イルミネ世界樹日記   作:すたりむ

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第二階層(1):みんなのふれあい講習会

・笛鼠の月、13日

 大公宮に昨日のことを報告したら、ものすごく感謝された。キマイラ撃退&巣の場所報告はやっぱりだいぶありがたかったらしい。おまけにかなりの額の報奨金ゲット。やったね!

 ……それでも赤字だけどネ。

 やっぱマイトの特殊弾丸は額が半端じゃない。ばんばん撃ちまくってたからなあ。実はちょびっとだけツケにしてもらっていた分を宿にきっちり納めると、残った額は全部弾丸の露と消えた。もったいない。最近は新素材の防具とかけっこう並んでるし、もっと買い込みたかったんだけど。あーお金欲しいなー。

 と、うだうだやってたら酒場の親父に目を付けられた。なんでも、貴族が遊びで狩りに出かけたところを討ち漏らした獣がいるんで狩ってこい、とかいう仕事で、必要経費は貴族持ち、さらに元々の報酬の額が超オイシい、という素晴らしい仕事だった。すげー。ていうか、他のギルドは立候補してきたりしないの? と聞いたら酒場の親父、胸を張って

「おうよ。なにしろ六階だからな。たいていの雑魚冒険者はそこまで到達できねえから、立候補しようがないのさ」

 ……六階かよ。いままで行ったことがない場所じゃないか。まあ、五階でもなんとかなったんだし、大丈夫かな、と思って仕事を引き受けることにする。

 で、かなりあっさりミッションコンプリート。すげー。ていうか相変わらずひっついてくる、白い獣ことシロ(ドン・ガミスなんて名前は知らん)が大活躍。逃げようとした相手を吠えて威嚇してすくませ、動きが止まったところを射撃して終了ー。こんなに役に立つ子だったとは。次から餌のグレード上げてやろうかな。

 そして六階到達。ここにある磁軸の柱は他と違って、なんと行き帰り両方ともできるスグレモノだ。おかげで次から、ここを拠点として活動できそうだ。

 

 

・笛鼠の月、14日

 六階、初の本格探索。

 鳥とかキノコとか、へんな魔獣が多い。でも強い相手はいないなぁ。とか思ってゆっくり歩いていたらかぼちゃ頭のデカブツとぶつかった。ゆっくりした結果がこれだよ!orz

 で、特殊弾丸を雨あられと浴びせて撃退。後で知ったことだが、あのかぼちゃ頭は気配がないわただの打撃がほぼ効かないわで、樹海の魔物の中でもぶっちぎりで嫌われてるらしい。楽勝過ぎて気づかなかったが、相性がよかったのかな。

 

 

・笛鼠の月、15日

 昨日に引き続き、樹海探索。

 石像みたいな魔物がたいへんウザい。空を飛べるからってこっちのガードをかいくぐってマイトをつついてくる。頭に来たので鬼力化使いまくってマイトでばんばん撃ち落としてたら体力が尽きて撤退。アレむかつくなー。なんとかならんものか。

 

 

・笛鼠の月、16日

 大量のかぼちゃ頭が巡回している広間発見。ウザっ! とか思ったが、ふと思いついた。こいつらは不人気だが私たちとはかなり相性がいい。てことは、他の冒険者が滅多に手に入れられないレア素材とか、簡単にゲットできたりするんじゃあ……?

 で実行。まずはシロに吠えてもらい、まんまとおびきよせられたところを急襲して弾撃ちまくり。結果、狙い通り珍しそうな素材が大量に入って大満足。いいことすると気分がいいなあ。

 

 

・笛鼠の月、17日

 予想外にも金にならなくて私涙目。

 や、交易所で大感謝されたんだけどね。いい素材を提供してくれてありがとう! って。でも買い叩かれた。なんでも、最近ではさらに上の階あたりからよさげな素材が大量に届くような体制ができていて、六階あたりの素材の価格が暴落しているんだとか。

 特殊弾丸撃ちまくったせいで一気に金が尽きかけ状態に。どーしよう。こらマイトおまえのせいだぞ。え、私がベンチャー気分で無計画に事業拡大したのが原因だって? うるさい黙れ。

 

 

・笛鼠の月、18日

 なりふり構わず酒場で依頼を漁ったらいいの発見! こらマイト逃げんな。

 というわけで、前に諦めたメディック募集がまた出ていたので再挑戦。治療スキルが必要らしいので私の部族秘伝の治療法を伝授ようとしたら、マイトの奴、そんなもん覚えなくていいからおまえがいけ、とか言いやがる。おまえね、私がたとえどんな正装したってメディックに見えると思うか? と言ったら、じろじろ眺めた後で

「悪かったよ……」

 とか言って観念した。……おかしいな。なぜかぶん殴りたくなったぞ、今。

 で、やっぱりボロボロになって帰還。うわ、おまえ難破船の船員の救助って仕事でどうしてそんな状況になったんだよ、と言ったら、かすれた声でぼそっと

「アシタさんに見つかった」

 ……いたのかよ。ていうか治療スキルもないのになにしに来たんだあの女、と言ったら「力仕事」と即答された。なんでも、おまえもどうせスキルないんだからこっち来い、といってむりやり力仕事班に回されたらしい。そしてこの惨状。あーそりゃ災難だったねえ、とゲラゲラ笑いながら言ったらめっちゃ殺意を込めた目でにらまれた。きゃーこわーい(棒読み)

 

 

・笛鼠の月、19日

 七階へ初進出。

 なんだかひどく狭い道やでこぼこした通路が多くて、おかげで体力が尽きるのが早い早い。早々に撤退してきた。

 帰ってから最近日課の酒場に顔を出したら、驚いたことに大公宮直々の依頼が張り出してあった。なんでも、七階と八階の正確な地図を作りたいので、できる限り多くの情報を求む、とか。なるほど、それはとてもタイムリー。ちょうどいいから、私たちもちょっと挑戦してみよう。

 

 

・笛鼠の月、20日

 グレイロッジという空気の読めないギルドが、新参ギルド相手に講習会を開くことになった。

 普通ならそういうのは無視すりゃいいんだが、困ったことに招待状が来てしまったんだな。パレッタ所属、パラディン、マイト様……パラディン?

 どうやら、前にパラディンぽい格好させて酒場の依頼こなしに出かけたときに出会ったパラディン、ロッドテイルとかいう奴の差し金らしい。んで、マイトが超絶行くのを嫌がったので、仕方なく私(と、シロ)が代理で出席だけすることになった。

 

 んで行ってみたら有無を言わさず道場に放り込まれた。タスケテ。

 仕方ないので模擬戦の相手を選ぼうとしたが、ちょっと遅れて行ったのが運の尽き。すっっげえ強そうなのしか残ってなかった。とりあえずいちばん弱そうな女の子たち三人のうち、マハは実は激強なのがわかりきっていたし、もうひとりは斧とかぶんぶん振り回してて怖かったので、最後に残ったノリが軽くてあたま悪そうなブシドーを相手に選んだ。

 ――反省。激烈に強いです、このひと。

 なにしろ、相手がなにをしているのかよくわからない。近づいて木剣振ろうとして気づいたらこっちがぶっ倒れてるんだけど、どこを打撃されたのかがよくわからない。仕方ないので二本目は距離を取るべく引いたら今度は歩いてるんだか走っているんだかよくわからない歩法でいきなり懐に飛び込まれ、もうダメもとで時間を稼ぐためにシロに突進を命じたらなんだかよくわからない体術で吹っ飛ばされて私まで下敷きになった。……きゅう。

 で、それを見ていたマハがけらけら笑いながら、

「そりゃそうなるよお。ワテナさん、うちで一番強いひとだよ?」

 ……そういうことは先に言って欲しい。

 

 その後は組を変えたりいろいろして、ぼちぼち。最初以外はそこまでボロ負けはしなかったが、勝てもしなかった。そりゃそうだ、私は基本的にディフェンス専門。マイトなしだとろくに攻撃手段がない。その割には頑張った、と思いたい。

 で、手本だとか言って、強いひと二人の模擬戦を見ることになった。赤コーナー、さっきのブシドーことワテナ。青コーナー、やっぱりさっき見かけた、斧振ってたソードマンことチ・フルルー。周りが頂上決戦だー、と沸く。なんでも、チ・フルルーはロックエッジのリーダーで、同時に同ギルド最強の戦士なのだとか。つまりこの試合、グレイロッジとロックエッジの最強同士の豪華対決なのだった。

「おー、おひさー。テキトーにがんばろーじゃん」

「はい。よろしくお願いしますね」

 ……その割には、当事者の二人にぜんぜん緊張感がないけど。

 木斧と木刀を構え合い、対峙。マハが審判の形になって、手を挙げて宣言する。では両者尋常に、勝負始めっ。

 ――動かない。

 チ・フルルーはにこにこしたまま。

 ワテナも涼しげな顔のまま。

 微動だにしない。

 ……………………

 おい。寝てるんじゃないかこれ。

 思ったそのとき、ふ、とチ・フルルーの視線が横に泳いだ。

 次の瞬間、瞬く間に近接したチ・フルルーが斧をぐおんっ、と振る。不意打ち。かと思ったらその場にワテナがいない。遠近感がおかしくなったんじゃないか、と思える不可思議な歩法で死角に回り込んだワテナが、木刀の先ですとん、と相手の膝のあたりを押さえる。と、チ・フルルーがいきなりがくんと態勢を崩して尻餅をついた。即座に追撃に移ろうとしたワテナだったが、今度はいきなり大きく後ろに飛び退く。その、いま首のあったあたりの空間に、木斧がギロチンみたいに空中から振ってきてざくっ、と地面に落ちた。――いつの間に投げたんだよ。あいたたた、よっこいしょ、とか言いながらチ・フルルーが斧を拾って立ち上がり、ワテナは平静に剣を青眼に構え、

 そしてまた、動かない。

 ……………………

「はい時間いっぱい。試合終わりです」

 寒っ。

 

 んで、後は雑談タイム。

 ロックエッジのパラディン、コルネオリとダークハンターのハラヘルス、がんそロックエッのブシドー、ネイホウとレンジャー、パベールの四人が話しているところにおじゃまして、いっぱい喋ってきた。この四人、全員かなりの経歴持ちなのだがなぜか気弱で、トップを走るギルドにいると胃痛がするという話で盛り上がっていた。あとパベールとハラヘルスはあのアシタの幼なじみだそうで、彼女の行状をひたすら謝罪されてなんか気まずかった。……いや、気に入らない相手だけど、そこまで悪いことしてるかなあ。あいつ。

 そのうちにハラヘルスが相棒(自称)のカースメイカー、カチノヘに連れ去られ(としか表現しようがない。マジで嫌がっているように見えたけど)、ネイホウは師匠と会う約束があるからと早退。代わりにマハとムズピギー、それからフリーでいろんなところを行き来しているイナーというレンジャーのひとがやってきた。イナーさん曰く、分け前が悪くないなら採掘手伝いくらいはするよ、とのこと。いや、それはありがたいけどうちのギルドには戦力のほうが足りないんです、と言ったら、そりゃダメだと即答された。なんでも、イナーさんは腕力についてはてんでダメなんだとか。格好だけならパベールよりはるかに強そうなのに、意外だ。

 後は馬鹿話。前も思っていたけどマハは落ち着いているわりに気が利いてノリもいい。ムズピギーはカケラも落ち着いていなくてものすごくノリがいい。おばちゃんの井戸端会議ばりの盛り上がり方をして、その場にいたコルネオリとパベールはあっけにとられていた。悪いことしたかな。

 

 そして解散。たいして身にはならなかったがえらく楽しかった。というか、これは講習会と題したふれあいイベントだろう……とは思った。面白かったので次やったらまた行くけど。なお、シロはチ・フルルーとエレさんにたくさんかわいがってもらってご満悦だった。エロ犬めが。




 第三のパーティメンバーが加わったので、紹介を。


3)ドン・ガミス
年齢:?
性別:?
クラス:ペット
アラインメント:?
 すでに死んだはずだったギルド『ベオウルフ』の飼い犬。通称シロ。
 なんでついてきているのか、なんで死んだはずなのに見えるようになったのか、なんでイルミネになついているのか、全部不明。
 ふさふさもふもふで普段はおとなしいのでわりと冒険者たちには人気がある。



特殊所持スキル紹介:

1)大集中(5/5)
所持者:チ・フルルー 箇所:頭
 次の攻撃の命中率が上昇する。
 重ねがけすると重複して上がっていく。

2)雅の歩法(5/5)
所持者:ワテナ・チャウネン
 回避率と命中率を上げるパッシブスキル。ワテナ級になると、まともに攻撃してもまず命中しない。

3)合気の極意(1/1)
所持者:ワテナ・チャウネン
 パッシブスキル。防御時に来た相手の攻撃に対して、カウンターで攻撃+足縛り+スタンを与える。ただし、構えを使っているときにはこの効果が発揮されない。

4)熊殺しギロチンカウンター(1/1)
所持者:チ・フルルー
 パッシブスキル。相手の攻撃に対して即死効果のあるカウンターを返す。斧装備時のみ有効。
 ぶっちゃけ即死効果が発動することは稀である。当たればダメージで相手は死ぬ。

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