特に何も考えてない。

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少年よ

若かりし頃、曾祖父の冒険心溢れる性格のお陰で世界中を旅した祖父は10を超える言語を操ったという。それに戦前や戦後は帝大の教授になったり渡米してハーバード・フーヴァー前大統領(当時)やかの有名なフランクリン・ルーズベルト大統領(当時)と勝手に対談したりとかなり破天荒な人だったらしい。昔、私の見たことのある祖父は病院のベッドに寝転がりファミコンで遊んでいるか隣の病室にいた子供とゲームボーイの有線でポケモン対決を繰り広げてはボコボコに負かして泣かせるといった大人気ない人物だったという印象が強い。かくいう私もポケモンバトルでボコボコにのされた記憶しかないので、それも手伝ってそのような印象が濃密なだけかもしれないが。親父が祖父を語るときも〝飼い犬にラーメンを出した〟や〝週一で違う女の人が母親になった〟と聞く。親父からすればトンデモねぇクソ親父だ。いや、それを聞いた時の私もトンデモねぇクソ祖父だ。とは思った。親父は続けて言った、しかし同時に祖父の眼に映る景色は澄んでいてその眼をするときの祖父はまるで穢れなき少年のようだったとも。そういえば、私もその穢れなき少年のような眼をを一度だけ見たことがあった。その時の祖父は一体何を想っていたのだろうか?今となっては分からない。そんな祖父が亡くなる寸前、私に言ったのだ。親父の親父——つまり祖父が私に言い遺したのだ、「少年よ、チンコを抱け」と。

 

意味がわからない。

 

祖父が遺体となった瞬間、泣くことができなかった。式を挙げている時も最期の顔を見た時も焼かれる時も全ての瞬間に泣くことができなかった。祖父を失った悲しみよりも「意味が分からない」という気持ちが強かったからである。祖父はとんでもない土産を置いていってくれたものだ。クラーク博士のように「少年よ、大志を抱け」と言いたかったのだろうか?自分のように好きに生きろと言いたかったのだろうか?それならば「空を翔けろ」だとかそういう様な事を言うべきだ。だがなぜ下ネタなのだ?ひょっとしてバカなんじゃあないのだろうか?「チンコを抱け」ってなんなのだ?「俺は女抱きまくった!」って自慢でもしたいのか?だが、10の言語を操り破天荒な人生を歩んできた人が言った言葉なのだ。その人生で見つけた何かしらの深い意味があるのではないのだろうか?いや、ない。断言することができる。祖父は天才といっても天災という人物なのだ。馬鹿と天才は紙一重と言うが祖父は一周回ってバカボンという人物なのだ。この言葉に裏があるとは思えない。そのままの意味なのだ、きっと。「少年よ、チンコを抱け」......きっと、きっと『たくさんヤって曽孫の顔を墓に見せにこい』という意味に違いない。親父もそう思うに決まっている。と思い親父に聞いてみたが、親父は祖父の言った言葉を全て忘れていた。さっぱりと。話を聞いてみると普段からそういう風なことは言っていたらしい。なんだ、私の考えすぎだったのか。祖父の言った言葉はやはりその言葉の通りだったのだろう。

 

しかしなぜ女の私に「少年よ」と言ったのだろうか......謎が謎を呼び未解決になってしまった。この未解決の謎を私は一生忘れることはないだろう。それとも、これが祖父の狙いだったのかもしれない......


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