転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。 作:texiatto
誰がここまでしろと言った!言え!
◆エメル視点
私はルスカ領主フォルガル父上の娘、エメルとして生まれました。
私が生まれ育ったケルトの地では、誰もが武勇に優れ、より強き者を求めるのが普通の慣行でした。
しかし私は武勇には富んでおらず、むしろ力を持たぬからこそ、強き者の支えとなれるよう心掛けて育っていきました。
◆
ケルトにはもっとこう、理性的な男性はいないのでしょうか? 誰も彼もが戦いだ女だと、がっつき過ぎていて疲れてしまう。
恋に恋し、良縁を望んでいた、そんな時。
────私は、運命と出会った。
アルスター王を守護する「赤枝の騎士団」に入団した面々を、私の友人と共に覗きに行った時のこと。
騎士団に一際若い男性がいた。青い髪はクールさを印象付け、赤い瞳に浮かぶ鋭い眼光は獣の如く、鍛え上げられた肉体は正しくケルトの男のそれ。
そんな彼────名をクー・フーリンというらしい────は、誰よりも若く、そして誰よりも理性的でした。
彼は頻繁に手合わせを申し込まれ、それに快く頷きますが、彼から積極的に手合わせを申し込むことはほとんどありませんでした。…………不思議と、彼の目に諦観が浮かんでいるのは気のせいでしょうか。
しかし、彼は腕に自信がないから申し込まないのではなく、むしろ凄まじく強かったのです。
手合わせの一幕、とある男が槍を前に構え、猿叫をあげながら彼へと突撃する。言葉にすればそれのみの行動、しかし傍から見ても練度が高く素早い動きなのは理解できました。それを真正面から受けるとなると、その体感速度はとんでもないのでしょう。
正しく、一撃必殺の刺突。
しかし彼は一歩も動くことなく、さも当然のように、構えた槍の穂先を刺突してくる穂先に合わせ、ガキィン! と甲高い金属音を伴って弾く。
それのみで男の刺突を殺し、後は体当たりと化した男を勢いのまま投げ飛ばす。
一連の流れるような動きは、上から落ちた水が下へと落ちるが如く、自然とそうなることがわかってしまう、達人技でした。
他の男ならばそれで終わり、勝者は力を誇示するように煽り文句のひとつやふたつなど言って別の手合わせへと向かう。が、こと彼についてはそんなことはない。
彼は負けた男に近付くと、「速度と鋭さは目を見張るものがあるが、二の矢、三の矢がない。それさえあれば、少なくとも俺は対応に困った」と賞賛と助言を贈り、その後は時間の許す限り、男の鍛錬に付き合っていたのです。
このクー・フーリンという男性が頻繁に手合わせを申し込まれる理由、それは彼の丁寧さと優しさが他者を惹き付け、それを誰彼構わず振り撒いておきつつも相手に成長を促す器量の良さが要因なのでしょう。
それを裏付けるように、クー・フーリンに手合わせを申し込んだ後は目に見えて強くなった、新しい立ち回りや大技を一緒に考案してくれた、しっくりくる戦い方を見つけられるまで親身に付き合ってくれた、など多くを耳にしました。
気が付けば、私は彼のことを目で追うようになり、来る日も来る日も彼の姿を目に焼き付けるために通い詰めていました。その際、彼に熱視線を送る私は周囲から好奇の目で見られているようでしたが、それに反応するのも最初の数回でやめました。
だって、彼から視線が外れてしまうもの。
◆
そんなある日のこと、いつものように私が騎士団へと行った際、酔っていた男に襲われました。
口を押さえつけられ、服をひん剥かれそうになった────その時、
「何をしている」
獣の唸り声のように低く、それだけで相手の心臓を鷲掴んでしまうような死の宣告、否、救いが差し伸べられました。クー・フーリンです。
私が襲われているのを目にした彼は、瞬く間に酔っていた男を蹴り飛ばし、その男との間に割って入って壁となった。
「ッてぇなァ! 何しやがる、新顔の分際でよォ!」
「それとこれとは全くの別問題だ。暴漢に襲われている女がいた、だから割り込んだだけだ」
「抜かせ、女ってのはなァ、強い男に惚れるのさ、俺みてェな、な?」
…………この男もだ。男といえば皆そうだ。いくら強き戦士に惹かれる女性が多いからといって、それを常識のように語り、皆がそうであると信じて疑わない。
「だから俺が、エメルを抱く権利が、あるのさァ!」
快楽に浸った醜悪な弧を描く男、それが自然の摂理だと言わんばかりの発言だった。
また、言外に「俺はクー・フーリンよりも強い」と口にしたことになる。確かに、眼前の男は騎士団の中でも上位の力を持っており、『今は』まだクー・フーリンよりも上です。
────ですが、今回はそれが誤りでした。
ほう、なるほど、と相槌を打つ彼。その口元は獲物の付け入る隙を見つけた肉食獣のそれだった。
「ならば俺がこの女をどうこうできるってことだな?」
「あ? 何言ってやがる?」
男は眉を顰め、心底意味がわからないと顔に書く。それを見た彼もまた、そんなこともわからないのか、と顔に映し出す。
当の私は、彼もまた私のことを気にしている! と舞い上がっていたのですが、
「文脈で察しろ、俺の方が強いと言ったんだ」
…………やはり、男とは戦うことに特化しているのだと再認識しました。
獰猛な笑みをした男は彼を連れて修練所へと向かい、結果は言うまでもなく、クー・フーリンの勝利で終わりました。
手合わせを終えた直後、私は彼に頭を下げに行きました。
いくらあの男が原因とはいえ、男所帯の場所、しかも人気のない裏手に自ら赴いたのは、あまりに危機意識が薄過ぎたから。
なのに、私を助けたばかりに彼は自分よりも位の高い相手に、自らは消極的な手合わせを挑まねばならなくなりました。それが本人の意思かどうかはさて置いて、です。
彼もまた他の男らと同じなら、今回の対価として身を差し出せとでも言うかもしれません。でも、それは万に一つもないという確信がありました。
だからせめて、誠心誠意、謝る。感謝する。
「あ、あのっ、今回は私のせいでこんなことになってしまい、本当に申し訳ありま────」
「何を勘違いしているのか知らんが、俺はあの男に手合わせを願うために探していただけだ」
だからお前は関係ない、気にするな、と言って立ち去ろうとする。
────思わず言葉を失う。さすがに、ここまでとは想像していませんでした。
と、彼がこちらに振り向き、
「そうさな、悪いと思ってんなら、今度からは俺の目が届く範囲で見学するようにしな」
「────っ」
…………不意打ちは卑怯です。私の顔が茹で上がっているのを自覚できてしまうほど、心身から熱い何かが込み上げてくるではないですか。
その後、私は彼の行く先々で彼の目の届く範囲にいるようにした。
修練所で、詰所で、街で、村で、どこででも。
思えば、ここから私はおかしくなったのかもしれない。
◆
いけない。
「178日目、今日も鍛錬に勤しんで────」
あぁ、これはいけない。
「つ、遂に彼の私物を手に入れてしまったわ…………」
もう、止まらない。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!! アアッ! 彼のベッド! 彼の匂い! 彼の温もり! ベッド! 匂い! 温もり!」
否、止められない。
「あの女ぁ! 私のクーに色目を使うなんて…………! 飲み物に毒を仕込むしかないわね。ふふ、あの女が悪いのよ」
気が付いた頃には、もう戻れなかった。
◆
彼の全てを把握していたい。
過去も、現在も、未来も、何もかもを。
◆
クーがここを去った。
どうして?
序盤→クー・フーリン、視線を感じる
中盤→クー・フーリン、パンドラの箱を開ける
終盤→クー・フーリン、逃げる
隙がないと思うよ、でも、オイラ負けないにょ(戦闘続行EX)
いやね、いくらクー・フーリンを騎士団から影の国へと移動させるためとはいえ、エメルを魔改造し過ぎたかハマーン………。
しかし、反省はしているが後悔はしていない(至言)
ニコニコでDRIFTERS全話見直してたおかげでクッソ難産でした(白目)
やっぱヒラコーすこここのすこ
HELLSINGもすこれ