イルミネ世界樹日記   作:すたりむ
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第一階層(1):田舎女、ギルドを立ち上げる

・皇帝の月、13日

 今日、ギルドをクビになった。

 

 

~イルミネ世界樹日記<完>~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待てコラ。勝手に完結さすなっ。

 ことの起こりは今日。いつも軽薄なギルドマスターのハルゲンス、略してハゲ(関係ないが性格が軽薄だとやがて頭髪も薄くなる。うちの部族の言い伝えだから間違いない)に連れられて三階を回っていたら、途中でなんか妙にえらそうな冒険者の一団と出会った。

 どうもハゲ(関係ないがハゲハゲ呼ばれているとやがて頭髪も薄くなる。うちの部族の言い伝ry)の知り合いらしいその連中は、私を見て「なにそのうすぎたねー田舎女。おまえそんなのとつるんでんの? プッ」(意訳)とか抜かしやがった。これだけでも怒髪天だったのだが、ハゲ(関係ないがともかくこいつはハゲる。うちの部ry)曰く「ですよねーww」(意訳)。で、帰ってきて即「おまえ解雇」。

 マジでムカついたので部族に伝わる呪法でハゲるように呪いかけといたが、それはともかく困った。まさかこんなところでフリーターに逆戻りとは。終身雇用とかいつの時代の話だろう。格差社会ですね。

 ……いやいやいや。現実逃避している場合じゃない。

 ともかく、能力で切られたわけじゃないのは幸いだった。これなら再雇用の口は十分あるはず……とはいえ、へんなところに行って、また今回みたいに理不尽に切られるのも嫌だ。ちょっとは実戦経験も積んでハクも自信もついたことだし、いっそ自分でギルド立ち上げてみようか。と思って、ギルド登録所に行った。いけすかない甲冑の女から、おまえには無理だからやめとけとか言われたが当然無視。法令的にヤツは止める権限を持っていないので、気にしなければいい。名前は部族の伝説にある英雄から取って、パレッタとした。

 とはいえ、組む人材がいないのは深刻だ。とりあえず募集かけといたけど、ちゃんと集まるかな。治療技術持ちのいるギルドは少ないから、こっちの需要は十分だと思うんだけどね。

 

 

・皇帝の月、14日

 ひとりしか来なかった。南無。

 しかも使えそうもないガンナーの小僧。マイトとか名乗ったそいつは、実力を質すと誇らしげに履歴書を見せびらかした。元・がんそロックエッ所属。――なにそのダサい名前のギルド。と言ったら、当人からはジト目で睨まれ、ついでに横にいた甲冑女に笑われた。むかつく。なんでも、エトリアから流れてきた組の超腕利きギルドらしく、たどり着くなりあっという間に有名ギルドの仲間入りとか。

 まあ、どんな経歴だって使えればそれでいいんだけど。なんか不安だなー。甲冑女にイヤミ言われるから絶対口に出さないけど、こんなんでちゃんとやっていけるのか。

 

 

・皇帝の月、15日

 満を持して公宮にギルド登録届を提出。おまえ本当に大丈夫か的な視線を浴びながらも、新ギルド登録ミッションを獲得することに成功した。

 んで、入り用のブツを手に入れるために交易所へ。マイトのヤツは弾丸をえらく念入りに選んでいた。ああいうところはプロっぽいんだが、普段の言動がどうにもうさんくさい。こっちはこっちで防具の調達が死活問題だ。なにしろガンナーを前列に置くわけにはいかないわけで、私が魔獣の攻撃から盾にならざるを得ないのだった。

 けっきょく、軽くて使いやすいバックラーと攻撃回避用のブーツを買い込み、宿へ。貯蓄がだいぶアレになってきたけど、まだ飢え死にするほどでもない。幸い、私が泊まっている宿は、実績のある冒険者ほど高い代金を取るという方針らしく、実績もなにもない私はタダ同然で泊まれるのだった。――くやしいなあ。いつか見てろ。

 そんでもって、なぜかついてくるマイトにさっさと帰れと言ったら、なんと同じ宿に泊まっていたらしいということを知ってびっくり。なのにいままで面識がなかったのか……不思議だ。

 

 

・皇帝の月、16日

 ボロボロで帰還。

 えーと返品しちゃダメですかこのガキ。マジで使えないし。ネズミ一匹、2発撃っても倒せないガンナーなんて要らねえよ! うがああああ。

 ミッション自体は辛うじてこなしたが、地図を作れなんて簡単なミッションでよかった。ぶっちゃけごまかしまくり。通ったことのない通路を勘で書き殴ったりして、むりやり地図っぽいものを作って帰ってきた。監督の衛士の「いいのかな、これ、認めちゃっても……」的な視線が忘れられません。どーしたもんだろ。

 まあいい。ともかく、生きて帰ってこれたんだ。今後のことは今後の課題にしとこう。マイトの馬鹿も、鍛えれば使えるようになるかもしれないし。望み薄だけどネ!

 

 

・皇帝の月、17日

 相変わらずマイトは使えない。使えないが、まあそれでも一応魔獣狩りはできるし、贅沢言うのはやめておこうかな、と思えるようになった。我ながら寛大だ。諦めたとも言う。

 さて、今日は馴染み……ではない、いままでのギルドで行ったことのない酒場に顔を出してみることにした。うさんくさい親父がやっている店だが、一応酒を出すだけじゃなくて、民間からの依頼をギルドに斡旋する仕事もやっているらしい。最初は裏の仕事なのかと思ったが、掲示板立てておおっぴらにやってるところを見ると、どうも公的にも認められているようだ。……その割にはヤバそうな仕事も多く見えたけど。特に危険な花びらの球根とか、どう見ても暗殺用です本当にありがとうございました。

 と、いうことを指摘したら、くだんの親父はえらく慌ててその依頼を差し止めていた。……気づかなかったのかよ。いい加減だな、と言ったら、うるせー毒物の知識なんざ堅気の俺が知るわけねーだろ、と返された。正論だけどちょっと気になる。私は堅気じゃないのか?

 で、それがきっかけで妙に親父は馴れ馴れしくなって、新人ならこの仕事なんてどーよ、とかいろいろ薦めてきた。で、その中のひとつ、一階で泉から水をくんでくるだけの仕事が楽な割に良報酬っぽかったので、挑戦することにした。なにしろ水場は入り口からとても近く、しかも私たちは昨日その近くを通っている。

 めちゃくちゃゴツい芋虫とかがいて死ぬかと思ったけど、なんとか相手に見つからずに水ゲット。死の危険に晒されながらかろうじて脱出、しかけたところでモグラからいい一撃を食らって、気づいたら薬泉院のベッドの上だった。うまく逃げられたのか、とマイトに聞いたら、胸を張ってきちんと倒したと返してきた。マジですか。ガンナーが盾役もなしに一騎打ちとか、正気とは思えない。よく全滅しなかったなあ私たち。

 

 

・皇帝の月、18日

 ちょっとずつ、マイトが使えるようになってきた。というか、さすがに2発あれば敵も倒せるようになってきた。よしよし、これなら安定して稼げる、とか思った矢先に針ネズミから痛いの食らって気絶。

 ……そりゃそうだ。ガンナーは後衛戦闘向きでも、私に単体で前衛はちと荷が重い。真剣にパラディン求む。

 で、めげずに探索続行。地図ミッションのところをあまりにいい加減に済ますのもアレなので、勘で書いた部分を埋めることに。あと残っているのは広間風の場所だけだったので、そこに行ってちょっと休むかーとか思っていたら、見たことのない色の蝶に襲われて泣きながら退治。ギリギリだった。なんか珍しい羽根が手に入ったので交易所で売ってみたらそこそこの額になってびっくり。最近は金もジリ貧ぎみだったので正直助かる。

 

 

・皇帝の月、19日

 事件が起こったのは、一階。奥へと続く、迷宮の中の通路だった。

 突如、凶暴な悲鳴が上がったことに驚いて前を見ると、見知った顔のパーティが怪獣に襲われていた。――えーとなんだあのバケモノ。人間の体格を遥かに上回るぷりちーなお姿にもうヘロヘロです。ハルゲンス君、ハゲる前に死んじゃってかわいそー。南無。

 冗談はともかく、アレはさすがに私たちでは対処できない。ていうか、見つかったらこっちまでお陀仏だ。なので、近場の強そうな冒険者探してこい、とマイトに言おうと思ったら、いない。先に逃げたか? と一瞬焦ったが、……実際は、予想の遥か斜め上だった。あいつは、周辺の木の陰に隠れて、怪獣相手に氷の特殊弾丸をぶっ放しやがったのだ。

 当然、そんな即席の奇襲がうまく行くはずもない。弾丸は命中したものの怪獣を倒すには至らず、臭いであっさり居場所を突き止めたとおぼしき怪獣の突進にはねとばされてマイトはべしゃ、と顔から地面に着地、動かなくなった。――あの、馬鹿たれ。

 考えてる暇はない。とどめを刺すべく再び突進しようとした怪獣の鼻先に石を投げ当て、こっちに注意を向けておいて全力で逃げ出した。見よ、部族一と言われたこの健脚――って怪獣HAEEEEEEEE! あっという間に追いつかれそうになり、こうなりゃせめて剣で一撃、とマジで腹をくくった瞬間、

 

「あー、悪いけどちょっと離れてくれる?」

 

 声とともに、木の上からひとつの、影が。

 

「死ぬぅえええええええええええええええええああ!」

 

 どす黒いかけ声とともに棍棒一閃。信じられない速度で怪獣の頭が大地に叩きつけられてめり込み、突進の勢いがついて止まらない身体のほうが跳ねてこっちのほうに「ふん!」ばきゃっ、という軽快な音とともに逆側にはね飛ばされて地面にずずんと落ちる。――終了ー。お疲れさまでしたー。

 

 

 飛び降りてきたメディック――メディック?――は、倒れた怪物に一瞥だけくれてから、こっちには見向きもせずにマイトのほうへずかずかと歩いていった。

 マイトの奴は、のんきに頭を抑えてうめいていたが、一応無事みたいだった。頭を振りながら顔を上げ、そこにいる人影を見て驚いたように「あ、アシタさ、」げしっ。とメディックの蹴りが入り、マイトは再び頭を抑えてうずくまった。

「これで二回目。いや、三回目か。キミが死んだのは。

 前も言ったはずだよね。自分の力量はわきまえて、できることだけをやれって。それ以上をやろうとすれば死ぬし、あたしはそういうのが嫌いなの。言ったよね?」

「す、済みません……」

「済みませんじゃないの。いい加減こっちも堪忍袋が限界でさ。

 はっきり言うけど。自分の死線を見極めることもできない阿呆に冒険者なんて務まらない。続けていてもすぐ死ぬのが関の山だし、さっさと――」

 声が、途絶える。

 ……や、まあ。私が割り込んだからだけど。

「なに。反論でもあるの」

 いやあ、べつに内容にケチ付ける気はありません。実にその通り。

 でもさあ。それは、あなたが言うべきことじゃないよね?

「――どゆこと」

 だからさあ。その小坊主、いまはうちのギルドのメンバーなわけ。過去どうだったかとかはともかくとして。

 助けてもらっといて悪いけどさあ、筋が違うと思うわけよ。説教するのもクビ宣言するのも私。外部にでしゃばってもらっちゃ困るの。

「……ほーお。

 よく言えたものね。その程度の実力で。あたしが来なかったら死んでたくせに」

 マジで睨まれる。くそ、負けるかっ。

 ……でも棍棒で殴られたら嫌だなあ。たぶん一撃で死ぬよね私。どうしよう。

 しばらくそのままでいたメディックは、やがてふふんと鼻で笑った。

「いいわ。その小僧の去就はキミに任せる。

 ただし。今度はあたし、絶対助けないわよ。たとえ視界の真正面に入ってこようと、手出しは絶対しない。

 ――ケケケ、覚悟しとけよ」

 言い捨てて、そいつは場を去っていった。

 ……さて、と。

 考えてみると、ものすごい啖呵を切ってしまったような気がする。なので考えないことにしよう。

 とりあえず、今日はもう切り上げよう。マイトの奴は使い物になる状態じゃない。

 

 

 街に帰ってわかったのは、どうやら上のほうの階で騒ぎがあって、そのあおりで上にいた魔物のうちのいくばくかが下へ降りてきてしまった、という話みたいだった。

 幸い、大半は有名ギルド――あの、アシタってメディック率いるギルド「がんそロックエッ」(しかしひどい名前だ)も含め――の哨戒によって退治されたと思われるのだが、まだ数匹残っている可能性があるとか。……物騒だなあ。明日からどうしよ。



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