・風馬の月、6日
決戦に向けて、準備の日。
いろんな連中に会って、協力をお願いした。がんそロックエッの面々、カチドキとイナーさん、アーテリンデとライシュッツ、甲冑女、等々。
みんな、頭を下げなくても、笑って協力を約束してくれた。
――決戦は明日。
三十階。頂点の浮島に、向かうだけだ。
・風馬の月、7日
その日も、魔物たちはひしめいていた。
「おー、いるいる。いっぱいいるねえ」
アシタが楽しそうに言う。なんでそんな楽しそうなんだ。……と思ったが、いつもこいつは楽しそうだった。南無。
「あ、アレを抜けるのを手伝えと……しんどいなあ。助けてあげるなんて言わなきゃよかった」
と、こっちはげっそり顔のアーテリンデ。ライシュッツはいつも通りの涼しい顔だ。さすが。
「こっちの準備はできてるぜー。いつでも来い!」
自信満々のカチドキと、その裏に隠れてがたがた震えてるイナーさん。……戦いはダメっての、本当だったんだなぁ。
「ふん。まあ、腕の振るい時だな」
と、やっぱり不敵そうに甲冑女。こいつは本当に強そうだ。いや強いんだけど。
「ふふ……面白そうだね……」
というカチノヘ。こいつもいつも通り――
…………
おい。
「…………。
……なに?」
なんでおまえがここにいるんだ?
「…………。
……なんで……?」
私に聞くな。私が聞いてるんだ。
まあいい。いるんならおまえも手伝え。
「……ふふふ……もちろん……そのつもり……だよ?」
うぜえ。
ま、役に立てばそれでいいか。
そういうわけで、全員準備はいいようだ。
マイトを見る。いつも通り、静かに銃を持って敵を見ている。
シロを見る。少し退屈そうだ。……ギャルがいないからか。エロ犬め。
さあ、それじゃあ始めようか。
最後の――盛大な、戦いの始まりだ。
「おりゃああああああ!」
最初に突っ込んだのはアシタ。
直後、カチノヘが手をかざして、前陣の魔物たちが態勢を崩す。そこに棍棒一閃、なぎ倒されるというよりは爆発する勢いで、魔物たちの一角が吹っ飛んだ。
「ええい、化け物め……! これでは私が目立てないではないか!」
言いながら突っ込んだのが甲冑女。常人離れした剣技で暴れ回る。その後を、がんそロックエッの前衛陣――ワグナとネイホウが続く。パベールとイナーさんが弓で援護を始め、カチドキが勇壮な歌曲を奏で出す。
そしてそれらを尻目に、私たちが突進した。
目標は始原の幼子、本体。残りの連中にはその相手以外の露払いを頼んである。
だが、さすがに分厚い魔物の陣。すぐに恐竜と氷竜に囲まれてしまう。
そこに、呪縛と銃弾が炸裂した。
「行け、パレッタ! ここは我らが受け持った!」
「暴れるわよ、ライシュッツ! 他の連中に迫力負けしないように!」
エスバットが不敵に笑う。
サンクスと言い添えてさらに突撃。最後に残った魔物どもは駆け抜けて避けて、とうとう赤黒い扉の前に到達した。
この奥に目的の魔物、始原の幼子がいる。
マイトはいつものように、自然に銃を構えた。
シロはいつものように、頬のあたりを前足で掻いていた。
さあ、行こう。
扉を開けた瞬間、始原の幼子が吠えた。
立ち上がってのいきなりの洗礼はシロがカット。私は鬼力化をマイトにかけ、マイトはまずあいさつ代わりに一発。
そして、それが着弾した直後から、怒濤の魔弾が幼子を襲った。
事前情報によれば、幼子が本気で襲ってくるのにかかる時間は、ゆっくり数えて13カウント。それまでに勝負を決めなければ、相手の本気の一撃を受けることになる。
だから、まずはどうにかして、それまでにダメージを与えつつ相手の攻撃を耐えしのぐ……!
とかやってたら魔弾を抜けた相手の腕の一撃にぶっ飛ばされてすげえ痛かった。南無。
弾幕薄いよ! と叫ぶとマイトが、うるせーこっちにも都合があるんだよ! と叫び返す。そんなことやりながらもしっかり銃撃は続く。
と、相手が小休止に入った。ラッキー。ここぞとばかりに疲弊した鬼力化の張り替えとかやってたらすごい爆撃が来てうわわわわ。危なっ、と思ったが3人と少人数だったのが幸いして、爆撃の隙間に転がり込めた。こえー。幼子こえー。
んで、もうこうなりゃ遠慮なしだ! とばかりにマイトに銃撃を指示。もはや弾雨と化した魔弾が相手を貫き、幼子が苦悶の悲鳴を上げる。しかし、まだ相手の体力には余裕がありそうだ。
カウントが12に入り、相手が小休止。――やばい本気攻撃の前兆に入った。マイトは攻撃を続けすぎて息切れしてる。こうなったら、こっちががんばるしかない……!
シロに合図。世界樹を取り巻く雑霊の力をすべてかき集めて巨大化。うなりを上げたシロは怒濤の勢いで突進し、それに対して幼子はゆるりと腕を上げ、
――そして一撃でシロを吹っ飛ばした。南無。
なんだあのばかげた威力。シロは完全に目を回して気絶してる。相手の攻撃が続けてやってくる。まずい……! と思った瞬間。
『なんだ。案外苦戦しているな。
我を屠った貴様らだ。もう少し気張ってもらわないとこちらの立つ瀬がないのだがな』
――ヘカトンケイルが、幼子の腕を止めていた。
『どれ、加勢してやろう。
イルミネ、貴様の力で援護を頼むぞ。さしもの我とて、一対一で幼子相手では分が悪い』
千手の巨人は、そう言って歯をむき出して笑った。
――炸裂のような、攻防が始まった。
幼子の振り回す腕に対して、ヘカトンケイルは腕の数で対抗する。すさまじい爆音が連続して響き、気を抜くと私たちまで吹き飛ばされそうになった。
だが、ここで気持ちで負ける気はない。
ヘカトンケイルに鬼力化、皮硬化をかけ、叫ぶ。いまだ、やっちゃえやっちゃえ!
『おおおおおおおおお!』
地面を揺らし相手を叩き、ヘカトンケイルが進む。
幼子はやや圧されているようにも見えたが、少し息を吸って、小休止をした。
――やばい。全力が来るぞ!
『うおおおおおああああああ!』
幼子の全力の一撃に、ヘカトンケイルは全腕を合わせた一撃で応え――
この世のものとは思えない、重い音がして。
そしてヘカトンケイルは、力尽きたように崩れ落ちた。
『――ここまでだ。
これから先は貴様らでやれ。我は疲れた』
巨人はそう言って、溶けるように掻き消えていった。
ヘカトンケイル――助かったぜ。
ありがとう。
とか思っていたらいきなり幼子の腕がなぎ払って超吹っ飛ばされた。南無。
おいマイトぼーっとするんじゃねえ! 撃て撃ていまだやっちゃえ!
「ええい、わかったよ! くそ、ようやく体力が回復してきたってのに……!」
文句を言いながらマイトはアグネヤストラを構えて射撃。魔弾が再び幼子の身体を拘束する。
もうこの後はない。ここで倒せなければ私たちがやられるだけだ。一気に勝負をかける!
銃弾をかいくぐってきた相手の腕を身体で押しとどめ、マイトに鬼力化で支援。やれマイト、体力の続く限り打ちかませ――!
「応!」
銃撃の雨が降り、幼子が後退する。
「ぐ、ぐ、ぐ……!」
マイトが、銃を持つ腕を振り絞り、真っ青な顔でそれでも銃を撃つ。
一発。二発。三発。休んで、鬼力化を張り直し、さらに一発、二発……!
三発目、マイトが限界とばかりに崩れ落ちる。
それと、同時に。
――始原の幼子は、美しいその身体を世界樹の背に預けるようにして、息絶えていた。