・皇帝の月、27日
驚いたことに大公宮から報奨金が出た。
……ミミズの涙くらいネ。
なんとなく「討ち漏らしてた不祥事については突っ込まないでね」的な意図を感じなくもないが、まあいいや。金もらって不機嫌になる理由はない。マイトのやつも専用弾丸をたくさん買えて満足そうだし、私も防具を新調しようかな。
ともあれ、まだ体調的に完治していない、というか昨日の夜から背中がものすごく痛いので樹海はお休み。明らかに打ち身なんだけど、どーしようこれ。あんまり長く治らないと金が尽きるしなあ。
・皇帝の月、28日
ロックエッジ(がんそじゃない方)のメディック、エレさんがなぜか見舞いに訪れてきた。
なんでもアシタから「なんか後遺症あったら治してやっといて」と言われたらしい。……自分でやれよ。メディックだろあいつ。と言ったら、エレさん曰く
「いえ、あのひと治療スキルぜんぜん持ってないんですよ」
――それは本当にメディックなのか。と問いたい。問い詰めたい。小一時(ry
で、薬草から作ったというテープをぺたぺたと。うわあこれものすごい効きそう。案の定夜にはほとんど痛みがなくなっていて超感謝。……ホントにいいのかな、タダでこんなんやってもらって。
・笛鼠の月、1日
体調も完治したことで樹海探索再開。
で、あっさり三階まで進んだ。うわなんだこれ。前と違って私に打撃耐性がついた&マイトの射撃精度が驚くほど上がったせいで、ほとんど敵がいなくなったのが大きい。
で、磁軸の柱と呼ばれる探索上の拠点に到達した。これは、よくわからない古代技術によって、登録した冒険者を樹海入り口からその地点まで引っ張り上げてくれる機能を持っている。……降りるのは自分でやらないといけないんだけど。前みたいにリスにアリアドネの糸を取られたら死、あるのみだ。怖い。
・笛鼠の月、2日
特殊弾丸ぶっ放しまくり、調子に乗りまくりで突き進む。途中出てくるカマキリのバケモノは華麗にスルー。
で、なんかでかいテントウムシが大量に出てきたが、攻撃はしょぼいしたいしたことないだろーとか思って余裕かましてたらすっっっっごいでかい花のお化けを呼ばれて本気で死ぬかと思った。特殊弾丸もまるで効きやしないし。鬼力化の巫術を覚えておいてよかったー。このおかげで、辛うじてマイトが相手を倒せた感じ。私は花に喰われる瀬戸際まで行ったけど。
で、倒したはいいがこっちはボロボロなので帰ろうと思ったのだが、気づいたら奥に進みすぎていて帰り道がわからない。ていうかそれ以前に、アリアドネの糸買い忘れてるー! どうしようかと真っ青になっていたら、通りすがりのギルドに拾われてかろうじて九死に一生を得た。
ベオウルフ、という名のそのギルドは、パラディンのフロースガルと獣のクロガネからなる特異なギルドだ。少人数ギルドの運営者として、こういう先達の存在はものすごく勇気づけられるのだが、それを伝える気にはなれなかった。……わかっちゃったんだよなあ。このギルド、昔はもっと仲間の獣の数は多かったんだ。なんらかの事情で――いや、言葉を選んでも仕方ない。要するに、何匹か死んでこうなった。さすがに、その状況でさっきの気持ちを伝えたら相手を傷つけかねない。
で、帰還。今回は運に助けられたが、次回はないな。以後は気を付けよう。
・笛鼠の月、3日
昨日と同じように三階を突き進むうちに近道発見。危険な場所をかなりショートカットして奥に進めるようになった。
で、森を探索しているうちにちょっと変わった広間発見。どうやら周囲とだいぶ異なる種類の木が生えているみたいだった。ちょっと気になったのでメモっておいて、帰ってきて交易所で売り子さんにその話をしたら大感謝された。なんでも、その種類の木材には特殊な需要があるらしい。
で、職人連中からプレゼントってことで新素材のベストをもらった。うわあすっごく着心地がいい。衝撃緩和力もばっちりだとか。これは嬉しい。
・笛鼠の月、4日
森の中の開けた広間に出たところで、乱入してきた大量の鹿たちに襲われた。
マジで死ぬかと思ったけど、たまたまその場にベオウルフがいて助かった。クロガネが遠吠えを駆使して相手を誘導し、引き離して隠れつつ孤立した鹿を一匹ずつ狙撃。見つかったら私とフロースガルが死ぬ気で時間を稼いで逃げる。そんな感じで辛うじて命をつなぎ、気がついたら鹿たちのほうがどこかに消えていた。助かった……ていうか、案外私たちとベオウルフは相性いいな。組まないか、とは、キャリア的にちょっと言いにくいけど。
で、状況だけでも確認してから帰ろうと思って広間の奥を覗いてみて、本気でびっくりした。死体の山。うちいくばくかは格好からして衛士、そして残りの大半は鹿。どう見てもさっき暴れてた鹿の大群の残骸にしか見えないそれを前にして、どうやら生き残ったらしい二人の冒険者たちが、のんきにこっちへ向けて手を振っていた。
グレイロッジ、というギルドに所属しているらしいその二人は、見かけとは裏腹にめちゃくちゃな凄腕だった。せっかくだからと同道した帰り道、いきなり出てきたこの前のでっかい花にバードのムズピギーがひょい、と矢を撃ち、ひるんだところに飛び込んだパラディンのマハが盾でごつん、とぶん殴って終了。先生、早すぎてなにもできません!
そんなこんなで帰ってきて本日の探索終わり。なんか凄いもの見ちゃったなぁ……私たちも、ああいう風になれる日が来るんだろうか。無理っぽいけど。
・笛鼠の月、5日
昨日の怪物の群れは、どうやら上にでっかい魔物が降りてきたせいでトコロテン式にでかい魔物が下に降りてきた結果ああなった、ということらしい。なるほどそりゃ大変だ。
大公宮からはさっそく、腕に自信のない冒険者は樹海に入るのを控えろという通達が出た。……そりゃ無茶だろう。こっちのおまんまに関わる。そんなわけで無視していつものように樹海に行こうとした私たちを、フロースガルが引き留めた。そりゃもう、無茶苦茶すごい勢いで。
彼曰く、いま五階に湧いている魔物のせいでそれ以下の階はひどいことになっているのだそうな。少人数で出かけてなんとかなる状態じゃないからやめとけ、と。――いや、あなたがそれを言いますか。と言いたかったが、黙っておいた。なんとなく、言わない方がよさそうな気がしたのだ。
とはいえ貯えもそんなにあるわけでなし、どーしたもんだか。特殊弾丸撃ちまくりすぎて金も尽き気味だったし、と他人事のように言ったらマイトからにらまれた。ふんだ、私は事実を言っただけだもんね。弾丸撃ったのは私の指示だろって? うるさい。
・笛鼠の月、6日
困ったときの酒場頼み、ということで行ってみた。
親父にさっそくいい仕事紹介してくれよ、と言ったら、ものすごい勢いで飛びつかれた。なんでも、いまは樹海の異常事態に対処するべく有力な冒険者がほぼ出払っているので、人手がいくらあっても足りないとか。
で、ざっと見た限り、樹海に行かなくて済む仕事で割のよさそうなのは……と見ていたら、パラディン急募! とかいうのを見つけた。なんでも、南の街道沿いに魔物が出没して困っているので、討伐隊を組むのだとか。しかしうちのパーティにはパラディンは――うん。マイト、やれ。
というわけで大雑把に盾の使い方だけ教えて送り出した結果、見事ボロボロで帰ってきた。なにそれ、そんなに苦戦したのか、と聞いたら首を振って、
「ロッドテイルとかいう滅茶苦茶なおっさんがいて、そいつにたたきのめされた」
なんだそりゃ。と聞くと、どうやらそのおっさん、荒れ狂う魔物の群れの中にマイトを文字通り放り込んだらしい。この程度の魔物にやられる奴にはパラディンは務まらん! とか言って。……よく生きて帰ってきたなあマイト。ていうかおまえ剣持ってなかっただろう、素手でどうしたんだそれ。と言ったら、どうも盾で銃隠しつつ接近戦で撃ち殺しまくったらしい。どう見てもパラディンの所業ではないと思うのだが、おっさんには気に入られたようで、素養があるからうちのギルドの道場で鍛えないか、としつこく薦めてくるのをなんとか断って逃げ帰ってきたのだとか。あっはっはそりゃ災難だ! と言ったら殺されそうな目でにらまれた。怖い怖い。
ともあれ、まだちょっと資金不足が怖い。ここはもうひとつくらい仕事をやっとくべきか。
・笛鼠の月、7日
よしマイト、次はメディックだ! と言ったら全力で拒否られた。……ちぇっ。
しょうがないからもうちょっとマシなのを選ぶことにした。皮職人の依頼で、長い針が必要なので鼠を捕ってきてほしいと。そのくらいなら樹海でも一階で十分間に合うので、なんとでもなるだろう、と思って入った結果、例の巨大花に襲われた。ひー。
で、特殊弾丸もなしにあっさり倒してしまってびっくり。自分たち、実はけっこう強くなってるんじゃないか。とか言ったらマイトが、そういうこと言い出す頃が命取りなんだよね、とかぼそっとつぶやいた。……ノリが悪いなあ。ちょっとは思い上がってもいいじゃないかっ。ばか。
・笛鼠の月、8日
この分なら多少上の階に行っても大丈夫だろう、と思って三階へ。
コウモリみたいな魔物がやたら多いなーと思いつつも普通に突破し、四階へ突入。したところで、ばったりベオウルフと出会ってしまった。
で、ものすごい勢いで怒られた。ここは危険だからすぐに帰れ……って、いい加減てっぺんに来たので、私も言い返した。ならなんであなたたちはここにいるんですか。危険なのも少人数なのも同じでしょうが。そうしたら、
「自分はやらなければいけないことがある。
五階にいる魔物、アレはキマイラと言う。私の宿敵だ。以前は逃したが、今度こそは討たねばならない」
――だから、大公宮にも報告してないんですか。
ぎょっとするフロースガルにたたみかける。あなたは自分でその魔物を退治したいという、そのためだけにキマイラの居場所を隠しているんでしょうが。
「そ、それは、」
騒動が長引いても、自分で片をつけたいという欲望のほうが優先ですか。
「違う。それは義務だ」
そんなわけないでしょう! その仔たちが、そんなことを望んでいるとでも思っているんですか! だったらあなたは――
……あ、あう。
もんのすごいことにいま気づいた。これ、私が知ってることに気づかれてはいけない情報なのでは……?
マイトもフロースガルもぽかーんとしている。どうしよう。超気まずい。
「君は――そうか。『見える』のか」
ぽつん、とフロースガルが言った。
うなずいて、正直に自白する。見えるだけじゃなくて、話せるし触れます。
……そう。これが私の能力。
あり得ないものと触れ合うことのできる、呪われた異能だ。
「そうか。
……君の言うとおりだ。これはしょせん、私のエゴなのだろう。
だが、後に引くつもりはない。エゴなら、そのエゴを貫き通すまでだ」
それが原因で、その仔たちが悲しむとしても?
「すまないとは思っている」
――ダメだ。話にならない。
もうかける言葉もない。このひとは、自分が正しくないことを知っていて、それでもやり抜く決意でいる。
……それが、ひどく悲しい。
最後に。背を向けて去ろうとする彼に、私は問いかけた。死ぬ気ですか、と。
「――わからない。
ただ、生きては帰れないだろう。なぜだか、そんな予感がするんだ」
そんな答えが、帰ってきた。
熱くなりすぎたなぁ……まさか、能力までバレることになるとは。
マイトはそれから一言も話さない。私も一言も話せない。
これでも、一月くらい共にした仲だ。それなりに呼吸は合っていたし、気に入った関係でもあったんだけど、それもこれまでかね。
無言のまま帰って、ともかく宿で休むことにした。はぁ……明日からどうしよう。