イルミネ世界樹日記   作:すたりむ

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第六階層(1):自業自得の死の行軍

・虹竜の月、28日

 さあ今日もはりきって樹海ダヨ! と宿を出たところで、

「はいはいはいタンマタンマ」

 とアシタに押し戻された。

 なんだよーいい気分のところに水を差すなよ。と言ったら、

「それどころじゃないの。大公宮から直々に指名してのミッション発動よ。

 内容は現在樹海の入り口にいる石の化け物を倒して、その後ろにある剣を回収すること。もちろん心当たりあるわよね?」

 なななななんのことでしょうアシタさん。

「とぼけても無駄。ていうか、あたしにとぼけるのはなおさら無駄。大公宮はとっくにあなたたちの事情を知ってるわよ。そりゃもうこれでもかってくらいなにもかも」

 な、なぜにー!?

「ヒント:カチドキ」

 ……マスゴミめ。

「まあそういうわけで、後始末くらい自分でしなさい。アレのせいで朝から樹海に入れない冒険者続出で困ってるのよ。

 どーせあんな石像ごときに負けるキミたちでもないと思うけど。一応、エトリアにも似たような怪物がいたと思うから、情報収集くらいはしておいて損はないわよ」

 言うだけ言ってアシタはいなくなった。

 

 言われた通り情報収集ということで、酒場にいったらカチドキがいた。

「おーす、元気ぃー……ってイタタタタ、なにすんだよー!」

 うるせー。こちとらおまえの風評被害のせいで朝から仕事なんだ。ちっとは殴らせろ。

「ほほう。仕事とな。それはひょっとして噂の石像退治って奴ですか。

 さすがはパレッタだねえ。そんな重役を大公宮から任されるなんて。それでこそ、英雄になったロックエッジの影で実は君たちの活躍があったと喧伝した甲斐があったというものだ――って痛い痛い痛い、すね蹴るのはやめれー」

 うるせーおまえのせいだ畜生。余計な仕事増やしやがって。

 だいたいなんでおまえそんなこと知ってたんだと聞いたら、

「え、だってついていってたよ? ジャガーノート戦後ずっと。イナー姉さんに助けてもらって、後ろから」

 ……ストーカーか貴様。

「チッチッチッ、甘く見ちゃ困るね。ストークなんてジャーナリストの基本スキルのひとつに過ぎないぜ」

 その割には他人の力借りてるけどな。

「人脈はパワーだZE!」

 あーそう。もうなにも言わん。

「で、酒場に繰り出してきたところを見ると、目的はあの石像の情報収集かね。

 おっしゃおっしゃ。このカチドキさんがなんでも教えてあげよう。言ってみなさい」

 得意げに言うカチドキ。

 頭に来たので言ってやった。よしそれじゃそいつとの楽勝戦闘法を教えろ。もう小指でぽいって感じのやつ。

 そしたらカチドキの奴、にんまり笑ってこう言ったのだ。

「もちろん、そいつは準備済みだぜ旦那。――」

 

 

『いいかい、アイツは二列の冒険者がいると後列を優先して狙いたがるクセがあるんだ。それと、危なくなると再生巫術に頼るクセも。

 だから後衛に盾配置して打ち消し巫術連打してれば楽勝。さらには特殊弾丸使えばダメージも超通って超楽勝さ』

 以上、カチドキの必勝指南。

 まあ盾役はいちばん丈夫なシロで確定として。特殊弾丸の装填中に相手の攻撃が当たらないように、念のために私も防御術の準備はしておいた。とりあえずこれで行ってみることに。

 相手は、聞いていたとおり樹海の入り口にいた。普段衛士が張っているあたりだ。……あー、ありゃ確かに迷惑だわ。よし行くぞみんな、あいつに目にもの見せてやれと号令をかけようとしたら、その前に相手がこっちを見つけて咆吼を上げた。奇襲作戦失敗。南無。

 で、作戦通り行動。おお、情報通りに敵はちゃんとシロを狙うじゃん。これなら時間はかかっても楽勝――とか思って特殊弾丸バカスカ撃ってたらいきなり相手が切れて腕ブン回し始め、全員なぎ倒されて地面に転がった。超痛い。

 とりあえず完全にノビたマイトは私が背負って逃げの一手。こりゃダメだ。いったん撤退――ってついてくるなああああ! やばいこのままじゃ街まで追い込まれて被害が出る!

 ちくしょうもうヤケだ。シロ、この状況じゃ前衛も後衛も関係ない。どうせなぎ倒されるなら前衛に立って、せめて食い止めてくれ!

 ――そこから先は、思い出したくもない死闘だった。

 マイトはネクタル使ってたたき起こしたはいいものの、特殊弾丸を込める動作がどうしても隙になる。なんとか必死で時間稼いで撃ったと思ったら相手が謎バリアで防ぐこと数回。謎の再生巫術と同様に打ち消し巫術でなんとか消せるものの、たいへんうっとうしい。挙げ句、いったん完全にバラバラになったと思ったら中途半端に組み合わさってまた襲って来やがった。もう泣きそう。

 ぎりっぎり、最後の一撃が間に合ったおかげで倒せた感じだけど、もうシロも私もマイトもボロボロだった。とりあえず二度と戦いたくない。

 あとマスゴミは終わった後にボコっといた。なにが超楽勝だあの野郎。

 

 

・白蛇の月、1日

 回収した例の剣については、とりあえず大公宮預かりとなった。

 それ以外のおとがめはなし。私たちが無茶やったせいで起こったことについて、当局は驚くほど寛容だった。あっけにとられていると、例の甲冑女がやってきて肩をぽん、と叩いて、

「まあ、当然おまえたちは自分でやったことの尻ぬぐい程度はできるよな? 一人前の冒険者なんだし。

 故におとがめなしだ。なに、どうせなにも起こらないさ。おまえたちが防ぐからな」

 という、たいへんありがたい言葉を頂きました。……あー。そういうことね。

 ていうことで、暗黙のうちに私たちには、例のオーバーなんとか(もう名前忘れた)が言ってた禁地の魔物がうんたらかんたらというのを調査しなければならない義務が発生してしまった。ま、探索のついでなんだから悪いことじゃないけどさ。

 そんなわけで明日から二十六階……かな? の探索を開始することに。さて、なにが出るやら。

 

 

・白蛇の月、2日

 貝とエリマキuzeeeeeeeeeeeeeeee!

 マジあいつらウザい。半端な攻撃力だとエリマキが回復するのに、貝が防御を固めるからタチが悪い。おまけになんかこっちの攻撃力を下げる呪いまで使ってきやがった。

 あまりにうざいので鬼力化連打してごり押ししてたら体力が尽きて撤退。おのれー。

 

 

・白蛇の月、3日

 なんか牛マッチョマンみたいなのにボコられまくって涙目。勝ったけど。超痛かった。

 そして貝とエリマキはあいかわらずウザい。どうしたもんか。

 

 

・白蛇の月、4日

 昨日、マハから手に入れた情報。

「え……二十六階? あれ朝と夜で浮島の高度変わるから行ける場所違うよ? 試してみた?」

 それを早く言ってくださいorz マジで行く場所がもうなくて途方に暮れていたんだから。

 そして夜に出発。追ってくる牛マッチョマンはウザいので無視し、キノコを適当にボコりながら探索中。

 だいぶ構造がわかってきた。明日あたり二十七階の大きい浮島に行けるかな。

 

 

・白蛇の月、5日

 二十七階到達ー……と思ったら二十八階へ。早。

 いやなんか27階の大浮島はスルーして気づいたらこんな高くまで来ちゃったよ。いいのかなあ。

 まあ、とりあえず磁軸の柱も確保したことだし。明日から探索しまくりだな。

 

 

・白蛇の月、6日

 こんがり焼けました。

 マジ炎吐くの勘弁。すげえ痛い。熱い。助けて。

 肝心の樹海の方は、なんか超入り組んでるね。あとなんかところどころ十三階の蟹と似たような気配を感じるような……気のせい、か?

 

 

・白蛇の月、7日

 今日も樹海でうっとおしい魔物を倒して、ふと後ろを見たらかぼちゃの化け物がこっちに迫ってくるところだった。

 ――死ぬかと思いましたマジで。いままでのカボチャとは格が違う。特殊弾丸の効きだけは前と変わらずよかったせいで倒せたが、ちょっと向こう岸が見えた。

 ありゃダメだ。あんなのが徘徊しているなら対策しなきゃ話にならん。どうするべ。

 

 

・白蛇の月、8日

 とりあえず先人達にご指導を頼もうと思ってグレイロッジ道場に行ったら誰もいないでやんの。

 不審に思って情報収集したところ、ここんところ例の剣関係で忙しく動いているそうな。へー、そうなんだ。じゃあロックエッジにでも話を――と思ったら、これまた運悪く、二十五階で起こったトラブルとやらに駆り出されて不在。南無。

 んで、仕方ないから酒場にでも繰り出すかと行ってみたらカチドキとイナーさんがいた。

「こっそり動けば魔物には見つからないし、大丈夫だと思うけど……」

 というイナーさんだが、いやそりゃアナタならそうでしょうけど、としか言いようがない。この人は本当に玄人だからなー。その節はお世話になりまくりました。

「なら逃げりゃいいじゃん。簡単簡単」

 と、カチドキがいつもの調子で言う。おまえね、そう簡単に言われても逃げられるときと逃げられないときがあるんだよ、と言うと、

「そんなの練習だよ練習。全員でスタートダッシュの練習するだけでも効果あるよ?」

 と言う。

 むう。ダメ元でやってみるか。マイトは嫌そうな顔をしているがおまえもたまには足腰使え。

 

 そして練習に時間を費やしていたら今日が終わった。なんてこったい。

 

 

・白蛇の月、9日

 練習、効果ありました。

 やっぱ三十六計云々と昔の人が言うだけのことはあるね。危ないと思った時に即ダッシュ。俳句かよ。こいつぁ風流だぜHAHAHA。

 と調子に乗りつつ二十七階へ行き、あまりに道が悪いのでふらふらになって帰還。

 なにあの地獄の行軍。ひょっとして二十七階の大浮島、ぜんぶあんな感じなのか……!?

 

 

・白蛇の月、10日

 予想大的中。すごい勢いで浮島は地獄だぜヒャッハー。

 うろついている恐竜は楽勝なんだけどなー。地形が。地形が。

 

 

・白蛇の月、11日

 なぜだかロックエッジから、二十八階の地形について相談を受けた。

 なんでも、二十五階のトラブルの元を漁っていたら、二十八階の隅のほうになにかすごいものがある可能性が高いことがわかったんだって。

 とはいえ、残念ながらうちのギルドはまだそこまで探索を進めていなかったので、あんまり役には立てなかった。残念。

 今日の探索では二十八階の南端付近でかぼちゃハウスに遭遇しあえなく撤退。なんだあの場所。すげえ怖かった。

 

 

・白蛇の月、12日

 一進一退という感じながら、とりあえず二十七階、二十八階の地図は埋まりつつある。

 今日は南東側の浮島を拠点にいろいろ探ってみた。次は二十八階を北に進もう。

 

 

・白蛇の月、13日

 ――その場所に着いた瞬間、ぞくっ、と来た。

 二十八階の東端。どうということのない階段脇の隅に、言いようのない怨念が溜まっていた。

 怨念?

 否。これは怨霊。

 それも違う。これは怨霊の群れだ。恐るべき怨みや祟りの類が、凝り固まって集団で形になっている。

 とりあえず一切触らないことにして、不審がるマイトを黙らせて探索続行。あんなものに簡単に触れるもんじゃない。

 

 ……しかし、なんだ。

 怨霊の群れに混じって、美しい記憶のようなものが刹那、見えた、ような気が、した。




【どうでもいいおまけ】
 ペット一人旅というのをやったことがあるんですが。
 引退無しでジャガーノートを倒すのは無理でした。到達までは行けます。
 その後、99レベルまで育ててもゴーレムが一人で倒せないので、そこで挫折しました。あれは、無理。
 残念でしたね。

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