・虹竜の月、23日
昨日掃除された、蛇のいた通路を通って二十二階へ。また右往左往して気がついたら二十四階。いい加減飽きてきたなーとか思いつつ探索していたら、なんと上り階段発見。
そして二十五階へ。外観からするとこの辺が最上フロアなんだが、そろそろオーバーロードの奴と出くわさないものだろうか。とりあえず磁軸の柱を見つけて撤退ー。明日からは昼探索だな。
・虹竜の月、24日
タフなだけで鈍重なロボ兵や、やたらでかいだけでたいして強くない竜どもを、ばったばったとなぎ倒しながら進む。
そして力尽きて撤退orz
敵多すぎ。相手もそろそろなりふり構わなくなってきやがった。いよいよ決戦だな。
・虹竜の月、25日
やっぱり大量の竜に囲まれて各個撃破しつつ突破。
中継地点を確保しつつ撤退。地図もだいぶ埋まってきた。
・虹竜の月、26日
扉を開けた途端、目に映ったのは大量の黒い鎧兵士だった。
はい死ぬかと思いました。そして刈り尽くした。自分たちの実力にびっくり。こんなに強くなってたんだ私たち。
そしていよいよ、最後の扉とおぼしき地点に到達。明日、すべての決着がつく……と、いいな。
・虹竜の月、27日
赤黒い、でかい扉の前。
そこにいま、私たちはいた。
……いよいよだ。
これだけ高いところまで登ってきたんだ。感慨もひとしお……でもないなあ。全然。
仕方ないから相棒に振ってみる。おいマイト、感想どうよ。
「は? いきなりなに言ってるんだおまえ。
いいからさっさと突入するぞ。ここにいるといままでの苦労を思い出して、ひたすらイライラする」
ふふん。青いな。私なんて、そのイライラをけっこう楽しんでるぞ。
さてと。じゃあとりあえず開けるか。見たところかんぬきがかかってるみたいだが、この種の物理的な鍵は巫剣であっさり壊れる。
そら……よっ、と!
ざしゅっ、ごとん。と音がして、扉の封が解けた。
そして束縛を放たれた扉はゆっくりと
「ていやっ」
ばしーんっ。マイトが蹴っ飛ばしてぶち開ける。おいこら、情緒ない開け方するなよー。
「うるさい。さっさと済ますぞ。
そら。さっそくおいでなすった」
その言葉通り。
目の前に、変な形をしたオブジェみたいな機械の塊があった。
『来たか。
まさか、我が空船の最上層、王の間にまで登り詰めるとはな』
よう。ぶちのめしに来たぜ、上帝。
『ふん。まああわてるな。
せっかくここまで来たのだ。どうせなら、昔話のひとつでも聞いていってはどうだ?』
昔話……ねえ。
いいよ。聞いてやろうじゃないか。
『よろしい。
この船はな、元々は我らが古き大地より空に逃れるために作ったもの。
古の方舟の再来、選ばれた人類や動植物だけを救う、救済の船だったのだ』
そんなことを、上帝は言った。
『古の時代、人は一度滅びを迎えた。
我らはそれを予見し、滅ぶ大地を捨て、空へと向かった。だが、その変化した環境に適応できる人が少なく、計画は失敗――否。失敗しきる前に見捨てられ、一部の者たちはせめて地上で滅ぶと言い残してこの場を去った。
それでも、我は残された者たちを救うために、命について果てのない研究を続けた。
人の命では時間が足りぬため、人であることを捨てさえして、ついてきた者たちをあらゆる災厄から守る研究を推し進めたのだ!
その研究は今なお続いている。ここにある、諸王の聖杯と共にな』
玉座の間の奥を見ると、そこに小さな金属製の杯が、台の上に静かに載っていた。
……ふうん。本当に杯の形をしてたんだな、諸王の聖杯って。
『象徴のようなものだ。形はどうでもよい。
とはいえ、あの杯は未完成でな。遺伝子異常を誘発し、化け物に変化させてしまう。
それを直すためには、さらなる研究が必要だ――と、いうわけで、だ』
オーバーロードはそう言って、ちょっと笑った……ような感じでランプが明滅した。
『我はあれを完成させねばならん。永遠に生きる命を求めて、な。
すでに部分的には完成しているあれを、完全なものにするには、もう少しの研究で十分なのだ。ジャガーノートの研究を通じて、有用な研究データが集まった。あともう少しで研究は完全になる。
そこで、だ。提案だ。我が力を持って汝らに永遠の命と、人を超える力をやろう。
その代わり、汝らは我が研究に協力し、共に聖杯の力を分かち合うのだ。
どうだ? 悪い話ではあるまい?』
あーそう。そうかもしれないねー。
『そうか。では……』
で、昔話は終わったのか?
終わったならそう言ってくれ。そろそろ飽きてきたし、オマエ不愉快だからさっさとぶっつぶしたい。
『――提案は断る、と?』
提案? なんのことだ。
『だから先ほど言った通り――』
悪いが私が聞いたのは「昔話」だろ? 提案なんか聞いた覚えはないね。だいたい、ムカつくおまえの提案なんか誰が飲むか。
さて……と。マイト、やれ。
「了解!」
声とともに、ずどどどど、と雨のように銃弾がオーバーロードに降り注ぐ。
『ぐうううううっ!? き、貴様っ……!』
手(?)を伸ばそうとしたオーバーロードをさえぎるように、私がその前に立ちふさがる。
どこに行く、上帝。おまえの墓場はここだぜ?
『くそ、やむを得ん! その身を砕き、培養槽に浸けてから話の続きをさせてもらうぞ!』
面白い。やってみな!
『おおおおおおおっ!』
上帝が吠え、それがすさまじい不協和音になって襲いかかる。
が、そんなもん耳塞いでりゃ怖くない! マイト撃て撃て! いまのうちにあいつをスクラップにしろ!
がすがすがすがす、遠慮なく弾が相手にぶち当たる。オーバーロードの悲鳴。治療システムみたいなのも働いているようだがまったく間に合ってない。そのうち相手はあきらめたのか防御をやめ、
――不意に嫌な予感が湧いた。マイト、特殊弾丸に換装! 氷でいい、やれ!
案の定、張ってあったバリア状のなにかを特殊弾丸があっさり突き抜け、上帝がうめいて後ずさる。
『くそ、なぜカウンターバリアの存在を見抜いた!?』
経験豊富な冒険者なめんな。防御止めた時点でバレバレなんだよ。
『おのれ、然らば……V/O/I/Dシステム、起動!』
がしゃんがしゃんがしゃん。すごい音がして相手の周囲に大砲群が湧いて出る。――あ、やば。
『射撃開始!』
どどどどど、と光弾が雨のように降り注ぐ。うげげげ痛い痛い痛い。し、シロ、マイトをカバーだ!
声に応じて現れたシロが、マイトの前に立ちふさがり、そして一瞬で吹っ飛ばされてきゃいんと鳴いて気絶。つ、使えねえ……と一瞬思ったが、しかしマイトにはそれだけの時間で十分だった。
「食らえ、魔弾の一撃を――!」
一撃を、相手の中心にたたき込む。それが相手の中央にあった宝石みたいなのを打ち砕き、
『ええいくそ、こしゃくな人間が――!』
上帝は、後ろを向いて逃げ出した。
……って、おい! こら、待ちやがれ!
玉座の間の奥にあった階段を上ると、そこには信じられない光景があった。
船の屋上から上へと続く浮島の数々。空中庭園と言っていい、美しく幻想的な光景に見とれている時間は、残念ながらいまはなかった。
待てーと叫んで追いかける。わたしが先頭、後ろにシロとマイト。そうこうしているうちにもうひとつ階段を抜け、とうとう浮島の縁に相手を追い詰めた。
そこは一本の剣が突き刺さった、祭壇みたいな変な場所だった。その剣に手をかけ、上帝は言った。
『止まれ。これ以上進めばとんでもないことに――』
マイトやっちゃえ! ずだだだだと銃弾が飛び、上帝が悲鳴を上げた。
『え、ええい、くそ! こうなったら……!』
上帝が、剣を祭壇から抜き放つ。
とたん、ごごごごごというすごい音。な、何事だ!?
『ふふふ。驚いたか。
この剣は封印の剣。我ですら制御し得ぬ被造物を隔離した、禁じられた地の門扉の鍵よ。
これを元に戻さぬ限り、早晩迷宮には禁地の魔物どもがあふれ出す。そうなれば貴様らも、貴様らの街もおしまいだ。
助かる選択肢はひとつ、剣を用い、封印を直すことだ。そして直す手段は我しか知らぬ。
さあ、どうする?』
どうするもなにもない。ブッ殺す。
『なっ……正気か、貴様!?』
なんで?
『だ、だから、我がいないと貴様らの街は』
あー。そういうの私、どうでもいいから。
つーかな。私とマイトは、おまえを意地でもブッ殺すために上がってきたんだよ。街とか人類とか永遠の命とか、そういうのは二の次だ。
わかったら観念して、念仏でも唱えるんだな。南無南無。
『くそ、舐めるな! 人を超え、神となった我が真の力を見るがいい!』
声と共に、奴の身体が変形する。――嫌な予感。だが勝てないほどじゃない。
マイト、射撃開始だ! この戦闘で終わらせるぞ!
「了解!」
そして、戦いが始まった。
戦いは、短期決戦で終わった。
相手の攻撃は熾烈を極めたが、アグネアの威力を得たマイトの猛射の前にはなすすべもなかったのだ。
かくして相手はあっという間にスクラップと化し、最後には声を出す機関すら潰されて、浮島の縁から樹海の下へと落ちていった。
……街に落ちてなきゃいいけど。あと剣も一緒に落ちちゃったけど、大丈夫かな。
あと諸王の聖杯は、帰ってきたらロックエッジが持ち去った後でした。
そういうわけで、街に帰ったら救国の英雄ということでロックエッジが胴上げ中。私としてはその中で例の話を切り出すわけにも行かず、結局黙ったまま。すげー気まずい。
……ま、でも。
とりあえず、今日は目的を果たせたし。ざまーみろと言って、みんなで乾杯しよう。