黒森峰女学園にいる整備士見習いの逸見君と、黒森峰の副隊長になったみほが連絡先を交換するだけのお話。

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初投稿が性転換ものとかいう業の深い奴、それが私です。
批評、感想を募集しております。
よろしくお願いいたします。


逸見君とみほちゃん

 

 

夢を見た。

俺が戦車に乗っている夢。

夢の中で俺は女の子で、俺の好きな戦車のティーガーⅡに乗っていた。

得意の電撃戦で俺は敵陣に切り込んで、そして、俺は敵を撃破する。

「ああ、またこの夢か」

撃破して、喜ぶところで俺の夢は覚める。

枕もとのスマホで時間を確認すると、朝の5時ちょうどだった。

「ランニングの準備、しないとな」

俺は簡易ベッドから起き上がると、パジャマを脱ぎ捨ててジャージに着替え始める。

上下ともに黒いジャージに着替えると、俺はアパートの鍵を閉めて外に出た。

「うー、寒い」

学園艦は絶えず移動している為か、常に風が冷たい。

もう春だというのに、だ。

身に染みる風の中、俺は無心で駆け続ける。

その時だ。

「お、おはよう逸見君」

「おう、おはようみほちゃん」

俺に挨拶をしながら並走してくる小柄な人影。

俺とは違って、明るい色を基調としたジャージを着ている女。

その名を「西住みほ」という。

この「黒森峰学園艦」では知らない人がいない、と言い切れるかもしれない女だ。

「「・・・・・・」」

お互い、挨拶をかわしてからはしばらく無言で走り続ける。

暫くすると、自動販売機が道の傍に見えてくるので、みほちゃんに視線で合図する。

その視線に気が付いたみほちゃんは、徐々に走るスピードを落とし始めた。

丁度自動販売機の前で止まるように、俺とみほちゃんは停止した。

自販機の前で立ち止まる俺とみほちゃん。

俺はいつも通り、2本のスポーツドリンクを買って片方をみほちゃんに渡した。

「いつもありがとう」

「いや、どういたしまして」

このやり取りも、何時もの事。

みほちゃんと俺はランニングコースがかぶっているのか、結構な頻度で出会う。

最初に話しかけたのは俺の方で、とある日のランニングの時だった。

ちょっとふらついていたみほちゃんにスポーツドリンクをおごったのが切っ掛けで、そこからなし崩し的に毎日の日課であるランニングに、みほちゃんが参加するようになった。

言っちゃあ何だが、よく参加しようと思ったなこの子。

「その、逸見君・・・・・・あのね?」

「ん、どうしたんだ、みほちゃん」

「私、戦車道チームで副隊長をやることになったの」

「おお、おめでとう」

軽い世間話なのか、みほちゃんがそんなことを切り出した。

まずは祝辞。

そして、言ってしまってちょっと後悔をした。

みほちゃんの顔には副隊長拝命の喜びより、不安の色の方が強かったからだ。

俺はかけてあげるべき言葉を間違えてしまったらしい。

「う、うん・・・・・・ありがとう」

ああ、やっぱりみほちゃんの顔が曇ってしまった。

整備士としてこの学園艦に乗っている以上、黒森峰機甲科の副隊長という肩書がどういう物かは俺でもわかる。

全国から選りすぐりの戦車乗り達が集まる、いわば戦車乗りのエリート校。

更には、当人にしかわからない重圧なんていうのもあるんだろう。

だが……悔しい事に、俺はその重圧が解らない。

たかが一整備士でしかないからな。

俺が女で、黒森峰の隊員だったら少しは解ってあげられたのだろうが。

だが、悲しいかな俺は男で、黒森峰には研修できている身にすぎない。

研修期間が終われば、俺は陸の整備士学校にまた戻ることになってしまう。

「で、でもあれだ、辛くなったりしても、みほちゃんにはまほさんもいるし、確か友達の赤星さんだっけ、その子もいるんだろう?」

「うん、でも、もう少しぐらい相談できる人が欲しいなあって」

そういうと、みほちゃんは俺を上目遣いで見上げてくる。

小動物のような雰囲気と相まって大変可愛らしい・・・・・・じゃなかった。

取りあえず、俺という相談先が欲しいという解釈でいいのだろうか。

「ああ、そういう事なら、別に俺でもいいぞ? 専門的な事はそこまで答えられないかもしれないが」

上手いアドバイスなんかはできないかもしれないが、話を聞いてやるくらいはできるだろうし。

そう答えたら、みほちゃんの目が「キュピン」とでもいうような音を立てて光った・・・・・・様な気がする。

気のせいだよな?

「あの、その、それなら・・・・・・連絡先、交換させてもらえませんか?」

「え、ああ、うん、いいけど」

「それじゃあ、お願いしますね」

あれよあれよという間に、俺のスマホに「西住みほ」の名前が追加される。

なんか普段のどんくささが嘘みたいに素早い登録だった。

これが西住流か。

 

 

(やった、連絡先ゲット!)

私は今、ちょっとした幸せを噛みしめています。

何せ、私の手元のスマホには「逸見エリ」の名前が踊っているのです。

同じ熊本出身で、私にとって異性の幼馴染に分類される人。

でも、本人が忘れているみたいなので一方的な物だけど。

「西住流整備術」の門下生として出会ったのが小学生の時、その時はお姉ちゃんも一緒になってⅡ号戦車に乗って遊んだりもしていました。

中学生になって戦車整備士学校の学生寮に逸見君が住むようになって疎遠になりました。

そして、高校生になって学園艦住まい四年目になった私の前に、整備士研修生という肩書で現れたのが今の彼でした。

小学生のころは、私よりも身長が低かった記憶があるので、私よりずっと身長が高くなっていてびっくりしたのを覚えています。

記憶の中の彼と身長も体つきも声の低さも全部違っていました。

それでも、その特徴的な銀髪と蒼い目が私の中の記憶と噛み合い、彼が「逸見エリ」であると解りました。

もっとも、話しかけるタイミングを逃してしまい、数日が経ちました。

そして、私の西住流としての日課としてのランニングをしている際に、彼とランニングコースがある程度同じであることが解ったのです。

そして私は「じわじわ作戦」を練り上げ、実行することにしました。

徐々に徐々に、仲を詰めていこうと思ったんです。

とは言え、話題性のあるネタを持っているわけでもないので、どう話しかけようかと2日間頭を悩ませてしまいました。

「おい、アンタ大丈夫か?」

考え続けて寝不足に陥っていた私は、不覚にもジョギング中の彼の目の前でよろけてしまいました。

そんな私を心配してか、彼は私の体を逞しくなった腕で支えてくれたのです。

「はっ・・・・・・はいぃ」

恥ずかしすぎて、顔が赤くなるのがなんとなく解りました。

「どんくさいな、アンタ」

「あはは、よく言われます」

口から出てくる言葉は悪いけど、その表情は私の事をきちんと案じてくれているもので。

言葉の端々から、私の事を心配してくれていることがとても伝わってきました。

それでも、そんな言葉がなんだか気恥ずかしくて、私は照れてしまいました。

「いつまでも支えているわけにはいかないから、ほれ、立った、立った」

「あ、はい、ありがとうございましゅ」

「・・・・・・ましゅ?」

何という事でしょう、こんな大事な場面で噛むなんて!

羞恥心から、顔が赤くなるのが解りました。

「ぷっ、くくくっ、ましゅって、お前・・・・・・」

「あぅ・・・・・・」

どうやらツボにはまったらしく、体をくの字に曲げて笑っていました。

それが、逸見君と私の出会いでした。

それからしばらく、私は逸見君とランニングついでに少しずつお話をする機会が増えるようになってきました。

そして今日という日が来たのです、そう、逸見君の連絡先をゲットできる日が!

(何を話そうかな・・・・・・えへへ)

これから何を話そうか、少し口の辺りが緩んでしまうのが解りました。

だって、本当にうれしいから・・・・・・えへへ。

そんな時に気が付きました。

(私、男の人と共通の話題なんて無い!)

戦車道の事以外の話題・・・・・・ボコ、とか?

いやいやいやいや、それ以外に何かあるんじゃあないかなあ?

例えば・・・・・・えっちなこと、とか?

いやいやいやいやいやいやいや、何考えてるの私!?

そういう事はもっと仲良くなってから・・・・・・じゃない!

もう大変だ、思考がまとまらない。

連絡先を手に入れただけで、こんなにも嬉しくなるなんて思わなかった。

黒森峰女学園に入ってから初めて連絡先を交換して、しかも、それが男の人というこの状況は私の思考をぐずぐずにするのに十分でした。

 

逸見エリの連絡先を手に入れたみほは、すぐさま百面相をし始める。

そんなみほの様子に、エリは困惑しっぱなしだった。

(どうするよ、これ)

心中で呟いても答えは出ない。

と、その時だ。

「ん?」

スマホが振動して、メールが来たことを知らせる。

何とはなしにスマホをポケットから取り出して時刻を見たエリは驚いた。

「おい、みほちゃん時間やばいぞ!」

「へっ!?」

慌てて時間を確認するみほ。

時間は登校まで1時間弱となっていた。

「あっ! ありがとう、逸見君それじゃあ、また戦車道の時に会おうね!」

「おう、周囲に気を付けて帰れよ!」

「酷いっ、私そこまでドジじゃあ・・・・・・ひゃあっ!?」

「あっ、馬鹿言っている傍からっ!」

転びそうになったみほの手を引いて自分の方に抱き寄せるエリ。

その結果、みほはエリに抱きしめられる形になってしまう。

「ふぇっ、ああああああの逸見君!?」

「あ、いや、その、悪い!」

女子とは違う、男子の堅い胸板に抱き留められたみほは耳まで真っ赤になっていた。

そんなみほの現状を知ってか知らずか、エリはみほから手を放し、その場で反転するとダッシュでその場を後にした。

その耳は真っ赤に染まっていたが、幸いなことにみほには気づかれなかったようだ。

「・・・・・・にへへ」

エリに抱きしめられた感触を思い出したみほは、顔が無茶苦茶緩んでいた

 

(どうしよう、みほちゃんの体無茶苦茶柔らかかった)

(逸見君、思ってた以上に逞しい体つきをしているんだなぁ)

 




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