆く、淡く、醜く、息切れしながらだったけれど、それでも未練が残るような夢だった。

だから、きっと、悪くない。

悪くない、はずで。

 

ジョルノは立ち上がる。

そこで闇に紛れて、ジョルノには見えない位置から、彼女にささやきがあった。

 

(・・・・ジョルノ・ジョバァーナはスタンドを使用していない。)

 

そうかと頷いたポルポにジョルノが言った。

 

「・・・・・最速でこれたと思います。」

「え?」

「あなたが言ったことです。」

ぼくの夢には、黄金の風が吹くと。

 

時が、止まった気がした。

 

 

 

分かってしまった。目の前の、暗がりに目がなれていくにつれ、いいや、近づいた瞬間に分かってしまった。

その人が、喪服の女であると。

 

だって、その、匂い。

優しくて、安心できる。穏やかな黄昏の匂い。

何かの香水だろうか?洗剤の匂いだろうか?

そう思って、あの時以来、二度と嗅ぐことの出来なかった匂いはジョルノの中に強烈に焼き付いてしまっていた。

 

だから、ああ、わかってしまった。

あなたが、誰であるか、なんて。

 

感情が沸き立つ、自分でも分からない、ただ、一つ言えるのはその感情で一番大きな物だったのは、怒りだとか、そんなものではなくて。

 

喜びだった。

 

 

きっと、どうしようもなかったことなのだと思う。

 

善人で、臆病で、甘ったれな女の物語を聞いた。それは全部本当か?

誇張もあるだろう。けれど、ジョルノは、ポルポというそれと喪服の女が重なり合ってようやく分かった気がした。

 

ああ、きっと、語られたそれらは、自分に語られることのないそれらはきっと、女の善性と、悪辣に生きるしか無い在り方の境界でできるだけのことをした結末なのだと思う。

 

女が本当に悪辣ならば、どうして、あの日、自分にあの人の死を教えたのだ?どうして、仇の名を教えたのだ?どうして自分を警戒しろと釘を刺したのだ?

 

怒りが、生きる理由になることもある。

抱きしめてくれたことを覚えている。

泣いていいと言ってくれたことを、覚えている。

 

きっとと、この人は、あの日貧弱な自分のことを生かそうとしてくれていたのだと。

生き方を示して、怒りを受け付けて、抱きしめてくれた。

 

それがジョルノの生きる理由になったなんてことはない。ただ、もう家族なんて言えないような在り方の中で、あの人が亡くなっても変わらずに続いた保護と、そうして、抱きしめられた記憶は確かにジョルノの心を温めてくれたから。

 

怒りは、薄れていった。

なんとなく、あの人も目の前の女を恨んでいない気がした。

 

去る瞬間、その事実を言ったのは、きっと。

目の前のそれが信じられると確信があったせいだろう。だって、その人は確かに、あの日、殺しあいまで起きた人間を弔い、彼が気にかけていた、子どもに墓参りまでさせてくれたから。

 

あなたはきっと、ぼくの夢を理解してくれる。きっと、分かってくれる。

ここまで来れた、最速だったはずだ。力も得た。

だから、そうだ、もう一度だけ。

抱きしめて、くれないかと、そう。

 

なのに、ポルポはジョルノのそれに絶叫した。

 

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

がたたと椅子から転げ落ちた彼女にジョルノは駆け寄る。彼女は光を怖れるように机の影で怯えていた。

そうして、ジョルノがポルポを助け出そうと片膝を突いてポルポに手を指しだす。彼女は、差出された手ではなくて、ジョルノの胸ぐらを掴む。

 

「私を、私を、殺して、お願い。」

私の、ジョジョ()

 

何を言っているんだろうかと思った。

 

「ポルポ、いったい、何を・・・・」

「ずっと待ってたんです!あなたを、ああ、正しさを受け継いだ貴方!私、あなたに殺されるために、今まで生きてきた!」

「意味が分からない、落ち着いて!」

「意味!?意味なんてない!これは運命なんです!ポルポは、ジョルノ・ジョバァーナに殺される!最初知ったときは怖かった!恐ろしかった!でも、それでも・・・・」

うれしかった・・・・

 

叫び声は、最後には絞り出すような、掠れ声だった。ジョルノは胸ぐらを掴んだまま、うなだれて座り込む女を見た。

 

「怖かった、でも、死ぬ日を知っているから、きちんとやるべき事も、役目も、遂行してここまで来れた。私の罪が終わる日が待ち遠しかった。あなたが現れる日を、ずっと、指折り数えて、待って、待って、まって!!」

お願い、お願いだから、私の運命を、どうか、遂行して・・・・

 

 

ポルポのそれにジョルノは茫然として、けれど、彼はその顔に怒りをあらわにした。

 

「ふざけるな!」

 

ジョルノはポルポの胸ぐらを掴み返し。彼女の顔を無理矢理に上に向かせた。

 

「殺してくれだって!?ふざけるな、あんた言っただろうが、侮辱することはこの世で一番やっちゃいけないって!あんたは、今、自分が侮辱しているって分からないのか!?」

「何を、私は、何も・・・・」

「あんたは、あんたの命と、そうしてブチャラティたちからの信頼と、親愛を侮辱しているじゃないか!」

 

それに涙のこぼれ落ちる赤い瞳が見開かれる。

 

「ブチャラティたちが、いいや、ホルマジオという男や、クララという少女がどれだけあんたを慕っているかわかっているのか!?突然現れたぼくを警戒して、あんたのことを、臆病で、けれど、優しくて、愛らしい女だと笑うような奴らだったんだぞ!?それを、それなのに、あんたはそんな彼らを置いていくというのか!?」

「だって、だって、しかたないの!だって、そうしないと、運命が、あなたの、夢は・・・」

「あんたの命を踏み台にして、夢を叶えたいと思うような、そんな、あんたのことを侮辱することを願うような人間だと、ぼくが、そんな奴だと思うのか!?」

 

ジョルノの中には、まるで燃え上がるような怒りがあった。

ああ、ああ、この女は!

平然と、愛されて、信頼されていると、分かっていながら!

運命だからと、そんな意味の分からないことを理由に死のうとしている!

自分に、ああ、あえて自分を!ジョルノを選んで!

殺してくれと宣いやがった!?

 

誰が、そんなことを赦すものか?

 

「運命だって!?ぼくはそんなもの知らない!何を根拠に言えるんだ!?あんたを殺すかを決めるのは、運命じゃない、ぼくだ!ぼく自身だ!誰が殺しなんてするものか!」

「私は、私は。あの人を、殺して!」

「なら、償うために生きろ!」

 

叫ぶ声が反響する。女の顔をのぞき込む。自分に殺されることを望む女に、ジョルノは絶対にしないと宣言をする。

 

生きろと、叫ぶ。

 

いいや、それは、怒りで、そうして悲しみで。

暗闇に置いていかれ、頼るべき人などいなくて。

初めて現れたジョルノに人を信じると言うことを教えてくれたのあの人は結局言葉さえろくに交わすこともなく。

 

その人は、違った。

その、赤い瞳の女は、ジョルノを暗闇から連れ出してはくれなかったけれど、ずっと寄り添い続けてくれた。

それはジョルノの初めて知る、安心だったのだ。

 

「あんたがぼくからあの人を奪ったのなら、あの人の分までぼくのそばにいて、ぼくの夢のために生きろ!あんたは愛されているんだろう、慈しまれているんだろう!侮辱をもっともしてはいけないと語るなら、それを受入れて、抱えて!」

血反吐を歩きながら生きろ!

 

「それがあんたにふさわしい、償いだ!!」

 

叫ぶと同時に、ジョルノは女の胸ぐらから手を離す。ポルポは放心したようにずるずるとその場に座り込み、目を見開いてジョルノを見つめる。

ジョルノはその目に、たまらなくなって、目を背けた。がらんどうの、その瞳が、とても哀しくて。

ジョルノはその場から逃げるように立ち去った。

 

いつの間にか、夕焼けに染まった街をまるで何かをこらえるように、ただ、走った。

 

 

 

「・・・・ポルポ。」

 

暗い部屋の中で。座り込む女にブラックサバスがしずかに語りかける。それにポルポは立ち上がり、そうして、おもむろに用意してあった拳銃を手に取った。

 

 

 

ブラックサバスはじっと、女を見つめる。そこは、ブラックサバスの影に紛れて、ポルポが望んだが故に連れてきたとある教会だった。

鍵が掛かり、人もいないそこで、ブラックサバスの力で入り込んだそこは簡素な作りで、唯一神の子を模したステンドグラスだけが印象的だった。

そこで、その、教会で、ポルポは拳銃を握りしめて銃口を自分に向けている。

 

けれど、ブラックサバスには分かっている。

ポルポには、引き金を引く事なんて出来ないと言うことを。

 

それは臆病だ。けれど、疲れ切った女には自殺なんて容易いことはブラックサバスは知っている。けれど、物語で重要なのは、ジョルノが意思を持ってポルポを殺すことだ。

少なくとも、ポルポはそう信じていた。

 

運命は変えられない。だから、あの紙の上で死んだ老人がどうなっても、変わることは無いだろうと。

ジョルノがポルポを殺すためのきっかけとして、恩人の仇の名前としてすり込んで。

変わらないと信じていたのに。

ジョルノは、彼女の望み通りには動かなかった。

ジョルノが明確な殺意を見せなくても、ポルポは死ぬ気だった。けれど、ジョルノはポルポに示してしまった。

 

生きろ、と。

 

故に、ポルポは死ねない。

運命が、初めて狂い、これから起る運命がどう動くか不安で。

彼女の愛したそれらが悪魔を打ち倒せるか曖昧で。

故に、彼女は引き金を引けない。

 

彼女のジョジョは、それを禁じてしまったから。

 

はーはーとポルポは荒く息をつき、拳銃を自分に向けども、引き金を引けない。

彼女は泣きじゃくりながら叫んだ。

 

「ああ、ああ、何故ですか!DIOの息子!ジョースターの血統!あなたは、あなたは、私を殺さねばならない!それが運命だ!それを知ってたから、私は、全部を覚悟して、今日まで、ただ、今日まで・・・・・」

 

分かっていたことだった。

ブラックサバスは、ある意味で、この結末を予想していた。

だって、ジョルノに、ポルポを殺す理由がないのだ。

 

彼女は命を侮辱することもなく、あまりにも善良に生きすぎた。泥に汚れながら、それでも輝かしいものを忘れなかった。

全て運命には逆らえないと、怠惰に望みのままに生き続けたしっぺ返しがここでやってくる。

 

安息を得るには、女はあまりにも、全てをかき回しすぎた。

影の中から、ブラックサバスは語りかけようとする。

 

そうだ、愚かだった。

誰もいないと、人気もないと、油断して。泣きじゃくるポルポのことしか見えていなかった。

故に、すぐ近くまで近づいていたそれに、気づくことが出来なかった。

 

「・・・・申し訳ない、ここは施錠していたはずなんですが。」

 

話しかけてくる存在にポルポは視線を向けた。

カソック姿のそれに、ああ、神父様だと理解して、暗闇になれた中で、男の顔を見上げて、呟いた。

 

・・・・この世には、引力がある。

運命と言うべきか、出会うべき者が出会うように。そうやって、引き合う。スタンド使いは惹かれ会う、なんてことを言ったのは誰だったろうか?

 

ただ、一つ言えるのは、ポルポは過ちを犯していたのだ。

 

DIOの子どもたちを一つの国に集めてしまったこと。

物語の結末を信じすぎていたこと。

彼がアメリカにいると盲信しすぎていたこと。

 

そうして、女は、覚えていたはずなのに、意識していなかったのだ。

 

彼女が吸血鬼と星の一族の因縁の物語でもっとも執着していたのはDIOである。故に、彼女はきちんと、DIOの日記を読んでしまっていたのだ。

 

そうだ、この世で、あり得ないことに、天国に行く方法を知っているのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、彼女と、男は惹かれ会ってしまっていたのだ。

 

「え、ん、りこ、ぷっち・・・・・」

 

そう呟くだけで精一杯の女の耳に、ブラックサバスの叫びがこだまして。そうして、彼女の意識はぷつりと途切れた。

 

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