転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。 作:texiatto
※長かったんで分割しました。次回で終わらせます(白目)。
◆
「いくら往生際が悪かろうと、心臓を穿たれては死ぬ他あるまい」
「……ッぁ、はっ……」
バイヴ・カハの槍はクー・フーリンの左胸部を貫き、確実にその心臓を穿っていた。
膝を落とし、弱々しく息を吐くクー・フーリン。その姿を満足気に見下ろすバイヴ・カハは、彼の心臓から槍を引き抜こうとはせず。
「クー・フーリンッ……!!!」
悲痛な叫びをあげたスカサハは目を見開き、心做しかその手足を震わせていた。
彼女に似合わぬ狼狽えぶりに、バイヴ・カハは気を良くする。
「はは、そのように愉快な声で鳴くとは。影の国の女王の名が泣こう」
本来のバイヴ・カハ────モリガンであれば、どれほど同情を誘う姿であろうと、自らに逆らった敵は容赦なく屠り去る。
だが、スカサハという死ぬことの出来ない相手であれば、単純に殺し切れないという理由もあるが、それ以上に、殺さずに苦しめる方がよいとする。
「結末なぞ知っていただろうに。それとも、足掻けば変わると盲信していたか?」
「………………ッ」
バイヴ・カハの言葉に、言い当てられたスカサハは返せない。
数年前────クー・フーリンと出会う前であれば、たった一人の戦士の生き死になど気にも留めず、こやつも私を殺せないか、と落胆するのみだった。
その頃のスカサハであったなら、モリガンと事を構えるとなれば正確に力の差を理解した上で、戦闘欲求から矛を交えはしても、負けも引き際も承知していた。
しかし、クー・フーリンと出会ったことで失った人心を新たに得た、得てしまった。久しく忘れていた感情に浸り、それを心地よく感じてしまったのだ。
それは良くも悪くも、スカサハという武人を鈍らせた。一人の男のために無謀を選択するほどに。
「これが数千を生きた女王とは……失笑を禁じ得んな」
そして、自身に変化をもたらした男が、最愛の男が、眼前で致命傷を負わされた。
己の油断が、力不足が、恋心が、それを招いた。防げたはずの未来を、悪手によって曲げられなかった。
「………………」
その事実は、彼女の心に薄暗いものを残すには十分過ぎた。
そんな様子を一瞥したバイヴ・カハは、興味を失ったように、視線をクー・フーリンへと向ける。
「ぁ、……が……ッ……!」
「ほう、まだ息があるとは」
心臓を穿たれ、地に膝を落として尚、クー・フーリンはまだ死なない。
それもそのはず。クー・フーリンは、こと継続戦闘能力に関しては異常とも言うべき素養を持っている。
生命力の高さ、往生際の悪さとも呼べるそれは、彼を構成する最大の要因なのだから。
それ故に、喀血しつつも歯を食いしばり、己に突き刺さった槍に手をかけ、それを引き抜こうとしていた。
クー・フーリンの心臓を貫いた槍は彼の背中まで貫通しており、おびただしい血を滴らせていた。それが刻一刻と彼の命を削り取り、力も体温も奪っていく。
「これを引き抜きたいか?」
「……ッ! ……ッ、!」
嗤うバイヴ・カハは、クー・フーリンに突き刺さる槍を更に押し込み、傷口を拡げるように動かしてみせる。
彼女の動作と共に、クー・フーリンは声にならない声を上げ、痛みに悶える。楽器さながらのそれに、バイヴ・カハの愉悦は濃くなっていく。
「だが、やめておけ。これを引き抜けば、貴様が死ぬのが早まる。それでは面白くないだろう?」
「テ、メェ……!」
「もっとも、貴様の死は再生などでは退けられぬ程のものになっているがな」
くつくつと嗤うバイヴ・カハ。それもそのはず。クー・フーリンを穿った槍は、そのような性質を持っているのだから。
何の変哲もない槍で突き穿たれたのなら、例え心臓を抉られていようと再生のルーンで戻すことができただろう。
だが、バイヴ・カハの持つ槍は尋常ならざるそれ────傷付けた相手の魂を削り取る性質を帯びているのだ。
如何に致命傷を避けようと、僅かな切り傷は着実に生命を蝕み、それを幾度も受ければ死に絶える。傷を癒したとて意味はない、何故ならその者の中身が失われているのだから。
ゲイ・ボルクが相手の最大HP&槍のダメージならば、バイヴ・カハの持つ槍は魂への干渉&槍のダメージ。
魂への干渉、即ち神の領域。バイヴ・カハの槍は、蘇生不可の呪いを付与する魔槍と呼んでも差し支えない。
バイヴ・カハの一面である、恐怖と死の象徴たる女神ネヴァン。その権能は『魂への干渉』。己の言動全てにそのような性質を持たせる破格の力。
これがバイヴ・カハの槍に帯びており、それがクー・フーリンの心臓を確実に貫いた。故に彼の魂は一片とて残らず失われるのが確定している。
「どうだ、これより死に行く気分は?」
「……絶対ェ……殺、す……ッ!」
だというのに、未だ抗うだけの意思と体力があるのは、純然たる気力によるものである。
「殺す? はは、そのような有様で吠えるではないか! 実に滑稽だな、クー・フーリン」
バイヴ・カハは続ける。
「そうさな、その愚かな反骨心に免じ、冥府への土産を持たせてやろう」
「スカサハは見破っていたようだが、貴様らでは我を殺すに至れん。絶対に、だ」
「我────モリガンの権能たる『勝利』はケルトの者らの願望そのもの。栄光の勝利だろうと、屈辱の敗北だろうと、全ては我の裁量次第。故に、ケルトの戦士は我に勝利を切望し、渇望するのだ」
「────我を打倒することは、数多の戦士の願望の破壊に他ならない。それをケルトの人間が成せるとでも思ったか?」
バイヴ・カハの一面である、勝利の女神モリガンの権能『勝利』。それは如何なるプロセスであろうとも終着点を勝利に定めてしまう運命への干渉。
勝利の女神に相応しき力だが、それは勝利を望む戦士が存在して初めて権威となる。つまり、モリガンの『勝利』とはケルトの戦士達によって補強された力であるのだ。
勝利とは敗北しないこと。言葉遊びのようにも聞こえるが、負けていなければ、後は勝つのみ。それが事実である。
試合に負けて勝負に勝った、という言い回しもあるが、少なくともケルトにおいて敗北とはそれのみに過ぎない。
そして敗北の末に待つものとは、死。戦いに敗れたのだから、戦死するのは当然のこと。よって、敗北とは死と同義となる。
命が絶えなければ敗北はなく、敗北がなければ勝利を掴み取れる。それこそがケルトの信仰する勝利であり────モリガンの『勝利』である。
それを補強するはケルトの願望。転じて"ケルトの属性を有する者には覆されない"という一種の不死性をもたらす。
そのため、如何に魔槍による破壊的な投擲をしたとしても、モリガン────バイヴ・カハを仕留めるに至らないのだ。
知らなければ破れない死なず。しかしその種を明かすという情報のディスアドバンテージ。
自らの弱点を曝け出すに等しい愚行であるのだが、知ったからといって破れるものでもない故の、余裕。
「しかし、貴様の一撃は効いた。アレは中々だったぞ? 『死』の概念、だったか」
余裕を湛えたまま、バイヴ・カハは己の胸部をなぞる。『突き穿つ死翔の槍』を受けた、左胸を。
クー・フーリンの『突き穿つ死翔の槍』は確かに彼女の心臓を穿った。そしてそれは、スカサハの全力による『貫き穿つ死翔の槍』で漸く叶った、バイヴ・カハの流血を容易く招いた。
『死』の概念は、人と神との隔絶した差を、僅かではあったが、確かに埋めたのだ。
「犬には過ぎたる牙であるが、精々が妖精を狩るが限度の、神殺しには程遠いそれだったな」
「…………っ」
「何だ、神を殺せるとでも思ったか? 甘く見られたものだな。未来を見通せる者がいながらにこの始末とは……いやはや、呆れを越して憐れみを抱くぞ」
クー・フーリンの『死』の概念。それは人の手に余るモノではあったが、人の枠を凌駕した存在にとってみれば、何ら特殊な力ではなかった。
だとしても、やりようによってはモリガンも『死』を危険視せざるを得なかった。その事実がバイヴ・カハに憐憫を抱かせる。
「"今"の貴様では到底叶わんソレだが、あと数年……いや、数十年と勝利を積み重ね、より研磨し成熟させた力であったなら、それは正しく『牙』に成りえただろう」
言外に、クー・フーリンの全盛期は今ではないと語るバイヴ・カハ。
それは正しかった。クー・フーリンの贋作たる男は知りえないが、本来の神話にて活躍する彼よりも、僅かではあるものの、贋作者は年若かった。
心身の成長も、英雄の器も、扱う技術も。全てが発展途上。なまじ早熟だったのが仇となり、本来のクー・フーリンよりも様々な部分が熟れていなかったのだ。
そのように半端なところへ、『死』などというものが付加されたのだから、その極みだっただろう。
概念繋がりで"山の翁"を見てみれば理解できるように、彼は信仰心と自らの理念の下に生涯を捧げ、その果てに『死』と成った。
そう。本来、それほどにしなければ概念に成りえないのだ。故に、クー・フーリンの『死』はイレギュラー。影の国などという人外魔境に毒され過ぎた結果である。
つまり、早熟で未熟なクー・フーリンには過ぎたる代物であり、扱いこなせるだけの力でもなかったのだ。
(……んだよ、全ッ然、じゃねえ、か)
現実を今際の際に叩き付けられたクー・フーリン。心中にあるのは、己の不甲斐なさと、敵わなかったことへの悔恨。
自分は死ぬ。間違いなく。だが不思議と死への恐怖はなかった。記憶になくとも、既に一度死んだことがあるからだろうか。
いや、そうではない。自分が死ぬことよりも、その後に残される者達の方が心配なのだ。
自分勝手な選択によってモリガンに狙われ、それに巻き込んでしまった。きっと、皆もバイヴ・カハに命を狙われる。自分の次は皆────師匠と師範はそうはいかないだろう────が鏖殺されてしまう。
(……それは、駄目だッ……!)
許容してはならない。最速の英雄というスペックを得ていながらに、何もかも取り零してしまうなど、許せるはずがない。
(何かないの、か……! この力の差を、覆せる、だけの……!)
そう都合よく、即座に力を得るなど不可能。そうと理解っていながらに、そう思わざるを得なかった。
それこそ、神にも縋る思いで────と、ここまで思考したところで、クー・フーリンの頭に何かが引っかかる。
以前、突然に力が増した経験がなかったか。確かそれは、俺が『獣』に呑まれた後のことだった。
それはどのようにして訪れたのだったか。あの時、俺は意図せずして────
(────あぁ、そうか。その手が、あったか)
その手段に思い至った彼は、文字通り、全てを代償とする。
もうじき、死ぬのだ。ならば全てを賭けたところで何の問題もない。
それがバイヴ・カハに届かなかったとしたら、どうしようか────などという思考は無駄。届くかどうかではなく、届かせる。何がなんでも、絶対に。そのような不退の覚悟を抱くクー・フーリン。
(これは、ケジメだ。俺の戦いは、俺自身で、終わらせるッ……!)
己の手の届く範囲でいい、絶対に皆を護る。それを為すだけの力はある。何故なら彼は、贋作であっても紛うことなき『クー・フーリン』なのだから。
「ははッ、遂には言葉を紡ぐことすら出来んくなったか」
弄ぶように、クー・フーリンに突き刺さった槍を動かすバイヴ・カハ。
クー・フーリンの気力も残り僅かとなったことを察し、より一層の歓喜が押し寄せていた。
「────ぉ、れは……」
「ほう、遺言か?」
絞り出すように、掠れた声を発するクー・フーリン。それを見下ろすバイヴ・カハは、愉悦に浸りつつ、それを許した。
────それが、彼女の命取りになるとも知らずに。
「全て、を、代償に……力を……」
「────ッ!!」
途端、バイヴ・カハは目の色を変え、槍を引き抜こうとする。だが、もう遅い。
「皆をッ、護るために……俺の全てを……」
直後、クー・フーリンの身体から『黒ずんだ緋色』が溢れ出した。
この緋色は『死』。極低確率で即死を付与するそれだったが、しかし、以前までの微弱な『死』とは圧倒的に異なっていた。
「なんッ────!?」
濃密な『死』は、バイヴ・カハすら後退りさせる。緋色が槍を伝ってくるのを目にした彼女は、すぐさま槍から手を放し、ステップを踏んで距離を置く。
バイヴ・カハの視線の先には、力なく膝を落としていたはずのクー・フーリンが、揺らめくように大地に立っている姿。
既に瞳に生気はなく、今も尚、肉体からは血が流れ続けている。
死に体で何をする、と笑い飛ばしたいところだが、その弱々しい姿に気圧されているバイヴ・カハがいた。
クー・フーリンから迸る『死』。その力を示すように、胸部を貫いていた槍は緋色に包まれ、数秒と経たずに錆びていき、砂埃が舞うように消え去る。
「貴様ッ……!!」
余裕を消したバイヴ・カハ。そこには初めて焦りの色を映し出し、一条となった槍を油断なく構える。
「……ただじゃあ、死なねえさ」
溢れ出る緋色を魔槍に纏わせ、矛先をバイヴ・カハに向ける。
クー・フーリンがしたこと、それはゲッシュを利用した強化だった。ゲッシュとは"禁忌"を意味する言葉であり、己に課す呪いである。
自らの意思や選択に制限を設け、それを遵守する限りは神からの祝福────力を得る、ケルト独特のモノ。
厳しい誓約であればあるほど、得る対価は大きい。それがゲッシュである。
クー・フーリンは、バイヴ・カハの発言からゲッシュの存在を想起した。これであれば簡捷に力を得ることが叶う、と。
一方、立てる誓いは重ければ重いほど良い。そうでなければバイヴ・カハを打倒できない。では、何を賭ければいいのか。
そうして────己の命を代償とした。
ここで力尽きてしまうのなら、逆に命を捧げることで、生涯を経て得るはずだった力を前借りする。
これにより得た、一生に一度きりの祝福。それは微弱な『死』を、神をも殺す『牙』に昇華させた。
「テメェも……一緒だ……!」
「巫山戯るなッ! 神の祝福でッ、神に歯向かうというのかッ……!! そのような阿呆なこと有り得ん! 有り得てよいはずがない……!」
「……俺に残された、時間も……あんまねえんだ。だからよ、テメェの嘆きは……冥府で聞くとするぜ」
僅かに前のめりになったクー・フーリン、その姿が突如としてブレる。
「なん────ッ、ぐッ……!?」
それをバイヴ・カハが認識し、彼の姿を感知するよりも素早く、クー・フーリンは彼女に斬り掛かる。
バイヴ・カハは半ば反射的に飛び退いたことで、魔槍の薙ぎの直撃を免れる。が、魔槍に帯びる緋色に左腕が触れた途端、彼女の左腕は腐り落ちるように消失した。
生命を構成する血や肉、細胞や神秘など一切合切が死滅したのだ。
「────不敬なッ!!」
片腕を失いつつ声を荒らげ、回避の勢いのまま飛翔したバイヴ・カハ。
空中で魔術を行使して火炎、風刃、雷撃、氷杭を嵐のように放ち、更には大地を隆起・陥没させる天変地異を引き起こし、また、毒、麻痺、眠り、魅力などを煮詰めて濃縮したような呪いをも重ねて放つ。
これだけの魔術を同時且つ瞬間的に放つことが可能なのは、バイヴ・カハの一面である、怒りと狂気の象徴たる女神ヴァハの『魔術』の権能によるものであった。
モリガンが槍と魔術を操るのに対し、ヴァハは魔術のみを扱う。それは即ち、魔術を行使することこそが最も強いからだ。
わざわざ槍でエネミーに襲いかからずとも、ヴァハの『魔術』を使えば、対価も工程も何もかもを必要とせず、魔術の結果のみを引き出すことが可能なのだから。
極端な話、『魔術』で即死をもたらす魔術を練れば、それだけで有象無象には事足りる。
そのような『魔術』を持ち合わせるバイヴ・カハは、己の好きなように魔術を練り上げることができる。故に、魔術で天変地異を作り上げるなぞ造作もない。
だが、如何に神の如き力を持っていようと、今のクー・フーリンには至らず。
「──────」
緋色に触れた途端に消滅する天変地異、数多の呪い。彼という存在が、この世とは異なる次元にいるかのようだった。
しかし、クー・フーリンの限界が近いのか、彼の肉体が徐々に崩壊を始める。身に余る『死』が、ゆっくりとクー・フーリンを焼いていた。
それを視認したバイヴ・カハは、長期戦に持ち込めばクー・フーリンは自滅する、と把握。が、予見が"それは叶わない"という未来を視せる。
「何だッ、貴様は何なのだッ……!!」
「────死だ」
クー・フーリンは腰を落とし、クラウチングスタートさながらの姿勢をとる。そして、弓につがえられた矢の如く駆け、翔ける。
大きく振り上げられた右手に、逆手持ちにした魔槍を強く握り締めると、魔槍へ緋色が収束していき、形成される絶殺の一条。
「手向けに受け取れ────」
『突き穿つ死翔の槍』と同じフォーム。それは心臓に当てることよりも、一撃の破壊力に特化させた必殺の槍。
そこへ『死』を濃密に纏わせることで、一撃の破壊力と同時に、死なずすら殺す呪いを獲得する。
錆び付いて軋むように腕が力み、己すら焚べた『死』を放つ。それは『抉り穿つ鏖殺の槍』を投擲するが如く。
「ケルトの願望を砕くというのかッ……!?」
「喰らえッ────」
────『
クー・フーリンの手から放たれた魔槍は音速を遥かに超え、緋色の軌跡となった。
その線上にいたバイヴ・カハは、全身全霊をもって多重の障壁を築き上げ、正面から受け止める。
クー・フーリンの投擲とバイヴ・カハの障壁が衝突────瞬間、大気を震わす爆音が鳴り響く。
そして、バイヴ・カハは冷や汗を垂らしつつも、嗤った。一瞬でも力を緩めれば破られるだろうが、この程度なら守り切れると感じ取ったのだ。
原作の『突き穿つ死翔の槍』のように、結局のところ、『成り穿つ死憑の槍』とて懐に入れなければ鋭いだけの一撃に過ぎない。
いくら『死』によって魔術の悉くが雲散霧消するとはいえ、ならば消えた端から創造し、補えばいい。
クー・フーリンを侮っていたのなら、確かに彼女の予見の通りの結末を辿っていたことだろう。
しかし、そのような結末を予め見てしまったがために、バイヴ・カハは侮りと余裕、そして矜恃をかなぐり捨てた。
その結果として、この瞬間においてバイヴ・カハは神の名に恥じぬ力を発揮させた。神をも殺す『牙』を、真正面から受け止められるほどに。
尤も、それは楽観に過ぎず。
命を賭けた一撃が防がれる可能性など、クー・フーリンは端から想定済み。故に、命尽きるその瞬間が訪れる前に、次の一手を打っていた。
「────全呪、開放……!」
紡がれる詠唱、展開される異形の鎧────『噛み砕く死牙の獣』。
神話上のクー・フーリンは獲得することのない宝具。アイフェとの開発談義が盛り上がった末に魔改造されたそれ。
本来の『噛み砕く死牙の獣』と異なり、露出していた腹部はクリードの獣骨に覆われ、肩部にコインヘンの触手が複数本備えられた"黒い鳥"のシルエット。
投擲後の落下中に鎧を展開したクー・フーリンは、即座にルーン文字を空中に固定、それを足場にしてバイヴ・カハへと突貫する。
そうして魔槍とゼロ距離となり、『噛み砕く死牙の獣』に『死』を流し込むことで漲る力の奔流を増幅させ、左拳で魔槍を殴り付ける。
「────はァッ!!」
「なッ…………」
硝子が割れるように、バイヴ・カハの多重障壁が一度に砕け散った。
死獣の力によって筋力が著しく向上しているため、力技で押し込んだのだ。それはさながら『壊劫の天輪』のよう。
そして魔槍は、遂にバイヴ・カハを捉えた。
「────ッぁ…………っ!」
吸い込まれるように魔槍が胸部を深々と穿ち、存在しない死────『死』が、瞬間的に彼女を蝕む。
そして、死獣の力によって魔槍が四方へ無数の分裂を繰り返し、バイヴ・カハの内側から破壊の限りを尽くす。
「……寝覚めは必要ねえ、先に……逝ってろ」
もはや言葉を紡ぐ暇すら与えず。『死』に飲まれたバイヴ・カハは、この世から塵ひとつ残さず死滅した。
「結末は……知ってただろ、足掻けば変わるとでも……ってな」
それはバイヴ・カハがスカサハに投げた言葉。絞り出すように鸚鵡返ししたのを最後に、クー・フーリンは天を仰ぎながら背中から倒れた。
その後、彼の意識が覚醒することは────二度となかった。
◆
◆補足
Q.『成り穿つ死憑の槍』って?
A. じいじの冠位返上アタック然り、ゲッシュを駆使した死を付与する攻撃。またの名を『流星一条(槍ver.)』です。言うまでもなくオリ宝具ですので……(オリ宝具という禁忌に抵触したことによるSAN値減少)。
Q.バイヴ・カハ割とあっさりやったね。
A.あっさり系にされた!?(テニミュ) ま、仕方ないね。映像としては、(偽)ニキの流星一条で即時決着、という感じなので、スピーディさを出すために短くせざるを得なんだ。
Q.ゲッシュってそんな便利なものなん?
A.(便利では)ないです。自身に課した誓約がキツければキツいほど強くなれる、所謂『厨武器縛りプレイ』みたいなモンです。ただし、ファン武器に手を出した途端にセーブデータが破壊されます(詐欺罪と器物損壊罪)。今回の(偽)ニキのケースは、某漫画の〇ンさんです()。
Q.ゲッシュってそんな簡単に誓えるの?
A.いえす。資料を漁っていたところ、ゲッシュは、戦う前の前口上のようなやつでも誓いを立てられるみたいです。要は「お前に勝てなかったら〇〇〇を二度とやらない」的なやつでもOKらしい。なのでゲッシュは割とガバいです(ニッコリ)。
Q.次回について。
A.今回でケルト・アルスターサイクルを終わらせるつもりだったんですけど、想像以上に文字数がパンパンですよパンパン!(水素水並感)になったので、素直に分割しました。ハイ(白目)。
↓ここから雑談↓
お久しぶりです、texiattoです。月イチ更新が当たり前になりつつあるのを白い目で眺めている今日この頃。更新速度がアレなのは目を瞑って頂けると嬉しいです。
さて、前回の後書きにて、今回を最終回にすると宣言していましたが……あれは嘘だ(手を離し)。いや、本当に申し訳ないです。今回をマジで最終回にするつもりで書いていたのですが、文字数がどんどんと増えていき、気が付けば執筆途中なのに一万四,〇〇〇字に到達するという事態に。なので素直に分割しました。
今回の内容は割とツッコミどころ満載だと思われます。が、この終わり方は割と最初期から考えていたものなので、これを辞めるとなると大幅な作り直しがががが(ブルスク)。とりあえず、(偽)ニキが流星一条ったということを分かれば九割理解したも同然です←。
次回は(偽)ニキの死を受けた皆の心情やら後日譚やらを書き殴って終了の予定です。そこからFate/GO編に突入です(ワーイ)。ということで次回更新はかなり早めにできそうです。今しばらくお待ちをば。
ダーク♂尺余り