言われた。おまえは狂っていると。
狂っているから、勝手に動き出してあれらを壊したのだと、そう言われた。
弁解のしようも、そもそもその機会もない。一方的な宣告。
それに、アイツが抗った。
馬鹿だと思った。
どういうことかは知らないが、ともかく大きな流れ的には自分を処分して終わりにしたい奴が大勢であることが明白だ。
逆らってしまえば、アイツの立場が悪くなるだけ。
ならば、狂ってしまおうと思った。
自分がどうせ同じ運命なら、狂ってしまえばアイツを守れる。
……アイツも、それで納得すれば、悲しまずに済む。
だから狂った。
意外にも、本気で狂った自分は、すごく厄介な物であるらしかった。
仕方ないから、適当なタイミングでわざと罠にかかってやったが、それでも解体するには足りない。
そうして出された結論が、封印。
遥か果ての浮島に閉じ込められ、老いることもないまま、ただ狂ったように生きる。
……そうして数千年の時が過ぎて。
残ったのは、ただの狂った一匹の魔物だった。
・白蛇の月、21日
二十九階は初探索。実はもうロックエッジが入り込んだ後だったので、久々の後陣だ。
で、開始早々、サボテンにぼこんぼこんにされた。トゲ痛いトゲ痛い。たすけてー。
・白蛇の月、22日
蛾の大王みたいなのに出くわすも、なんとか大過なく撃退。
やっぱ敵はサボテンだな。どうしたもんかなー。
それとなんか、二十九階すげー複雑。どうやって動けばいいのかわけわからん。
・白蛇の月、23日
とりあえず精密射撃+シロの一撃でサボテンは早々解体することで対処できることを発見。
それによって劇的に探索効率が高まった……のは……いいんだけど。
やっぱわけわからん。どう進めばどこに着くんだ?
挙げ句に牛マッチョとかカボチャに襲われるし。助けてー。
・白蛇の月、24日
進んでいたら氷を使う竜に襲われ、なんとか撃退。
えらく強かったが、こっちもここまで来たら準備は整っている。マイトの魔弾は伊達じゃない。
こいつも強くなったなあ。最初なんて鼠一匹倒せずにひいひい言ってたのに。
・白蛇の月、25日
どうやら当たりを引き当てたっぽい。奥へ続く通路をいくつか抜け、ようやく三十階への階段到達。
磁軸の柱も起動した。もうこれより上の浮島は見当たらない。いよいよ、なにかが待っている……予感。
・白蛇の月、26日
磁軸の柱起動させたら、ちょうど登ってきたグレイロッジとはち合わせ。もう追いつかれたのか……まあ、そんなもんだろうけどさ。
んで、情報交換。どうやら下では、相変わらずこの浮島の森から樹海への浸食が続いているらしい。明らかに自然な動きではないので、経路と事情を調べるために彼らも動いているのだと。
うーん……迷惑かけちゃってるなあ。明らかに我々のせいっぽいのでわりと後ろめたい。
そして三十階は初探索。わりと楽勝げだが油断は禁物、かな。
・白蛇の月、27日
うん。油断は禁物だった。
マジすごい数の恐竜の群れに追いかけられた。心臓ばくばく。もうちょっと次の浮島に飛び移るのが遅かったら終わりだった。こえー。樹海こえー。
そんなわけで帰ってきたら、グレイロッジとロックエッジが両方とも大損害という話。え、嘘でしょ? と思って薬泉院に行ったら、かなりボロボロのマハとはち合わせ。
「さ、三十階のワニがね……すごくて。
うちのギルドもボロボロだったし、ロックエッジもボロボロにされたみたい。しばらく動けないかな……これだと」
とか言われた。……うええ。マジすか。そんな超生物がいたとは知らなかった。ていうか、竜をあっさり退けるこの2ギルドをここまで追い詰めるとは、そのワニは本当に生き物ですか。
んで、カチドキとか総動員して情報を探ってみる。ほうほう、切り裂く攻撃が問題なので斬撃のお守りをいっぱい持って行けばよいと。
……でもなあ。あのお守り、3つ以上持ってると服にかけた強化呪詛と食い合って防御力低下するんだよなあ。ワニ以外を相手にするときに困るし、どうするかなー。
・白蛇の月、28日
対策。シロ前衛で、お守り2つ持たせて死守させる。私とマイトが後衛で、お守り3つ。シロには攻撃をぜんぶカットしてもらって、後はシロが落ちる前にマイトに敵を落としてもらう。
これで完璧。……だと思う。つーかこれでどうもできなかったら本当になにもしようがない。
そして対策したらしたで出ないというorz
・風馬の月、1日
出た出た! ワニ出たよ!
嬉々として言っておいてなんだが、マジで鬼気迫る危機でした。やばいやばい。これだけ対策しておいて、なお耐斬ミストなしでは耐え難かった。ワニ、マジ恐るべし。
まあ、対策してしまえば、雷の特殊弾丸でイチコロでしたけどね。
そういうわけで無事ワニ撃退。でもこんなのが下の階層に出たらどうなるだろう。マジで。
・風馬の月、2日
三十階、おそらく最深層に到達。
……したんだが、そこから先には進めなかった。
だってすごい数の魔物がひしめいているんだもん。ありゃどうしようもねえ。
そんなわけでいったん撤退。
帰ってマイトと作戦会議。
「作戦……ったってなあ。あれ、作戦でどうにかなるのか?
はっきり言って、あの量はどうしようもないぞ。グレイロッジとロックエッジが健在ならまだ助けてもらえただろうが、それもないわけだし」
そういうマイトに対して、私はこう言った。なら、今は進まなくてもいいんじゃないか。
「……というと?」
私たちの目的はアレだろ。樹海を浸食する謎の動物群の動きを止めることだろ。
なら、まずは奥に進むのはいったん停止だ。情報を収集し、次の動きに備える。
「情報収集って……誰からだよ。いま最先端を進んでるのは俺たちなんだから、俺たちより樹海に詳しい奴なんていないだろ?」
いるだろ。樹海の中に。
「…………?
おい、まさか――」
二十八階のあいつ。あいつなら、私たちよりは詳しく知っているんじゃないのか。
「あのな。あの狂獣が、そう簡単に話してくれるようなタマに見えるのか。あんたには」
簡単にとは言わないさ。
でも、確信がある。あいつはたぶん――私たちに、応えてくれる。
行ってみようぜ、マイト。いまはそれしか手がかりがないんだしさ。
「……わかったよ。
死体と話せるあんたが頼りだ。そっちは任せるぞ」
おーけーだ。任せとけ。
方針は決まった。
二十八階。狂える魔獣ヘカトンケイル。その残骸に対して、私たちは質問をする。
まだわからないけど。たぶんこいつは、やり方次第では答えてくれると思うのだ。
・風馬の月、3日
ヘカトンケイルは、前と同じようにそこにいた。
……いや、そりゃそうか。死んでるしな。でもどういうわけか、腐敗が始まっていない。
未知の現象か……あるいは。強すぎる執念が、なにか物理的な作用をさせているのかもしれない。
『喰われに来たか、人間。
去れと言ったはずだが……まあ、二度と来るなとは言ってなかったな』
なぜか愉快そうに言う狂獣に、私は言った。教えて欲しいことがある、と。
『断る』
……なんで話も聞かないんだよ。と聞いたら、
『そちらこそなにを馬鹿な。
ここにいるのは人を喰う怪物ぞ。なにを聞く気か知らぬが、話になると思うものかよ』
と言う。
私は、なに言ってるんだおまえ、と言った。いま、現に話してるじゃん。
『…………』
というかな。おまえべつに狂ってないだろ。
実際のところ、魔獣が人間を喰らうのなんて当たり前の行動だし、人間を喰うことをことさらに特別視してること自体がおかしい。
本来のおまえは、少なくとも話ができる程度に知能を持った――
『去れ。二度は言わん』
やなこった。
本来の問いの前に問おう。なぜ、変な意地を張ってるんだ? おまえ。
『それをおまえが言うか。人間。
この浮島からでも見えたぞ。貴様があの上帝を上空からたたき落とすところを。あのとき、おまえは意地で行動していたではないか』
…………、そ、それはそうだけどさ。
『おまえも意地。我も意地だ。
……二度は言わんと言ったはずだな』
言葉とともに、剛風が
瞬間、その光景を見た。
累々たる屍の中を進む、一頭の獣。
思い人は既に亡く、自らの意地だけを糧に、永劫とも思える時を生きてきた。
我は狂獣。人を喰らう怪物也。
それが彼の者の誇りであり、意地であり、生きる理由であり、背負うものである。
そんなことを、感じた。
んで次に気づいたら薬泉院でした。
怪我はそれほど深刻じゃなかったが、念のために2日入院とのこと。たぶん、これでも手加減されたほうなんだろうな、と思いつつ、私はまた別のことを考えていた。
あいつも意地。私も意地だ。
お互いに、意地の収拾をつけるために、ここにいる。
……だとしたら。
私に、あいつに問いを与える資格が、あるんだろうか?