転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。 作:texiatto
◆
クー・フーリンとスカサハが、モリガンに魔槍を馳走している頃。戦車を走らせながら、レーグは努めて冷静に戦況を俯瞰していた。
(操られている戦士達の八割はアイフェさんが相手をしてくれている。残りの二割はメイヴさんが呼び出したらしき戦士達と、僕とで何とかなっている)
ふと後方に視線を向けてみると、戦車に追い付かんとする戦士達が。
一様に目に胡乱な光を灯し、獣のような唸り声を上げながら疾走する。そんな彼らを見て、レーグは悲痛な表情を浮かべた。
(……今は目の前のことに集中しよう)
手綱を弾き、戦車を引く二頭の馬に指示を飛ばす。と、戦車は緩やかなカーブを描く。
それを見た戦士達は、直線距離でもって最短を詰めてくる。理性も意識も失われてはいるが、彼らとて屈強なケルトの戦士なのだ。
戦士達の中でも一際速い者らがレーグへと接敵する。
「──────ッ!」
もらった、とでも言うかのように、接敵した戦士の一人が跳躍し、右手に持つ剣を振りかぶる。
太刀筋がレーグの首を捉え、鈍色の線が首を断つ────直前、戦士の視界からレーグの姿が掻き消え、ターゲットを見失ったがために勢いのまま地面へと転がった。
唐突にレーグが戦車諸共姿を消した。このことに、レーグを追っていた戦士達は困惑によってその足を止める。
途端、"見えない何か"によって次々と戦士達が撥ねられていき、剣が砕け、槍がへし折れ、鎧がひしゃげ。
不可解な事態に対し、彼らが乱雑に武器を振るい始めた辺りで、少し離れた位置にレーグが姿を現した。
「不可視の魔術。とても中途半端な効果だけれど、連発しなければ不意打ちにはもってこい、かな?」
真剣な表情を崩し、一人ごちるレーグ。
彼がやったことは非常に単純明快。
自身を追ってくる相手に対して、あえて接近を許す行動を取る。そうすればほぼ間違いなく彼らはのって来る。
攻撃行動をさせ殺った、取った、と思わせておいて回避行動に移る。その際に不可視の魔術を行使してやれば、音や気配までもを消せなかったとしても、視覚情報に出たエラーが反応を鈍らせる。
ただ、ここで逃げるのみだと戦士達を引き付けることは難しい。逃げの一手しか取らないのなら、極論、無視されかねない。
だから回避行動の終わりには攻撃も忘れない。ヒットアンドアウェイを心がける。
そうしてやれば、
「「「「──────ッ!!」」」」
再びターゲットことレーグを捉えた戦士達は、不意打ちと被ダメージから生じた苛立ちに突き動かされ、戦車に向けて愚直に駆け出す。
「うわ……凄い気迫。以前の僕なら、間違いなく腰を抜かしてたな」
無意識の内にレーグの口元は弧を描いており、それに気が付いた彼は手で口を押さえつつも苦笑した。
それも仕方がない。以前のレーグは気弱で卑屈、成長など有り得ないと諦めていた。それが一変したのは、クー・フーリンと出会ってからだった。
彼によって進むべき方向性を示され、心までも救われた。これまで努力が実らず、端から諦めていたレーグにとって、クー・フーリンとの邂逅は人生のターニングポイントになり得たのだ。
それからは激戦の日々。海獣討伐のお供によって英雄譚の一頁を見届けたのに始まり、影の国に足を踏み入れてスカサハとアイフェとの接触、アルスターでの魔獣狩り、コノートとの戦争と獣に堕ちたクー・フーリンの救出、アルスターとコノートの一騎打ちの見届け人、そして今。
これらの経験は、レーグを心身共に成長させるには余りあった。
────全てはクー・フーリンがいたからこそ。
「さ、次はどんな手で引き付けようか。あんまり手段に数はないんだけどね」
ただ、共に駆ける"彼"がいなければ、やはり寂しくもあった。
狭いはずなのに広く感じる戦車の上で、レーグは"自分にとっての英雄"のために知恵と手綱を振るい続ける。
そこに以前の彼の姿はなく。在るのは、英雄の友に相応しき勇士。後に"御者の王"として名を残す勇敢な戦士の姿だった。
「アッチも頑張ってるみたいね」
足を組みながら優雅に戦況を把握するメイヴ。彼女の視線はレーグの姿を捉えており、彼の奮戦を素直に評価する。
「細長くって弱っちいヤツだと思ってたけど、クー・フーリン程じゃないにしろ案外いい勇士ね。確かレーグとかいったかしら。クー・フーリンをオトせば付随して手に入れられるわね!」
「……戯言はそこまでにして下さい」
「別に巫山戯てないわよ! この世のイイ男は全て私のモノにしたいだけ。……まあ、クー・フーリンだけは超特別枠なんだけれど」
頬を染め、しおらしく身を捩らせるメイヴに、エメルは青筋を浮かべつつ眼光を飛ばす。
「あらやだ、もしかして独占欲? わからなくもないけど、そればっかりだと身を滅ぼすわよ? 私としては大歓迎だけどね!」
むふふ、と勝ち誇った笑みを浮かべるメイヴに、心の奥底で負けを認めてしまうエメルがいた。
現在の彼女は正しく非戦闘要員。スカサハのような巧みな槍術もなく、アイフェのような豪快且つ強大な魔術も使えず、メイヴのような特異な能力もない。
クー・フーリンの隣にいるためには力がいる。そう定義付けていただけに、自身の戦闘能力のなさに嫌気が差していた。
(私には何がある? 彼に対する絶対の愛なら。でも、それを表現するだけの腕がありません)
一朝一夕でどうにかなるものではないと理解していながら、スカサハ、アイフェ、メイヴを思い浮かべ、エメルは非力な自分と比較してしまう。
(……何故、あの程度の力で舞い上がってしまっていたのでしょう……! 何故、私には力がないのでしょう……!)
自身だけが役目がなく、足枷となっている現状にエメルは歯噛みする。
視線を移動させると、彼女の視界にはフェルディアとフェルグスの熾烈な争いが収まる。
(私も、彼らのように戦える力があったなら。……欲しい、他を圧倒するだけの力が……! 彼に捧げられるだけの勝利が……!)
今は戦車から戦況を伺うことしかできないエメルだが、後に"異国の地"にて台風の目となることを、彼女はまだ知らない。
無銘の槍を巧みに操るフェルディアは、自身の尊敬する勇士の一人であるフェルグスとの戦に臨んでいた。
モリガンによって自我を封じ込められ、言葉すら介さない獣のように武力を振るうだけの傀儡と化してしまったフェルグス。
篤実な彼の誇りを守るためにも、一刻も早く傀儡から解放せねばならない。だがこれを解けるは術士たるモリガンのみ。
であれば、フェルディアの選び取る択はひとつ────フェルグスの手が汚れることがないよう、己がここで押し留める。
「ふんッ!」
「──────!」
飾り気の皆無な鈍色の槍で、フェルディアは刺突や薙ぎを織り交ぜた攻撃を仕掛けていく。
激しく振るうのではなく、堅実且つ着実に重ねていくのはフェルディアらしく。実に嫌らしいタイミングでベストな一撃を繰り出せるのは、彼の十八番があってこそ。
師たるスカサハに重点的に極めるよう教え込まれ、好敵手たるクー・フーリンをも技術で圧倒する、類稀なる資質。
それは、未来視をしているのではないかと錯覚する程に正確無比で堅牢な守り。攻めに転じれば対峙した相手の弱点のみを突き続ける攻防一体の戦闘スタイル。
唯一無二の強さを持つフェルディアの前では、如何なる戦士ですら手の内が赤裸々となり、即座に追い込まれてしまうだろう────が、しかし、フェルグスもまた万夫不当の歴戦の強者だ。
「………………ッ!」
緻密な技の積み重ねを圧倒的な力で捩じ伏せるように、轟ッ! と空を裂く螺旋剣の一閃。それを後方に跳ぶことで躱すフェルディア。
すかさずそこへ追撃を加えるフェルグスは、豪快ながらも鋭さを失わない剣閃を刻む、刻む、刻む。
フェルディアもまた守勢へと転換して螺旋剣に対応し、弾く、弾く弾く。
(やはり、強い────!!)
彼の猛攻を巧みに捌くフェルディアだが、その腕は強烈な痺れを訴えていた。
モリガンによってスペックを引き出されているフェルグスの力は、ほんの一振りで大地を砕くレベルと化している。
そのような重撃を受け止め続けるなど、過重にも程があった。
だからといって受け止めるのを止めれば、途端にフェルディアは螺旋剣によって真っ二つに斬り裂かれることだろう。
彼の皮膚は尋常の刃なら通ることはないが、しかしゲイ・ボルクのような魔槍や、魔剣・聖剣の原型となった螺旋剣であれば、彼の堅牢な皮膚を切り裂くことが叶う。
即ち、フェルグスの前では、フェルディアの鋼に勝る皮膚すら意味をなさないのだ。
「くッ…………!」
必然、フェルディアは飛び退いて仕切り直しを選択する。
「感服する他ない苛烈さだがッ、敵に回せばここまで厄介だとはッ────!」
どれだけ細かい技を挟んだとしても、フェルグスは物理的に叩き割り、食らい付いてくる。
それこそがフェルグスの強みだと理解しているが、しかしフェルディアは自身との相性の悪さに辛酸を嘗める。
フェルディアが技の極地だとしたならば、フェルグスは力の極地。並々ならぬ努力によって築き上げられ、登りつめた頂きだ。
だとしても、純粋な力とは時として戦略すらをも打ち砕く。曰く、力こそパワーだと。
「──────ッ」
フェルディアが距離を空けたのを見て、フェルグスは不意に螺旋剣を地面へと突き刺す。
「っ、何を」
彼の目的不明な行動にフェルディアは疑問を抱くが、それ以上に魂が震えるように警鐘を鳴らしていた。
「これはッ……!!?」
突き刺された螺旋剣を起点として地に亀裂が生じていき、そこから七色の光輝が溢れ出す。
突き刺す程に感じる力の波動は、激しい揺れと地鳴りを伴って大地を罅割れさせていき、忽ちアイフェの領土の全土へと無数の線を刻みつけた。
足元が緩い中でなんとかバランスを維持したフェルディアは、危機感を募らせつつ周囲に視線を走らせる。
周りには、フェルグスと同じく傀儡に落とされた戦士達、彼らを魔術で凍てつかせるアイフェ、名も無き戦士達を統べるメイヴ、彼女と共にいるエメル、戦車で爆走するレーグ。
皆が一様に奮戦しているのが目に入ってくるが、しかしフェルグスが引き起こした事態に困惑と焦燥を抱いているのも見て取れた。
何が起こるのかは不明。ただ、漠然と身の危険を覚える。
「まずいッ────」
瞬間────大地が舞った。
罅割れて岩片と化した大地が噴出した光に巻き上げられる。
────『極・虹霓剣』。
それは大地を砕く破壊兵器、螺旋剣の色濃い側面。地形諸共一切の敵を撃滅し得る対地上宝具。
一国全土を覆う竜巻のようなそれは、国そのものをミキサーにかけたように、細部にわたるまで蹂躙していく。
「ぐッ、がァっ!? ……ッ、ぁッ……っ!!」
噴出した光輝はフェルディアを突き上げ、舞い上がる無数の岩片が容赦なく彼の肉体へと襲いかかる。
いくら刃を通さぬ皮膚を持っていようと、鎧越しに中身を潰す衝撃にも耐性がある訳ではない。増して、回避行動がとれない空中に身を投げ出されたのも非常に痛い。
フェルディアの強靱な肉体には傷こそ付かないものの、全身を余すことなく殴打し続ける岩片は、着実に彼の内側を破壊していく。
暫くして、フェルディアは重力に従って落下する。意識は朦朧とし、筋肉や内臓の大半が潰れるという重体。
それでも絶命に至らなかったのは、鍛え上げられた肉体があってこそ。だがそれが、フェルディアに継続的な苦痛を与えていた。
「…………ぅ、……ぁ、っ……」
「全く、手間のかかる」
力なく地に伏す満身創痍のフェルディアに、溜息を吐きつつ再生のルーンを施すアイフェ。彼女は原初のルーンで『極・虹霓剣』を難なく防いでいた。
「っ、ァはッ!! ……助かりました……感謝します、アイフェ殿」
痛みが消え去り万全の状態に治ったフェルディアは、気が付く。
「……これは、なんと……ッ!!」
凸凹の少なかった影の国の地形が、瓦礫が山積し、地が割れ、筆舌し難い状態に変化していることに。
辺り一面に掌大の石が散乱しており、中には人の丈より何倍も巨大な岩石が鎮座している。荒れに荒れた噴火後の山の景色のようだった。
たった一人の人間がこれを引き起こしたということに絶句するフェルディアだが、そこへ追い討ちをかけるのは、この荒れた地に伏す戦士達の姿。
獣の如き唸り声すら上げられず、息も絶え絶えの死ぬ間際。それぞれが多量の血を流し、手足が曲がるべきでない方向へと捻れていた。
中には本当に死に至っている者もいるだろう。だが『勝利の加護』が、同時に再生のルーンがそれを許さない。
故に、死なぬ────死ねぬ。
改めて、彼らをこのようにしたモリガンに激しい憤りを感じるフェルディアだが、それを上回る遣る瀬なさが支配する。
いくら操られているからといって、フェルグスが何の躊躇いもなく破壊の限りを尽くしたことを。それを止めることのできなかった己の不甲斐なさを。
多くが伏す中、戦車の残骸の上で愉快に喚き散らすメイヴと、それを呆れ顔で見つめるエメルの姿はあった。
「あーっ、もうっ! 私の戦車が壊れちゃったじゃないのよ! それに牛まで……!」
「戦車があったからこそ、私達に大きな怪我はなかったではないですか……。というか、私の魔術で衝撃を抑えたのですけれど、そこに感謝とかはないのですかぁ?」
「あぁん! もう! フェルグスぅぅう!」
「……聞く耳持たず、ですか」
一方、レーグはというと。
「……死んだ……! さっきまで絶対に死んでた……!」
メイヴと同様に戦車が崩壊したことで、『極・虹霓剣』の天災にしっかり巻き込まれていた。そこを再生のルーンで救われたのだ。
そのせいか、レーグは顔を青白くさせながら胸へと手を当て、心臓の鼓動を確認していた。彼にとって初めての死(ぬ程)の経験だったのだから、仕方がない。
尚、セングレンとマッハもまた再生のルーンで治されており、それはクー・フーリンの持ち物とアイフェが判定していたからであった。
メイヴの牛達がそうならないのは、つまりはそういうことである。許せ、牛。
多数が苦痛に呻き、少数が生存に安堵しているのを後目に、螺旋剣を大地から引き抜いたフェルグスを捉え、アイフェは眉を顰める。
「あの下郎め、人の領土を何だと思っているのか……!」
アイフェにとって、領土を復元するなど造作もない。しかし、他者によって荒らされたのを自身が手間をかけて直さねばならないということに、彼女は不愉快に満たされる。
ただでさえ開戦前から腹の虫の居所が悪かったアイフェにとって、機嫌を更に悪化させるには十分だった。
「フェルディアといったか、お前は下がれ。彼奴は私が降そう」
「ッ……!」
槍と杖を持ち、アイフェ直々に引導を渡さんとする。彼女が力を振るうとなれば、間違いなくフェルグスを止めることは叶うだろう。
だが、フェルディアは引き留める。
「……いやッ、待っていただけませんか?」
「待たん。待つ理由がない。仮にそうしたとて、誰が彼奴を止める? お前か? お前では彼奴に敵わんではないか」
「……っ、それは────」
「それが答えだ」
視線すら向けずに吐き捨てたアイフェ。内容が的確故に、フェルディアは言い淀んでしまう。
反論の素材が見つからない。何を言ったとしても論破される未来が見える。だから、フェルディアは悔しさから歯を食いしばる。
そうとわかっていながら、彼は心中に渦巻く様々なモノを吐き出さずにはいられなかった。
「……確かに、俺とフェルグス殿とでは、明確に力と経験の差が出てしまうでしょう……」
罪を告白する罪人のように、胸の内を静かに明かすフェルディア。続ける。
「俺が戦うより、俺より強い戦士に任せた方が、悔しいが、理にかなっている」
彼は無銘の槍を両手で力いっぱいに握り締め、視線をそこへと落とす。
「だとしても……だとしてもッ! 彼のことは、俺が止めねばならないと、そう思ってしまう……! いや、俺がそうしたいんだ!」
紡ぐ言の葉に熱が篭もる。アイフェは思わずそれに耳を傾けてしまう。
「力不足なのは承知。これが俺の我儘だというのも重々承知ッ! だが、これはそういう話ではない。理屈ではないんだ」
フェルディアの心象風景に浮かぶ、クー・フーリンの戦いぶり。
ある時は、お互い見知らぬ仲だというのに、いや、だからこそ打ち合い、彼は荒削りながらも頭角を現しつつあった。
ある時は、師たるスカサハのもたらした過酷な試練に立ち向かう仲間として、その肩を並べて槍を振るった。
ある時は、連戦に連戦を重ねた一騎打ちにて、勝負を決める正しく決戦という最高の舞台で、死力を尽くし合った。
そのどれもに当てはまるのは、クー・フーリンが常に壁を打ち破り続けたという事実。
相手の素性がわからなくとも、どんなに熾烈を極める教えだとしても、ひとつ間違えれば敗北に繋がる極限の打ち合いでも。
クー・フーリンは決して臆せず、逃げず、正面から堂々と打ち破ったのだ。
「……ああ、そうさ。理屈もあったもんじゃない。俺がやらなければならない、そう思う理由は単純なんだ」
だからこそ、力量が劣るからという理由だけで、戦いから退くわけにはいかない。
それを選択してしまったのなら、フェルディアという一人の戦士は死ぬだろう。
何故なら────
「────胸を張って、あいつの好敵手で在りたいだけ。……ただ、これだけなんだ」
────クー・フーリンと肩を並べられなくなるから。
クー・フーリン本人が聞いたのなら、そんなわけない、と声高々に反論するだろうが、生憎とフェルディアはそのように捉えていた。
「……だから、どうか俺にもう一度機会を与えてほしい……! フェルグス殿に立ち向かう機会を……!」
「──────」
目を瞑り、アイフェは思う。
自らの領土を荒らされたのだから、それに報復するのは支配者として当たり前のことで、それに待てというフェルディアの訴えは考慮に値せず。
何より、この戦いは自身の愛する男のためのもの。頼まれ、預けられ、請け負ったのだから完遂せねばならない。
合理的であって何が悪い、効率的であって何が拙い。詰まらない意地をここに持ち込むな。これはお前の戦いではなく、彼の戦いなんだと。
故に、フェルディアの言葉に揺らいではならない────そのはずだというのに。
「…………ふん」
アイフェは杖で空気を裂くように振るう。すると、周囲に伏していた戦士達の手足が等しく凍り付く。
「一度だけだ。またも無様を晒したなら、もはや聞く耳持たんぞ」
「…………! 感謝しますッ!!」
フェルディアは欣喜雀躍するように槍を握り締め、フェルグスの元へと駆けて行った。
「…………全く、水面に映る自分を見ている気分にさせられる」
己に呆れるように息を吐いたアイフェ。彼女がフェルディアの意志を尊重したのは、彼の在り方が自身と重なって見えたからだった。
姉たるスカサハと肩を並べていたい。その一心でアイフェは戦闘技能を習得し、修練し、極めてみせた。
フェルディアを見ていると、それを彷彿とさせるのだ。だからこそ、彼の苦悩が手に取るようにわかってしまった。
「与える義理などないが……そうさな、先達からの餞別とでもしておこうか」
与えたのはきっかけに過ぎないが、と付け加えたアイフェは、フェルグスとフェルディアが対峙しているのを一瞥すると、意識を彼方のクー・フーリンへと向けるのだった。
アイフェの許諾を得たフェルディアは、決意を新たにフェルグスへと立ち向かう。
「誇りを踏み躙らせないなどと宣っていた割には、手も足も出なかった。それには忸怩たる思いだ」
だが、とフェルディアは槍を構え、穂先でフェルグスを捉える。
フェルグスの顔には微々たる感情すら浮上しないが、一方のフェルディアは確固たる信念によって構成された、戦士の在り方をも超えた英雄の顔をしていた。
「あの言葉を訂正するつもりはない。もう撃たせはしないッ、ここで止めるッ!」
岩石が散乱する地を蹴って跳躍し、フェルグスの頭上から放つ一閃。
フェルグスはこれを難なく弾き、身を回転させつつ頭上の彼に容赦なく螺旋剣を振り上げる。
回避不能の空中に身を投げたフェルディアの選択は、言うまでもなく愚策に見えただろう。増して、フェルグス程の経験を培った戦士ならば、そのような明確な隙を逃すはずもない。
フェルディアの十八番は、飽くまでも動作の機微から行動を読み取り、超反応でもって対応してみせる力だ。
非常に強力且つ絶大な能力なのは間違いないが、反応したとて対応できなければ意味が無い。
だからこそ、フェルディアのこの行動は悪手の極み。行動制限を自身に課すという自害に等しい選択────だった。
「──────ッ!!?」
フェルディアを確実に捉えていたはずの剣閃は、しかし空を斬った。逆に、彼はフェルグスの脇腹を槍で薙ぎ、巌のような体躯を吹き飛ばす。
開戦して初めて、フェルグスに明確な打撃が入る。
「…………何だ、今のは…………」
着地したフェルディアは、先程までの視界に映っていたモノに驚愕していた。
彼が見たモノ────自身の槍撃をフェルグスが弾き、カウンターとして彼が放った螺旋剣の一振。
異常なのは、この一連の動作を、フェルディアは自身が槍を振るう前から視えていたことだった。
故に最小限に身を捻ったのみで鋭利な一閃を躱すことができ、一撃を加えることもできたのだ。
体勢を立て直したフェルグスは、フェルディアへと直進する。至近距離まで接近した瞬間に地を力強く蹴って彼の懐へと潜り込む。
超反応すらをも寄せ付けぬ、尋常ならざる速度で螺旋剣で薙ぎ、フェルディアの槍を弾き飛ばす。そして、左手で彼の首を掴み取って地面に叩き付ける。
身動きを封じられたフェルディアは、フェルグスの流れるような動きによって螺旋剣で胸部を穿たれ果てる────という情報が、フェルディアの視界に映り込む。
「ッ!!」
それと同時に、先程の光景をなぞるかのように、フェルグスが此方に駆けてくるのをフェルディアは捉えた。
まさか、と。フェルディアは槍を構えつつ、猛進してくるフェルグスを観察する。すると、一定の距離まで接近したところで、足腰に力が込められたのを読み取った。
直後、フェルグスが加速。クー・フーリンに引け劣らない速度でもって、フェルディアの懐へと潜り込もうとする。
やはり、と。稲妻の如きそれを、フェルディアはステップのみで回避し、槍で逆袈裟、そして蹴りを見舞う。
「…………随分と、不思議なことがあるものだな」
目が良かった、勘が冴えていたでは済まされない。二度も容易くフェルグスを飛ばしたことで、フェルディアはそれを実感する。
彼に起こった現象、それは数瞬後の未来を視るスキル────千里眼。
千里眼とは、動体視力の向上や遠方の標的の捕捉などで効果を発揮し、ランクが高ければ未来を見通すことも可能となるものである。
……が、しかし。フェルディアのこれは通常の代物とは異なり、戦闘時にのみ発動し、相手の挙動を予見する。
これがこのタイミングで発現したのは、何も偶然ではなく。
スカサハと同様にアイフェも所有する魔境の智慧というスキル。これは、ほぼ全てのスキルをB~Aランクの習熟度で発揮することができる破格の効果に加え、認めた相手にスキルを授けることもできる。
フェルディアのことを、映し鏡のようだと評したアイフェは、魔境の智慧によって彼に限定的な千里眼を与えた。
与えた理由は非常に淡白なもので、そんな気分になったから。アイフェにとって取るに足らない戦士に、一時の迷いで感情移入してしまった。ただ、それだけであった。
「何にせよ、今度こそ貴方を止められるようで安心した」
不敵に笑うフェルディアは、あえてフェルグスの猛攻を受ける構えを取った。それは自信の現れ。
「──────ッ!!」
フェルグスが駆ける、駆ける、駆ける。
振り下ろされる螺旋剣と、受け流す無銘の槍。それらは火花を放ちながら何度も交わり、激しい剣戟を繰り広げる。
この戦いに幕引きがされるまでの間、フェルディアは二度と地に伏すことはなく、フェルグスと互角以上の打ち合いを続けた。
アイフェがフェルディアに与えた千里眼。それは飽くまでも一時的なものに過ぎず、この戦いが終結したその時には消滅する使い捨てのようなものだった。
そのため、その後に彼が千里眼を発動させることはなかった────ということでもなく。
十八番を用い、それによって頭が切り替わり、集中力も研ぎ澄まされる。これを極めたフェルディアは、自力でその域にまで至ってみせたのだ。
元から相性がよかったというべきか。アイフェの与えた千里眼は、フェルディアの奥底に有った資質を引き出す手がかりとなった。
執念とも呼ぶべき努力により、百戦錬磨の彼は晩年までコノートの地において国士無双の戦士として在り続けた。
フェルディアの身に付けた千里眼は、正しく彼の戦士としての一生涯の集大成であった。
老いて尚、技術も肉体も衰えることはなく、生涯現役を体現していた一方で、彼に若かりし頃程の情熱はなく。
何故なら、彼の無双の活躍に並ぶだけの好敵手の存在が、彼が目標とした最速の英雄が、そこにはいなかったのだから。
◆
◆今回の活躍まとめ
レーグ「クー・フーリンさんのため!」
メイヴ「レーグは購入特典!オトク!」
エメル「あい にーど もあ ぱわー(嫉妬)」
フェルディア「本能覚醒!()」
アイフェ「ずっと画面外で頑張ってました」
◆補足
Q.レーグ君、逞しくなってて草。
A.ケルトなんだぞぉ!(敗北魔女並感)
Q.メイヴの"名も無き戦士"はどうなった?
A.一掃されました()。
Q.エメル何もしてなくない?
A.致し方なし故。Fate/GO編で暴れさす予定なので、これくらいがいいかなと。
Q.アイフェさん、フェルディアの訴えを聞き入れるんですね。
A.一人の男が戦士生命を賭けていたので、それに揺さぶられたというのも要因の一つ。
Q.最後のって、つまり……?
A.そういうこと(諸行無常)。
↓ここから雑談↓
お久しぶりです、texiattoです。前回の更新からかなり空いてしまって申し訳ありません。時間があまりない中でゼロから構想を練っているので、やはり遅くなってしまいます。最近改めて感じることは、毎日更新やら一日に複数回更新やらができる人はすげぇ、ってことですね……(白目)。
今回はフェルディア、レーグ、メイヴ、エメル、アイフェ達の描写を書いた三人称視点でした。書き方で何となく察している人もいると思いますが、ケルト・アルスターサイクルにおける彼らのメイン登場は、これが最後です。いやー、長かった……!プロットもキャラシも何も無いところから、ここまで持って来れたとは。ゴールはまだ先なので、終わらないんですけども。
フェルディアVSフェルグスの戦闘は、当初はフェルグスとコンホヴォル王のタッグでフェルディアと戦わせようとか考えていたのですが、フェルグスひとりの方が戦いやすいに決まってんじゃん、という結論に従ってコンホヴォル王参戦は没にしていたり。オハンの盾とか出したかったんですけどね……(無念)。
さて、次回はクー・フーリン達サイドの話の予定です。ゲイボられたモリガンは死んだのか、クー・フーリンとスカサハはどうなるのか。例の如く構想はまだ皆無なので、やはり時間がががが……!あと一、二話くらいでケルト・アルスターサイクルは終わると思うので、気長にお付き合いして頂ければ幸いです。進捗状況は活動報告にて書き殴っているので、疲れから頭がおかしくなった時にでも覗いて見て下さい。
ワイ「今週もバビロニア見るぞぉ」
>アナ、ゴルゴーン消滅
ワイ「……思い、出した……!待って、これここからやばいやt……」
>きせかなきせかな
ワイ「(絶句)」1D100
>ほ……ほぜ……
ワイ「(絶句)」1D100
>グゥ穿ち
ワイ「アッ」
>おまえは とても つまらない
>ははははははははははははははは
ワイ「(絶句)」不定の狂気