転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。   作:texiatto

20 / 37
 
 Sイシュタル引けなかったので初投稿です。


猛犬と切り札:三人称視点

 ◆

 

 

 

 コノートの戦士達に敬意を持って道を開けられ、そこを歩むはフェルグスとフェルディアの二人。

 

 片や、コンホヴォル王がとある女を欲したがために自分の息子達を謀殺され、それによって彼に憎悪を滾らせてコノートへ寝返った、篤実で屈強な戦士。

 片や、クー・フーリンの兄弟子として互いに日々切磋琢磨し、生涯の好敵手と認め合った仲である、ケルトらしさを体現した堅牢な戦士。

 

 コノートの切り札とも呼べる彼らがクー・フーリンの眼前に姿を現したのは、言うまでもなく、雌雄を決するためだった。

 

 己の得物を担ぎながら、二人はクー・フーリンの前へと立つ。

 

「久しいな、クー・フーリン!」

 

 初めに口を開いたはフェルグス。朗らかな笑みを湛え、大声で再会を喜ぶ。

 彼がクー・フーリンを最後に見たのは、クー・フーリンがエメルから逃げ出した時だったのだから、実に久しい。

 

「そうだな、叔父貴。ただ、アンタがここに来るってのは予想外だったぜ?」

 

「いや、俺からすれば、ある程度は想像していたのだが……お前がこれ程の戦士に成長したことに驚嘆させられたぞ」

 

「そうかい。叔父貴にそう言われるのは嬉しいこった」

 

 この会話だけを切り抜けば平穏な一コマとなるのだが、それにしては如何せん血の気が多過ぎた。

 クー・フーリンは内心で「フェルグスと戦うのは……いやー、キツいっす(白目)」と焦りまくっていたりするが、表は何時ものポーカーフェイス。

 だが、フェルグスが相変わらず壮健であることに、クー・フーリンの鉄面皮は無意識に綻んだ。そして次に視線を横にずらす────自らの好敵手へと。

 

「……フェルディア、コノートに戻っていたんだな」

 

「半年も経っていないがな」

 

 不敵な笑みを浮かべるフェルディアだったが、己の内側から湧き上がる歓喜を我慢できなかったせいで、次第にくつくつと笑い始める。

 それも仕方がなかった。

 彼が影の国を出る際、クー・フーリンとは一切言葉を交わすことはなかった。次に会う時は戦場で、という願いを抱いたからだ。

 

 修行中、フェルディアは苛まれていた。

 兄弟子として弟弟子に先を越されたのが悔しい。弟子入り直後から己と対等の力量という天賦の才が妬ましい。

 だが、それでクー・フーリンを恨むのは筋違いで、憎むべきは力不足の己自身であって然るべきなのに、劣等感を抱かずにはいられなかった。それに自己嫌悪したことも幾度となく。

 それでも、クー・フーリンに変わりはなかった。誇るでもなく、嘲笑するでもない、互いに互いを高め合う関係を求めたのだ。

 それによってフェルディアの劣等感は消滅した。先を越されたのなら、追い付いて越してやればいい。天賦の才が相手なら、俺は努力で差をなくせばいい。燃え盛る業火は、劣等感などという些事を焼却して余りあったのだ。

 

 だからこそ、フェルディアはクー・フーリンに感謝をしている。クー・フーリンがいなければ、俺はここまでの高みに至れなかったのだから、と。

 だからこそ、フェルディアはクー・フーリンを好敵手だと認め、馴れ合いではなく戦場での決闘を望んだ。全力でぶつかり合い、更なる高みへと到るために。

 

 それが、こうも早くやってきたのだ。これを喜ばずして何とする! 

 

「けどよ、お前メイヴのヤツを嫌ってなかったか? どうしてまたアイツの配下に入ってんだ? 籠絡でもされたか」

 

 素朴な疑問をぶつけるクー・フーリン。以前フェルディアはクー・フーリンに「メイヴは苦手な部類だ」と語っていた。

 それなのに何故メイヴの配下に入っているのか。すわ、スーパーケルトビッチに食われたか!? という疑問が生じるのは当然のことだった。

 

「籠絡はされてない。俺は自ら忠誠を捧げたんだ。確かに俺は以前のメイヴを嫌っていたさ。権威、狂気、悪を有する悪女だと疑っていなかった。……だが実際に会ってみれば、メイヴは俺が嫌悪するような女ではなかった」

 

 いや、メイヴは紛れもない悪女だろ! と声を荒げたくなるが、フェルディアがそう語るのも無理はなかった。

 初めこそ、メイヴから高圧的な言動でスカウトを受けた際は「ああ、やはりか」と嫌悪を示した。だがクー・フーリンのことを話題に出した途端、女王の顔はなりを潜め、想い人を妄想して頭を蕩けさせる女の顔になった。

 

『貴方、クー・フーリンに会ったことあるのね!?』

『ああ、会いたいわ! ねえ、今あの人が何処にいるか知ってる?』

『クー・フーリンの好きなものって何か聞いてないかしら? ……と、特に女性の好みとか……』

 

 噂とは、と困惑せざるを得なかった。もしかしたら、黒い噂はメイヴの美貌や権力を妬んだ輩が流した、根拠のないものだったのでは、と疑う程に。

 その後メイヴの配下となったフェルディア。日がな一日彼女を監視してみれば、悪女という風評が付いたのを納得するだけの暴君っぷりを見せる一方で、彼女は自室に籠り、飼っているオコジョ相手に愛を囁く練習をしていた。部屋の外まで聞こえてくる嬌声に度々出てくるのはクー・フーリンの名。

 

 彼女は……メイヴは確かに悪女ではある。だがしかし、それと同時に恋に恋する生娘だった。

 そして、メイヴをそのようにした要因は、自身の好敵手たるクー・フーリンであったのだ。

 クー・フーリンと関わる者は何らかの変化を生じさせる。師匠然り、女王然り、フェルディア然り。

 

 ────やはり、クー・フーリンは凄いな。

 

 ただ、ただ一言。好敵手を褒めた。その時、フェルディアはクー・フーリンこそがケルトにおける多くの渦中に座する存在なのだと、再認識した。

 自身の好敵手なのだから、そう来なくては面白くない、張り合いがない、越えた時の達成感もない! 

 

 先程のクー・フーリンの問いに返答したフェルディアは、彼に対して、お前がメイヴを変えたのだという意図で笑い掛けるが、当の本人は「え、何それメイヴ可愛いかよ」と感じはしても気が付くことはなく。

 

「……ともかく、以前の彼女であれば、俺は忠誠を捧げるなどしなかったろうさ」

 

 柔和な顔付きで言い切ったフェルディアを見て、クー・フーリンは邪推を止めた。

 

「……んで、今度は二人が相手か?」

 

 話題を目下のものへと切り替え、クー・フーリンは問う。心中では「やめてください死んでしまいます」と阿鼻叫喚していたりする。

 

「ああ、そうだ────と言いたいところだが、俺はここでは戦わんさ」

 

 フェルグスは眉を顰めて、それを否定する。本来なら再会を喜びがてら殴り合いのひとつでも、とするところなのだが、今回フェルグスには明確な目的があった。

 故に、クー・フーリンとの戦いに興じることは、残念なことにできない。

 

「お前と武を競うのは、俺だ」

 

 高らかに宣言するように、己の槍を好敵手へと向けるフェルディア。

 

「コノートの切り札との呼び名を冠するは、何もフェルグス殿だけではない。俺もまたそうだからな!」

 

 影の国でクー・フーリンと競い合っただけあって、フェルディアはメイヴの配下に入って直ぐに頭角を現しだした。

 今ではコノートの切り札という、フェルグスと並ぶ存在として戦士達の上に立っている。

 

「……そうかい、なら存分に戦おうじゃねえか」

 

 内心ではイヤイヤと駄々を捏ねるクー・フーリンだが、それと同時に、兄弟子でありライバルであるフェルディアとの勝負に歓喜してもおり、顔には自然な笑みが浮かび上がった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 特筆すべきモノがない荒野、しかしそこは異常なまでの熱気と静寂に包まれていた。

 原因はたったの二人。クー・フーリンとフェルディアだ。百メートルと離れていない距離から互いを見据え、感覚を確かめるように得物を構え、滾る戦意を研磨する。

 

 視線を交えているのみだというのに、既に開戦しているかの如く。

 

「では、やろうか、クー・フーリン!」

 

「いくぜ、フェルディアッ!」

 

 限界まで縮ませたバネが弾けるように二人は飛び出し、瞬きの間に衝突した。

 

 深く持った魔槍を前方に突き出すクー・フーリン。フェルディアの皮膚はあらゆる攻撃を受け付けない堅牢なもの。されど魔槍の類となれば話は違う。

 対しフェルディアは、クー・フーリンの神速の一撃を余裕すら感じさせる最小限の動作のみで躱してみせた。

 

 重心の移動や動作の機微から攻撃を予測し、瞬間的に対処してみせるフェルディアの十八番。これには流石だと感嘆する他ない。

 

 フェルディアは身を回転させるようにしてクー・フーリンの背後へと回り、薙ぐ。

 槍がクー・フーリンの背を殴打する直前、その一閃を遮る緋色。ゲイ・ボルグだ。魔槍を深く持ったことにより、腕を引くと魔槍の柄の部分が背にまで届く。それによって槍の一撃を防いだのだ。多少の打撃はあれどダメージをほぼ殺し切った。

 

 見ずして受け止めるとは、と好敵手の気配感知の鋭さを褒めるフェルディア。しかし大きな隙は与えない。相手はあのクー・フーリンなのだ。むしろ追撃せねば即座に攻め立てられる。

 

 手首を捻り、穂先をクー・フーリンの背に向け突き刺す────が、彼が身を屈めたことで空を穿つ。

 低い姿勢を利用してフェルディアに足払いを仕掛けるクー・フーリン。これを跳んで躱すフェルディアに対し魔槍による突き上げを見舞えば、舞うように身を捻って穿たれるのを避け、カウンターのように縦に薙ぐ。

 岩をも両断する苛烈な一撃を、クー・フーリンは四肢に力を込めて受け止めてみせるが、勢いを殺し切れずに吹き飛ばされる。だが無様に転がるのではなく、体勢を崩さず脚で大地に線を刻み、常に視界に好敵手を捉えたまま。

 

 零距離戦闘から再び開く距離。クー・フーリンとフェルディアは互いに横溢する獰猛さから生じた笑みを向けあった。

 それを合図に、クー・フーリンが再び突貫し、魔槍による刺突の連撃を繰り出す。

 神速の応酬は緋色の光となり、対峙した敵は反応するまでもなく穿たれ果てる。

 

 だが、ことフェルディアに関してそれはない。

 

 神速の一撃を練り出す身体の機微、魔槍の放つ緋色の煌めき、好敵手の真紅の双眸が向ける視線────あらゆる情報を刹那で読み取り、情報を統合し、知識と経験と五感から次の手を推測する。それに従って動けば、

 

「フッ────!」

 

「やるッ……!」

 

 全ての攻撃を、未来視でもしていると錯覚してしまう程、完璧に捌き切る。

 神速に対応するよう正確無比に槍を宛てがい、それを実現させている脚さばきや身のこなしは舞踏さながら。

 

「……なあ、二人の動き……見えるか?」

 

「……正直、目で追うのがやっと。しかもまだ勢いが増すんですから、もう目で追うことすら難しそうですね……」

 

「だよなぁ……」

 

 既にクー・フーリンに敗北したコノートの戦士達でさえそう口にする。あまりに苛烈で速い。純粋な力もそうだが技術の応酬が凄まじい。反応速度も的確な対応も何もかもが異次元レベル。

 未だ始まったばかりだというのに、既に見る者らの目には、いつ勝負がついてもおかしくない、それこそ終盤の様相を呈しているように映った。

 

「あのフェルディアって人、とてもお強いですね……!」

 

「そうね、でも勝つのはクー。私はそう信じているから」

 

 レーグは純粋にフェルディアの強さを褒め称え、エメルはフェルディアの強さを認めつつも自らの愛する彼が勝利する未来を信じていた。

 

 周囲の十人十色な反応を他所に、二人の心境は歓喜に彩られていた。

 

『これは飽くまでも小手調べ、コイツがどこまでやれるか楽しみだ!』

 

 影の国で手合わせをしていた頃よりも研磨された力を肌で実感すると共に、自身の全力を尽くさねば、否、尽くしたいと思える相手は、やはりこの戦士なのだ、と。

 

 クー・フーリンの連撃が百を超えた辺りで、一際力が込められた一撃が放たれ、受け止めたフェルディアが衝撃で後退させられる。

 伴った金属音は大気を震撼させ、その場にいる全ての者の体内にまで響き渡った。

 

 そうしてまたも距離が開く。二人は戦意と歓喜を織り交ぜた視線を交錯させ、互いに口角を吊り上げる。

 

「ったく、どんだけ強くなってやがんだ。前にも増して対応が的確になってやがるぜ」

 

「おうとも! それができなくば修行は終わらん、と師匠に言われ続けてきたからな。そう言うお前も速度と攻撃に磨きがかかったな」

 

「そりゃそうだ。それが俺の強みだしな。伊達に奔走してた訳じゃねえさ」

 

 自らの好敵手の成長を讃えつつ武器を構える。そして、瞳を輝かせた童が心の底から楽しむように、二人は再度激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、両者共良き戦士だな!」

 

 クー・フーリンとフェルディアの戦闘、それを離れた場所から静観するフェルグス。

 彼には贔屓目なしに両者共が強者として映った。己が敗北する光景すら幻視してしまう程に。

 

 あぁ、残念だ。とても残念だ。俺も存分に戦いたい。戦いたかった。

 

 生粋のケルト戦士であるからこそ、骨の髄まで満たす欲求に従いたくなる。

 だが、今回それは叶わない。フェルグスはアルスターに、もといコンホヴォル王の元に向かわねばならなかったからだ。

 理由は明確。フェルグスの息子達を、自らの欲望を満たすために謀殺したコンホヴォル王に対し、裁きを下さねば気が済まなかったのだ。

 

 フェルグスは、アルスターから離れる際にコンホヴォル王を屠ることもできた。それをしなかったのは、憎悪に突き動かされるのは本意ではないからだった。

 息子達が殺されたと知った直後であれば、憎悪からコンホヴォル王を殺していた。だが、もしかしたら息子達が死ななければならなかった理由があったのかもしれない。

 故に、一旦距離を置いた。そこで信用に足る情報を集め、真相を確かにした。そうして、コンホヴォル王には螺旋剣を全力で振るわねばならないと知った。

 

 この戦争をメイヴが引き起こしたのは、フェルグスにとって好機だった。戦乱に乗じてアルスターへと赴くことができるのだから。

 だからこそ、ここで時間を潰すことなどできない。フェルグスはケルトの戦士ではなく、人の親であることを選んだのだから。

 

「生き急げよ、フェルディア、クー・フーリン」

 

 有望な戦士に捧ぐ祝詞のように、或いは誰かの手向けのように。

 言葉を紡いだフェルグスは、単身でアルスターへと向かうのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 スカサハは戦士を育てる際、あらゆる技を弟子に仕込み、多芸多才な英傑に仕上げる。

 スカサハ自身の得物でもある槍術は勿論、剣術や弓術といった幅広い武器を扱えるよう教育し、更に盾の扱いや呼吸の秘術、跳躍、戦士の咆哮など多岐に渡る妙技・秘術を余すことなく教え尽くす。

 またルーン魔術に関しても同様で、基本的な火のルーンを初めとし、強化、転移、飛行、加速、癒しなど実に多くを施す。

 なぜここまで教えるのかといえば、最早語るまでもなく、不死である自身を殺せる戦士との巡り合わせを望んでいるからだ。

 

 だが、これまでに彼女を絶命させるに足る戦士は発掘されず、未だスカサハを殺せる強者は現れていない。

 

 では、彼女によって育てられた戦士は何処へ行くのか。答えは単純明快、外にて歴史に名を刻む英雄となる。当然だ。彼女を師事した者らは絶大な力を持つことが叶うのだから。

 

「影の国での修行に比べれば、外での戦は無双が可能な程に生温い」

「自分の技が通用しなかったのは、自分が弱いのではなく師匠がおかしかったのだ」

「師匠厳し過ぎたけど、そのおかげであらゆる場面に対応できるようになった。師匠厳し過ぎたけど」

 

 スカサハの扱きによってそのような価値観を根っから植え付けられた彼らは、最早如何なる戦場であろうと奔走し、如何なる相手であろうと確実に屠る豪傑だ。

 それはさながら、相手の心臓を穿つまで留まることを知らぬ一条の槍。

 

 しかし、同じ師を持つ戦士が合間見えた場合、どうなるか。これもまた明快。

 ゲイ・ボルク同士を衝突させると全く同じ軌道のため相殺する、という現象が起きるように、スカサハに師事した者同士の戦いはそう簡単に終わるはずがない、ということに他ならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 クー・フーリンとフェルディアの一騎打ちは数時間が経過しても尚続いていた。

 開戦は早朝であったにも関わらず、日は既に傾き始め、戦場に赤を落としつつあった。

 

 戦況は一進一退。身体に赤い線は増えるものの互いに決定打はなく、膠着状態。

 フェルディアの堅牢な立ち回りを崩せないクー・フーリンと、クー・フーリンの一挙手一投足に注視し続けなければならないフェルディア。

 このスタイルの差こそが、長期戦の最大の要因だった。

 

「ッ!」

 

 幾度目かの衝突の末、フェルディアはクー・フーリンの猛攻を受け流し、逆に力の籠ったそれらを利用して吹き飛ばす。

 地面を転がるクー・フーリンは、その最中にフェルディアの指がルーンを綴るのを目にし、即座に体勢を整えて氷のルーンを大地に刻む。

 

「させねェ!」

 

 クー・フーリンの手を伝い、淡い光が大地から放たれる。と、円錐状の氷の杭が地から連続して生え、フェルディアに迫る。

 

「────!」

 

 フェルディアは途中でルーンを破棄し、宙に跳ぶ。しかしこれは回避行動ではなく。

 身を掠める程の紙一重。そのおかげで空中にいながら足場を確保した彼は、氷柱を蹴ってクー・フーリンに降りかかる。

 槍による縦の一閃。全体重と落下の勢いの全てを乗せた薙ぎ。直撃すれば決定打となるそれを、クー・フーリンは体勢が崩れていたために受け止めざるを得なかった。

 

 魔槍を構え、一撃を受けた────瞬間、過重な衝撃に見舞われ、両足が地面に沈み込む。

 歯を食いしばって耐えるが、フェルディアはそれを見るやいなやシャウト効果で更に加重。クー・フーリンはこれ以上は手脚が持たないと悟り、重心を移動させて受け流す。

 

 そうしてフェルディアの渾身の一振りが空を裂くと、今度はクー・フーリンが僅かな隙に魔槍を差し込み、フェルディアの着地を狙う。

 だが、猛者であればある程に明確な隙というものの悉くが潰されている。フェルディアもまたそれに該当していた。

 

「ぜあ────ッ!!」

 

「甘い!」

 

 体勢を立て直す前でありながら、神速の緋色を正確に弾き、続く連撃をいなしながら体勢を整えるという離れ業。

 これこそがフェルディアの堅牢な守りの成せる技の真髄。相手の攻撃を正確に読み取り、予測する力も驚異的なれど、それ以上に思考を身体に反映させられる事実こそがフェルディアの強みなのだ。

 

 フェルディアの守りは、技術という名の厳重なロックが複数に渡ってかかった金庫さながら。とても正攻法ではこじ開けられない。

 ならば、と。クー・フーリンは思考する。定石が通じないのであれば、奇策を以って堅牢なそれに穴を開けるしかない。

 

 クー・フーリンは一際力を込めた一撃を放ち、それを弾いたことで生まれた、フェルディアの僅かなよろめき。その瞬間にルーンを綴る。

 歴戦の戦士でさえ、今この瞬間のクー・フーリンの行為は許してしまうだろう。

 激しい白兵戦の最中、突発的に魔術を行使しようとする。それは通常であれば大きな隙を晒す愚行、しかしクー・フーリンの場合、瞬きの間にやってのけるため不意打ちに近い。

 ……相手がフェルディアでなければ、というのが頭に付くが。フェルディアの目はルーンの書き始めから捉えていた。それ故に、好敵手の選択肢を潰せと頭が訴え、身体が動く。

 

 槍を回転させるように振るい、魔槍を防いでいたそれを攻撃に転じさせ、叩き落とすようにクー・フーリンの腕を狙う。

 クー・フーリンの腕を殴打する寸前、フェルディアは気が付く。クー・フーリンがそもそもルーンを綴っていないことに。

 

(────ッ、なんと!)

 

 集中力が極限まで研ぎ澄まされているからこそ生じる弊害。相手の動作から攻撃を予測しているせいで、空撃ちというフェイントには滅法弱いという弱点が浮き彫りになる。

 否、相手がクー・フーリンだからこそ、浮き彫りにさせられる。

 例えフェルディアがそこらの戦士に同様のことをされたとしても、相手の視線や思惑を向けている方向、フェイントをするための身体の動きというものがわかってしまう。

 だが、クー・フーリンの場合は別次元。真に迫る動作と気迫をもって攻撃を仕掛け、それが攻撃なのかフェイントなのかは喰らってみなければわからない。

 

 要するに、フェルディアさえも騙す判別不能の絡め手を、クー・フーリンは意図して繰り出せるのだ。

 そしてそれは、フェルディアのような戦士のウィークポイントにクリーンヒットするのである。

 

 口角を吊り上げたクー・フーリン。自らの腕に迫る一条を難なく流し、フェルディアの無防備な懐に潜り込んで魔槍で横薙ぐ。

 しかしフェルディアも直撃しまいと咄嗟に槍を引き戻し、寸でで宛てがう。が、反射神経に従って動いたことにより正確さが欠如していたため、衝撃を殺し切れずに吹き飛ばされ地面を転がる。

 

 漸く堅牢な守りを崩せた好機を逃さない、逃せない。クー・フーリンは転がるフェルディアに疾ッ! と詰め寄り、その身体の下に転移の如き速度で入り込むと、フェルディアを鋭く蹴り上げる。

 

「ラァッ!」

 

「グッ……!」

 

 刃を通さぬ皮膚を持っていたとしても、外部から与えられる打撃までもを防げる訳ではない。故、フェルディアは腹部の重い一撃に苦悶の表情を浮かべた。

 空中に打ち上げられたフェルディアに引っ張られるように、クー・フーリンは四肢に力を込めて跳躍する。

 

「な、んのォ!!」

 

 怒号を飛ばしたフェルディアは、槍を振るって身を回し、迫るクー・フーリンを撃ち落とす。が、フェルディアは目を見開いた。確かに撃ち落としたはずのクー・フーリンが、未だ滞空していることに。

 確かにクー・フーリンは撃ち落とされた。だが彼は宙に足場をつくり、それを蹴って再び跳躍したのだ。それを可能にするは『門』の応用、ルーン文字を空中に固定する秘中の技。

 

 本来のクー・フーリンがこれを行使したのなら、スカサハが大人気なくパクリ認定して襲ってくるところだが、この男はそれすら捻じ曲げてしまったので、むしろ公認の技として「使え。その度に儂を想い描け」と添えてもらっていたりする。

 

「何だ、そのルーンの使い方は!?」

 

「お前にゃ初お披露目ってなァ!」

 

 激しい空中戦。両者共互角にやり合っているが、見る者の目にはクー・フーリンが押しているように映った。

 それもそのはず。クー・フーリンは固定したルーン文字を足場にしてフェルディアへと突貫し、それが弾かれれば、またも同様に自身を射出し続け、縦横無尽に天に緋色を描く立体機動で攻め立てている。

 対し、足場がないフェルディアは五感と第六感を頼りに槍を振るっているものの、やはり行動に制限が付き纏い、堅牢な皮膚に更なる赤い線を走らせつつあった。

 

 地に足が付き、体勢を整えられさえすれば対応も可能なフェルディア。そうであると熟知しているからこそ、クー・フーリンは地面に落とさず常に彼を打ち上げ続けているのだ。

 転移のルーンや高速飛行のルーンなどを使えたのなら、この窮地を脱することもできただろう。だが、それを行使する魔力残量も暇もほぼ皆無に等しい。

 

(────詰めてきたかッ!!)

 

 故に、激しく身を躍らせるフェルディアは悟る。クー・フーリンがこの戦闘を終わらせに来たのだと。

 

 確かに、フェルディアよりもクー・フーリンの方が、僅差ではあるが強い。戦闘スタイルという側面から見て、守ることに秀でているフェルディアではあるが、クー・フーリンの攻めはそれ以上に苛烈で巧みで隙がない。

 攻撃こそが最大の防御という言葉があるように、攻め続ければ攻撃させる暇を与えないため、それは実質的な防御手段となり得る。

 その意味で、クー・フーリンは攻防共に優れた戦士だ。守るばかりで攻めの手立てが乏しいフェルディアとは違う。

 尤も、クー・フーリンが戦闘にあまりに長けているだけであって、それとほぼ同列にいるフェルディアもまた強力無比な戦士なのだが……隣の芝は何とやら。

 

 因みに、クー・フーリン自身が自らに課したゲッシュを認識していないがために、神からの祝福による能力向上に「このゾーン的なの何コレ?」となっているのは余談だ。

 

(……ああ、認めるさ。今も昔も、お前の方が強い! だが、ここで折れるようではお前の好敵手足りえないッ!!)

 

 灼熱の如きフェルディアの闘志。強敵を前にしても折れることのない不屈の心、何処までも純粋に戦いを楽しむケルトの魂。それこそがフェルディアの、戦士としての輝きの真価。

 

 遂に、フェルディアは己の持つ槍までもを弾き飛ばされ、致命的な隙を生じてしまう。

 誰もが決着が着いたと確信した。例に漏れずクー・フーリンまでもが。その一時の慢心を、フェルディアは鋭く感じ取る。

 

 慢心とは、絶対的な強者を一撃で屠り得る猛毒だ。あの金ピカであれば話は別かもしれないが、少なくともこの瞬間においては即効性の強い毒となる。

 

 鋭利さを失い、甘さを湛えた魔槍の刺突。フェルディアはそれを容易に、躊躇いなく掴み取った。

 

「ッ!?」

 

「まだ……終わっていないぞ!」

 

 魔槍の穂先が手の甲を貫き、しかしフェルディアは表情を歪めることなく兇猛な笑みで好敵手を見据える。

 そして、呆けた顔をするクー・フーリンを引き寄せ、腕を掴み、捻るようにして身動きを封じた。

 

「なッ、テメェ……!」

 

「戦闘中に呆けたお前が悪い」

 

 ルーンの足場を失ったクー・フーリン共々、地上十メートル程から自由落下していく。

 その際、フェルディアは器用にもクー・フーリンを下にさせて落ちたため、致命打となる衝撃を受けるのはクー・フーリンだった。

 

 それを瞬間的に理解したからこそ、クー・フーリンは身を暴れさせ、フェルディアの拘束から脱する。地面に墜落する寸前にフェルディアを蹴り飛ばし、その勢いで横に転がる。

 

「がッ!?」

 

「ッぐゥ!」

 

 大地に垂直に落下はしなかったが、しかし両者共が相応のダメージを受ける。

 膝を着き、肩で息をしながらも、互いを認め合う好戦的な笑みを向け合う。

 

「……あぁ、クッソ……油断、しちまったぜ……」

 

「ハッ、そのおかげで……まだ戦いを、続けられそうだがな……!」

 

 これだけの激戦を、しかも数時間も繰り広げておきながら、未だ鎮火しない戦意を滾らせるクー・フーリンとフェルディア。

 

「……それにゃあ同意だが、そろそろ決めようや」

 

 息を整え、血と汗を拭いながら立ち上がるクー・フーリンは、視線を地平線へと向け、それに連なってフェルディアもまた目を向ける。

 視界に入るは今にも沈み切りそうな太陽があった。もうまもなく夜の帳が下りる。

 

「暗くなっちまえば何も見えなくなる。なら辺りを照らせばってのは、まあ、その通りなんだが……」

 

「これ以上は殺し合いになる、か」

 

 言葉を引き継ぐフェルディアの発言。それを肯定するクー・フーリン。

 

 フェルディアにとって、ここで死に果てようとも文句はない程に甘美で熾烈で満足のいく戦闘だったため、殺し合いは本望だった。

 だが同時に、ここで死ぬのは勘弁願いたいという気持ちもあった。何故なら、ここで死ねば好敵手に敗北したという結果を飲み下さねばならなくなるからだ。

 負けっぱなしで終われない、終わりたくない。もっとクー・フーリンとの戦いを楽しみたい。自身に更なる成長の兆しがあるのだから、ここで潰えるには悔しい。

 戦士として誉ある死を望むケルトの側面と、未だ死ぬ訳にはいかないと訴えかけてくる個人の側面。それらは水と油のように決して混ざり合うことはないが、それでも、フェルディアはこの瞬間において生きる道を選んだ。今後の更なる死闘を夢見て。

 

「これは決闘。だからよ、次の一撃で終いにするつもりはねえか?」

 

「……フッ、悪くはないな」

 

 クー・フーリンの提案、それは極々シンプルなもの。正面から同時に攻撃を仕掛け、どちらが上かを判断する。よくある一騎打ちのイメージだ。

 

 それを是としたフェルディアもまた立ち上がり、転がる槍を回収した後に、クー・フーリンに向き合う。

 

「「────」」

 

 百メートルは離れた距離から、三度目となる視線の交錯。両者の顔は能面の如き無表情。乱れた精神を統一し、何の技を以ってして雌雄を決するかを選択しているのだ。

 そして意識を覚醒させるように、互いに目を見開いて槍を構える。

 

 銃に弾丸を込めるように、燻った戦意に再び火を灯し、全身に滾らせるクー・フーリンとフェルディア。

 言葉では語り尽くせない歓喜と高揚感に身を震わせ、そこに程よい緊張感と、遂に戦闘が終わってしまうという残念さが加味され、不和なく同居する。

 

 彼らを見守る者らには、この空間の静謐な熱気が可視化しているようだった。また、衝突寸前の緊張感が、己が火にゆっくりと焼かれているという錯覚をもたらす。

 そして戦場の誰もが声を発する方法を忘れたように、 口を引き結んでいた。

 

 

 

 不意に、戦場に一陣の風が吹く。

 

 

 

「「────ッ!!」」

 

 瞬間、クー・フーリンとフェルディアは同時に地を蹴り、その強靭さによって地面が砕けて舞う。

 初速から最高速度を叩き出す両者。その衝突は一秒と経たずに訪れる。

 

 

 

 

 

 

 辺りが闇に覆われる直前、戦場で緋色の煌めきと鈍色の輝きが交わった。

 

 

 

 ◆




◆補足

Q.(偽)がめっちゃ好戦的やんけ!
A.殺しをしないだけであって、戦闘行為そのものは最早慣れ親しんでいたり。まして、自身のライバルが相手なんだから、ここで心が燃えずして何が戦士か!

Q.今回はネタ成分控え目やね。
A.そやで(肯定)。今回は真面目な戦闘回だったので、そういったギャグなりネタなりは意図して控えました。ぶっちゃけると、三人称視点で脊椎反射トークを書く方法がよーわからんくて匙を投げただけだったりする(自白)。

Q.フェルディア、お前、消えるのか?
A.もちっとだけ続くんじゃ。


  ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。今回は三人称視点でお送りしたVSフェルディア回でした。初めて真面目に三人称視点で書いてみたので、戦闘の描写が上手く伝えられているのかがわかりませんが、現状のベストは尽くしました。
 今までのストーリーの本筋は神話のイベントを回収するよう書いていたのですが、次回からは神話から乖離した内容を本格的に書いていく予定ですので、読者の皆様からは多くの賛否両論どころかバッシングノアラシ!(^p^)が予測されます。それでもめげずに書きはしますが、あまりに感想欄で囲って殴られると、某番組の石橋〇明さんの「ぶっ〇してやる!!」みたいなアレになるので、控え目にしていただければ私は非常に助かります。
 また、次回からはストーリー的に難産になる可能性が高いので、不都合がないよう整合性を取りつつ書くため時間がかかると思われます。ので、「執筆から逃げるな」と言われても仕方が無いレベルに次回更新は遅くなることが見込まれます。それでも書いていくので、今しばらくのお付き合いをお願いします。




















 
 ニコニコ静画で上がってた、大泉洋がカルデアのマスターになるイラストほんとすこ。特にタグのイカレ飯太郎で藤村君みたいな笑い声出て尚のこと抱腹絶倒したわ(戦慄)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。