転生クー・フーリンは本家クー・フーリンになりたかっただけなのに。   作:texiatto

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こんだけ待たせておいて、話が大して進んでない小説があるらしいんですよ〜(クールポコ)。
やっちまったなぁ!って感じにマジで申し訳ない気持ちでいっぱいなので初投稿です。


クリミアの天使:三人称視点

 ◆

 

 

 

 クリミアの天使ことナイチンゲールの助力を取り付けた藤丸達。

 そんな彼らの元に、火急の知らせが飛び込んできた。

 

 ────このテントに敵が迫ってきている。

 

 その情報がもたらされ、藤丸達は即座に行動に移す。

 

 野戦病院であるこの場所には、負傷した兵士が未だ数多く臥せている。襲撃を許せば、死傷者は夥しいものとなるだろう。

 

 それ故に、藤丸達はこの場を守護するべく打って出たのだ。

 

「っ、多い……!」

 

 迫り来る敵兵、その軍勢を目にした藤丸は、噛み締めるように声を発する。

 以前までは縁遠い事象であった命のやり取り。何度も乗り越えてきたが、やはり緊張が伴う。

 

 そんな藤丸を他所に、ナイチンゲールは拳銃を片手に突貫する。

 

「速やかに終わらせましょう」

 

「あ、ちょっと待ってください……!」

 

 マシュの静止の声。それを聞かずして突撃するナイチンゲールは、接近した兵士の頭を拳銃で撃ち抜き、更に別の兵士に拳を叩き込む。

 

 早くも敵兵二人が戦闘不能。

 

「────マシュ! 婦長の援護に回って!」

 

「わかりましたっ……!」

 

 戦闘に特化した逸話を持っていないにしろ、今のナイチンゲールは狂戦士の英霊。補正の入ったステータスは優秀だ。

 しかし、彼女の攻撃手段は拳銃による射撃か肉弾戦の二択しかない。数を相手にするとなれば、そこに限界が生じてしまうだろう。

 

 そのことを、これまでの経験則から鋭敏に感じ取った藤丸はマシュへと、ナイチンゲールの援護を素早く指示する。

 

 そこからは乱戦であった。敵兵の軍勢はサーチ・アンド・デストロイを掲げるが如く、サーヴァント二騎に殺到する。

 敵兵は数こそ多いものの、単体のスペックでは藤丸達に軍配が上がっていた。ナイチンゲールが攻撃し、マシュが護り、藤丸が回復と強化で補助するという役割分担。

 

 そうして次第に軍勢は数が減っていき、遂には膠着状態となる。

 

『待った! 敵性サーヴァントの反応がある……二騎!』

 

 不意のDr.ロマンの喚起に、思考をより鋭利なものへと変化させる藤丸達。

 彼らの視界に、こちらへと歩み寄ってくる二人の男性の姿が入った。

 

「王よ、見つけましたぞ」

 

 一人は、紅の長槍と黄の短槍が特徴的な、垂れ目と泣き黒子を持つ整った顔立ちの戦士。

 

 もう一人は、「王」と呼ばれた、二メートルはある両手槍を持った長い金髪の美丈夫。

 

「どうやら彼らがサーヴァントのようです。戦線が停滞するのも無理はない。名を残せなかった戦士達ではここが限界でしょう。今こそ我らの出番です」

 

「さすが我が配下ディルムッド・オディナ。君の目はアレだな。そう、例えるなら隼のようだ!」

 

「……滅相もありません。貴方、フィン・マックールの知恵に比べれば私如きは」

 

 二人の会話から真名が判明する。ディルムッド・オディナ、そしてフィン・マックール。

 

 二人はケルト神話の"フィニアンサイクル"という物語出身の英霊である。

 神話上では、フィンが「王」で、ディルムッドが部下という主従関係にあり、互いに信頼を置く間柄であった。

 だが、女性関係で色々と拗れてしまい、フィンはディルムッドの裏切りに、ディルムッドは己の不忠に怒り、双方共が後味の悪い最期を遂げている。

 

 しかし、此度は生前の諸々を抜きにしてツーマンセルを組んで行動していた。生前のあれこれを清算するかのように。

 

「ハハハ、謙遜はよしこさん。君の審美眼は確かだ。()()()()を選んだのもそれを証明している」

 

「……い、いや。それは……その……ええと……」

 

「すまない、冗談だよ冗談! 少し性質が悪かった!」

 

 が、早速のギスりである。いや、フィンのブラックジョークというべきか。

 フィンは微笑みを湛えているが、ディルムッドは叱られた犬のような反応を返した。

 

「さて、それでは戦おう。我らフィオナ騎士団の力、存分に彼らに見せつけよう。そして────この豊穣たる大地に、永遠の帝国を!」

 

「御意! では、ご婦人方────お覚悟を。我はフィオナ騎士団の一番槍、ディルムッド・オディナ!」

 

 名乗りを上げ、藤丸達へと武器を構える二人の戦士。敵対関係にあったが、藤丸は彼らから真なる騎士道精神を感じ取った。

 

「ディルムッド……"輝く貌"のディルムッド・オディナ……! そして背後に控えているのは、その主であるフィン・マックール……!」

 

 マシュは眼前の戦士達の名を耳にし、相手が如何なる存在の英雄かを理解する。

 藤丸もまた、学生時代にケルト神話について調べたことがあったため、双方の名に心当たりがあった。

 

「つまり、貴方がたが病原の一つということですね」

 

「病原……? いや、我らはただの戦士だ。それ以上でもそれ以下でもない────うおッ!?」

 

 ナイチンゲールは早々にディルムッドらを病原体だと断定し、彼に躊躇いなく発砲する。

 

「────その死を以て、病を根絶させます!」

 

「くっ……人の話を聞かないタイプか……! 苦手だ、そういう女性は本当に苦手だ……!」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 レイシフト後の対サーヴァント、その初戦。ランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナ。

 先程の前口上の"一番槍"の通り、先ずは彼が一人で戦うらしく、フィンはディルムッドの背後で見に回っていた。

 

 サーヴァント同士による戦闘が開戦しようとしている。肌に纏わり付く戦意にひりつく藤丸だが、即座に指示を飛ばせるよう、油断なくディルムッドを見据える。

 

(英霊の宝具は、その人物の逸話とか、持っていた武具なんかが昇華されたもの。……確か、ディルムッドといえば────)

 

 記憶を巡らせ、僅かな思考の引っ掛かりから情報を手繰り寄せ、藤丸は彼の双槍に視線を向けた。

 

「────マシュッ、婦長ッ、ディルムッドの槍に気を付けてッ……! 紅い長槍は、魔術や魔力を掻き消すゲイ・ジャルグ! 黄色い短槍は、付けた傷の回復を無効にするゲイ・ボウだ!」

 

 藤丸が声を上げた途端、ディルムッドは目を細め、薄く笑みを浮かべる。

 

「知っていたか……我が槍を」

 

 ディルムッドの肯定を以て、マシュはより一層の警戒を露わにし、一方のナイチンゲールは「傷の回復を無効にする」という部分に目敏く反応する。

 

「治すことを妨害するとは、見過ごせません。やはり、ここで終わらせねばなりませんね」

 

 ペッパーボックスピストルを構えたナイチンゲールは、即座に銃口をディルムッドに向け、発砲する。

 迫る鉛玉を、ディルムッドは容易に槍で弾きながら地を蹴り、ナイチンゲールとの距離を詰める。

 

 疾風の如く駆けるディルムッドに、彼女は冷静に射撃を継続。

 

 発砲────またも槍で弾き返される。

 

 発砲────超反射で躱してみせる。

 

「────取ったッ!」

 

「させません……!」

 

 瞬く間に接近したディルムッドは、浅く持ったゲイ・ジャルグを振るい、その穂先でナイチンゲールに斬り掛かる。

 彼女を斬り裂かんとする凶刃を、間に滑り込んだマシュが盾で受け止め────

 

「はぁッ!!」

 

 ────シールドバッシュによってディルムッドを押し返す。

 

「ぐっ……おおッ!?」

 

 飛ばされ体勢を崩したディルムッドへ、ナイチンゲールは容赦なく追撃を狙う。

 マシュの背後から、弾かれたように飛び出た彼女は、ディルムッドへと一直線に跳んだ。

 

 その振りかざした右手には────何処からか取り出した、安全ピンを外した結束手榴弾が握られていた。

 

「滅菌ッ!!」

 

 独特な掛け声と共にナイチンゲールは右手を振り下ろし、結束手榴弾でディルムッドを直接殴り付ける。

 

 直後、爆発。身体の奥から震わす爆発音を響き渡らせる。

 ナイチンゲールは爆風に触れる直前でステップを踏んで回避したが、ディルムッドは炎に身を包んだ────が、しかし。

 

 不意に、炎を斬り裂いて伸びる緋色の穂先。

 

「…………!」

 

 首を断つ軌道を、ナイチンゲールは身を屈めることで既で躱す。

 彼女の回避行動を見透かしたように、土煙から突き出す黄色の穂先が、ナイチンゲールの右肩を狙い穿つ。

 

 黄色の短槍は回復を無効にする。その情報を事前にもたらされていたために、ナイチンゲールは常に短槍に注意を払っていた。

 だからこそ、彼女はそれが放たれる予感を鋭敏に感じ取り、咄嗟に地を転がることで避けることが出来た。

 

 ナイチンゲールは土煙に向けて二発、三発と射撃を行いつつ、バックステップで距離をとる。

 一方のディルムッドは、弾丸と視界不良を避けるべく土煙から脱し、再びナイチンゲールへと突貫する。

 

 勢いを殺さず、加速するディルムッド。彼は瞬時にナイチンゲールとの距離を詰め、神速を乗せた蹴りを見舞う。

 生身でありながら岩すら砕きかねない強打を、ナイチンゲールは両腕を交差して受け止めることで致命的なダメージを防ぐ。だが、強烈な攻撃を殺し切れずに吹き飛ばされた。

 

「だ、大丈────ぐっ!」

 

 彼女を案じるマシュに、たたみかけるようにディルムッドの槍撃が振るわれる。

 

「他者を案じるのは構わんが、戦場で注意を欠くは愚かだぞ」

 

 ゲイ・ジャルグの横薙ぎが受け止められるやいなや、ディルムッドは続けて左脚で盾を蹴りつける。

 

「っ……!!」

 

 大地に線を刻み付けながら後退させられたマシュに、ディルムッドは追撃を見舞う。

 リーチを最大まで活かすように大振りで槍を振るい、一閃。その魔槍は轟ッ! と空気を裂く音を奏でた。

 

 一方のマシュは、シールダーのサーヴァントに恥じない堅牢な護りによって一撃を防ぐ。

 だが、防いだ端から長槍の殴打が次々と迫り、油断をすればその隙間に入り込むかのように短槍が差し込まれる。

 

 苛烈さと巧さを兼ね備えたディルムッドの猛攻に、マシュの精神がすり減らされていく。

 このまま戦闘が続けば、マシュが仕留められるのも時間の問題だろう。

 

「────マシュ!」

 

 そうさせないためにマスターが、藤丸立香がいる。

 

 マシュに向けた藤丸の手が淡い光を放ち、それに呼応するようにして彼女に光が帯びる。マシュへ強化を施したのだ。

 

「ッ! はあぁぁぁ……!」

 

 己がマスターの助力を感じたマシュは、ディルムッドの猛攻を防ぐのではなく、力技で押し返す。

 シールドバッシュで槍撃を粉砕し、瞬間的に生じた攻撃の空白。そこを逃さず、攻防の主導権を取り返す。

 

 ディルムッドを僅かに後退させたところでマシュは跳び、大盾を下に構えて落下する。落下位置にいるのは、彼。

 

 ディルムッドが技の巧みさで戦うのなら、その悉くを上から押し潰してしまえばいい。

 生憎、槍と大盾という質量が圧倒的に異なる主武装。故に、瞬間的にであっても、力さえ上回れば実現できる。

 

「おおッ……!」

 

 不意の一転攻勢に瞠目するディルムッド。降り掛かる強撃は防げないと本能で察し、後ろに跳ぶことで直撃を回避する。

 間もなくしてマシュが大地に落下する。そして振り下ろされた大盾は地面を罅割れさせ、陥没させ、岩片を撒き散らした。

 

 舞い散る大地を貫く人影────復帰したナイチンゲールが、一直線にディルムッドへと殴り掛かる。

 

「消毒ッ!!」

 

「ぐッ……!?」

 

 咄嗟に槍を宛てがうが、衝撃はあまりに重く。ナイチンゲールの拳はディルムッドを飛ばし、地を転がした。

 

「…………っ、中々やる」

 

 そうして互いに距離が開き、仕切り直し。マシュとナイチンゲールは油断なく見据え、ディルムッドは好戦的な笑みを浮かべながら敵を見定める。

 

 すると、ディルムッドの後方に控えていたフィンが、己が騎士に歩み寄る。

 

「不覚をとったなディルムッド! 任せよ、傷を癒すぞ!」

 

 携帯していた水袋を取り出し、少量の水をディルムッドに垂らす。と、忽ち彼の負傷が癒されていく。

 この水はフィンの宝具「この手で掬う命たちよ(ウシュク・べーハー)」────それは、彼の掬った水は癒しの力を得る、という逸話が宝具に昇華されたものである。

 

「我が主、感謝を。そして謝罪を。申し訳ありません、圧されました」

 

「ふふふ、さすが"女殺し"のディルムッド。やはり女性を相手取るのは苦手かな?」

 

「いや、それは、その…………」

 

「ふっはっは、冗談さ冗談、割と気の利いたね! だが気にする事はない。二人共に見目麗しく、強い女性だ。槍の穂先が鈍るのも無理はあるまい」

 

 ちょっと笑えないワンクッションのギスりを入れ。同時に、フィンはマシュとナイチンゲールを難敵として捉える。

 

「さて、それでは私も出張るとしよう。栄光たるフィオナ騎士団の名の下に────その首級、貰い受けようッ!」

 

 ディルムッドの隣に並び立ったフィンは声高に宣戦し、槍を構えた。

 それに連なるように、ディルムッドもまた笑みを湛えつつ構える。

 

 戦意の矛先を向けられたマシュは、更なる激闘の予感から、額から汗が滴る。

 ナイチンゲールは眉ひとつ動かさずに、拳に力を込める。その胸に抱くは、病巣の滅殺。

 

「ランサー、フィン・マックール……行くぞッ!」

 

 戦端は、再び切って落とされた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ケルト────それは、戦闘行為に貪欲な戦士達が形成してきた文明。戦いを良しとし、戦場で散るは誉れ。

 故に、ケルトに属する者達は武芸に長けている。類に漏れず、フィンとディルムッドもまた一流と呼ぶに相応しき戦士である。

 

「続けッ、ディルムッド!」

 

「承知ッ!」

 

 駆けるフィンが吼えるように指示を飛ばし、それに追従するディルムッド。

 端から()()()()()()()としても、そこに敵がいるのなら挑まざるを得ない。

 

 それでこそ、ケルトの戦士なのだから。

 

「相手は手練だ。二人共、気を付けてッ!」

 

「はい! 行きます……マスター!」

 

「全ての病を取り除くためにも、ここで倒れる訳にはいきません」

 

 マシュとナイチンゲールもまた、眼前の強敵へと向かって駆け出した。

 

 そうして────衝突。

 

 接敵から間を置かずして放たれるフィンの一撃。疾走の勢い、練り上げた技術、そして生前の友と肩を並べて戦える高揚感。その全てが相乗された一閃。

 

「さあ、輝いてしまおうか……!」

 

 薙ぐようにして振るわれた魔法の槍、その残光をなぞるようにして、刃の如き水流が出現する。

 ナイチンゲールより先行していたマシュは、その初撃を盾で受け止め、押し返す。

 

「なるほど、此方の一撃を容易く弾くか!」

 

「はあぁッ!」

 

 攻撃を弾いたことでフィンの懐に隙が生じ、マシュはそこへ目敏く一撃を叩き込む。

 カウンターの要領で放たれたこれを、フィンは僅かな脚さばきのみで躱してみせ、再び槍で横薙ぐ。

 

「ふむ、戦いに身を置いてきた、というワケではなく、戦わざるを得なかった、というべきか。ああ、実に健気だとも」

 

 鋼すら斬り裂く斬撃をして、マシュの盾には傷一つ付かず。鍔迫り合いになると、フィンは柔和な笑みをマシュに向ける。

 そこからは力量を測るではなく、互いに激しく打ち合う。刺突、弾き、薙ぎ、受け止め、斬撃、いなし。目まぐるしい攻防を繰り広げる。

 

 一方のナイチンゲールはというと、やはり"傷を癒せない"という部分を許せないとして、迷うことなくディルムッドに突貫する。

 

「貴方を滅さねば治療に支障をきたします。早々に消えなさい、病原!」

 

「病原ではなく戦士だと……!」

 

 話を聞かないタイプの女性に辟易するディルムッドだったが、ここは戦場、気を抜くことなどする訳がなく。

 拳銃に結束手榴弾、そして英霊を潰しかねない拳という危険物の塊のようなナイチンゲールに、彼は冷静に対応してみせる。

 

「ふッ!」

 

 浅く構えた紅の魔槍を、遠心力を乗せるようにして大振りに振るい、地面を抉る程の一閃を放つ。

 ナイチンゲールの脚を斬り裂かんとするそれを、彼女は軽い跳躍で避けるが、正確には空中に跳ぶよう強要するものだった。

 

 マシュと異なり、ナイチンゲールには明確な武具の類が存在していない。

 故に、武装した相手の攻撃の対処は、基本的に躱すか受けるかの二択となる。

 

 ナイチンゲールは何の躊躇いもなく地から脚を離した。

 

「────捉えたッ!」

 

 この瞬間を待っていた、と言わんばかりにディルムッドはゲイ・ボウの刺突を、回避行動が困難なナイチンゲールへと繰り出す。

 

 仮に致命傷にならなかったとしても、ゲイ・ボウの付けた傷は癒せないため、後々まで響く。

 この一撃で仕留められないにしろ、何のことも無いはずの傷が、簡単に決定打へと転身する。それこそがゲイ・ボウの強みである。

 

 だからこそ、ディルムッドは短槍を迷いなく放った。

 

「なッ……!?」

 

 だからこそ、驚愕した────ナイチンゲールは、寸分の狂いなくゲイ・ボウの刃を白刃取りしてみせたのだから。

 掌に傷すら残さず。そしてナイチンゲールは、すぐさまゲイ・ボウの柄を掴んでディルムッドを引き寄せ、ほぼゼロ距離でペッパーボックスピストルの引き金に指をかけた。

 

「殺菌ッ!!」

 

 そして、発砲。常人であれば間違いなく鉛玉に直撃して死傷するレベルの行為であり、増して、不意打ちに近いこれを回避するなど不可能に等しいだろう。

 

 だが、ディルムッドは避けてみせた。唯一幸運だったのは、完全なゼロ距離ではないことだった。

 また、銃口が顔に向けられていたことも幸いし、反射的に頭をそらすことで、頭部が吹き飛ぶことを回避した。

 

 しかし、ナイチンゲールの攻撃は続く。

 

 銃撃は外れたが、今の彼女はディルムッドの懐の深くに潜り込んでいる。

 ナイチンゲールは跳んだ勢いのまま、ディルムッドを押し倒し、その上に馬乗りとなる。

 

 女性が男性の上に乗るなどセンシティブなシーンのようだが、如何せん、血の気が多過ぎるため、艶かしいとかいうアレは一切ない。

 

「ぐっ……!? このッ、……!?」

 

「緊急治療ッ!!」

 

 抵抗できないディルムッドを眼下に、ナイチンゲールは拳を引き絞る。何をやろうとしているのか、それは簡単に察せられた。

 

 否応なしに振り下ろされた彼女の拳、それは流星の如く。

 ディルムッドは首を僅かに動かすことで直撃を避けたが、掠った耳が焼けるような痛みを訴える。

 

 次の瞬間、ナイチンゲールの拳は破砕音を伴って大地に突き刺さった。

 これが顔面に叩き込まれていたら、と冷や汗が流れるディルムッド。

 

 この体勢では圧倒的に不利だとして、ディルムッドは足を曲げて地を蹴り、刹那の拘束の緩みに抜け出す。

 

「何と破天荒な戦い方だ……!」

 

 苦笑しつつも、素直にナイチンゲールを称えるディルムッド。バーサーカーというクラスの影響もあるのか、彼女の鬼気迫る戦闘スタイルに気圧されたのだ。

 

「女の身でこれ程とは……生前ではドルイド僧くらいしかおらなんだ。貴様、軍医と見受けたが、その実、戦士を生業としていたのではないか?」

 

「私は、己が傷付き、命を落としたとしても、人々を治療し(戦い)続けなければならないのです」

 

「……なるほど、立場は違えど歴とした戦士ということか。ならば、この槍の重みに足る意味があるというもの」

 

 改めて双槍を構えたディルムッドは、獰猛な笑みを更に深め、ナイチンゲールに攻撃を仕掛ける。

 ナイチンゲールもまた己が信念を貫くべく、ディルムッドに突貫していく。

 

 戦闘は、まだ始まったばかり。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 藤丸達がフィン、ディルムッドと交戦してから、早くも十分は経過した。

 

 初めはマシュ対フィン、ナイチンゲール対ディルムッドという構図だったが、時間共に双方入り乱れ、正しく乱戦の様相を呈していた。

 

 マシュとナイチンゲールは、出会って間もないながらに互いの短所を補い、長所を活かす立ち回りをしていた。

 それを可能としたは、マスターの存在が大きい。常に俯瞰的な戦況把握に努め、指示を飛ばし、時に強化や治癒を施す。それらがあったからこそ、マシュ達は歴戦のケルト戦士相手に拮抗してみせたのだ。

 

 だが、だったとしても、フィンとディルムッドを仕留めるには至らず。

 

「ふむ、我々二人でも手に余るとは。これは中々……歴戦の勇士だったかな?」

 

「マスター、攻めきれませんでした……!」

 

 槍撃が止み、戦場に静寂が満ちる。構えを解いたフィンが、微笑みながら言葉を投げかけた。

 唐突に戦意を消した行動に、藤丸達の頭に困惑と警戒が浮上する。

 

「……! 怪我人の気配が……!!」

 

「って、えっ!?」

 

「婦長、どこへ!?」

 

 今の今まで死闘を繰り広げていたはずのフィン達を前にして、ナイチンゲールは目もくれずに野戦病院の方向へと爆走。

 警戒を怠らずにフィン達を見据えていた藤丸達だったが、思わず明確に焦りを露わにする。

 

「おや、彼女は気付いたようだね」

 

 意図が不明なナイチンゲールの行動、その答えをフィンが告げる。

 

「真名を明かせぬシールダーのサーヴァントよ。この聖杯戦争は、字義通りの戦争なんだ。我々としては、君達を踏み留まらせておけば良かったんだ」

 

 フィン達は藤丸らと遭遇し、矛を交えた。フィン達は彼らを強敵と認めはしたが、倒すまではせず。今回は足留めすることがフィン達の役目だったからだ。

 その証拠に、フィン達は真名解放を伴う宝具の使用は、一切することはなかった。

 

 これまでの戦いの意図、それを聞いた藤丸達は瞠目し、そして気が付く。

 開戦時は山のようにいたはずの敵兵、その数が減っていることに。

 

「まさかッ……!」

 

「……ッ! 他の兵士達を……!」

 

「彼らは名も無き戦士たち。ただただ戦い続ける比類なき怪物だ。もちろん、サーヴァント相手には鎧袖一触の存在だが────アメリカ軍相手には、どうだろうね?」

 

「くっ……!」

 

 そう、これは戦争。単純な決闘などでは断じてない。強敵の足留めを行い、その隙に別の敵を叩く、という手段が当然のように選択されて然るべきなのだ。

 勝てば官軍、負ければ賊軍。それがまかり通ってしまうのが現実であり、勝者こそがルール。敗北者が何と言おうと、それは負け犬の遠吠えなのだから。

 

「君達を足留めすることができ、本当によかったよ。我らの役割、これを全うしなければどんな沙汰が下されることか。いやはや、あの()()()は美貌を欲しいままにしているが、同時に容赦がない」

 

 心底、安堵するような息を吐くフィン。貴婦人と呼ぶ女性を美しいと褒め称える反面、彼女の()()を見抜いていた。

 

「あれ程の女性に尽くされるとは、実に男冥利に尽きる。まるで私のようだ。そうは思わないかな、ディルムッド?」

 

「……あ、その……は、い……」

 

「はは。冗談だよ、冗談! 割と踏み込んだね! まあ、私の魅力は本物だが」

 

 状況を把握した藤丸達は、直ぐにでもナイチンゲールの後を追い、少しでも人々を守りたい。

 だが、敵前逃亡とも呼べるそれを、果たして眼前の戦士が許してくれるものか。

 

(どうすればいい……! 考えろ……!)

 

 何か妙案が思い付かないかと思考する藤丸に、焦りばかりが募る。

 

 不意に、藤丸の耳に多数の足音が入った。今の藤丸には、それが福音のように聞こえた。

 

「……! 王よ、お退がりを!!」

 

「────何!?」

 

 この戦場に、軍勢が押し寄せる。"名も無き戦士たち"とは明らかに異なり、この地に生きる人間によって組織された武装集団。

 その軍勢の先頭に立ち、指揮しているのは一騎のサーヴァント。

 

「右翼、左翼、敵を包み込め! 我々は中央突破を謀るぞ! 連中は目の前のことしか処理できぬ獣だ! こちらには知恵がある!」

 

 そのサーヴァント────ジェロニモは、仲間達に指示を飛ばし、"名も無き戦士たち"の撃破に動き出す。

 彼らがこの場に介入した理由は、この地を脅かす侵略者達から人々を、()を守るためであった。

 

「あれは……噂に聞くレジスタンスか……! サーヴァントが増えたのであれば手の施しようがない。ここは一目散に撤退だディルムッド!」

 

 フィンの呟きを聞き逃さなかった藤丸は、そこから情報のひとつを引き出す。

 

(レジスタンス……、アメリカ軍とは違うのか……?)

 

 今のカルデアは圧倒的に情報不足だ。故に、現状で提示されている事実や話を整理し、推測し、結び付けることが必要である。

 思考の海へとダイブしかけたその時、フィンとマシュとのやり取りで、藤丸は無理やりサルベージさせられる。

 

「ああ、その前に大事を忘れていた────麗しきデミ・サーヴァントよ」

 

「わ、私ですか?」

 

「そう、君だよ君。君は我々と戦うことを決めているのかな?」

 

「……はい。マスターと共に、貴方達を討ちます」

 

「よい眼差しだ。誠実さに満ちている。王に刃を向ける不心得はその眼に免じて流そう。その代わり────君が敗北したら、君の心を戴こう! うん、要するに君を嫁にする」

 

「………………はい?」

 

 目を白黒させ、困惑するマシュ。何を言われたのかは分かるが、何故そんなことを言うのかが理解できない。

 ついでに言えば、藤丸もまた口を広げて呆然としていた。

 

「楽しみだな、実に楽しみだ! 実に気持ちのいい約束だ! では、さらば! さらばなり!」

 

 マシュの聞き返しの「はい」を、同意のニュアンスとして受け取ったフィンは、一転して上機嫌になり、足早に立ち去る。

 対しディルムッドは苦い顔を晒す。言葉にせずとも、またやらかしたか、と顔に書いてあった。

 

「失礼。我が王のささやかな悪癖です。悪戯と思われましょうが、ああ見えて嘘偽りない御方。貴女の勇姿に参ってしまったのでしょう。敗北した暁には、どうか降伏と恭順を考慮して戴きたい」

 

 主のフォローをしつつ、ディルムッドもまた撤退して行く。

 

 嵐のような一連。フィンとディルムッドの遠ざかる背を、藤丸達は阻止するでもなく、眺めるしかできなかった。

 

「……あの、最後のあれは何だったのでしょうか」

 

「プロポーズされた……みたいだね」

 

「そ、そうなんですか。それはちょっと……驚きですね。えっと、あの方自体には何も感想はないのですが、その言葉自体はインパクトがあるというか……」

 

 僅かに頬を朱色に染めたマシュ。それに何となく居心地の悪い感情を抱く藤丸だったが、 それどころではないと頭を振る。

 

 すると、合間を縫うように入る着信音。カルデアからの通信だ。

 

『おーい、大丈夫かい? ひとまず敵サーヴァントの反応が消えたようだけど。代わりに別のサーヴァントが現れたようだ。そちらに接近している』

 

 緊迫した空気が続いていたからこそ、Dr.ロマンのゆるふわな声色に安堵を覚える藤丸達。

 

「行こう、マシュ!」

 

「はい! 急いでナイチンゲールさんと合流しましょう!」

 

 

 

 ◆




◆補足
Q.藤丸君よく槍のこと知ってたね。
A.以前に調べたことを頑張って、思い……出した!綴る!(謎)

Q.婦長ってこんな戦い方なんか。
A.めちゃくちゃ想像で補った。ゲームでのモーションを改めて見直したり、キャラ設定を読み込んだりして描いたんだけど、違和感あったら申し訳ナス!

Q.生粋のケルト戦士にマシュとナイチンゲールが拮抗できるもんなの?
A.一応サーヴァントってスペックですし、フィン達にもコロコロする意図もなかったからですかね。


↓ここから雑談↓


お久しぶりです、texiattoです。更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。プリコネではクランを結成して色々と頑張り、Fate/GOではボックスイベを走り続け、半沢直樹は面白くて鳥肌だしで、あーもう時間壊れちゃう……!(謳歌)
今回は藤丸達VSフィニアンサイクルのお話でした。が、こんだけ文字を連ねておきながら、Fate/GO本編でいうと第2節「クリミアの天使」の進行しかないんですよね。やっぱつれぇわ……(王子)。
今回はマジで戦闘描写ばっかで、執筆カロリー高めの肥満文面(謎)でした。しかもナイチンゲールの戦う様をどうすべきか、それを練るのがホントに難産でした。ですが、ナイチンゲールの戦闘スタイルとして違和感がないよう努めましたが、どうでしたかね?(震え声)
さて、次回は第3節「星の欠片」となります。今回までは原作との違いが薄いですが、次回は原作との違いがいくらか出始めると思います。現状の北米の抗争図の説明や、とある人物の登場などを予定しています。早く描く努力はしますが、やはり時間はかかるので暫くお待ちをば。では、サラダバー!




















バニー師匠が非常に股間に悪い件(素直)。そしてシレッとアーケードに襲来するグランドクソ女マジ最かわで股間にわr(略
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