モスラが、蛹の中で一度の眠りについてから、しばしの時を経てのち。
私は、再度自身の存在する実感を取り戻した。
私の足は大地を踏みしめ。
私の瞳はたった一つの光景のみを捉え。
私の耳は、周りから聞こえる音だけを聞いていた。
私は、森の中の地面に立っていた。
目の前には、ベルベラがいた。
「ひとまずの幕間よ」
私は無言で、彼女を見つめた。
その森には、私とベルベラだけがいた。
「今、モスラは天に届く塔を打倒し、その儀式の半分を終えた。後は、あの蛹で力を蓄えながら、真の姿になる時を待つのみよ。美しく巨大な羽を持つ、モスラの真の姿を」
熱に浮かされたように、彼女は言葉を紡ぐ。
「今、世界中で、インファントたちが、モスラへの供物をささげているわ。それを糧とすることで、モスラは今、真の姿への階段を一歩、また一歩と上っているわ。そしてモスラがその真の姿を天に見せた時、世界は終わる。いえ、始まるのよ」
ベルベラは、恍惚を表情に見せ、天を仰いだ。
「輝ける大いなる羽を駆使して、モスラは、空をかける・・・・・・。空から、世界中の都市に、そこに住む堕落した人類に、裁きを与えるのよ。その六つの足で高層ビルを破壊し、その御身から放たれる光線によって逃げ惑う大衆を焼き尽くす。七日間よりは長く、だけど四十日よりは短い時間のうちに、この星から人間という生物はいなくなるわ。でも、それは、一時のこと」
ベルベラは、また、私を見た。
「今、一度はモスラの一つとなっていた私たち二人が、こうして肉体を取り戻しているように、モスラによって刈り取られた命たちも、同じモスラによって、再び生を与えられるわ。もちろん、モスラから慈愛を与えられるにふさわしい、美しく清らかな魂だけが、ね」
ベルベラは、傍らの木に手を当てた。慈しむように、その肌をなでる。
「モスラによって生まれる新世界に、他者を害することしか知らない魂、自己の欲望のためだけにしか生きられないような魂はいらない・・・・・・。その世界に生きるのは、美しい魂、正しい魂、優しい魂だけよ。そして、一切の争いの根絶された、モスラによって守られた千年王国が、この星に誕生する。一緒に頑張りましょう、天羽さん。共に手を携えて、新世界を導くために」
「残念だけど、それは無理」
私は、この森に来てから、初めて口を開いた。
その言葉は、ベルベラにとって、衝撃であったらしい。
彼女は私を、信じられないものを見るように見つめた。
「……何故?」
「私は、美しい魂でも、正しい魂でも、優しい魂でもないから。あなたの言うよう新しい世界に、私は生きる資格がないから」
「……そんなことは、あり得ないわ。モスラによって選ばれた貴方が、正しい魂の持ち主でないわけがない」
「あなたは、私のことを何も知らない。父と同じ」
首を振りながら、私は言った。
「私は、名前すら知らない沢山の人たちへの慈愛の心なんて、持っていない。さっき、そんな人たちが嘆きながら、怒りながら死んでいった光景を私は見たのに、私の心は全く痛まないから。私は、私の知らない多くの人たちが死ぬことよりも、私にとって大切なたった一人が傷つくことの方が、ずっと痛い。私の、たった一人の友達が傷つくことの方が。それとね、ベルベラ。私は、気づいたの」
「……何に、気づいたのかしら?」
「貴方が、嘘をついているっていうことが」