視覚、180度の世界にて   作:解法辞典

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死地と思うか好機とみるか

「やめだやめだ。こんな怪文書に時間取られるくらいならもっと直接的な解決策を考えた方が良い。」

 

 手に取っていた紙を封筒に戻し、面倒事を投げた俺は携帯を弄る事にした。

 意図を図る為に、栂園から送られてきた手紙を解読し始めてもう三日目になる。だが、書かれているのは下手くそが作ったポエムのようで、且つ分量が偏り過ぎている点から暗号文の一種だと仮定して目を通していた。

 

 

「あれから接触はないけど、情報も増えてないんだよ?私は悪戯だって言ったのに調べようって提案したのはにっしーでしょ?」

「いつだって、悪口とか回りくどい虐めは取り巻きで、あいつが俺に危害を加えたのは歌えなくなった境に一度。そして先日のやつだって単身で直接、会いに来た。これはイレギュラーで不可解、らしくない。」

「同じくイレギュラーの、デビュー時の発言に対する謝罪とかだったら合点がいくんだけどね。期待なんてしてないけどさ。」

 

 

 どうあっても、あの時の目もこの前の目も本当に好きな音楽を語るものじゃなかった。中学で出会った時は方向はどうであれ同じ音楽好きと理解できた。言ってしまえば、決別の日でさえ、俺は奴の希望には応えられないが二度と交わらない場所で認めていた。

 

「俺よりも、栂園の方が変わってしまったと感じるが、葉山には分からないだろ?」

「変わった?」

「勝負を持ちかける時は、人の目なんて気にしない上に人の気持ちも知ろうともしなかったが、俺とは違う歌への真っ直ぐさがあったから俺は逃げたくなかった。でも、嘘の言葉で歌へ向かい合うあいつを知って、あの頃の全てがトラウマになった。妥協して出した答えがガラクタになったんだ。」

「ねえ、一つ聞いて良い?」

 

 手紙を片付けながら、葉山は質問をした。きっと、数日間で違和感があり、俺自身も認識のズレは感じていた。

 

「にっしーって、中学時代のことはあんまり気にしてないのかな?あれだけの、辛い時間だったのに私や咲ちゃんよりも怒ったり悲しんだりしないんだね。」

「……子供の頃に、ガキがやったことだ。長らく忘れていて実感も無いからなのか、それとも不利益に鈍感なのかは分からないけどな。」

「羨ましい。私は、割り切ることも捨てることも苦手だから。きっとどんな風に思ってくれても後悔は消せないよ。」

「そう思ったりするのが性格に直結するんだったら、この年になってアレを笑い話かのように話すような人間よりは好ましいと思うけどな。少なくとも、俺はそう思う。」

 

 

 葉山は、最近見せる悔いたような表情を崩して初めて驚いたような表情を見せた。驚いたというのは、適切ではないのかも知れない。例えば、前回の泊りに行った際に観たアニメの話数を教えた時もびっくりしていたのは覚えている。

 いつもニコニコしているこいつは、後ろめたさを誤魔化している。やらなきゃいいのにセクハラとか、言わなきゃいいのに過去の悪行を言ったり、所詮は大した事ない人間だという予防線を張っている。怖いから、動かずにいられないとは羨ましい。俺は、どうしようも無くなってからでしか動けないというのに。

 そしてこいつは、板についた笑顔を浮かべてくる。

 

「もう、栂園と比べられても嬉しくないよ。……にっしーって茶化すようなのって嫌いなのかな?」

「友達にされるのなんて気にならないな。そうじゃなかったら、変なやつには近づきたくないと思う。」

「そっか。」

「――あのさ、明日ってなんか用事ある?」

「なんで?」

「ちょっと美容院に行きたくてさ。」

「それくらいなら送るよ。場所と行き帰りの時間は今日中に教えといてね。」

 

 

 どこか疲れた様子で自室へと戻っていく。何か思うところがあったのだろうが、やはり腑に落ちない。

 最近、どんどんと近づいてきたと感じていた葉山との距離だが、どうにも離れたがっているように思えるのだ。

 

 

 

 

 

 

「――つまり、僕をもっと褒めるべきでは?」

「断る。」

「でも頭の固い誰かさんは僕が提案しなかったら軟禁のままに友達と会う手段すら思い浮かばないっすよね?」

「そりゃあそうだけども、お前に感謝は無いからな。」

 

 

 美容院から二件隣りのカフェ。偶然偶々、同じ時間に同じ美容院で居合わせた俺と恭平は予定通りに近くの店で世間話をしている。

 外に居たら栂園にエンカウントするのではという懸念から、あの家に数日は籠りっきりだった。だから俺としては久々に自由な外出なのだが、方法を提示してくれたのは恭平なのである。

 

 

「例に漏れず、必要以上に詳細なメッセージを僕と清哉に送ってくれてるから状況は分かるけど、ストーカー被害の区分で大丈夫なんすかね。」

「急に会いに来たのとポスト投函。表面上だとそっち系の犯罪っぽさがあるけど、俺と奴の関係を考えると腑に落ちなくてな。」

「今更、会いに来たり、過去に関係をほじくり返そうとした理由すか。」

「お前って頭が良いだろ?仮に手紙がメッセージなら解読の協力をしてもらいたいと思ってさ。本当なら清哉にも相談したかったんだが。」

「彼は絶賛、デート三昧っすから。読んでもこないだろ。」

 

 

 強制では無いし、危ない雰囲気さえあるから関わらない方が望ましいのは分かる。でも、俺以上に過剰反応する実妹や葉山だけじゃなく第三者の意見が欲しいというのも本音だ。

 

「過去にトラブルのあった人間関係と、それが原因で変になりつつある人間関係。マサってば自分でどうにかするつもりあるのか?」

「いやだから、今日の散髪だって意思表示というか。このままじゃいけないって俺も分かってんだよ。」

「色気ないなぁ。散髪って言い方より、ヘアカットとかの方が異性受けはいいっすよ?まあ長い前髪を目が出るくらいに短くしたのは良いけどさ。」

 

 

 実際、決意表明という意味以外はない散髪だからな。だとして、どこまでバッサリすべきかは判断しかねた。プロへの「前髪はスッキリで」という投げやりな注文は割と問題なかったようである。オシャレまでは目指してないが、この世界の価値観で浮かない程度の身だしなみは守っていきたい。

 

 

「マサは知らないかもだけど、僕は回りくどい言い方嫌いなんすよ。」

「回りくどい話なんて聞いたことないけどな。」

「手紙より、ライブのチケットにメッセージ性の高さを感じるからそっちに行くべきだと思う。それで、もし直接話せるようだったら手紙とかどうでもいいから決着するのが楽だと考えるが。」

「簡単に言ってくれるよな。」

 

 

 

 出来るんだったら、それが最速なんだけども。勇気が湧かないという言い訳は、決意表明とか言った手前、しづらい。行くのがベストとは思うが、拒否反応が……。

 返答に困っていると、携帯電話に咲からメッセージが届いていた。

 

『話は聞きました。行くって決めたんなら止めません。その日、私は行けませんが葉山先輩によろしく言っておいてください。あと、恭平さんにも。』

 

 

 向かいの席でニヨニヨと笑っているむかつく輩は、煙草を吸っていいか?というジェスチャーを繰り返している。

 コイツ的には一仕事終えた気分なのだろう。

 

「はえーんだよ。気持ちの整理くらいはつけさせろって。」

「せっかちなもんで、申し訳ないっすわ。外堀を埋めたらもう行くしかないだろ?同棲相手にはマサから直接に言うべきなんでそこだけはよろしくな。」

「てか、当日は来てくれるのか?別に恭平がくる必要なんてないから、変に気をまわさなくてもいいんだが?」

「だから、僕は面倒くさがりなんすよ。最低限、その日にはマサと葉山さんのぎくしゃくを終わらせる。あわよくばもう一つの問題も解決。手紙なんて帰ったらゴミ袋に突っ込めばいいんすよ。」

「話が極端だな……。」

「だって、そうだろ。直接に言えないような話を暗号にとか創作物の見過ぎだ。そんな面倒な奴はいつまでストーカーしても本題が見えないんだから欲しい情報は貰えないし、ましてや正常な人間関係なんてないって、当日は僕が言ってやりたいくらいだぜ。」

 

 

 ヒートアップして、テーブルに拳を振り下ろさんばかりの演説をする恭平。こいつの熱がこもってるから、それも理由だが、ここまで怒って行動してもらって、葉山への電話で日和るのはどうだろうか。

 あとで直接に言えば済むが、善は急げというしな。

 

 

「もしもし、葉山か?今って時間大丈夫か?」

『だいじょうぶだけど、まだ迎えに行く時間じゃないけど何かあった?』

「何もなくはない、んだけど決心というかそんな感じで。」

『?』

「あ、あのな!進展するかもしれないから、前に渡されたチケットのライブに行こうと思うんだ。手紙を眺めるより、分かることがあると思うから。」

『……決めたことなら反対したくないけどまだ、にっしーの体調が万全とも分かってないしどうだろうね。』

 

 

 やっぱり、随分と消極的だ。しかし、電話越しに説得できるほどの弁舌は俺にはないんだが、どうしよう。

 

 

「マサ、一回しか使えないけど有効な手段はあるっすよ。」

「そんなのがあるのか?」

「あっちは、一歩踏み出せずにいるんだ。この決心自体がマサにとって勇気ある一歩とも気づいてないから葉山さんも決心出来ない。」

「でも、これ以上に勇気を出すことなんてないぞ?」

「勇気を見せるんすよ!結局、恥ずかしくてプールにすら行けなかった水着を着るとか言えばどうせ女なんてイチコロっす!」

「ば、ばかっ!あれは、まじで恥ずかしいから嫌だって言ってるだろ!」

 

 

 それ以前に、そんな会話に関係ない話題で釣れる訳が…………。

 

 

『にっしー、そうすべきなのは私も分かるけどね?でも私よりも、にっしーが辛い思いをする方が嫌だな。』

「そんなの行ってみないと分からないし、大丈夫なのは俺が保証する。仮に駄目だったら、葉山のいうことをなんでも聞いてやるよ。」

『いや、そういう問題じゃなくて――。』

「なんでもは言い過ぎた。み、水着くらいなら、いけます。」

『っ!!ゴホゴホッ!』

 

 

 急に咽はじめたけど、大丈夫か?そんな、嬉しくなってくれるものなのか。

 

『いや、でも、駄目だよ。もう内定式すら近づいてるんだからプールも海も風邪ひいちゃうし。』

「別に温水プールでいいじゃん。」

『…………温水、複合商業施設、一泊二日。』

「葉山、茶化すような真似して悪かったけど本気なんだ。行かせてくれないか。あいつとの決着がすぐにつくとは思ってないけど、何もしないで影におびえるなんてしたくない。」

『私こそ、ごめん。止めるべきじゃなかったし、寧ろ力になるべきだったね。取り合えず行動しないと始まらないしね。当日は、私が車を出すよ。あと、泊りで温水プールある所も予約しといたから。頑張ろうね。』

 

 

 動かないと何も変わらないんだったら、一回は葉山とも腹を割って話せる機会も同時に作れたのは良かったのかも知れない。実際にどうなるのかは結果論だが。

 

 

「小旅行までギスギスしてたら、僕はライブの時に肩身が狭い思いをするんすけど大丈夫っすよね?」

「お陰様で本心を言い合える機会は作れたと思うから、ライブの何日後かは知らないけどわだかまりは無くなると思うぞ。別にわざわざ突っかかったりしないけどさ。」

「当日は肩身狭い一日になりそうだ。」

 

 

 会場との一体感は絶対に味わえないんだろうとは俺も思うが、頑張って回りに迷惑をかけないように擬態しないとだな。

 

 

 

 

 

 

「ペンライト、タオルの振り回しが禁止らしいから安全面は大丈夫そうっすね。あとは無地シャツとマスクつけて擬態が良さそうに思えるけども。」

「恭平、その擬態は多分時代遅れだぞ。」

「マジすか。どの界隈も移ろうモノなんすね。」




短め、推敲と誤字脱字確認なし投稿優先
書いてたノートPCのメモリが逝って一から書き直したから勘弁
次はもう少し長くして、長くなり過ぎないようにしたい
タッチの差で九月中に間に合いませんでしたごめんなさい
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