モスラ 創世   作:場理瑠都

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供物

 空の半分を占めるほどの大きさの月が、青く輝いていた。

 月の下には、鬱蒼と茂る森と、燃え盛る炎。

 炎の前には、何十人もの人がいる。

 みんな、半裸だった。

 下半身に腰巻だけをつけた姿だ。

 大きく分けて、人は二種類に分かれていた。

 立っている人たちと、座っている人たち。

 立っている人たちは、多くが大きな包丁のように見えるものを持っていて。

 座っている人たちは、みんな目隠しをされていた。

 木で作られた台があった。

 台の上には、豊かな乳房と長い髪の女性が立っていた。

 彼女は、顔に仮面をつけていた。

 巨大な複眼が特徴的な、虫の顔のような仮面。

「モスラに供物を!」

 彼女の叫びが、月夜に響く。

 続いて響く、沢山の人たちの、おたけび。

 振り下ろされる刃たち。

 大地に落ちていく、目隠しをされた人たちの、首。

 鮮血。

 転がる首に、赤い血が、かかっていく。

 そして、それと同時に、地震が起きた。

 揺れる世界。

 月を背にして、何かが現れた。

 龍のような、或いは蛇のような、或いは芋虫のような姿をした、巨大な黒い姿。

 泥と見分けがつかない肌と、丸みを帯びた形と、巨大な目と、牙を持つ、あの姿は。

「モスラよ!」

 女性の声が、また聞こえた。

 彼女は、その巨大な生物に向かって跪いていた。

「我らの供物を、どうかお受け取りあれ!」

 その叫びに、生物は咆哮によって答えた。

 その音とともに、その夢は終わり、私は目を覚ました。

 全ては消え、私の目の前には、部屋の天井があるばかりであった。

 

 おかしな夢から目を覚ました後で、部屋を出た。

 キッチンでは、もう父が朝ご飯を並べてテーブルに座っていた。お米と目玉焼きとウインナーがお皿に載っていた。

「おはよう」

「おはよう」

 挨拶を交わして、私はテーブルに着いた。

 テレビから流れる声を聴きながら、私たちは食べ始めた。

「昨日、アメリカ合衆国カリフォルニア州において、インファントの施設の一斉捜索が行われ、30人を超す遺体が発見された事件について、ネルソン米大統領は『彼らはもはや、文明の敵である』とのコメントを、twitterで述べました」

 また、インファントのニュースだった。

 ここ数日、彼らの名前を、テレビで聞かない日はない。

 連続児童殺人事件の犯人が、殺害した子どもたちを、「モスラへの供物」と呼んだと報道されて以来、ずっと。

 あれからすぐ、現地のインファントの支部が捜査され、犯行の指示を彼らが出していた事実が発覚した。

 世界中のあちらこちらで、インファントへの捜査が始まった。

 そして、多くの施設で、死体が見つかり始めた。

 殺害された死体が。

 「モスラへの供物」と、逮捕されたインファントのメンバーたちが呼ぶ死体たちが。

 インファントは、反社会的勢力として、認識されるようになった。

 大量殺人指示の容疑で逮捕命令が出されているベルベラ・ガルは、現在行方不明。

 数日前まで駅前でいつも見かけていたインファントの本を配っている人たちの姿も、もう見なくなっていた。

「今日な」

 父が、コーヒーを一口飲んでから、口を開いた。

「遅くなる。夕飯は冷蔵庫に保存しておいたのがあるから、それを食べて先に寝てくれ。戸締りをきちんとするんだぞ。父さんは、ちゃんと鍵を持っているからな」

「うん、わかった」

 父に返事をして、私は食事を終えた。

 

 世界で大変なことが起こっていても、私の日常に変化はない。

 昨日もそうしていたように、今日も私は自転車をこいで登校した。

 ただ一か所、昨日の朝と違ったことが、今朝は起きた。

 下駄箱に、手紙が入っていたのだ。

「放課後、校舎の裏にいらしてください」と、丁寧な字で書かれた手紙が、上履きの上に置かれていた。

 

「天羽先輩、好きです! 付き合ってください!」

 放課後。

 手紙に書かれていた通りに校舎の裏に一人でやってきた私を待っていたのは、そういって頭を下げる後輩の男の子の姿だった。

 名前は、熊山君というそうだ。眼鏡をかけた、優しそうな顔立ちの子だった。

 私は、ちょっといいづからかったけれど、返事をした。

 正直な気持ちで。

「ありがとう。でも、ごめんね。私は、君とは付き合えないかな。」

 彼は泣きそうな顔になった。

「やっぱり・・・・・・彼氏が、いるんですね。天羽先輩には」

「彼氏……じゃないけれど、好きな人がいることは、確かかな・・・・・・」

 男の人じゃないけどね、と、心中で付け加える。

「気持ちは嬉しかったよ。ごめんね」

 そう言い残して、私は彼に背を向けた。

 そのまま、この場を歩み去ろうとするとき。

 後ろから、首筋に何かを当てられる感覚がしたかと思うと。

 私の世界は、暗転した。

 

 

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