転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。   作:texiatto

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基本巫山戯た頭の中してる奴の一人称視点でありながら、マジメに戦闘描写を書こうとするとクッソ書きにくくて草。
という訳で、(偽)ニキ視点の今回は戦闘描写の細かなそれはほぼありません。そういうのは次回やるから許してクレメンス(死語)。


三相女神

 ◆

 

 

 

 ────やったか!? 

 

 投げボルクがモリガンの胸部を抉り穿ち、地面へと叩き落とすと、お決まりの禁句であり蘇生呪文である言葉を思わず吐いてしまった。

 

 師匠の『貫き穿つ死翔の槍』で身動きを封じ、心臓を穿ち、大ダメージで無防備且つ弱ったモリガンに追いボルク。

 オーバーキル過ぎやせんか!? と考案時にはドン引いたものだが、実際問題、やり過ぎなぐらいでないと倒せない相手でもあった。

 

 従って、上手く『突き穿つ死翔の槍』をぶち込めたのだから、やったか!? とか、取った! の一言ぐらい漏らしても仕方ないだろう。

 いやはや、『貫き穿つ死翔の槍』でも死ななかったから一時はどうなることかと思ったが、これで勝ったな! 風呂食ってく────る、て……え……? 

 

 

 

「………………さ、んッ…………!」

 

 

 

 俺の視線の先には、おびただしい量の血を流しながらも、憎悪を滾らせた目で此方を射抜くモリガンがいた。

 

 

 

「…………許さ、んッ…………!!」

 

 

 

 血と共に呪詛を吐く。弱々しく肩で息をしていたが、これまで以上の覇気を纏う姿は寧ろ強く見えた。

 

 

 

「許さんッ────!!!」

 

 

 

 声を荒らげる。余裕を湛えていた顔は激情に染まり、優雅さも気品さも皆無な殺意を剥き出しにする。修羅のような形相だった。

 

 これは……想定し得る限りの最悪を引いたようだ。即ち、俺の「死」エンチャ投げボルクでさえ絶命に至らなかったということ。

 明らかな致命傷だった。心臓を穿たれ、多量の血液を流した。だが、結果は死なず。

 

 死してから発動する、ヘラクレスの『十二の試練』のような力でもなく。

 特殊な死人返りをする、即身バレする某狼君のようなアレでもなく。

 篝火にて何度でもリスポーンする、ソウルライクなソレでもない。

 

 致命傷に等しい魔槍の投擲を受けていながら、単純にモリガンは死ななかったのだ。

 そしてそれを成したは、やはり例の『権能』によるものなのだろうか。

 

 ……マジ? 「死」と強化を施した投げボルク食らってんのに……モリガンの耐久力高すぎんだろ(悲嘆)。控えめに言って、これは……プランD、所謂ピンチですね。光が逆流待ったナシ。

 

「……存外、しぶといではないかッ」

 

 モリガンのメンチビームを受けながらも軽口を叩く師匠。流石、肝が据わっている。けれども僅かに顔を歪めたあたり、それなりにヤバいらしい。

 

 そうでしょうよ……! 俺らの代名詞たる魔槍が効かなかったんだもの! 相手に心臓がなかったから当たらなかったとか、当たりはしたけど幸運判定で即死は回避されたとか、そういうんじゃねえもんな……! 

 

「しぶとい? ハッ、人道を踏み外した貴様がそれを言うか! これは痛快無比」

 

「……何だと」

 

 不意に師匠の目が僅かに見開いた。今のやり取りのみで何かを掴んだらしい……俺はさっぱしですがね。

 

「しかし、我を畏れていたのならば、微かな憐憫の情を下賜してやろうと思案していたが────貴様らには『不必要』だったな」

 

 冷笑を浮かべたモリガンは、己の胸部に手を当て、血で汚れるのに構うことなく穿たれた傷をなぞった。

 

「犬畜生なぞ、強きに淘汰されるが道理。敵わぬ相手に牙を突き立てたとて意味をなさない。どうやら、一度死なねばわからんようだな」

 

 

 

 ────直後、モリガンから迸る神威が放たれた。

 

 

 

 何の光!? と口にしたくなるそれに視界がジャックされ、同時に風が吹き荒れる。

 瞬きの間に光が失せ、目を開く。すると、あの一瞬の間にモリガンが変化していた。

 

「それが本質かッ……!」

 

 灰一色だった長髪に真紅と黄金が浮き上がるように入り交じり、背からは黒い大翼が三対ずつ計六枚が広がる。

 新たに握られた二条の槍は穂先から緋色にグラデーションが入っており、血塗れた武器を彷彿とさせる。

 

 そして何より、その肉体に穿ったはずの跡が掻き消えていた。

 

「これに成るに至らせたは貴様らが初めてだ。そして、これが貴様らの終わりだ」

 

 モリガンの瞳孔が俺を射抜く────途端、背筋に氷を流し込まれたような、濃密な死を予感する。

 

「誇るがいい、我を相手に貴様らはよく戦った。矮小故の足掻きは健気で浅はかで────実に無意味であったぞ」

 

「ッ!」

 

 突然、師匠に思い切り蹴り飛ばされ、直後、俺がいた場所に氷柱が形成される。

 骨が折れたと錯覚するレベルの蹴りだったが、蹴飛ばされなければ『極刑王』さながら串刺しにされるところだった。

 

 安堵するのも束の間、続けて氷柱が俺を追従するように地から突き出す、突き出す、突き出す。

 俺はモリガンに背を向けないよう、ステップとジャンプを駆使して躱す、躱す、躱す。

 

 回避の傍ら、俺は驚く。モリガンは何らアクションを起こすことなく魔術を行使していたのだ。

 ルーンを綴るでもなく、陣を介してでもない。シングルアクション以前に、予備動作の一切が見て取れなかった。

 厳密には何かタネがあるのだろうが、本来必要なはずの行程はバッサリとキング・〇リムゾンされていた。それこそ、そう在れと創造された『権能』のように。

 

 回避し続けていると、不意に鋭利な殺意を肌で感じ取る。それに従って身を動かすと、氷柱に混じって鎌鼬の如き風刃が飛来した。微かに視認できる薄緑色の風刃が、俺の首を掻き切らんと迫ってきたのだ。

 咄嗟に魔槍で風刃を薙ぐと、これのみで薄緑のそれは砕け散った。だが類似した殺意を幾重も感知できることから、氷柱と同様に風刃も際限なく俺を狙っているようだった。

 

 足元から突き出す氷柱を、即座に横に飛び退くことで躱す。と同時に首や胴体目掛けて飛来した風刃を、魔槍で斬り裂いて対処する。以下ループ。

 これが緩急をつけて、休む間もなく襲い来るのだから、より神経を尖らせて回避しなければならない。

 

 一方の師匠には火炎と雷撃の嵐を見舞っているようで、某ゲームの"獄炎の破壊神"の『サン・〇レア』のような火球であったり、これまた某忍者フロムゲーの『〇の雷』のような落雷であったりをぶち込みまくっていた。

『イン〇ジブル』も『雷〇し』もないが、それでも師匠は魔槍でミニ太陽を切り裂き、ルーンと立ち回りで雷を巧みに避けてみせる。

 

 涼しい顔でそれらをこなす師匠だが、だとしても、それによって防戦を余儀なくされているのもまた事実であった。

 

「ハッ! どうした、先刻の威勢は!」

 

 ちィ、さっきまでは槍術か魔力レーザー主体で戦ってたクセに、一変して魔術の連打かよッ! 

 ボス連戦はわかるが、相手は全快していながらに高火力遠距離攻撃をブッパする固定砲台と化すなんてクソゲー過ぎてやってられんだろッ! 

 二度とやらんわー、とか言ってコントローラー放り投げたくなるが、残念なことにこれは現実。セーブもロードも出来ないクソゲーときた! 悲しいね、バナージ(無関係)。

 

 内心で憤慨して暴れ狂う俺を他所に、魔術による猛攻は苛烈さを増していく。

 

 魔術の応酬となると回避に行動を割かなければならない分、体力と精神力の消耗が激しい。いくら再生のルーンで傷を治したとしても、スタミナまでは戻らない。

 相手の魔力が尽きるまで、というリミットがあるならまだ頑張れただろうが、神代の頃の魔術といえば、根源から直接魔力を得て行使するものとかだったはず。強い魔術を低コストで打ち放題ってこと即ち、リミットはないに等しい。

 

「小賢しい真似を……!」

 

 師匠は魔槍に力を込め、振り抜いて斬撃を飛ばす。それによって火球と落雷の一切合切を消し飛ばすと、縮地でモリガンへと接近する。

 接近する刹那に複製した魔槍を幾本も展開し、モリガンへ撃ち出す。そうして形成された緋色の群れに紛れるように、師匠も突き進む。

 

 降り注ぐ魔槍を払うと師匠の接近を許してしまい、だからといって魔槍を対処せねば致命傷を負うのが必至という搦め手。

 

 これを防げるのはケルトと言えど極一握りの強者しかいない。が、しかし相手はモリガン。一握りに属する、師匠と対等に打ち合えるだけの槍術の使い手だ。

 

「ほぅ、"今"の我に槍で挑むか」

 

 俺への魔術の猛攻を片手間で継続したまま、モリガンは徐に右手の槍を構え、振り抜いた────瞬間、師匠の射出した魔槍の悉くが無に帰した。

 

 ────ッ、マジかよッ……! 

 

 一瞬の出来事に目を見開く。師匠の攻撃は簡単にどうこうできるソレではない。数百年という年月を経て研ぎ澄まされた熟練の攻めのはずだ。

 だのに、歯牙にもかけず、ほんの一振で消し去るだなんて……有り得ない……! 先程までモリガンは師匠と互角の打ち合いを繰り広げる力量だったというのに……! 

 

 ……なら、今のアイツは何なんだ? 

 

「────愚の骨頂よなッ!」

 

 モリガンが吼え、師匠が打ち込む。そうして熾烈な攻防が繰り広げられる。

 師匠は魔槍を神速の如く振るい、時に二条目を巧みに駆使して臨機応変に攻め立てる。

 一方のモリガンは二条ある両手の槍を高い技量で操り、的確に師匠の連撃を捌く。

 

 交わる緋色は閃光として捉えられ、戦闘の激しさを物語っていた。

 正しく一進一退だが、僅かに、確実に、先程までの戦闘とは決定的に違っていた。

 何故なら、有り得ないことに師匠が遇われていたのだから。

 

「これ程とはッ……」

 

「力を使わずして互角だったのだ、当然であろう?」

 

 師匠とガチの打ち合いをしていながらに、余裕を崩さないモリガンが、そこにはいた。

 一瞬の気の弛緩で命を失う。そのような激戦に身を置いているのに、口元には弧が描かれ言葉を紡ぐ暇すらあった。

 

「貴様が殺してきた神なぞ、種が妖精へと成った者らに過ぎん。生粋の神性、権能を司る上位者とは圧倒的に異なる。木っ端の者らと同列と捉えるべきではなかったな」

 

 大気を薙ぐ風切り音、そして一際甲高い金属音が響く。

 

「────ッ」

 

 それは、師匠の魔槍が弾かれ宙を舞う音だった。

 

「────ふむ、やはり視えんな」

 

 呟いたモリガンは槍で師匠を穿とうとする。その寸前で師匠は身を捻り、回避と同時にモリガンを蹴って距離を置く。

 

「全く、厄介極まりないな……貴様は」

 

 飛ばされた魔槍を手元に手繰り寄せ、臨戦態勢を崩さない師匠。不意に、魔術を避け続ける俺の方を向く。

 

「これ、いつまで遊びに興じているつもりだ」

 

 ……うん? 遊んでないんすけど……え、魔術の雨あられを回避するのは遊び程度なん? はー、そういや師匠はスカサハでしたもんね。そりゃそうか(調教済)。

 

 師匠の指示に従って、俺の所有するルーンを展開する。そうすれば、俺を襲っていた氷や風が結界に触れた傍から掻き消えていく。

 

 始めからコレをしなかったのは、単純に奥の手だからだった。審判骸骨のように、最初から必殺技もとい奥の手を出すのは破天荒だ。

 能ある鷹は爪を隠すとは良く言ったもので、確かに殺し合いでは最後までクレバーな奴が生き残るモンだしな。

 

 ……それよか師匠。今のモリガンは何なんだ? 容姿も然る事乍ら、いきなり属性魔術を嵐の如く繰り出したのに加え、師匠を圧倒するだけの近接戦闘能力。はっきり言って……ありゃあ異常だぜ? 

 

「……今の彼奴は、モリガンであってモリガンでない」

 

 ……つまり、モリガンという人物に何かが付け足された、或いは溶け合ってひとつになった的なことで? 

 

「当たらずとも遠からず、だな」

 

 俺に向けて僅かに微笑んだ師匠は、嘲笑を湛えて静観するモリガンに視線を戻す。

 モリガンが手を出す動作が見られない。師匠が自身を特定するのを邪魔するつもりはないようだ。

 

「知っておるように、モリガンとは魔術と予見で勝利を司る女神だ。数え切れん程の戦士達の望み────勝利を叶え、時に彼の太陽神すらをも傅かせた」

 

 エッ、太陽神とか神話の中でもトップクラスに偉い神様じゃん! そんな奴もモリガンに縋ってたのかよ……。

 

「……だが、この地において彼奴だけが名を馳せる女神という訳ではない。モリガンを含む三姉妹の神────怒りと狂気を支配する"ヴァハ"、恐怖を与え死を予言する"ネヴァン"。これらもまた、ケルトの戦士ならば知らぬ者はおらん戦女神だ」

 

 いや知らんけど。(俺の知識に)常識は通用しねぇ……。俺は純正ケルトじゃないから多少はね? 

 

「モリガン、ヴァハ、ネヴァン。こやつらは異なる性質を持つ神だが、今の彼奴からはその全てを感じられる」

 

 師匠は一度言葉を区切り、目を細めてモリガンを睨む。腹の中を見透すようなそれだった。

 

「三相一体という概念がある。神が有する特性、性質のようなものだ。それは、一体にして三相、三相にして一体。一体の神の一面が別個体として存在し、その一面もまた一体の神に過ぎない。それこそが三相一体。それこそが彼奴の正体」

 

 ここまで言葉を連ねたところで、弾かれたようにモリガンから哄笑が漏れ出した。

 

「は、はははッ……! そうだ、その通りだとも! 我こそが三柱の女神であり、彼の女神達こそが我ッ!」

 

 背の黒翼を仰々しくはためかせ、笑う、呵う、嗤う。

 

「せめてもの手向けだ、冥府に我が名を知らしめるがよい。三相一体の女神たる我が名は────バイヴ・カハ」

 

 バイヴ・カハ……! 絶妙に知らない……! 

 

 アイツのプロフィールはわからないが、とりあえず今のモリガンはバイヴ・カハとかいう神で、バイヴ・カハは三人の女神を一人にしたような存在だと。

 ………………それって、単純計算で神三体分のスペックってこと? インチキ効果もいい加減にしろッ! 

 

 そんな憤慨が顔に滲んでいたのか、バイヴ・カハは嘲笑を湛えて俺を見やった。

 

「本質の看破、見事────だが、どうするというのだ。見抜けたとて、貴様らに勝ちの目があると?」

 

 ぐぅ……痛いところを突いてくる。師匠をも超える力を持ち、俺達の魔槍の投擲ですら殺し切れない。それが事実なのだから。

 

 Fate/的に言えば、相手の素性が判明すれば、そこから逸話なりを紐解いて、弱点やら弱みやらを握れる。情報アドが段違いだ。爆アド上ブレヤッホー! である(DMP)。

 だが、バイヴ・カハ曰く「これに成るに至らせたは貴様らが初めてだ」とのこと。前例がない即ち、情報がない。

 

 詰んでやがるぞ……これ。仮に弱点があっても、知る術がない。

 打開するだけの戦力もなく、かといって撤退する訳にもいかない。

 

「……一度の魔槍で死に至らんのなら、十、二十と穿ってやろう。さすれば、貴様を殺せるやもしれんな」

 

「言うことに欠いて妄言とは。スカサハ、貴様の眼で我の死が視て取れたか? わかっておろう、我はそういう存在なのだ」

 

 そういう存在……つまり、殺せない、と? 仮にそうならチートにも程がある。

 どこまでバイヴ・カハの言葉を信じていいかわからないが、ああいう手合いは己の全能感を宣うモンだ。

 そして、状況を把握すると同時に歯噛みする。心の底から込み上げる絶望感、焦燥感。

 

 いくらクー・フーリンという破格のスペックがあっても、いくらスカサハという豪傑が味方だとしても、バイヴ・カハを打倒できないのでは意味がない。

 

 ……どうする……! どうすればいいッ……! 

 

 ここで俺が命を差し出せば、万が一、億が一に皆が助かるかもしれない……いや、それは希望的観測か。

 歯向かった時点で、アイツにとっては皆等しく誅罰を降す対象だと口にしていた。であれば、俺一人が死のうと関係はない。

 それに、ここで俺が死んでは師匠、師範、フェルディア、レーグ、エメル、メイヴ────皆の想いを無下にしてしまう。それだけはいただけない。

 

「さあ、怯えろ、竦め。我が威光に伏して死を待つ時だ」

 

 轟々と燃ゆる殺意を含ませ、バイヴ・カハは俺へ悠然と歩み寄ってくる。

 そこへ割って入るは師匠。俺を背に隠すように、魔槍をバイヴ・カハに向ける。

 

「この私を無視するとはなッ!」

 

 呼応して『王の財宝』さながらに魔槍を展開し、射出、射出、射出。緋色の豪雨。されど、

 

「────失せよ」

 

 たったの一振りで、またも魔槍の悉くを滅するバイヴ・カハ。

 しかし臆することなく師匠は突貫し、バイヴ・カハが槍を振るった動作の終わりに合わせて魔槍を刺し込む。

 

「力の差など既に理解しておろうに。そうまでしてクー・フーリンを護りたいか」

 

 魔槍の刺突を二条目の槍で叩き落とし、そうして繰り広げられる激しい槍撃の嵐。金属音と火花が絶え間なく。

 

「健気だがな、今の貴様にそれを成す力は無かろう。影の国の支配者と謳われていようが、我にとっては所詮、数百、数千と生きただけの小娘に過ぎんわ」

 

 不意に師匠の頭上に火球が出現し、それが爆発すると無数の炎の矢となって降り注いだ。ホーミングのついたそれが、四方八方から師匠を襲う。

 そしてバイヴ・カハが師匠に攻め寄ったことで、師匠の回避行動を封じる。

 

 ……あぁ、くそっ! 師匠が俺のために奮戦してくれてんのに、俺がッ、スカサハの弟子たるクー・フーリンがッ! 動かなくてどうするってんだッ! 

 

 俺は体勢を低くして地を蹴り、跳ぶ。そして師匠の頭上から迫る炎の矢を、魔槍の横薙ぎで一掃する。

 俺が行動を起こすと知っていた、いや、信じていたのか、師匠は迫る魔術に対応はしなかった。

 

 勝てないのは重々承知ッ! だが、だからといって無抵抗のまま殺られる道理はなく、ここで諦める理由もないッ! 

 

 折れかけていた戦意を滾らせると共に、決意と魔槍を握り直した。

 

「よもや貴様もか……。全く、揃いも揃って往生際の悪いことこの上ない……!」

 

 不愉快だと言わんばかりに顔を歪めたバイヴ・カハ。

 

 ────生憎、往生際の悪さだけは人一倍あると自負してるんで……なッ! 

 

 刹那でバイヴ・カハに接近し、背後から魔槍で横薙ぐ。

 ケルトの歴戦の猛者でさえ、知覚を許さず切り伏せる神速の一撃だが、バイヴ・カハは目をやることもなく槍を宛てがってみせた。

 

 これぐらいは予測の範疇……! 俺の攻撃が防がれることなんぞどうだっていい。俺なんかに対応したことで、一条の槍を師匠に振るえなくさせたんだからなッ! 

 

「シッ!」

 

 バイヴ・カハが俺に槍を割り振った瞬間、それを合図としたかのように、師匠が魔槍による連撃を熾烈にする。

 魔槍での刺突、弾かれるやいなや二条目の魔槍を顕現させ、高速回転させて薙ぎの連続、叩き潰すような振り下ろし。

 多彩な攻撃が本気師匠から編み出され続ける様は、正しくスカサハこそがケルト最強の戦士なのだと思わされる。

 

「はァッ!」

 

「────ッ」

 

 そこへ更に、幾条もの魔槍を展開しては射出。先の炎の矢の返しのように、バイヴ・カハの四方八方から狙ったものだった。

 バイヴ・カハはすぐさま魔槍を打ち払おうとする────が、俺が黙って見ている訳はない。

 

 魔槍を引き戻し、持てる速度の最高を込めて刺突の連撃を繰り出す。師匠のそれには劣るが、だとしても防がねばならない攻撃なのは変わりない。

 だが、バイヴ・カハは強引にもこれを脱する。背に広がる六枚の黒翼をはためかせ、瞬間的に飛翔すると、予見で軌道を視たのか、魔槍の間を縫うように飛んだ。

 

「勝てぬと理解って尚、我の邪魔立てをするとは────愚劣の極みよな」

 

 宙で二条の槍を乱舞するかのように振るい、大気を引き裂く。バイヴ・カハの持つ槍の、血濡れのような赤がいくつも空間に刻まれると同時に、それが飛ぶ斬撃となって俺達を襲う。

 

 師匠はソレを魔槍で薙ぎ払っていくが、俺は赤い斬撃から身近な気配を感じ取り、受けるのではなく回避の選択をする。

 不規則に迫る赤い線を熟練のヤーナムステップで躱す、躱す、躱す。

 

「…………ッ!」

 

 回避行動をとっていると、不意に血相を変えた師匠が俺へと向かってくる。珍しくも、そこには焦りの色が色濃く滲んでいた。

 

 ────師匠ッ、どうかし……ッ!!? 

 

 俺が声を発した、その瞬間。眼前にバイヴ・カハが転移の如き速度で降り立ち、槍を振るった。

 完璧な不意打ち。頭の中が真っ白になったが、反射的に腕が動き、魔槍でバイヴ・カハの槍撃を弾くことに成功した。

 

 しかし、バイヴ・カハの細い腕から繰り出された槍はあまりに重く。

 

 俺の体幹はたった一撃で崩壊。そして、ずぷり、という奇妙な音……が……

 

 ────っ……ぁ、ぇ……ァあ……? 

 

 ……全身から、力が抜け、て……? なん、で、目の前に……バイヴ・カハ……が……いるの、に……。

 

 

 

「いくら往生際が悪かろうと、心臓を穿たれては死ぬ他あるまい」

 

 

 

「あ、あぁッ、ああ……!」

 

 

 

 ……心、臓を……? そん、な、俺は……。

 

 

 

「クー・フーリンッ……!!!」

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.バイヴ・カハって?
A.ああ!(ガン無視)

Q.バイヴ・カハ強過ぎィ!
A.本作きってのチートです(ニッコリ)。コンセプトは「スカサハを圧倒するくらいに強く」です。こんなんチートやチーターや!となるのも仕方がない理不尽さ、それ即ちバイヴ・カハなり。ラスボスだもん、弱かったらダメでしょ。

Q.やめて!バイヴ・カハの特殊能力で、(偽)ニキを焼き払われたら、テメェが病ませたヒロインズの精神まで燃え尽きちゃう!お願い、死んで逃げんな(偽)ニキ!あんたが今ここで倒れたら、スカサハやエメルの正気はどうなっちゃうの? ライフ(虫の息)はまだ残ってる。これを耐えれば、バイヴ・カハに勝てるんだから!
A.次回、「クー・フーリン死す」。フェイト/グランドオーダー!

Q.これ勝てんの?
A.犠牲なくして勝利なし。子細は話せんが……待て、しかして希望せよ。そういうことだ(彼氏面)。

Q.スカサハの千里眼とモリガンの予見の違いは?
A.大した変わりはありません。両者とも戦闘時に発動するものということなので、"相手の挙動を読む"という認識です。ただ、スカサハやアイフェは魔境の智慧で獲得しているものなので、その時々で未来視や過去視など微妙に効果が違ってたり。
物語序盤で師匠&師範は(偽)ニキの最期という未来を視ましたが、それは飽くまでも確定した未来ではなく、可能性のひとつ。誰かの行動次第で変えられる運命、とでも言えるそれでした。一方、戦闘時のそれは、コード〇アスに登場するビス〇ルクの"極近未来を読む〇アス"のようなものとして捉えていただければ……。

◆思考停止の没ネタダイジェスト
・トリック
スカサハ(仲間由〇恵)「モリガン!貴様の正体など、全てまるっとお見通しだ!」

・ライダー 1
全てを知ったスカサハ「どうした、(バイヴ・カハに)変身しないのか?( ^ U ^ )」

・ライダー 2
(偽)「そんなッ、師匠でも勝てないだなんて……!」
バイヴ・カハ「その顔が見たかった……私に絶望するその顔があああ……!」


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。投稿期間がまたも空きまくりで、本当に申し訳ない(初手人工無能)。忙しさの片手間や休憩時間、就寝前とかに書いてるんで、進みがNOKです(白目)。
今回はモリガンが本性を現す回でした。モリガンについて調べていたところ、バイヴ・カハという名前が目に留まり、嬉嬉として盛り込んだ結果となります。今回は(偽)ニキ視点だったため、バイヴ・カハの詳細を記述することはできませんでしたが、次回は三人称視点で書く予定なので、そこでバイヴ・カハのネタばらしを行いたいと思います。
とりあえず、次回でケルト・アルスターサイクルは完結する見込みです。本当にそうなるかどうかは未定ですが、そのつもりで書きます。ので、時間がかかりますが……いつも通りですね(白目)。では、また次回!

















デトロイト面白い……面白くない?(今更)ハンクがヒロインって馬鹿野郎(アウトレイジ)とか思ってたけど……んだよ、結構マジじゃねえか……(断腸)。


ほんへの「28ヶ所の刺し傷だぞ!」で米粒を噴き出しつつ「あ、これかぁ!(ミーム汚染)」ってなったのは余談。

追記
「愚の骨頂」を「具の骨頂」と書き間違える奴がいるらしい(赤面)。指摘されて漸く気が付いて恥ずかしかったので疾走します(リノセウス)。

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