モスラ 創世   作:場理瑠都

4 / 12


 闇に、意識が包まれていた。

 温かい闇に。

 だけどその心地よい感触は、覚醒という不快な現象の侵入によって、徐々に消されていった。

 私は、目を覚ました。

 天井が見えた。

 私の部屋の天井とは、違っていた。

 私は、今までの人生の中で、一度もいたことのない部屋のベッドに、横たわっていた。

 外国の童話の中にでも出てきそうな、優雅なベッドが、絨毯の上に載っているような部屋にいた。

 柔らかい毛布にくるまれていた私自身の服装はといえば、学校にいた時と変わらない制服で、この部屋にあるオーラとは完全な不調和を示していた。

 ベッドから降りた私は、そばに綺麗に並んでおかれていたスリッパをはいた。

絨毯の上を起きたばかりのよろよろとした足取りで歩み、ドアの前まで来た。

 ドアノブをひねった。

 だけどドアは、開かなかった。

 大した期待は、元からしてはいなかったのだけれど。

 ベッドに戻った私は、その上に腰を下ろすと、この混乱した状況に思いを巡らせた。

 まず間違いなく、私は誘拐された。

 放課後、私に告白をしてきた熊山君に。

 あの後頭部に感じた衝撃は、きっとスタンガンとかの、人を気絶させる道具だろう。体に感じる妙なだるさからして、何か薬品の注射とかもされたのかもしれない。

 なんのために?

 犯すため、では、ないような気がした。

 こんな用意が難しそうな部屋に連れ込む必要なんて、ない気がしたから。

 その時、鍵を開ける音がした。

 さっきまで私がその前に立っていた、ドアの向こうから。

 内側に向かってドアが開かれ、人が一人、部屋の中へと入ってきた。

「お目覚めの気分は、いかがかしら? 天羽詩穂さん」

 その人物の顔を見て、私は、心臓が止まりそうなショックを感じた。

「手荒な真似をしてごめんなさいね。許して頂戴」

 その人物……女性は、ベッドまで歩いてくると、私の隣に座った。

「驚いたかしら? 私の顔、今散々テレビで流れているから」

 ベルベラ・ガル。

 大量殺人を指示した容疑で世界から追われている、モスラ教の教祖が、私の目の前にいた。

 吐息さえ感じるような、近くに。

「でも、怖がる必要はないのよ」

 ベルベラ・ガルは微笑んだ。

 優しい微笑だった。

 私自身は経験したことがないけれど、母親がわが子に向けて見せるような、微笑。

「殺すの? 私を」

 私の口が、声を発した。

 妙に、落ち着いていた。

 私は、殺人犯を前にして恐怖を感じることでさえ、上手にできないらしい。

 ベルベラは、首を振った。

「そんなこと、しないわ。だって、あなたは供物ではないし、供物にすべきではない。供物になるべきではない。あなたは、巫女なんですもの」

 巫女。

 私が?

 悪い冗談としか、思えなかった。

 こんな、他人より劣った部分ばかりの女の子が、そんな存在であるはずがない。

「……人違いよ」

「自分の経験したことが、言葉すら使わずに、他人に伝わってしまった経験を、したことがないかしら?」

 衝撃を、覚えた。

「・・・・・・・え?・・・・・・」

 あの中学時代の雨の日。

 先輩にされたこと。

 私の手に触れた上羽の手。

 あの時起こったフラッシュバック。

 上羽が見せた、あの表情。

 私と、上羽との、私たち二人だけの、二人が一緒にいた最後の思い出。

「どうして」

 知っているの、と、意志に関係なく、言葉が出そうになった。

「思い当たることが、あるようね」

 私が言い終わるより前に、ベルベラが口を開いた。

「それに、変な夢を見たことも、あるのではないかしら? 夜の森、虫の仮面、首を切られた人たちに、巨大な芋虫が出てくる夢を」

 頷くことしか、できなかった。

「それこそ、あなたが巫女である証。私と同じ、モスラによってえらばれた女である証なのよ」

 この女性と、同じ。

 人殺しと、私が同じ?

「私は、何? あなたは、何なの? ベルベラ」 

 初めて、その名前を口にした。

「ついてきて頂戴」

 そういって、ベルベラは立ち上がった。

「この世界と、あなたについての真実を、一から教えてあげるわ」

 そういって、ドアを開いて部屋の外に出ていくベルベラを、私は夢遊病者のような足取りでついていった。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。