日向晶也LV1   作:@silky

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予告通り、みさきが喋ります()


砂浜の再会─2/2

 体を捻り加速する。

 放銃された弾丸のごとく、蒼の世界を貫くシルエットはあの時を思い出させる。

 

『うわぁ、そんな飛び方もあるんだね。っと、これ、バランスとるの難しいや』

 

 記憶にある飛び方と多少変わりこそしたが、より滑らかな動きになっているのはその技を制御している証だ。

 

 思い出すのは、俺を追い詰めてみせた原石とすら言える圧倒的な才能。

 効率よりも使いやすさを突き詰めた、──人の技を掌握することに長けた天性の怪物。

 

 俺が教わり、奪われた技術は、センスがあるのが前提として積み重ねた努力によって効率性を突き詰めたものだった。

 より早く、より高く。誰よりも彼方へ行くために、誰よりも正解だった葵さんを溶け込ませた模倣。

 俺はその、溶け込んでいく感じが好きで、もっともっと進んで行こうと思えたが、彼女の──鳶沢みさきの根源は全く違ったものだった。

 

 空を飛びたい。同じ気持ちでありながら、俺は最強(誰よりも強い飛び方)を目指し、鳶沢は最高(自分が楽で楽しめる飛び方)を選んだ。

 

 今こうして改めて見てわかるのは、ブランクがあったとしても、今の俺でも勝てるくらいの実力。今まで思ってきた不安の正体がこうもあっさりと解消されては拍子抜けもいいところだ。

 

 だから、違和感が残る。

 鳶沢みさきという人間の全部を分かったつもりになって決断を下すのは早すぎる。あの頃、急激な飛躍を果たした野良試合からほとんど成長が見られない──もっと言えば、掌握による改悪のせいで完璧だった飛び方が崩れて、弱くなったように感じた。

 

 

 

 それは、可笑しなことだ。

 あの時、俺が彼女に未来の俺の姿を見たのは、彼女が掌握したものが、思い描いていた理想通りの飛び方だったからだ。

 変な癖も見当たらないし、あえて飛び方を変えているとも考えにくい。

 

 何かが、可笑しい。

 

 この胸のざわめきが示すのは一体何なのか。

 もう、思い出したくなかった相手だったはずなのに。

 

 

 彼女のことが気になって仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピロリン

『まーちゃん、宇宙人が! 宇宙人が写り込んでます?!』

 

 ピロリン

『おーい、まーちゃーん?』

 

 ピロリン

『( ゚д゚)まーちゃんに都合のいい女扱いされた……』

 

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

 

 

「……やっぱ無理かー。ここに来たらもしかしたらって思ったんだけどなぁ」

 

 鳶沢みさきは覚えている。

 夏休みを利用して祖母の住まうこの島へ訪れる。

 幼い頃から変わらない恒例行事だ。

 その中でも、ひとつだけ、鮮明に記憶している出来事があった。

 

 当時、四島は他県に先んじて実験的にグラシュ──反重力粒子を応用したアンチグラビトンシューズを導入して、『空を飛べる島』として日本中の話題となっていた。

 今でこそ地方都心でも空を移動することもできるが、しかしそれも決められたルートのみとなっている。四島のように停留所であればどこへでもいける、というわけにはいかないのだ。

 

 空を飛んでみたい。祖母のことが好きだったのもあるが、買ってもらったばかりのグラシュを試すために早く四島へ行きたいと思ったものだ。

 買ってもらったばかりの翼を持って、よくお母さんが連れて行ってくれた浜辺へ走り向かう。

 

 そこで、みさきは出会った。

 運命なんて大げさなものじゃないけれど、その出会いはみさきに対して大きな影響を与えた。

 

 FC。フライングサーカス。

 先に空にいた子供が、まるでジェット機を思わせるように、空を飛ぶ。

 水平に加速したかと思えば、急降下と急上昇を繰り返し、見ているだけでワクワクするような飛び方だった。

 

『おーい! おーい!』

 

 大手を振りながら声を張った。

 ちょうど浜辺の辺りに近づいてきた頃で、その子は気がついたみたいで、

 

『どうした?』

 

 降りてくる姿勢すら、かっこいいと感じるくらい興奮していた。

 

『それって面白いの? やってみたいんだけど……』

 

『お願いだから飛ばさせてよ!』

 

『いいよ、これはフライングサーカスっていうんだ』

 

『ふらいんぐ……さーかす?』

 

『最高に面白いスポーツの名前!』

 

 

 その記憶は、みさきがFCを始めることになる原点のようなものだ。

 見ているだけで楽しかったし、真似するだけで嬉しくなった。

 まるで空が自分だけの世界みたいに、必死になりながら、飛び回った。

 

 だから、心残りがあるのは自分があの時引き止めた──今なお誰よりも綺麗な飛び方をしていたと思わされる髪の長い子が、下手な自分と飛ぶことによって急に怒って帰ってしまったことだ。つまんないとまで言わせて、初心者だったからなんて言い訳しようとは考えれなかった。

 

 あとで知ったことだが、その子はFCどころか世間では有名だったらしい。

 聞くところによると世界大会で圧勝してしまえるほど実力が突出した選手で、二代目飛翔姫と呼ばれる同じ年のスターだった。

 

 憧れた。日向晶也。驚くことに美少女だったと思っていた子が実は男の子だったなんて知り、密かに敗北感を覚えながらも、過去の試合で飛んでいる動画を探し出しては何度も繰り返し再生した。

 

 夏休みも終わり四島を離れると、FCというものが途端に遠くなった。地域で活動しているクラブチームに入ってみても、日向晶也のようなドキドキするような飛び方には巡り会えなかった。

 すぐにチームで一番強くなったけど、所詮は日向晶也の猿真似でしかなく、日が経つごとに夢の立会いの時のような飛び方はできなくなっていた。

 

 動画を見てると思うのだ。

 できれば、もっと横で見ていたかった。

 

 過去のことをいつまでも引きずっても仕方がない。

 だけど、まるで空の全てを操るような、あの時のドキドキするような体験をみさきは求めていた。

 

 

 だから、期待した。

 あの時、FCを始めてした場所で飛んだら、また思い出せるかもしれない。

 

 綺麗で、早くて、かっこよくて。

 最っ高に楽しかった空の記憶を、思い出せるかもしれない。

 

 

 そう思い、中学に入って初めての夏、いつものように大好きな祖母の家を訪ねて、ぶらぶらしてくると言って思い出の場所に足を運んだ。

 

 けれど、分かったことは、望みはそう叶うものではないということ。

 

 

 鳶沢みさきは、楽しかったことだけを覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 だから、『それ』は運命の訪れだと思った。

 

 

 

 £≡

 

 

 

 

 

「なぁキミ、それっておもしろいのか?」

 

 

 

 ──やっぱり晶也は、リスキーなことするんだね。

 

 

 心の何処かで。

 知らない誰かが、そう言った。




てっきり『飛翔姫』が晶也の二つ名と勘違いしてました。
実際には葵さんの二つ名で、晶也の二つ名は(おそらく)ありませんでした。
なので勝手に二代目として修正します。

『四島』であるべき箇所が『四国』となっていました、
四国に何しに行くんだみさき……うどんか? ってなったので修正します。


続きません

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