その日、リゾットは久方ぶりの休暇だった。
と言っても、特別に用があるわけではない。強いて言うなら、夕方からポルポの所に食事に行くが。
といってもリゾットの休暇に特にバリエーションがあるわけでもない。例えば、チームの人間と食事にいくだとか、ポルポと出かけることがあるだとか。
けれど、その日は珍しく、何の予定も入っていなかった。
元より、怠惰な生活とは無縁のせいか、いつも通りの時間に起きたリゾットは暇を持て余し、町をぶらぶらと歩いていた。
そうして、人の賑わう広場まで辿り着き、ぼんやりと広場の隅に置かれたベンチにて行きかう人間を眺めていた。なんてことはない光景だ。
リゾットは、ふと、己の上に差した影に気づく。そうして、丁度、その影と人が行きかう日向の境を足先でなぞった。その口元には、淡く笑みの形を作っていた。
「あー!!」
その時、頭上から聞こえてきたのは少女のような高い声。リゾットは、それに頭を上げた。そこには、印象的な、空色のキャスケットが見えた。
「リゾットの兄さんだ!どーしたの、こんなとこで。」
どこか弾んだ声を出したのは、リゾットにとって顔なじみになっている少女のクララだった。
リゾットが最初にその少女のことを聞いたのはイルーゾォからだった。その日、イルーゾォはポルポの護衛をしていた。
珍しく他の幹部との会合があり、顔色を悪くして出かけて行ったのを覚えていた。会合自体は無事に終えはしたものの、帰りに何人かに襲われた。
もちろん、護衛として付いていたカラマーロとイルーゾォ、そしてホルマジオのおかげで無事に終わった。
が、その戦闘を一般人に見られたのだ。その一般人というのが、クララという少女だった。もちろん、彼女は口止めとして殺されるはずだったのだが。
何故か、その折、ブラック・サバスが彼女に触れ、めでたくスタンド使いになったという経緯を持っている。
イルーゾォが甘すぎると罵っていたのを覚えている。
そうして、スタンド使いになった彼女は、ひとまずはポルポの元に留まることとなった。スタンド使いになった経緯も経緯なために妥当な判断だった。
そうして、結局のところクララはポルポの元で運び屋のようなことをしている。
「リゾットの兄さん、今日はお休みですか?」
そう言って、クララは何の気なしにリゾットの隣に座った。
真っ黒な、大きな目がにこやかな笑みを持って向けられる。
真っ黒な髪は首までしかなく、涼しそうに揺れている。特別際立った容姿ではないが、その仕草には人懐っこい大型犬のような愛嬌があった。
何よりも、特徴的なのはその服装だろうか。
シャツとベスト、おまけに蝶ネクタイをしている。膝程のズボンにショートブーツをはいている。それこそ、一昔前の少年探偵のような服のようだ。
深く被ったキャスケット帽のためにどこかその性別を曖昧にしている。
「ああ、そうだが。お前は?」
「自分ですか?仕事終わりですよ。」
そう言うと同時に、クララの横に影が生まれる。リゾットはそれに特別驚くことはない。その影はよくよく見ると、人が乗っても支障がないほどに大きな狼だった。狼と言ってもただの狼ではない。
体は機械仕掛けであり、顔だけが生身であった。
「今日もお使い三昧ですよー。いやあ、ハウリン・ウルフも頑張ってくれました。」
そういって撫でて来る己の主人に対して、ハウリン・ウルフは甘えた様な声を出した。
リゾットはじっとその狼型のスタンドを見た。
今は何ともほのぼのした光景だ。けれど、このスタンドはなかなかに強力なのだ。
遠吠えを衝撃波として打ち出すことが出来、単なるパワーだけでいうならばリゾットが知る中でもダントツである。
ただ、遠吠えと共に力を使うため、非常に煩い。けれど、このスタンドは主人を乗せて狼並みの移動能力を兼ね備えていた。おまけに戦闘力も高いということで彼女はメッセンジャー兼運び屋として重宝されている。
「でも、リゾットの兄さんが一人でぼんやりなんて珍しいですね。いっつもなら、何かしら予定があるんじゃないんですか?」
「俺も特別何もない日もある。が、何故、俺の予定をそんなにも知っている?」
「そりゃあチームの拠点にもよく立ち寄りますし。忠犬として、ご主人の予定は把握してますよ。」
「今日は、夕方から予定があるだけだ。」
簡素な返事をしながら、リゾットはクララを見た。
リゾットは不思議な気分でそれを見た。
クララは、ポルポの下につく様になってから見るにその姿勢はだいぶん従順だ。表から裏に回ってきたにしては、クララという少女はだいぶあっさりしていた。
まあ、命あっての物種ですし。生きてるだけで丸儲けですね!
言いたいことが分からないわけではなかった。ただ、あまりにもあっさりしすぎている気がした。
リゾットは、時折クララがする目が気になっていた。
それはプロシュートやカラマーロが浮かべる目、神に祈る時のような、けれど全く違う様な目だった。リゾット自身、クララが彼女にどんな感情を持っていようが構わなかった。
ポルポがそれのせいで傷つくことさえなければどうだっていいことだ。
そんなことを考えていると、ハウリン・ウルフとじゃれ合っていたクララがわざとらしく大きな声を出した。
「いやあ、にしても今日は仕事が立て込んで大変でしたねえ。こんな時、おいしいジェラートでも奢ってくれる人がいたらなあ。」
そう言って、クララはちらりとリゾットと、広場で売られているジェラートを見た。リゾットはそれにクララの方を見るが、彼女はすました顔でハウリン・ウルフを撫でている。
リゾットはふうとため息を吐いた後に広場に足を向けた。
「暑いな。冷たいものでも食うか?」
「やった!ごちになりまーす!」
はしゃいだ足取りでリゾットの後を追う彼女は確かに年相応であった。
それに、リゾットはクララが時折する何かを問う様な目が嘘ではないのかと思うのだ。
(・・・・・あまり年下に甘いと、ホルマジオが煩いんだが。)
「・・・・お前は、ポルポのことが憎いか?」
リゾットから二つジェラートをせしめたクララは、その内一つを自分で、もう一方をハウリン・ウルフに放り投げた。ばくりと、宙でそれがハウリン・ウルフの口に入ったのを見て、リゾットは何気なく言った。
クララは、それに無言でリゾットをじっと見た。
もしも、その時クララが不審な動きをしたのならば、それ相応のことをする気だった。クララは少なくとも、経歴としても調べた上では白だった。ただ、もしかすれば、そのポルポへの目が何かしらの意味があるのならばリゾットはその少女を排除しなくてはいけない。
クララの嘘を見逃す可能性は低かった。リゾットの経験から言ってその程度は読み取れないことはないと考えた。
クララは、じっと、リゾットを推し量るような目をした。そうして、平然とジェラートを一口齧った。
「大好きで、ときおり憎らしくてたまらなくなる。」
にこやかに、クララはなんだか、どうしようもない目で笑った。リゾットはそれにはてりと首を傾げた。
なんとも矛盾し、相反する感情をさらけ出されてリゾットは困惑した。
「どっちだ?」
「どっちもですよ。」
そう言って、クララは穏やかな目をした。それは、どこか、腹が決まった人間のような目だった。
「・・・・嘘言ってもしょうがないので言いますけどね。私は、ギャングになりたかったかと聞かれればノーですし。というか、選択肢があるならば絶対になりたくはなかったですよ。」
命あっての物種だって、本音ですし。でも、こんなふうに生きていたくはない。
それは、確かに恨みのような台詞なのに、クララの瞳は穏やかで、そうしてその口調は静かだった。
クララは急にリゾットの方に顔を向けた。その時には、すでにどこか陽気そうな表情に戻っていた。けらけらと、笑い声が聞こえてきそうな顔だった。
「いや、怨んでるわけじゃないんですよ?この国で、ああいう場面に出くわすのなんて、山の中で狼に出くわすようなもんですし。」
「人と獣の在り方は違うんじゃないのか?」
「さあ?でも、死ぬって結果は同じようなものですし。妹は、人間を嫌ってましたけどねえ。でも、まあ、所詮は状況と結果ですよ。それでも、私は死ぬことなく、生きる可能性を掴めた。ご主人に会えたことは、私にとって確かに僥倖でした。」
クララは、確かにポルポのことを恨んではいなかった。確かに、彼女はクララを生かしてくれた。
恨むなんて、考えてなかった。あの人は、私に出来る限りのことをしてくれた。人を出来る限り殺さないところに配置してくれましたし。おまけに、妹へ仕送りするために、保険金の会社を偽造までしてくれた。
感謝している、ありがとうと思っている。
ええ、それこそ、犬のように頭を垂れて、あの人をご主人と呼んで忠義を尽くしましょう。
「でも、それでも、あの人の死にたがりの目を見ると、ふざけるなと思うんですよ。」
ぼたりと、溶けかけたジェラートが地面に垂れた。クララは、どこか胡乱な目でそのジェラートを宙に放った。そうすれば、今までクララの足もとにいたハウリン・ウルフがばくりとそれを食べた。
リゾットは、それを見て、スタンド使いでない者にはどんなふうに見えているのだろうかと考えた。
「私は、生き残れたことに感謝しています。出来るだけ、便宜を図ってくれることもありがたいと思っていますよ。でも、私は、ここに居たかったかと言われれば違います。私は、ここで生きてます。でも、二度と、妹と会えません。」
広場の喧騒が、何故かひどく遠く聞こえる。少女は、その喧騒の中に、何か見たいものがあるかのように目を細めていた。
「様子を知ることは出来るでしょう。でも、会って、私が生きているのだと知らせることは出来ません。まあ、それを望んだのは私です。あの子に危険がないように。まあ、不安はないですよ。あの子は賢い。お金さえあれば、一人で生きていけるという確信もあります。でも、私は、あの子の側にいない。」
寂しい声がした。とても、寂しい声だった。
それは、後悔に似て、けれどぼんやりとした納得と諦めが混ざった声だった。
「まあ、理性では納得してますよ。でも、父さんと母さんが死んだとき、あの子を守るって誓ったんですよ。だから、一人、あの子を残したことを後悔してしまう。私は、ずっと考えていますよ。ここで、生きていることは正しかったのか。」
もちろん、それを人生の命題になるだとか、死んだほうがよかったのだとかとまで考えてはいない。
命あっての物種は、真実、クララにとって事実だ。
けれど、その考えは彼女に取って喉に刺さった小骨のようにちくりと気になるものであった。
クララは、恩義には報いるべきだと思っている。
けれど、ふと、気づいてしまうのだ。
その人は、何も望んでいないのだと。
そんな時、クララはポルポの瞳の中に浮かんだ諦観が、猫がいなくなる前の目に似ていることに気づいた。
それは、死を待つ目だった。それは、終わりを前にした目だった。
ふざけるなと思った。
あんたが生かしたんだろう、あんたがこの地獄に引きずり込んだのだろう。あんたが、私の前に希望を置いたんだろう。
だというのに、どうして、死を願う。
ああ、寂しい。寂しい。
クララは、ふざけるなと、そう思って。けれど、どうしてもポルポという存在が好きだった。
彼女は、生きたいかという問いを覚えている。
生かしてくれた。クララの幸せを祈ってくれた。だから、クララもポルポの幸せを祈りたかった。
だというのに、ポルポは死を願う。
なあ、あなたは不幸だった?なあ、あなたにとって、そんなにもこの世界は苦しいのか?
なら、どうして、私をこの世界で生かしたんだ。死を願う様な世界に、どうして生かしたんだ。
生きたいかと、そう問うたあなたが、死を望むのか。
その矛盾が、酷く嫌だった。
それが、歯がゆくて、幸せになってほしくて。
クララは、カラマーロに言ったのだ。
ポルポの幸せは何だろうと。
それに、カラマーロは淡く笑って。いつもの苛烈さなど忘れた様な、穏やかで、悲しそうな目をして。
いつか、休める日が来るときに。
その休みとは、永遠の休息であると何となしに察した。
「嫌だと思いました。死んでほしくないと思いました。私が、こうして生きているのに、生かしたのに。例え、ここが地獄でも、私はここで生きている。自分だけがこの地獄から逃げるなんて赦さない。」
そこにどろどろとした、どす黒いものはなかった。
ただ、母を呼ぶ幼子のような、そんな泣き声に聞こえた。
「・・・・どうして、みんな、ポルポが死ぬことが、幸せだと思ってる。どうして?生きてれば、それ相応に幸せな事はあるでしょう。死んだら、ご飯を食べることだって、買い物に行くことだって、頭を撫でてもらうことだってできないのに。だから、誰だっていいから私と同じ人がいないかと思ったんです。誰でもいいから、生かそうとする人がいないかと。」
どうして、生きることが楽しいことだって、幸せにしてあげようと思わないのか。
リゾットは、それにクララの目が何を探っていたのかを何となしに察した。その少女は、大事な人に死んでほしくないと、同じ願いを持った誰かを探していたのだ。
「・・・・・ここは、地獄だよ。私は、いつか、人を殺すことだって平気になるだろうし。誰かの大切な人を奪うわ。でも、それでも、生きてほしいと願ってしまう。それは、間違ってるの?」
子どものような声だった。
それは、誰にも聞けなかったクララの疑問だった。
他人の幸福は、人によって異なる。それは、当たり前だ。
クララのように妹の幸せを己の幸せだと思うように。人には人の幸福がある。
それと同様に、誰だって己なりの地獄を持っていて。己だけしか理解できない痛みを持っている。
クララは、ポルポが疲れ果てているのを知っていた。
クララは、そこそこ自分がシビアで身内が無事ならばそれでいいという身勝手な思いを持っていることを知っている。だから、罪悪感がないわけではないがこの地獄で生きていくことを受け入れている。
だって、良い人だ。
少なくとも、クララにとって、しょせんはヒトゴロシのはずの彼らは優しかったから。
クララは、結局のところ正義やら悪というのは個人の範囲では好ましいか嫌うかで決まると思っている。
それを言うならば、例え裏の人間でも、自分に優しくしてくれる彼女は、クララにとって正義なのだ。
良い人には、生きてほしい。それは、当たり前のような帰結だった。
それでも、優しいあの人が、時折疲れ果てた様な目をすることを知っていた。
ここで生きていくことを苦しく思っているのを知っている。
クララは、ポルポに生きてほしい。
クララは、ずっと、一人で妹の生活を背負っていた。それを苦痛に思うことはなかったけれど。それでも、不安であったし、助けてほしいと願わなかったわけではない。
もういいよ。君は、まだ、子どもだよ。だから、大人に少しは頼っていいよ。
それは、例え、自分を地獄に引きずり落とした女の言葉でも。
それでも、どうしようもなく嬉しかった。
子ども扱いしてくれることが嬉しかった、助けてくれるその人のことが好きだった。
生きてほしい。生きてほしい。生きてほしい。
生きて、笑っていてほしい。
クララは、死の冷たさを知っている。死の、寂しさを知っている。
クララは、身勝手だ。
あの、寂しさも、悲しさも、心細さも味わいたくないからポルポに生きてほしいと思っている。それは、身勝手で、どこまでもエゴイスティックな願いだ。
それが分かっているから、誰にも言えなかった。それを理解しているから、黙り込むことしか出来なかった。
クララは、ぶらんと足を振った。それに、ハウリン・ウルフがじゃれ付く様に体を擦り付けた。
「・・・・・間違ってはいないだろう。」
今まで黙り込んでいたリゾットがいつも通り平淡な印象の声音を出した。クララが力なくリゾットを見上げた。
「所詮、痛みはそいつだけのものだ。俺たちから見たポルポの幸福は色眼鏡を通してみたものにすぎん。終わりを願うことが、本当にあいつの幸福に繋がるかなんてその時にならなければ分かりはしない。それにだ、あいつは、お前の前で笑うだろう?」
「それは、まあ。」
クララは目の前の存在が何を言いたいか分からずに困惑しながら頷いた。
「この地獄をあいつは望んではないだろう。だがな。この地獄で、そうやって笑って、幸福を感じる瞬間があることも事実だ。幸福な時だけなことも、苦痛が永遠であることも無い。生きるとは、そういうことだ。そうして。お前がポルポに生きてほしいと願うことは間違っていない。俺も、あいつに生きてほしいと願っている。」
置いて行かれるのは、寂しいからな。
その、最後の言葉が、吐息のようなそれがクララにはなんだか泣き声のように聞こえた。
「死にたいと願うことと生きてほしいと願うことは、所詮は相反する。だからこそ、身勝手を互いにぶつけあっていくことしか出来んのだ。エゴイストになれ。俺たちは所詮、そういう生き物だ。」
クララは、なんだか、その言葉に安堵した。
寂しいよ、悲しいよ。
置いて行かないでほしいんだ。いなくならないでほしいんだ。
けれど、それが、大好きな誰かを苦しめるだけのものでしかないのなら。
それを諦めるしかないのかと思っていた。
よかった。そう思う。
クララは、その時、初めて赦されたように思えた。
身勝手でしかないこの願いを。
置いて行かないで、一緒に生きてという願いを抱え続けていくことを赦された気がした。
それが、例えどれだけ身勝手でも。
死なないで。
生きて。
例え、それが、どんな地獄でも。一緒に行くから。どうか、赦して。
リゾットは夕方の道を音も無く歩いていた。クララとはすでに別れた後で、ポルポとの食事の約束のために道を急いでいた。
(・・・・・子どもに、ああいう目をさせるのはだめだな。)
そんなことをリゾットは思う。
リゾットも、カラマーロやプロシュートが時折する目を知っていた。
それを見るたびに、少しだけ呆れた様な感覚を持っていた。
ポルポは神様ではないし、自分たちは神の僕でもない。
自分たちは、醜く生きる人間だ。
(・・・・あいつらに、ポルポは殺せんだろう。)
それがリゾットの予想だった。
というよりも、自分にとって大事な誰かを殺すことに覚悟を持つこと自体がしょせんはまやかしなのだ。
カラマーロとプロシュートは、何も失ったことがないから安易にそんなことに覚悟を持つことができるのだ。二人は、何も持っていなかったから。
有象無象を殺すことと、己の救いを殺すことは違う。手にかける瞬間、彼らはきっと自分たちのすることの意味を知るだろう。
その、本当の意味を知った時、彼らは何もできなくなるだろう。
リゾットは、知っている。
本当に大事なものが己の手から滑り落ちる瞬間を。
ポルポは、神様でも、天使でもない。
確かにポルポは、誰かの命を救い、歩む道を与えただろう。けれど、彼女は所詮は裏の人間で、裏の世界で生きる道しか与えてはくれない。
ギャングとは確かに権力を持つことも出来る。けれど、自分たちは所詮沈んでいくだけで、そうして滅びに向かう道しか与えてはやれない。その在り方はある種、悪魔に似ていた。
リゾットは、ポルポはただの弱い人間であることを知っている。
そうして、リゾットに対して救いを見出していることも知っている。
何か、時折、ポルポはリゾットに対して祈るような目をすることを知っていた。縋る様に笑う時がある。
リゾットは、その女が自分にどんな救いを見出しているかは知らない。けれど、救いを見出しているならばそれでいいと思う。
ポルポが昔言っていた。
人というのは、所詮、勝手に救われるものであるらしい。
誰かの救おうとした手に救われないこともある。
救われたという感覚は、個の受け取り方でしかないのだと。
リゾットは自分の何かでポルポが救われ、そうして生きる意味を見出すならばそれでいい。
リゾットは、ポルポの自宅へとたどり着いた。そうして、そのチャイムを鳴らした。
きいと、開いたドアからひょっこりと女が顔を出した。
「・・・・やあ、よく来たね。リゾット。」
そう言って控えめに笑ったポルポにリゾットは無言で頷いた。
リゾットは、当たり前のようにいつも座っている席に着き、食事に通い続けるうちに置くようになった専用の食器を使う。
テーブルの上には、リゾットの贈ったデイジーが置かれていた。
「・・・案外持つんだな。」
「まあ、水のやり方とかでなんとかなってます。」
「そうか。まあ、世話をこれからもよろしく頼む。」
リゾットの言葉に、ポルポの瞳が薄くではあるが揺らいだ。それにリゾットは気づいたが、無視をした。
ポルポは、己でもその瞳の揺らぎに気づいていない様に、淡く微笑んだ。
「・・・ええ。あなたがくれた花ですから。」
その笑みを見ながら、リゾットはひどく不思議に思うのだ。
どうして、カラマーロやプロシュートは生きてほしいと願わないのだろうかと。
生きてほしいから生かそうと、しないのだろうかと。生きてほしいならば、生きてと言えばいい。
例え、それがポルポにとって苦痛でも。別に、ポルポの不幸を願っているわけではないのだ。ならば自分の望みを叶えればいい。
生きてほしい、置いて行かないでほしい、いなくならないでほしい、笑ってほしい、幸せになってほしい。
ポルポは、リゾットの神様ではない。
何故なら、リゾットはポルポから与えられたものは何一つないのだ。
リゾットは、ポルポに生きてほしいと思う。
それは、深い意味などない。ただ、生きてほしいから生かそうとしているに過ぎない。
それに名前を付けろと言われると、リゾットとしては困ってしまう。
自分たちを評価している上司として死なれては困るということも、長い付き合いの人間がいなくなることが寂しいということも、愛していると言えばそうであるし、遠い昔亡くした幼い誰かの影法師を追いかけ続けているというのも事実だった。
ポルポは、優しく、穏やかで、そうして臆病だ。
裏の世界で生きることにここまで不向きでありながら、それでも生き続けてしまう彼女は哀れかもしれない。
それでも、ポルポは笑うのだ。幸福そうに、確かな安寧をここで感じている。
リゾットは、ポルポと食事の約束をし、贈り物をして、彼女に手を差し出すのだ。
それは、ポルポを生かすのには未来を約束するのが一番だと気づいているからだ。ポルポは律儀だ。
彼女は、約束を必ず守ろうとするだろう。
だからこそ、リゾットは明日を約束する。彼女は、どんなにひどい状況でも、リゾットとの約束を違えないために必死に生き延びるだろう。
リゾットと食事を共にするために、リゾットの贈った花を枯らさないために、リゾットとの言葉を裏切らない様に。
けれど、勘違いしないでほしいのは、それを願ったのはリゾットではないのだ。
共に生きようと言ったのは、ポルポが先だった。だから、リゾットはポルポを生かす。生きてもらおうとするのだ。
共に生きようと言ったあの言葉は、全てを喪った男には、ひどく優しくて、安寧に満ちていた。
ポルポ、リゾットの郷愁の証、柔らかで愛おしかった誰かの影を纏う女。
赦さない。
リゾット・ネエロはポルポが死ぬことを赦さない。
共に生きようとお前が言ったのだから。それを先に願ったのはお前だから。
それは、ただの執着なのかもしれない。
ただ、思うのは、たった一つ。
もう二度と、けして、自分の手の中から滑り落ちることのないように。
弱くて、柔くて、そうして安寧に満ちたそれがもう二度と、自分からいなくなることがないように。
リゾットは、ポルポの無防備さが好きだった。自分が手を伸ばしてもなんの恐れも抱かない愚かしさが好きだった。
それは、日常の在り方で、リゾットが昔失ったものだから。
赦さない。
自分から、その安寧を奪うことをリゾットは赦さない。
陽だまりの匂いを感じるたびに、リゾットはあの幼子が遠いどこかで生きているように思えた。
リゾット・ネエロは、それが例え地獄でも、共に生きていくことを免罪符にポルポにまたいつかという呪いをかけるのだ。
うーん、スタンドだけと言えクロスオーバーのタグは付けた方がいいんですかね。
クララさんが誰か分かったから入るんでしょうか。ほとんど人物描写はされていなかったですが、何となく人間嫌いな妹さんに対して、けっこうざっくりとした性格のイメージを持ってます。
リゾット、アニメとか背景を見る限りはけっこう真面そうですが、あの人何気に群体型なんですよね。精神面の欠陥がどこらへんか想像ですが。
ポルポを嫌いそうな人は何人かいますが、そこまで辿り着けるかな。ジェラートとソルベにイルーゾォとペッシの話が先になると思います。
ちなみにハウリン・ウルフは書き手が一番最初に使っていたスタンドで、お気に入りです。