イルミネ世界樹日記   作:すたりむ

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第一階層(2):最初の死闘

・皇帝の月、20日

 マイトが辞表とか書いた紙を持ってきたので、その場で破り捨ててやった。ついでにぶん殴った。

 んで、さすがにむかついたらしく噛みついてくるマイトに、私は言ってやった。理由を言ってみろ。冒険者やめる理由。

「そんなの決まってる。やりたくなくなったからだ」

 うそつけ。だいたいおまえが堅気でやっていけるクチか。銃使うしか能がない、口の利き方もなってないヒヨッコのくせに。

「……じゃあ、どうしろってんだ」

 まず反省。昨日、自分の行動にはどんな問題があった?

「そ、それは、無茶な行動をして」

 いや無茶な行動て。そんなの、二人で迷宮に出てる時点で無茶でしょうが。

 樹海での行動は回復役含む五人組が基本。多ければ狭い樹海では行動しづらく、少なければ単純に戦力が足りない。これが腕利きなら少人数でもどうにかなるけど、私たちはただの駆け出し。おまえだけじゃない、私だって壁としちゃ不十分なのは承知の上だ。

「…………」

 なあマイト。冒険者なんてそんなもんだろう。

 しょせん私たちは、無茶を承知で魔境に挑む命知らずだ。危険を減らすことはできるけど、なくすことなんてできやしない。だから、おまえの行動が持っていた問題は、無茶なんてことじゃないのだ。

「じゃあ、なんだよ?」

 考えろ、馬鹿。

「……勝手に行動したこと?」

 それもある。パーティは行動の基本単位だ。その内部で勝手な行動を取るのはまずい。

 でもそれより大きな理由は、すごく単純だ。おまえは無茶を、無茶だってわかってたのに、無茶なまま実行しようとした。

 無茶をやるのはけっこう。でも無茶をやるなら、やり通さないとダメだ。あの怪獣みたいなのは、おまえの一撃で倒せるレベルの相手じゃない。なら――どうして、先に私に、言わなかったのさ。

「――それは」

 私だけじゃない。襲われてるパーティに、少しだけでも時間を稼ぐように声をかけることもできた。私とあの連中が混ざれば、もうしばらくの間は時間を稼げたかもしれない。時間を稼げれば、相手をしとめることはできなくとも、足に怪我をさせるくらいはできたかもしれない。足に怪我をさせることができれば、その後で逃げ延びることだってできたかもしれない。

 そういう可能性を考えずに、ただ無茶を無茶なままやるから、駄目なんだよ。わかってるのか、小僧。

「……小僧って言うな。小娘」

 うるせえ。

 ま、お説教は以上だ。もう一度だけチャンスをやるから、今度の無茶はもう少し考えてやれ。

 その時は、手伝ってやらないこともない。

 

 

 言うだけ言って、後はもう一日休むように伝えて、私は自分の部屋へと戻った。

 まあ、アレだ。口先三寸が得意なこと。

 私には詐欺師の素質でもあるんだろうか。とか考えて、苦笑。少なくとも、自分で言ったことに自分でヘコんでいるうちは無理だろ、詐欺師。

 マイトはごまかせても、私自身はごまかせない。

 要するに、私は。未熟で無茶な私が冒険者失格だなんて、認めたくなかっただけなんだ。

 マイトのことなんか考えてなかった。私はただ、あのメディックの言葉を自分に向けられたと感じて、必死で否定しているだけ。

 私は、未熟で無茶で。

 のけ者同然だった部族のコロニーを抜け出して、一発当てようとして足掻いている、はみだし者のならず者だ。

 それでも。

 生きている限り、無茶は正当化できる。はずだ。

 そう、信じているから。

 

 明日も、また頑張ろう。

 

 

・皇帝の月、21日

 今日は二階まで行く、と宣言したら、マイトの奴はちょっと驚いた顔をした。無茶だ。知ってる。でもやる。

 勝算はあった。前のギルドで三階まで行ったことのある私は、二階に向かう通路の位置は覚えているのだった。だから、ちょっと顔を出すくらいならできる、はず。

 芋虫さえ出てこなければネ。

 案の定、ものすごいでかいのが出た。糸を吐いてこっちの行動を邪魔すること邪魔すること。だが舐めてもらっては困る。そんなもの後列には通さないし、打撃も気合いで乗り切れる。ついでに言えば、こっちがダガーで援護すればギリギリ銃弾二発でも急所に届く。

 危機一髪、私が倒れる前になんとか倒れてくれた。いやもう、マジでギリギリ。突進ではね飛ばされそうになって踏ん張った甲斐があった。死ぬかと思ったけど。

 そうして二階に初進出。これからも頑張ろう。

 

 

・皇帝の月、22日

 驚いたことに、マイトの銃撃の精度が急激に上がってきた。

 自信がついた、ってことなんだろうか。急所に一撃、ネズミ昏倒。蝶だって二発で行ける。

 で、いい気になって二階を探索していたらリスみたいなのにアリアドネの糸を盗まれて死ぬかと思った。ホント樹海は舐められないイベント満載だぜフゥーハハハハー!orz

 

 

・皇帝の月、23日

 二階探索中。

 ……死体見ちゃった。げろげろ。

 なんか鹿の魔物みたいなのがうろついている通路だったんだが、明らかに角で一撃された跡。こえー。絶対近寄らないようにしよう。

 と、マイトがじーっと見ているのでなにかと思ったら、「財布が盗まれてる」だそうな。……おまえね、どこ見てるんだよ。ていうか、みんなよく死体から剥ぐ勇気があるなー。肉に魔物が群がってきたりしそうなものなのに。

 

 

・皇帝の月、24日

 えーたいへん言いにくいことなんですが金が尽きた。どーしよ。

 なので酒場行き。至急に仕事はないか、と言ったら親父のやろう、こっちをじろじろ見回した上で

「剣士がいりゃあなぁ……」

 待て。そりゃどういう意味だ。と聞いたら、どうも大公宮のほうででっかい募集があるとのこと。即金で払いのいい仕事はそれくらいなのだと言われ、考えること三秒。決めた。マイト、おまえやれ。

 というわけで、超即席でうちの部族の伝統剣技を叩き込み、迷宮で実技一時間。私の装備を全部持たせてそれっぽい格好に仕立てて即酒場へ行き、時間ギリギリで募集に間に合った。

 そして、見事採用された。マジすか。

 後で聞いた話だと、ほんっとうに使えなさそうな奴しか来なくて、実技ではマイトが一番マシだったとか。うへーありえねー。仕事はなんだったってマイトに聞いたらすげー疲れた顔で、新人衛士の訓練、と答えてきた。……おい、マジでいいのかそれ。この国すげー。もう衛士は信用しないことにしよう。

 

 

・皇帝の月、25日

 二階で、誰が置いていったのかわからないよさそうな銃ゲット。

 それによってマイトが超強化。ほとんどの敵を一撃で倒せるようになった。すごいねー。できればサボテンも一撃で倒してくれ。アレ超痛い。

 

 

・皇帝の月、26日

 迷宮に入ったときから、どうも様子がおかしいとは思っていた。

 いつもより静かだ。魔物たちが鳴りを潜めている。そして、異様な悪寒。

 ――案の定。

 二階へと続く通路。その前の大広間に陣取っていたのは、例の怪獣の生き残りだった。

 

 

 有名ギルドの掃討作戦も終わり、強い冒険者の大半は上の階にいる。だが、討ち漏らしたか新たに上の階から降りてきたのか、ともかくそいつはそこに鎮座して、あたりの様子をうかがっていた。幸いこちらはうまく隠れることができたが、このままだとすぐうっかりさんがやってきて、死人が出るだろう。

 だから、私は言った。マイト、どうする。やっちゃうか。

「……やってみたい」

 特殊弾丸は何発ある。何発で倒せる。

「四発。

 たぶん、三発も入れば、体温が低下しすぎて動けなくなる。は虫類だから」

 不意打ちで一発。つまりは、二発分の時間を稼げば勝ちだな。

「……全部当たれば、だけど」

 当てろ。命令。

 こっちは死ぬ気で守る。守り通してみせる。――無茶、始めるぞ。用意はいいか、相棒。

「わかった。絶対倒す」

 いい返事だ。

 

 

 相手の動きを探る。どうやら空腹らしいそいつは、しきりに鼻をひくひくさせながら周囲を伺っている。きょろきょろ動かしている顔が、こちらの反対側をちょろっと向いた。――いま。

「撃て、マイト!」

 声とともに放たれた、強力な冷気を放つ弾丸。それが怪獣の首筋をかすめて奥へってあっさり外してるんじゃNEEEEEEEEEEEEE! この馬鹿!

 咆吼。ああもうしょうがない。しょうがないので目立つように広間に飛び出して相手を牽制する。それを見た怪獣、まったく一切の躊躇なしにこっちに突撃してきたうぎゃあ怖えええええええええ! 飛び退きつつバックラー押しつけてかわしたが、その盾ごと思いっきりはね飛ばされて尻餅。やばい目が回ってる!

 と、怪獣の悲鳴。白い尾を引いた弾丸の軌道が、命中したことを教えてくれる。まず一発。だが相手は、それによって標的をマイトに変えた。

 すさまじい速度で突進。マイトはまだ弾丸を込め直していない。ダメもとで投げつけたダガーも空を切り、相手はマイトをそのままはね飛ばした。

 が、しかし。はね飛ばした直後、怪物がまた悲鳴を上げた。

 はね飛ばされたように見えたマイトは、実ははね飛ばされていなかった――というのは嘘。正確には、はね飛ばされることを想定した上で銃の構え方とかを工夫していたっぽい。ともかく飛びながらの曲芸的な射撃で、怪物に二発目の弾丸が入った。

 ……上等。

 こうなったら最後まで付き合うさ。距離は至近。弾丸は残り一発。時間さえ稼げれば勝てる。怒り狂いながら倒れ込んだマイトの方へ突進してくる怪獣の前に、私は立ちはだかった。盾を構え、受け身を取ろうなんてことも考えず、ただもうひたすら必死で、――盾の角の部分を、相手の鼻先に叩きつけてやった。

 怪獣が、ちょっとひるんだみたいに速度を落とす。落として、――そしてそんなのぜんぜん関係なく、鞠みたいに軽々と私の身体はぶっ飛ばされた。うわあグルグル回ってこれはこれで楽しい。とかやってたら背中から木の幹に激突。肋骨がめきょって言ってすごい痛い。枝とかあったらたぶん身体貫通してお陀仏だっただろうなあ。痛みで霞む視界に、三発目の特殊弾丸を食らって昏倒する怪獣の姿が、映った、ような。

 

 

 で、気がついたら薬泉院のベッドで、ベッドのそばにはあの、アシタとかいうメディックがいた。

「おー、もう目を覚ました。意外と頑丈だね、キミ」

 ……なにしに来たのさ。

「ただの冷やかし。用とかはないよ。

 とはいえ、やっぱり無茶したんだね」

 して悪いか。

「悪い。

 ……ま、いいけど。しょせん他人だし、今回は死ななかったし」

 言って、アシタはよっこいしょと椅子から立ち上がった。

「ついでに。調べさせてもらったわよ」

 なにを。

「キミの経歴。

 なんか、普通の人間に見えないものが見えるって言うじゃないか」

 ――へえ。どっから調べたのかね?

「さあ? あたしは相棒に丸投げしただけだし。

 ま、あんまり樹海で役に立ちそうな能力でもないけど」

 役に立つなら部族飛び出てきてないし。

「だろうねー。

 まあ、なんでそんなに焦ってるかはわかんないけど。そんなに自分の居場所がなくなるのが怖いかね」

 うるさいな。

 ……というか、あなたこそずいぶんこだわるじゃないか。そんなにあの小僧が気になる?

「そりゃま、あたしがギルド追い出したせいで死んだってことになったら後味悪いじゃない。気分的に。

 でもまあ、それも今回でおしまいかね」

 え、なんで?

「そりゃ決まってるでしょ。いまのあいつが死んだらあいつのせい。あたしのせいじゃないって思ったから。

 言いたいことはそれだけ。じゃあね」

 ばいばい、と手を振って、アシタは部屋を出て行った。

 ……けっきょく。

 最後の言葉が、ものすっっっっごく遠回しな褒め言葉だということに気づいたのは、宿に帰ってしばらくしてからだった。




 だいたい暖まってきたところなので、ここでメインパーティのキャラ紹介を。


1)イルミネ
年齢:17
性別:女
クラス:ドクトルマグス
アラインメント:Lawful-Neutral
 本作の主人公。ギルド「パレッタ」の作成者にして主。
 地味、腹黒、小物臭を兼ね備えた最強にかわいくない女だが、覚悟を決めたときの決断の速さと思い切りの良さは随一。
 アラインメントはLawfulになっているが、これは法律を守らなきゃいけないというより、法律守ってりゃなにしてもいいんだぜゲヘヘ、という意味。ただしそれでもEvilになりきれずNeutralなあたりが小物。
 女子力は最底辺だが自活力はそれなり。


2)マイト
年齢:15
性別:男
クラス:ガンナー
アラインメント:Chaos-Good
 無鉄砲な鉄砲使い。わりと無茶をするくせにひ弱。でもめげないあたり実は根性があるのかもしれない。
 いいことだと思ったことをするためなら突進する癖があるが、イルミネに押さえられて少し頭を使うようになる……模様。まだわからない。
 ただ、とっさの際の機転は実はかなり利く。応用力は豊富。

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