転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。   作:texiatto

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 明けましておめでとうございます!(激遅)

 今回は(偽)ニキ視点ではありますが、真面目戦闘回なのでネタ要素はほぼないです(白目)。というか三人称視点的な書き方になってもうてる……。これ一人称視点でやる意味ありゅ?()


突き穿つ死翔の槍

 ◆

 

 

 

 俺達が捻出した戦闘プラン、それは非常に淡白なものだった。

 俺と師匠がモリガンを相手取り、師範とフェルディア、メイヴ、レーグ、エメルが傀儡達を引き留める。

 最悪のケースは、モリガンが傀儡達へ直接指示を飛ばせる環境をつくってしまうこと。それを回避するために、二手に分かれて戦いましょってことだ。

 

 当初は全員でモリガンを叩くと意気込んでいた。たが、冷静になって考えてみれば、それでは互いの猛攻で互いの動きが阻害されてしまい、連携もあったモンじゃないって気が付いた。

 だから、個人としての戦力が高く、それでいて少数でカバーし合える、というのが重要になる。

 俺はモリガンを引き付ける必要があるとし、必然的にアイツと戦わなければならない。とすれば、俺の力量を熟知していて、俺に合わせる以上のことができる、俺以上の武人でなければならない────即ち、師匠たるスカサハが適役だった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「勇ましいのは結構だが、蛮勇だな」

 

 両手に槍を出現させたモリガンが、右手の槍の穂先を俺と師匠に向ける。それと同時に、改めて充填された殺意がレーザーのように俺へと照射される。

 今のモリガンは、すわ魔眼と見間違うレベルのマジで目だけで射殺せるソレをしていた。

 ……怖い、怖くない? 女性のガチの睨みってホントに怖いんだけど、それがマジで殺意マシマシとか魂から凍えちまうぞ。

 

 だが、もう巫山戯てはいられない。今からおっ始めるのは本当の殺し合い、生きるか死ぬかの戦争。刹那の無用な思考すら命取りとなるだろう。

 

 魔槍を構え、戦意と魔力の高まりを感じつつ、全神経を研磨している傍らで師匠にアイコンタクトを送る。

 一瞬だけ目が合うと、師匠は視線をモリガンへと投げかけた。なるほど、一番槍は任せるということですか。

 

 俺は今まで殺しはしたくないとダダをこねてはいたが、コイツだけは別。殺らなきゃ殺られるし、そうしなきゃ皆を解放できない。

 

 また都合がいいことに、モリガン相手には何時の間にか立てていたゲッシュには抵触しないだろう。

 相手は人外で神。そして万民を操る巨悪ときた。正しく力を振るうべき敵だ。

 

 であれば、俺は心置き無く槍を振るえる。容赦など介在せず、持てる全てを賭けられる。

 誰かの命を奪い、人生に幕を閉じさせるためではなく。他者を守護し、無辜の民を救うため。それは真に英雄足り得る偉業。

 

 これまでクー・フーリンの背を追いかけ続け、激動の中でなし崩しに戦いの日々に身を投じていたそれとは異なり、これは初めて自分の意志で為そうとすることだった。

 

 不殺の信念を抱いた時点で、兄貴を目指すのではなく、兄貴らしさを保ちつつ自分の信念を貫こうと決心した。

 しかし一方で、やはり心のどこかにはクー・フーリンの幻影がチラついていた。

 彼に近付きたい、彼のようになりたい、彼のように行動したい。だから力を身に付け、人を助け、武勇を創出したい、と。

 

 けれど、もういい。そんな中途半端な覚悟とは決別しよう。

 

 俺は俺として刃を振るう。その結果として、神話に記されることなく埋没したとしても。愚直に理想を追い求めた代償として、何も成せずに得られずに死んだとしても。

 

 クー・フーリンとしては失格だろうが、俺はそれでいい、それで充分だ。だから俺は、取るに足らない戦士の一人として戦いに臨もう。

 

 

 

 さあ、始めよう────神殺しを。

 

 

 

 極限まで引き絞られた矢の如く、俺は駆け出した。高スペックな肉体から弾き出される速度は、正しく神速の域。

 

 瞬時にモリガンの眼前に躍り出る。

 

「ハッ、愚かなッ!」

 

 速度を上乗せした刺突を、モリガンは槍の一振のみで相殺させてみせた。

 ただ力任せに振るったのではなく、的確なタイミングと最小限のパワーで弾き返し、それを即座に見定める慧眼と智能でもって攻撃を殺しきる。

 それのみで理解するモリガンの力量。間違いなくモリガンは俺よりも遥か高みに座する強者だった。

 

 弾かれたことで魔槍と共に身体が浮き上がった隙に、モリガンのもう一条の槍撃が差し込まれる。

 心臓に吸い込まれるそれを、俺は身を捻じることで躱し、その返礼として引き戻した魔槍を斜めに振り下ろす。

 描かれた緋色の線はモリガンへと迫り、しかし直撃はせず。モリガンは、その攻撃が視えていたかのように、脚を一歩動かすのみで避けてみせた。

 

「何だ、威勢だけかッ」

 

 すかさず打ち込んでくる一閃を魔槍の柄で受け止め、続く連撃を反射神経にものを言わせて捌く。

 

 ────焦んなよ、まだ始まったばっかだろうが! 

 

 俺が声を荒らげた途端、頭上から迫る殺気────俺に向けられたものではないが────を感じ取り、モリガンの攻撃をいなして後方へと跳ぶ。

 

「────そぉれッ!」

 

 師匠の凛とした声と共にモリガンに降り注ぐ緋色の雨。一条ごとが致命を狙った無数の必殺。

 

「無駄だ」

 

 されどモリガンは、左に持つ槍を高速で回転させることで緋色の雨を弾き、打ち落とす。防御を掻い潜る僅かな魔槍は、舞踏さながらの足捌きで躱していく。

 

「シッ!」

 

 無数の魔槍が全て弾かれると、次は師匠が彗星の如くモリガンに襲いかかる。

 魔槍と同色の光を揺らめかせた刺突。それは俺のとは比べ物にならない程の破壊力を有しており、その証拠にモリガンの槍による防御を容易く崩してみせた。

 

「ッ、不敬な!」

 

「悪神に払う敬意など無いのが道理よ!」

 

 師匠はモリガンに息つく暇すら与えない勢いで攻め立てる。

 刺突、殴打、薙ぎを織り交ぜた変則的な連撃。更に、もう一条の魔槍を複製しては射出していく嵐のような猛攻。

 緋色と鈍色の軌跡が激しく交錯し、火花による明滅を伴いながら金属音が響き渡る。

 

 傍から見て分かるレベルの師匠の本気具合も凄いのだが、それに追従以上の槍術で的確に弾き続けるモリガンもまた凄まじい。

 未だ槍術しか情報を開示していないが、モリガンの力量は師匠のそれとほぼ同格だろう。即ち、俺よりも強いということに他ならなかった。

 

 だが、だからといって傍観に徹するはずもない! 

 

 師匠の幾度目の攻撃をモリガンが弾いた刹那、初速から最高速度をもってモリガンの懐へと飛び込む。

 背を丸めた姿勢から、全身を駆使した横薙ぎ。しかしそれは、モリガンの左手に握られた一条の槍によって防がれる。

 

「そこッ!」

 

「甘いわッ!」

 

 俺の攻撃が受け止められたのを見計らい、師匠が俺の頭上から魔槍を撃ち出す。

 降りかかるそれを、右手の槍で正確に打ち落としていくモリガン。

 コイツの注意が散漫になったところで、次は俺のターン。低い姿勢を活かしてモリガンに足払いを仕掛ける。

 

「ッ!」

 

 槍術では敵わないだろうが、生憎と、俺が師事したのは多芸な戦士を育て上げるスカサハだ。勝つためなら何でもやる、とまではいかなくとも、己の持つ全てを駆使することなく勝敗を決定してしまうことこそ失礼。そのように教育されてしまったのだから、尋常な勝負であっても小細工は積極的に用いていく。

 

 モリガンが体勢を大きく崩したことで、師匠の射出する魔槍への対応が疎かになり、数条がモリガンの身体を掠める。

 だがそれで終わることなく。俺が仕掛けると察知していたのか、跳躍していた師匠は体勢の崩れたモリガンの真上から落下し、魔槍で穿とうとする。

 

 瞬きの間に串刺しになるであろう瞬速のそれ。何時ぞや師匠にやられた、一瞬にして踏み込まれ、武器を弾かれ、首に刃を添えられるという一連の速度すらを超えていた。

 

 しかしモリガンもまた、飛び抜けた戦闘技能の持ち主だ。刹那に満たない殺気ですら鋭敏に感じとったのか、残像が形成されるレベルで飛び退いた。

 直後、魔槍がモリガンの残像を脳天から穿つ。が、そこから師匠は着地と同時に縮地で鋭角な軌道を描き、モリガンに突き進む。

 

 魔槍による刺突から始まり、両手で魔槍を巧みに踊らせて回転させた連撃、不意に魔槍を足で受け止め制止させたと思えば、それを蹴り上げて回転の向きを変える。

 

「予見すら行使せんとは、随分と舐めた真似をしてくれる」

 

 二条の槍で此方もまた巧みに捌くモリガンに対し、師匠は立て続けに猛攻を仕掛ける。

 

 回転から横薙ぎへと転換、次の構えに移行する僅かな隙を複製した魔槍の射出によって潰し、魔槍による三段突き、地に突き刺した魔槍を軸にした蹴り、浅く持つことで威力を増した叩き付け────苛烈という言葉に尽きる。

 

「ええいッ、鬱陶しいッ!」

 

 そんな猛攻を、憤怒に彩られながらも的確に弾き続けるモリガン。激情の渦中にいながらクールに技量を示していた。

 二人の戦闘の領域は正しく人外のそれ。攻撃、防御、速度、反応、智慧────どれを取っても比類を許さない。

 

 モリガンの相手を師匠にほぼ任せ切りなのが悔しいが、前提からして俺ではモリガンと打ち合うことはできなかっただろう。

 いくら俺にクー・フーリンというハイスペックな肉体があったとしても、流石に戦神相手に肉薄するのには無理がある。

 

 それを理解していたからこそ、作戦会議の時点でこうなることは想定済みだった。

 

 結局のところ、俺はモリガンを引き付けるデコイでありながら、死闘を終わらせるキーマンでもある。

 尤も、切り札が機能するか否かは試してみなければわからない、という不確定要素が根本にあるのだが。

 

 二人の繰り広げる激戦を見て、俺は改めて魔槍を握り締める。

 

「ッ、後退せよクー・フーリンッ!」

 

 不意に師匠が目を見開き、珍しく声を荒らげた。途端に俺の全身を突き刺すような殺意が襲い、得体の知れない何かに怯えるように、直ぐに逃げろと頭が警鐘を鳴らす。

 

 危機感知に従って飛び退いた瞬間、モリガンから広範囲に渡る白い衝撃波が放たれた。

 某暗魂で言うところの『神の〇り』、某鎧核で言うところの『アサルト〇ーマー』のようなソレだった。

 

 圧倒的な魔力の波動は師匠との打ち合いを強制的にキャンセルし、その身を吹き飛ばす。

 

 回避できたからよかったが、もし直撃していたのなら俺はどうなっていたか。推測の域を出ないが、あの師匠を力技で飛ばすだけの奔流だ、割と真面目に木端微塵にでもなっていたのではないだろうか。

 こんなところでフ〇ムの悪意を見せつけられたようで驚いたが、それ以上に、今の衝撃波が単なる魔力放出の副産物というのに驚愕する他なかった。

 

「我が下賎な貴様らに罰を下すに、態々真正面からやる必要もなかろう」

 

 仕切り直すように、モリガンは背に翼を広げて飛び立つ。

 

「種として、理として天上に座するが神。ならば、貴様らは地より仰ぎ見るが画然たる在り方よ」

 

 モリガンの肉体に纏わり付く可視化した魔力が、空中に幾何学模様の魔法陣を何十と描く。

 アレは何だと喚く必要もなく、視界に収めた段階で魔法陣の用途を理解する。

 

 メディアさん然り、セミ様然りのビーム的なヤツじゃねえか……!! 

 

 溜め込んだ、というより、根源から直接引っ張ってきたと言った方が正しい膨大な魔力が、魔法陣という銃口から赤黒い魔弾となって撃ち出される。

 

 初撃を寸でで躱すが、魔弾が直撃した地は劈く破砕音を伴ってクレーターを形成していた。全身がひりつくような殺傷能力を魔弾から感じ取り、額から冷や汗が流れる。

 次弾とそれに続く閃光は豪雨のように連射され、俺は視界で捉えてからの回避では間に合わないと直感し、自らの危機感知能力を鋭利にすることで、感覚的に避ける、避ける、避ける。

 直撃は免れていたが、僅かな掠り傷が次第に増えていき、その度に身を内側から焼かれたような痛みに襲われる。

 

 合間に師匠へ視線を送れば、師匠は魔槍で魔弾の尽くを粉砕していた。涼しい顔で淡々とこなせるのは、魔弾を砕ける程の魔力を瞬間的に魔槍へ纏わせたからだろう。

 

「ふむ。存外、上手く逃げるではないか。では追加だ」

 

 嘲りが多分に含まれたモリガンの言葉。それが発せられると同時に、数十あった魔法陣が空を埋め尽くさんばかりに増加する。総数は数百、数千とあるだろうか。

 

 ────滅茶苦茶やりやがるッ……! 腐っても神か! 

 

 思わず渋面を作ってしまう俺。現状でさえ必死に回避するのがやっとだというのに、息をするように攻撃を激烈化させられたのだから。

 

「ん、面倒な……」

 

 師匠もまた僅かながら眉をひそめ、振るう魔槍の速度を上げていく。……それはそれとして、これを面倒で済ませられる師匠、やっぱすげぇわ。

 

 意識を眼前に向け直す。

 

 これ以上の一方的な攻撃は許容できない。いくら最速の英雄と名高きクー・フーリンであっても、そもそも行動範囲を塗り潰すだけの広範囲殲滅をされては厳しいものがある。

 そして、現状の防戦一方ではモリガンを倒すことはおろか、攻撃を届かせることすら不可能。攻撃こそ最大の防御とはよく言ったものだ。

 

 ……早期に手の内を晒したくはないが、この際仕方がない! 

 

「何をしようと無駄な足掻きよッ」

 

 俺の目の色が変わったのを感じ取ったのか、モリガンは数千とある魔法陣から一斉に赤光を照射した。

 コ〇ニーレーザーやメ〇ントモリの如き、全面を余すことなく灼熱に包むそれが迫る、迫る、迫る。

 

 ────無駄なモンかよッ!! 

 

 やられない……やられてたまるものか! 左手を地に落とし、俺の所有する全てのルーンを用いた守りを形成する。

 

 それは上級宝具すら凌ぐ堅牢な守護。

 

 熱線が直撃する。障壁と赤光が衝突し合い、大気を震動させ、間近でジェットの爆音が発せられているような轟音が響き続ける。

 障壁を通して凄まじい負荷が肉体にのしかかり、さながら投げボルクを受け止めるアーチャーのよう。俺がクー・フーリンだけど。

 

 ────ああッ、あ、あああッ!!! 

 

 くっ、この程度のGに身体が耐えられんとは……! と、思わず口にしたくなる衝動を抑えつつ、全身全霊の力を込めて受け止め続ける。

 

 三秒経過────俺にだけ数倍の重力がかかっているような、全身を押さえ付けられる感覚が次第に強くなる。

 

 五秒経過────ばきり、と氷にヒビが走るような音と共に、障壁に亀裂が生じ始める。いくら上級宝具を凌ぐだけの守りだとしても、神の放つ熱戦に耐え続けるなど困難を極める。

 

 十秒経過────負荷によって身動き一つとることができず、守りも粉砕する直前。身体が軋み、血を吐き、それでも歯を食いしばって根性で耐える、耐える、耐える……! 

 

 

 

 

 

 

 光が収束し、俺にのしかかっていた負荷が消え去る。爆音も収まり、一転して静謐に満たされた。

 

「……耐えた、だと?」

 

 素直に驚いたとわかるモリガンの声が酷く谺する。先程のゲロビが切り札などということはないにしても、アレを耐えきるとは露程も思っていなかったようだ。

 まあ、消し炭になる寸前だったんですけどね? それでも俺は空元気で不敵な笑みを向けてやる。

 

 ────呆けてる暇があんのか? 

 

「そのような有様で何を────ぐッ!?」

 

 空中に停滞するモリガンに向けて、鋭い緋色の線が飛来する。

 それは師匠が投擲した魔槍。空間が歪んで見える程の力が込められた呪いの槍は、必殺の一撃を叩き込むための一投目。

 

 咄嗟に回避行動に移ったモリガンだったが、正確に放たれた魔槍は僅かな隙を逃すことなく左肩を穿ち、空間に縫い止めることで身動きを封じた。

 

 ふと視線を動かすと、続く魔槍を構える師匠の姿。傷一つないところから察するに、俺と違ってゲロビを防ぎきったらしい。

 師匠の魔槍から緋色の光が揺らめき、角度がつけられた構えによって穂先がターゲットを捕捉する。

 

「手を抜いたのが祟ったな!」

 

 そうして紡がれる詠唱、真名解放。

 

「刺し穿ち、突き穿つ────『貫き穿つ死翔の槍』!」

 

 生オルタナティブを初めて見聞きしたことで俺の中の型月ファン魂が荒ぶる。荒ぶり過ぎてアラガミになってしまったわね……と空気を読まない胸中と格闘している一方で、投げられた魔槍はモリガンに迫る。

 

「な、んのッ!!」

 

 膨大な魔力を引き出したモリガンは、全方陣から赤光を放ち、たった一条の魔槍へ攻撃を集中させた。

 だが投擲された魔槍の勢いは一切衰えることなく、赤光を引き裂き続ける。

 

 エミヤが口にしたように、ゲイ・ボルクによる一撃必殺の投擲は、懐に入れさえしなければ単に鋭い一撃に過ぎない。

 師匠の投げボルクはクー・フーリンのそれとはそもそも別格なのだが、受ける側が師匠と同格で、しかも真性の神となれば、扱いとしては兄貴のそれと同程度なのだろう。

 

 だったとしても、身の自由を奪われた状態で万全な対応ができるはずもなく。

 

「っぁ────ッ!!!?」

 

 半ば反射的に槍を宛てがうも砕かれ、必殺の緋がモリガンの心臓を穿った。同時に、展開されていた魔法陣が霧散する。

 数多くの神秘を葬ってきた一撃をモロに食らったのだ、タダでは済まない。そのはずなのだが、

 

「がッ……ぐぅぅ……! 我に血をッ、流させるなどッ……!」

 

 穿たれた胸部からおびただしい量の流血をしつつも、命が絶えるような兆しはなく。明らかな致命傷だというのに、モリガンは未だ健在。

 つまり、師匠の『貫き穿つ死翔の槍』をもってしても、モリガンを死に至らしめることは叶わなかったのだ。

 

 予感はしていた────師匠の魔槍でも殺せない可能性を。

 

 モリガンはケルトの地にて勝利を支配する戦女神として崇拝されているらしく────俺は知らなかったが────勝利を司る神として存在しているからこそ、戦闘行為が横行するケルトでは信仰されているといえる。

 いくつかの意味で欲に忠実な様を見れば、モリガンこそがケルトらしさを体現しているのかもしれない。

 

 ここで問題になるのは、モリガンの『勝利』が如何なる性質として現れているかだ。

 

 神々の有する権能とは、例えば、『燃やす』という権能があれば脈絡も原因もなく対象を燃やすことができ、『水を出す』という権能があればそこに水が有ったということにできるなど、理屈ではなく『そういうもの』として成立している割と出鱈目な力だ。

 

 であれば、モリガンの『勝利』は? 

 

 魔槍による一撃必殺のように『勝ったという結果をつくってから戦いに臨む』という因果逆転だったのなら。

 言葉遊びのようにも聞こえるが『必ず勝つ=死という敗北がない』という不死性をもたらしているのなら。

 どれだけ劣勢に立たされたとしても『あらゆる補正が働いて勝利という結果を運命付ける』という改変であるのなら。

 

 正確な性質は不明だが、少なくとも師匠による魔槍で存命というケースは予測済み。

 最悪、『貫き穿つ死翔の槍』をモリガンの足止めに使うという贅沢な選択肢すらあった。

 

 まあ、この最悪を選択しなければならないのだが。

 

「行けッ、クー・フーリン!」

 

 師匠の声に背を押され、俺はルーン魔術でモリガンの頭上へと転移する。探知をされないという特性を持つこれのおかげで、俺はモリガンに気付かれることなく移動し、自由落下する。

 

 ────行くぞ。この一撃、手向けとして受け取るがいいッ! 

 

 口上と共に魔槍の呪いを全開させ、にありったけの力を注ぎ込む。そこへ、俺が獲得した『死』を上乗せさせる。

 本来のコレは、心臓に命中させるのではなく、一撃の威力を極限まで研ぎ澄ませたものだ。

 だがここに『死』を上乗せしたのなら、魔槍の持つ呪いと相まって、死なない相手でさえ死に至らしめる一条と成り得るだろう。増して、相手が無防備且つ回避不能となれば、期待する価値はある。

 

 ここまでお膳立てしてくれた師匠に感謝する他ない。だからこそ、ここで仕留めるッ! 

 

 全身全霊をこの一投に込める。魔槍と同色の光が穂先から迸り、禍々しさが否応なしに絶対的な破壊力を物語る。

 

 直前になってモリガンが察知し、こちらに顔を向けるが、もう遅い。

 

 

 

 ────『突き穿つ死翔の槍』ッ!!! 

 

 

 

 放たれた緋色の線は、モリガンを確かに貫いた。

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.今回一人称視点でやる必要やった?
A.皆まで言うな、宣告承知だ(ブシ仮面)。

Q.モリガンの手抜きって?
A.下記に書いとりやす(白目)。

Q.貫き穿つ死翔の槍を食らって五体満足とかモリガン頑丈過ぎひん?
A.戦神やぞお前!(豹変&はぐらかし)

Q.『死』だけで殺せるん?
A.無理じゃね?()


◆今回のキャラ別の活躍
▶師匠
今回のMVP。クー・フーリンを死なせまいと本気になり、神殺しの異名が伊達ではないことを存分に示した。モリガンが本気でないのをいいことに、やりたい放題やった。余談だが、クー・フーリンと共闘できて割と御満悦。これをネタにヒロインズを煽り倒す予定が組み上がった。

▶モリガン
最後にボられた神。最低限クー・フーリンだけ殺れればいいや、とか思ってたら親玉の真ん前に引きずり出された。本来であれば相手の行動を先読みする千里眼的な力を用いるのだが、神が人間如きに本気になるとかプライドがアレしますわ、とか思って手を抜いて使わなかった。それをスカサハに看破されて結果ブチ込まれた。死んだ?はは、知らんのか。モリガンはまだ進化を三回残している(大嘘)。

▶(偽)ニキ
活躍を師匠にほぼ奪われた主人公()。モリガンを煽って師匠の前に引っ張ってきた時点で役割の九割が終わった。一割は画竜点睛。師匠とモリガンの人外魔境なリアルファイトを見せられ、自分の力量では到底適わないことを再確認した。今回こいつの一人称視点でやる必要性を疑問視したのは幾度とないのは言うまでもなく。


 ↓ここから雑談↓


 お久しぶりです、texiattoです。新年一発目の投稿が、まさかの一月中旬という。まま、えやろ。あ、そうだ(唐突)。福袋で魔神さん引いて見事に宝具5になりました(轟破天隙自分語)。初めての星5宝具5ということでテンションがハイになってコメカミグリグリとかやってたんですけど、その横で何食わぬ顔でギル君宝具5にするまで回し続ける友人がおって戦慄。必ず邪智暴虐の課金を除かねばならぬと決意しました(意味不明)。
 今回はモリガンとの死闘編でした。一応はモリガンのチートスペックを描くために、引き合いとしての師匠を暴れさせたのですが、これがまた難しいねんな。戦闘描写を描き続けると「よっしゃ結構書いたで!」と満足気になって、改めて読み返してみると「内容も文字数もうっすいなぁ」となり、再び描き続けるというループに襲われるので、これがまた難しいねんな(天丼)。
 次回については、ところ変わってアイフェ達の三人称視点にする予定です。といっても構想のこの字もない現状ですので、やはり時間がかかるのは否定できないですね……。ということなので、気長に待っていただけると幸いです。それではまた次回!






































※以下蛇足

僕「聖杯くん!聖杯くん!ミッツァイルくんが僕をいじめるんだ!ただ5Cコンを使いたいだけなのに!」

『ならこれを使うといいよ!デンドウナール!これでミッツァイルくんを半身浴させてあげなよ』

僕「わぁい^^ありがとう聖杯くん!これでミッツァイルマスターズじゃなくなるんだね!早速ぶち込んでくるよ!」

僕「ふざけるな!ミッツァイルがいなくなったら今度はデイヤーが暴れ散らかしてやがる!というかミッツァイルより強いじゃねえか!こんなの(パワーバランスの)天秤があべこべだ!」

僕「デイヤーを殺す零龍墓地ソ!?ダメだ速すぎる!殺人的な加速だ!(ゼクス並感)到底僕のデッキでは追いつかない!」

僕「青白ネバーループ!?畜生、盾殴ったらループされて負けたぞ!?馬鹿野郎ロマノフかよこの野郎!(アウトレイジ)」

僕「白緑ネイチャーファイブスター!?ダメだ、バルチュー引かせないとダンテストップで確殺される!これが人間のやることかよォ!?(アスラン)」


 それでも僕は楽しく生きてます(レ〇プ目)。

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