バックボーンが生まれたし、モチベーションも貰えた。不定期更新で続けようと思います。(エタらない宣言)
ハーレム好きな人よりカプ厨向けになると思われ。
「企画した名取恭平っす。今日はよろしく。」
「恭平の従姉、路次桜子だよ。この中で唯一の社会人かな?よろしくね~。」
「牛流清哉。陸上やってた。」
「なんか、牛流先輩につれてたんだけど何の集まりなの?紫垣淳奈よ。」
「仁科正美だ。酒は嫌いなんでそこだけ雰囲気が悪くしたら申し訳ない。」
「にっしーの友人の葉山希です。なんか、呼ばれました。」
夏、友人に無理やり誘われた合コン。その経緯から思い返さなければ、俺が心に決めた怒りや恐れが薄れてしまうかもしれない。
かの日、結果として何事も無く葉山の家から自宅に帰還した俺は、まず持って妊娠のリスクについて調べた。したいとかしたくないとかではない。知覚がこの世界になってほんの数日で、俺はストレスの極みだったからだ。
くそデカい玉とそれに伴う袋の中の液体、そしていちもつ。如何に補整下着が有ろうと無かろうと、事実としてあり得ない程に重いのだ。とても重い。
自重の前方にこんな重りがあるのならば納得もできるだろう。雌の体付きになったというのにも関わらず元の世界より発達した背筋の説明がつく。心無し、姿勢だけは元よりもピンとしている。
調べるほどに良く分かる。
座るだけで、上に乗っかる邪魔なものがあり血流が妨害される。象徴がデカいだけで、その手の悩みを持つ人間はこの世に腐るほどいる。対策を怠れば、太股の疲れ、梨状筋のコリから坐骨神経痛まっしぐらだ。
赤ん坊の重さは出産時には平均で3キロというのはこの世界でも違わない。
今でも十分にきついのにそんな重量を股間にぶら下げる?無茶苦茶だ。
子作りとは。
興奮し入口の開いた子宮に、成り余るものを突っ込み、勃起した卵管を刺激。蓋のされた子宮内に放出された卵子は男の尿道を圧力でこじ開けて孕み袋まで到達させる。
個人差はあるが、初めては間違いなく痛いらしい。
結論、子作りにリスクしかないから結婚は当分無理!
言うまでも無く彼女も怖いからいらない。考えられない。
正直無理矢理に襲われたら勝てる気がしない。なんでこの世界の男は身体能力も低いうえに弱点をさらけ出しているのか。欠陥構造にもほどがある。
どっと疲れた時は、自室のベッドに寝転がりながら携帯を弄るに限る。
今回の小旅行で気づけた事は多すぎる。兎に角、世界において雌である事が面倒の極みだ。様々な美容的なケア、そして周囲の視線など。
帰る際に、葉山にSNSアカウントを聞かれたので半年以上は更新していないサブアカウントを教えておいた。
まあそれでも教えておいて良かったと痛感している。
二か月前の投稿曰く、秋頃に同じ県に引っ越してくるらしい。
ストーカーか、アイツは?
俺も葉山も大学4年だ。わざわざ就職先をこっちに決めたのだろう。せめて今回の泊まりの時点で言えば、奇遇程度の話で済んだだろう。
手を出す勇気が無い奴と分かっているのに、住む場所がどんどん近づいて来るのは怖い。清いお付き合いをすっ飛ばしかねない恐怖がある。
でも、内々定をもらって就活終わりにしたのに、逃げる為に再開するの面倒くさいからこのままでいいかと思う夏休み前半。
そう考えていると、友人からの通話がかかってきた。
相手は名取恭平。高校時代からの友人で、良く遊ぶ5人の内の一人だ。一年の頃に席が近かったのもあり交友関係は深かったりする。
「もしもし。」
『マサ、今ちょっと時間大丈夫な感じ?』
「なんだよ、恭平。」
『いやぁちょっと折り入って頼みがあるんだけど、聞いてくれないか。』
「遊びに行くなら場所を決めろよ、お前の家に着いてから二時間の会議は二度としたくない。」
『去年の事を蒸し返すなって。二週間後の土曜、合コンの面子が足りないから女の子一人連れて一緒に来てくれないっすか。』
「え、嫌なんだが。」
『従姉がさ、彼氏欲しいらしいんすわ。マサが来なかったら清哉一人を置いて僕も帰るんでよろしくね。3on3ならまだ逃げられるけど、従姉は身内じゃん?実質一騎打ちとか、無理っすわ。助けて。』
「来る前提って事か。清哉は、結構乗り気って事なんだな。」
『彼は年上趣味だからねぇ。』
『――ボッ』。
『スゥーーーー、フーーー。まあお願いしますよ。僕だって従姉に脅されて仕方ないんすよ。今度ご飯奢るからさ?』
「タバコ吸ってんじゃねえよヤニヒラ!せめて協力して乗り切るんだろうな。」
『当然さ、清哉が従姉とくっつくのは、波長が合えばサポート。マサはターゲットじゃないって事前に伝えておいてある。』
「……場所と時間は?」
『追って連絡するよ。当日は、協力して乗り切ろうぜ。』
面子を埋める為とはいえ、頼れる異性の知り合いは一人しかいない。快諾したアイツは、本日、電車に乗って合コンをする為に来た。俺は、どうにかしてこの合コンを乗り切らなければならない!
席は対面3on3!男子と女子が互いに対面だ。
恭平の従姉、路次さんは金髪お団子ヘアーで前髪は真ん中で分けている。肩を出した赤の良く分からん英語が書かれたトップスに気崩した黒いパーカー。大きなチェーンネックレス。
ロックとかビジュアル系とかが好きな人なんだろう。
紫垣さんは白と青を基調としたワンピースだ。前髪パッツン、眼鏡、普通に長いストレートの髪。清哉の後輩の筈だが、奴はスポーツ系のサークルに入っていた筈だ。どういった繋がりの後輩なのかがさっぱり分からん。
葉山は、白Tシャツと良く分からんボタンがいっぱい付いた水色半袖の上着。くせ毛のショートカット。確かバスケをやってた筈で、日焼けはしていないが他の女子に比べると運動をするような体付きなのが分かる。
友人は、日焼け垂れ目スポーツ系言葉が足りない清哉と、オシャレ眼鏡笑い上戸で年中長袖の恭平の二人。因みに大きさは小、中の順だ。
「そうだ、席を決めるあみだくじを作って来たんすよ。」
これは恭平の仕込み。自然に清哉を路次さんの生贄に捧げて隣り合わせに。真ん中の路次さん、隣にもう一人の女子を配置。対面で俺と恭平が隣り合わせになる事で最低限のリスクを回避できる算段だ。これが理想。俺と路次さんには、あみだくじがどの席に対応しているか知らされている。
清哉がどこに書くのかは運だが、少なくとも俺と恭平が隣り合える上、恭平は路次さんへのサポートは最低限行った事になる。後は時間いっぱい逃げ切るだけだ。
通路側三席、清哉、路次さん、恭平。
窓側三席、葉山、俺、紫垣さん。
ヤニヒラァ!騙しやがったなあの屑!いつか絶対にぶち殺してやる!
葉山だろうと、紫垣さんだろうと、こっちはそもそも付き合おうって気持ちは微塵もないんだ。ヤニヒラはちゃっかりと、店員に注文したり料理受け取ったりするポジションを手に入れやがった。
「清哉くんって、今はスポーツやってるの?男子にしては締まった体してるよね~。」
「一応、山登り。」
「そなんだ~。あたし社会人になってから全然運動できてなくってさ~。何か軽く出来る運動とかあったりする?素人でも出来るなら、山登りを教えて欲しいかも~。」
「どっちにしてもウォーキング。いきなりやると怪我する。」
あっちの二人は結構話せてる。
両脇の女子は、場になれてないのか話せてないし、恭平は実にゆっくりとサラダを小分けにしている。
こういうのって、普通は雄が必死こいて話しかけると思うが、葉山も紫垣さんも数合わせで来ただけだから、がっついて来る訳でも無いんだろう。黙ったまま飯食って帰るのも雰囲気悪いし、裏で話もしないような性格が悪い奴と噂されても面倒だ。話かけるか?でも合コンに乗り気だと思われるのも嫌だ。
切に、俺がサラダ係をやりたい。
「ねえ、にっしー。男子は三人とも友達なんだよね?」
「高校の時からの友人だ。」
「へえ、牛流先輩って高校の時はどんな事してたの?気になるわ。」
葉山、紫垣さんの連携。挟み撃ちは逃げ場がない。葉山はさて置き、さっきから紫垣さんはチラチラと視線が下がってる。調べて分かったが、恭平や清哉、果てにはそこらの男子と比べても俺の膨らみは大きい方なのだ。
紫垣さんは男子に耐性のない感じか?喋り方はそれなりに高圧的だが、調子に乗らせなければ過激なアタックもないだろう。だとして、少し見すぎな気もするんだが。
「高校の時か。」
昔話に思い馳せようとしていると、ハンドサインで清哉からストップの指示が出ている。性差が変わろうと俺らは所詮サブカルチャー的な話題が多い。特に、長く同じクラスだった清哉との話題は下らない思い出の方が印象深い。高校一年生、昼休みにシャカパチしながらカードの萌えキャラスリーブを眺めてる清哉に話しかけたのがきっかけだった。
これを言ったら、俺も気持ち悪い奴認定をされてしまう。俺たちの友人グループは他人に迷惑こそかけなかったが、青春の断片はオタク趣味でまみれている。勿論、個々人はそんな訳ではない。部活に打ち込んだり、塾に行ったり、文化祭や修学旅行。
しかし、友人同士で居る時に、頭を使うような話はしない。わざわざ皆で泊まりに行って、持ち込みのゲーム機で遊んだりする集団なのだ。ここにはいないがもう二人の仲が良い友人の方がまだ真面目な方だ。(故に彼女持ち、呼べるわけがない。)
恭平からのストップコールは裏切りたいが、流石にリスクが大きすぎる。
「……清哉は、三年の時は文化祭のクラス劇で主役だったな。」
「まあ、先輩は見てくれの良さはあるかしら。私は好みじゃないけれど。」
さっきから股間をそれだけ見てれば好みなんて分かる。紫垣さんは大きい方が好きなのだろう。清哉は小さいからってだけなのだろう。コイツの好みなんて興味は無い。牽制しなくても分かるだろ。この場は殆ど清哉と路次さんの為に開かれた場だろ。今更、紫垣さんと清哉の関係を気にする奴はいないんだ。
「じゃあ、紫垣さんは僕とマサだったらどっちが好み?」
恭平は自分が選ばれる可能性があろうと早期に決着をつける気だ。これで紫垣さんが俺を選ぼうものなら、互いは積極的に話をしなければいけない雰囲気になる。そうすれば葉山と対角線上の恭平は安全圏だ。料理を貪るだけで済む。
仕掛けるタイミング、初手での罠、恭平にまんまとやられっぱなしだ。
「そんなものは、話してみなければ分からないでしょ?大切なのは性格が合うかどうかよ。」
貴様、さっきから俺の玉に視線を送っておきながらよくもそんな大嘘を平然と吐けるな!
紫垣さん、要注意人物にもほどがあるだろ。もしかして、清哉も裏切り者か?恭平の従姉を、路次さんの相手をしなければならないと分かり切っていたから尖兵を連れてきたのか?だとしたら甘かった。何故、俺は準ストーカーの葉山を応援として呼んでしまったんだ。
「折角だし簡単なゲームしようよ。第一印象ゲームって、一番お酒強そうとかを指差すやつなんだけど。」
俺のお助けキャラはからめ手は使えない様子だった。葉山、普通の合コンだったら間違いなく正解だが今日は殆ど接待なんだ。明らかに空気の読めてない提案。だけど断れば寧ろそっちの方が空気を読めてない印象を植え付けられる。考えなしだが、間を持たせる事においては効果的だ。
「あたしはオッケーだよ~。皆のことも知りたいし~。」
「私も構わないけれど、勝者を決めましょう。例えば、お願いを一つ聞いてもらうとかどうかしら。」
「取り合えず、僕から時計まわりで、一周ごとに勝者を決める感じでいいっすかね?出題者と同じ指差しが最多数ならポイントって感じで。」
「決着が着くまで回せばいいだろ。」
「じゃあ、一番頭が良さそうな人っすね!」
恭平は紫垣さんを指差し、葉山は俺、他は恭平だ。
「指差す奴を間違えた。恭平は勉強しかできない。」
「サービス問題を自分で外す輩だ、良さそうな振りをしてただけだったな。」
「二人とも友人相手に酷くないっすか?」
「次は、私ね。一番モテそうなのは誰かしら。」
俺は清哉を指差し、恭平は路次さんを、女性陣は俺を指差した。
「中学時代のにっしーはモテモテだったし。」
「無難に一ポイントゲットね。」
「そうだな。一番早起きをしてそうな人。」
俺は清哉を指差し。他は路次さんだった。
「社会人ってやっぱり朝は早いんだね。私雰囲気で指差したのに。」
「職種に拘るとね~。本当は近場に引っ越したいんだけど、仕事のせいで時間を取れない矛盾が辛いかな~。」
「そうだね……。一番足が速そうな人。」
葉山は清哉を指差し、他は葉山だ。
「自分に指差しもルール上はオッケーのなのに~。謙虚だね。」
「そうなんだけど自分を指差すのって勇気要るんだよね。」
「一番外に居そうな人。」
満場一致で清哉を指差す。
唯一日焼けしている人物だ。まあ、勝ちを拾おうとすれば当然な行動だが、合コンでの行動としては微妙だ。
こうやって、ある程度は他人の視線を気にしない振る舞いもした方が良いのだろうが俺には出来ない。
「じゃあね~。ファッションセンスが一番良さそうな人!」
俺と路次さんは清哉を、清哉は路次さんを、残りの女性は俺を指差した。
「恭平、こういうので自分を指差す?」
「酷いっすよ、清哉。面倒くさいからって服を買う時に同行させる癖に手柄を全部横取りなんて。」
「服装は口出ししないが、そのバッグは死ぬほどださいだろ。」
「差し色としては減点かな~。色がどぎつい。」
そんなこんなでゲームは三周りに及び、勝者は紫垣さんになった。自分で設けたお願いルールを行使するというのは、提案の時点で勝つ自信があったのだろう。
「お願いは、そうね…………。膝枕をして――。」
――ガシャンッ!
「申し訳ないっす。ライターを落としてしまって。いやあ、言葉遮って聞こえなかったんすけど、何て言ったのかな?」
恭平は優しい。
一発アウトのセクハラに訂正のチャンスを与えた。男子の股座は性的な意味合いが強すぎる。膝枕なんてものは、元の世界で言うならば女性の胸部や股に顔を埋める事と大差ない。
ダメもとでも言ってみるだけ勇者だな。勿論、紫垣さんへの好感度は第一印象がピークだ。どんな世界でもスケベは嫌われる要因だろう。特に隠せない奴は特に。
「してみたいと、思ってたのよ。誰か私の膝に頭をのせてくれないかしら?」
「びっくりした。」
「そうだね。流石に男の子にさせるのとかありえないもんね~。」
「僕は動くのが面倒くさいから、マサがやれば良いっすよ。時間は5分とかで大丈夫っすよね。」
「拒否権は?」
「勝者の命令だから諦めて欲しいっすわ。」
溜息一つ。
三人掛けとしては広いスペースがあるから何とか横たわれる。それでも若干窮屈で、見られながらというのはすごく恥ずかしい。
俺は体勢を変えて、紫垣さんの膝に頭をのせた。
「ふぉおっ!髪の毛がサラサラしてるわ!」
紫垣さんから気持ち悪い声が聞こえた。本当に勘弁して欲しい。
女性的な柔らかさに加えて、雄的なしっかり感が伝わってくる感触。だがそれ以上に恐怖の感情が隠し切れない。脈を打てば些細ながらに振動がある。接触しているからそれが感じ取れてしまう。
動悸が激しすぎる。不整脈にも程があるだろ。徹夜明けでもここまで酷いテンポで心臓は動かないだろ。
恐ろしくなって、少しだけ太股と頭の接地面積を減らすように動く。
「っ!!!!!!!!」
「ほぇっ!!!?????」
尻が、葉山の手の上に乗っかった。
偶然触れ合ってびっくりした雰囲気を出してるんじゃねえよ!狙って手を置いてないとこんな偶然が起こる訳ないだろうが!
スケベ度合いがマシかと思って見直そうと思った数秒前の俺に謝ってくれ。
「マサ、フライドポテト来たけど食べる?いや、その格好だと手が届かないっすかね。」
「えっと、もし良かったら私が食べさせて良いかしら?ケチャップはつける?」
「ケチャップは要らない。」
キレそう。
一度こういう事をしてしまったから、次に紫垣さんと会ったら妙に馴れ馴れしくしてくるのだろうと思う。ストレスがえげつない。どうにかして元の世界に戻れないだろうか。
特に紫垣さんポテトを口元に持ってくるときに左腕なのが怒りポイントを高めている。わざわざ首元から腕を回して顎に親指の付け根辺りを擦らせているのがブチギレ案件だ。言い訳としては飲み物の容器から落ちる水滴が当たらないように遠く、右腕で持っているとでも言いやがるつもりなのだろう。というか膝枕をし出してからペースが速すぎる。約束の時間は5分だったよな。二杯は飲み干しているんだが、飲みすぎだろ。
紫垣さんは、15分もしないうちに酔い潰れた。
お開きになると、仕方なく清哉が送る事になり、路次さんは清哉の連絡先を聞いてそれなりに満足気な表情で帰っていった。
恭平は一人で帰る。合コンの場所は、奴の家から一駅も歩かない。全てにおいて恭平だけが楽をしている。寿司か何かを奢って貰わねば気が済まない。
「にっしー、折り入って相談があるんだけど。」
「どうしたんだ?」
「私の家って遠いでしょ?終電、なくなっちゃった。」
誰か、俺を助けて下さい。今すぐに元の世界へと戻してくれ。
言うまでも無くラブホは論外。自宅は、住所を晒すのか?ほぼ間違いなくストーカーされるぞ?コイツ一人でネカフェとかカラオケにぶち込むのが一番安全だろう。
でも、周辺のネカフェを探すのすら億劫だ。今日はさっさと帰ってあったかいお風呂に入りたいから自宅でいいか。もう考えるのも面倒で、考えて対処する事に疲れてしまった。
電車に揺られて、すっかり遅い時間。俺は葉山を連れて自宅へと到着した。玄関に鍵がかかっている事を確認してから鞄の中の鍵を探す。物音を立てたからかリビングに付いていた明かりが消えた。妹はこんな遅い時間までリビングのテレビを観ていたか、或いはゲームでもしていたのだろう。
「一軒家……、もしかしてにっしーってお金持ちだったりするの?」
「元々は死んだ祖父の持ち家なんだ。今は妹と住んでる。」
「妹さんって今は何歳?」
「高二だ。」
鍵を開けて、玄関の電気をつける。来客用の布団はある筈だが何処に寝かせるべきか。この家は客間が無いのが面倒なのだ。
「お邪魔します。」
「靴は適当でいい、取り合えずバスタオルとか探すから。」
「うっわ、女つれて帰って来たんだ。あんまりうるさくしないでよ。」
「ただいま。咲、こんな時間にアイス食べてると太るぞ。」
「あんたに言われなくても分かってるから。一々命令しないで。」
咲は二階の自室に戻っていく。
同じ女だから葉山の世話でもさせようかと思ったが、そう上手くは行かないようだ。
「反抗期?」
「そうなんだろうな。俺にはそんな時期は無かったから対処が分からん。」
「大変だね。」
「学校が近いから、俺も咲も実家よりは此処で暮らした方が楽なんだが、どこに居たって何かしらの問題は出てくるんだろうな。」
客人用のタオル、布団は問題なく見つかった。
俺の自室も二階にあるが、そこまで布団を運ぶのは正直面倒くさい。仮に頼まれたって同じ部屋で寝るつもりは微塵もない。葉山にはリビングで寝てもらう事にしよう。
「じゃあ、俺は先に風呂入る。布団は奥の部屋だ。リビングで寝てくれ着替えは大丈夫か?」
「まあスポーツやってれば、替えの下着とかシャツくらいは持ち歩くから問題ないよ。」
「葉山が風呂に入っている間に寝てしまうかもしれないから。勝手に寝ておいてくれ。」
「うん、ありがとうね。」
――ジャーーー!
「にっしーお風呂に入ったね…………。さてと今の内に。」
「あれどうしたの、葉山先輩?何で、二階に上がろうとしてるのか説明してよ。」
「――誤解だよ。やる事が無くて落ち着かないから、階段に座ろうとしてただけ。」
「そう。リビングにも椅子はあるわ。それと、くれぐれもあいつに迷惑をかけるような事は止めてよね。」
「咲ちゃんは心配症だね。私が、正美くんに不都合をかけられないって知ってる癖に。」
「……葉山先輩。」
「何かな?」
――キュッ!
――シャカシャカシャカシャカ!
――ジャーーー!
「リビングで、大人しくしてなさい。そっちはリビングじゃない。ゆっくりと脱衣所から離れて、それ以上近づいたら外に放りだすよ。」
「…………。」
「あいつに、ある事ない事を吹き込んで、二度と会話が出来ない程嫌われたいなら止めないけど?勿論、警察も同席よ。」
「咲ちゃん、おやすみ。」
「諦めてなかったら、朝一で頭をたたき割ってやる。」
難聴系主人公(シャワー音)。
また気が向いたら書きます。