イルミネ世界樹日記   作:すたりむ

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第三階層(1):花争奪戦

・天牛の月、8日

 金 が や ば い 。

 あはははは。なりふり構わず弾丸撃ちまくった結果がこれだよ! な財布の中身に今日気づいて愕然とした。これはまずい。うん、超まずい。まずいよねー。なぜ逃げるのかなマイトくん。

 というわけで今度の依頼はレンジャーが入り用だそうで。まあ射撃職だし似たようなもんだよね! てことで行けマイト。と追い出してしばし。なんか今回はえらくあっさり帰ってきた。ちっ……いえいえナンデモナイヨ? ところでなんでそんなにピンピンしてるの? え、同行者にイナーさんがいた? ズルい! チートだ! もう一度行ってこい! と言ったら殺意を込めた笑顔で断られた。ですよねー。

 

 

・天牛の月、9日

 そこそこ金ができたのはいいんだが、やっぱり十一階は防寒具が欲しい。どうしようかと思いつつ酒場の掲示板を見るとすごく割のいい依頼が。なんか十一階で獣が暴れているらしいが、普段暴れる種ではないので獣を殺さず状況を調査したいらしい。よしこれにしようということでさっそく引き受け、さっそく樹海へ。結果、

 超   寒   い   。

 落ち着け私。防寒具買うために寒いところ出かけてどうする。と言っても後の祭り。もう依頼は引き受けた後です。比較的寒さ対策済みのマイトとそもそも防寒具とか関係ないシロに比べて、私ひとり被害を被っているのがすげーむかつく。ええいマイト上着を貸せっ寄こせっこら逃げるなっ。とか馬鹿やってたら雪原にすっ転んでさらに寒くなった。ずびー。

 で、依頼自体はシロの活躍でうまくこなしたけど、さっきからずっと寒気が止まらない。風邪ひいた?

 

 

・天牛の月、10日

 風邪なのでお休み。

 というわけで宿でぐーたらしていた。偶然にも、今日は宿屋の一人娘の誕生日だという話だったので、普段(主にシロが)お世話になっているお礼になにかプレゼント買ってこいとマイトに行ったら、三時間くらい経ってえらくきれいな花を束にして持ってきた。こんなんどこで買ったんだよ、と言ったら、

「樹海で取ってきた。ほら、二階に自然に花が群生してるところがあっただろ」

 と言う。マジか。ぜんっっぜん覚えてないんだけど。と言ったら呆れられた。……うるさいな。そういう細かいこと覚えるのは苦手なんだよ。

 まあ、プレゼントはだいぶ喜ばれたようでなにより。体調も夜にはだいぶよくなったし、明日には探索を再開できるかな。

 

 

・天牛の月、11日

 防寒具買って体調も万全、さあレッツ樹海。というわけで行ってみた。

 ……やっぱり寒いぞこんちくしょー!

 寒い中をなんとか進み、途中何度も出てきたへんな空飛ぶ獣にてこずりながらも順調に探索終了。なんかトンボみたいなのがうっとおしいね……すばしっこいからよく奇襲を食らう。

 

 

・天牛の月、12日

 十二階への通路を発見。ついでに近道も発見。

 ……え、もう?

 なんかスムーズに探索が進みすぎて怖いくらいだ。なにがあったんだろう。

 

 

・天牛の月、13日

 朝、宿を出たところで衛士が迎えに来た。

 大公宮から呼び出し。十階を超えた人間に用があるので面を貸せと。……マイトがなにかやばいことしでかしたのかと思った。と言ったら、マイトはうなずいて、

「ああ。俺もとうとうお前の悪事が暴かれでもしたのかと思った」

 とか言われた。失敬な。私は脱法行為なんて行いませんよ。ところでハイ・ラガードには呪い禁止令とかってなかったよね? たしか。

 そんなわけで大公宮に行ったらものすごいことになっていた。英雄級の冒険者たちの大盤振る舞い。どうやら、本当に十階より上を探索しているギルドを全部呼んだらしい。

 で、初めて顔を見る公女さまから、お触れが出された。十二階付近にある珍しい花を4つ摘んできて欲しい、のだそうな。見つけたギルドには相応の見返りを出します、だそうで、それがまたかなりの額だったので周囲はざわめいた。うわー、こりゃ競争率高そうだわー。

 そして帰り際にアシタとばったり。……なんでこの女はいつもいつも嫌なときに出くわすんだろう。

「えー、なに。キミたちも花競争に参加する気なの?

 やめとけばー? ぶっちゃけ勝ち目ないよー? そんなのに目をくらませてないで、さっさと上に行って鍛えたほうが身のためだと思うけどー?」

 と嫌みったらしく言われたので、にっこり笑って言い返した。そーっすねー。でも私たちと違ってあんたたちが競争に負けたりしたら周囲の笑いモノですよねー。そしたらもんのすごい目でにらまれた。くそ、負けるかっ。

「――ふ、ふふふ。

 よーくわかった。見てなさいよ、あっという間に4つ集めて度肝抜いてやるっ」

 高らかにその場で宣言して、アシタは去っていった。

「よくやるなぁ、お前。アシタさんに喧嘩売るなんて」

 マイトが呆れたように言う。おまえね、なに他人事みたいに言ってるんだ。ほれ、さっさと支度しろ支度。

「……あー、なに。競争、参加するの?」

 当たり前だろ。相手は4つ、こっちは1つ。ひとつでも取れればあいつの負け。クケケ、挑発に乗った我が身の浅はかさを嘆くがよいわ。

 そんなわけで今日から競争だ。十二階へ突入、そしてなんかすごいバケモノに蹴散らされ逃亡orz

 なんだあの凄いの。あんなの誰が勝てるんだよ? 置物みたいに通路に突っ立っているから邪魔でしょうがないのに、あれじゃあ奥に行けやしない。

 

 

・天牛の月、14日

 ロックエッジ(がんそじゃないほう)とバケモノの死闘に居合わせてしまった。

 あー……なるほど。こういうひとたちは勝てるわけですね。なんかもー、レベルの差というものを思い知った感じ。

 で、戦闘が終わった後、みんなで和気あいあいと雑談。どうやら、未だにどのギルドも花を手に入れてはいないっぽい。それどころか、公女さまが我々に依頼を出した理由は、探索すべく送り込んだ衛士隊がなにも見つけられなかったからなのだそうな。……おいおい。それってそもそも十二階にないのでは? と言ったら、チ・フルルーは首を振った。

「あると明言しているのだから、根拠があるんでしょう。

 大公家はこの世界樹に縁のある家柄です。彼らは先祖代々の伝承という、我々と根本的に異なる情報ソースを持っている。だから、十二階にその花があるということについては、あんまり疑わなくていいと思います」

 ……じゃ、なんで見つからない?

「そうですね。特定の季節にしか咲かない、というのはどうでしょう?」

 この常冬の樹海で?

「……く、苦しいですかね」

 うん。

「出直してきます……がっくし」

 とまあ、こんな感じ。このクラスの冒険者でも、基本的に戦っているとき以外はふつうの人間ぽい。戦っているときについては……ノーコメントで。

 とはいえ、ヒントは得た気がする。要するに、その花とやらはなにか条件がないとまず見つけられないもので、そして我々はその条件を知らない。ということなのだろう。

 よしよし、一歩近づいた気がするぞ。

 

 

・天牛の月、15日

 引き続き十二階の探索。だんだん階層の構造がわかってきた気がする。

 とはいえ、いい加減寒くて仕方がない。加えて、なんかえらく固い虫が頻繁に襲ってきて、うっとおしいったらありゃしない。雷の特殊弾丸一撃で打ち落とせるんだけど、羽虫特有のウザい音をぶんぶん立てるからマイトが集中できないらしく、頻繁に的を外す。的を外すと弾丸一発分の代金が無駄になるわけで、要するにそろそろ出費が無視できなくなってきた。これ花見つけても赤字なんじゃないだろうか。だからって諦めないけど。

 

 

・天牛の月、16日

 グレイロッジが、花を見つけた旨の声明を出した。

 すでに四カ所以上で見つけたそうだが、大公宮へ提出したのはひとつだけ。なんでも、

「後進の育成のため、この試練は他のギルド達に残しておきたいと思います。

 月末まで進展がなければ我々が動きます故、公女様におかれましてはどうぞお待ち下さいますようお願い申し上げます」

 とか、空気の読めないロッドテイルの親父が宣言してしまったらしい。……おいおい。

 まあ、アシタが宣言していた4つ集めるというのは他のギルドが達成してしまったため、いちおう奴の面目はつぶれたわけだが。ここでおとなしく引き下がるほど私もお人好しじゃない。見てろよ。ひとつでも見つけて、見返してやる。

 

 

・天牛の月、17日

 あっという間だった。ロックエッジ、ふたつ目の花を大公宮へ提出。

「あることにさえ気づけば簡単でしたね。ありふれているわけではありませんが、注意すれば見つけられる可能性は高いかと」

 とはチ・フルルーの言。くそ、どうしたもんか。

 で、負けじと樹海へ行こうとする私を、マイトが引き留めた。

「待てよ。落ち着かないと見つかるものも見つからないぞ」

 そうは行くか。すぐ行かないと他のギルドに先に見つけられてしまうじゃないかっ。

「それはないだろ。あるとすればロックエッジか。あそこは花の見つけ方を知っているから、他にも見つける可能性がある。

 だけどな、考えてみろ。ロックエッジ、三日前に会ったときは俺たちとほぼ同じ位置だったじゃないか。あそこから花を見つけるに至るまでには、なにか大きなヒントがあったはずだ」

 ヒント……?

 考える。ヒントったって、我々が知っている以上の事象とロックエッジが遭遇したとも思えない。とすると、知り合いでもあるグレイロッジになにか教えてもらった、と言う可能性もあるが、ロッドテイルがその種の馴れ合いを許すか、と言えばそれはまずあり得ない。ということは。

 ヒントとなりうる情報は、グレイロッジが花を提出したという、その事実だけしか存在しない。

 んー、しかし、それだけだとやっぱり決め手になる情報は――

 あ。

「どうした?」

 …………

 そっか。

「なんだよ。もったいぶらずに教えろよ」

 耳貸せ耳。

 ごにょごにょ……

 

 

・天牛の月、18日

 草木も眠る真夜中。私たちは、樹海に出発した。

 思いついたのは簡単なこと。グレイロッジもロックエッジも、朝に大公宮に花を提出して、声明を出した。

 それはつまり――取ったのは、昼間じゃなかったんじゃないのか。と思うわけだ。

 夜の樹海探索は危険なので推奨されない。それはセオリーなのだが、だからこそ盲点になる。

 つーことで、てくてく歩いて十二階へ直行。道も暗いし不安になるが、なんとか目星を付けていた広間に赴き、そこできらきら輝く氷のような花を発見。ゲットだぜー! と飛びつこうとした矢先、横から魚のバケモノに押し倒された。南無。

 つーかウゼェよ出てくんな馬鹿! と毒づきつつパンチキック銃撃で撃退し、さあ花だと振り返ったら

「あー見つけたー!」

 と余計な声。こら馬鹿アシタ、それはこっちが先に見つけたんだ返せ寄こせっ。口論はただちにもみ合いになり、ぎゃいのぎゃいのと騒いでいるうちにパベールがふと上を向いて、

「……――! 雪崩が来る。全員急いで逃げろ!」

 ぎゃー!

 

 死ぬかと思った。そして逃げ回っていたら夜が明けてしまった。アシタは苦虫をかみつぶしたような表情で「こいつらがいなければ……」とかぶちぶち言っている。ふん、自業自得だ横取り野郎。と思ってみたものの、正直こっちも痛手を負った。他のギルドがふたつ以上花を見つけていたら今日でアウトだもんなー。どうしよう、とか思っていたら――おいシロ、なにくわえてるんだお前。

「わう?」

 わう、じゃない。ほれ吐き出せ。と命令すると、シロはおとなしく口にくわえていたものを落とした。――氷の、花。すげえ、お手柄だシロ! 今度いいもん食わしてやるからな! と万歳して叫ぶ私と、その後ろからこっそり近づいていたアシタをがしっとホールドするマイトとパベール。う、うお、なにしやがるおまえら! と聞いたら、

「これは共同で見つけたものだ。

 だったよな? マイト」

「そうですね、パベールさん」

 ……う、裏切り者ー!

 

 

 そんなこんなで、花はがんそロックエッとパレッタが協力して見つけた、ということになってしまった。しくしく。あともうひとつの花はロックエッジがきっちりゲットして来たそうな。報奨金は、グレイロッジの圧力もとい提案により、これら3ギルドで等しい額を分配されることになった。

 ……本来なら貢献度1/8なのに1/3もらってお得なはずなのだが、ちっとも嬉しくない。アシタの奴は公女の前でもはっきりわかるほどふてくされている。くそ、もうちょっとで完勝だったのにっ。今度は見てろよ!


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