「『声』を,聞くのよ」
私の問いに、ベルベラは答えた
「声?」
「そう。モスラの声を聞くのよ。そしてそれを、民に対して伝える。その伝えられた声が、民にとっての道しるべとなるわ」
ベルベラは、歩き出した。卵に向かって、腕を広げながら。
「モスラによって新世界がきても・・・・・・、そこで、人は生き続ける。人が生きる限り、そこには統治が、政治が必要となるわ。そのための言葉を届けるのが、私たち二人の役割」
「王様になるの? 私たちは」
「半分は間違っているけれど、半分は正しいわね。私たちは、自分の判断で政治を行うわけではない。あくまでも、モスラの声を代弁するだけよ。だけどそれは、王という役割の元来の姿でもある。王とは本来、神の意志を代弁するものに過ぎなかった。神の言葉を聞けない民衆に対して、自分だけが聞くことが出来る神の言葉に基づき、統治を行う存在、それが王よ。なのに、傲慢な男たちが、」
「私だって、モスラの声なんか聞こえない」
思わず、遮るように、私は言った。
「これまで生きてきて、モスラが何か言ってくれたことなんかない。神様の言葉なんて、私は一度だって聞いたことがない」
「いいえ、言葉はずっと届いているはずよ。あなたはまだ、それを理解することが出来ていないだけ。私もそうだった」
ベルベラは、卵を背にして、私に振り返った。
「子どものころから、私にはずっと違和感があった。自分がほかの人間とは違うのではないかという違和感が。普通の人間が歓喜するような幸福が、私には小さな虫ほどの価値さえ感じることが出来ないものだった。大人になって、その理由がようやく理解できた。私はずっと、モスラの啓示を受け取っていたのだということが、理解できたのよ。あなたにだって、きっと、理解できるわ」
「・・・・・・どうやって?」
ベルベラは、ただ、微笑んだだけだった。
彼女は、着ている服のポケットから、携帯を取り出して、操作して、耳に当てた。
「『彼』を、連れてきて」
それだけ言うと、耳から携帯を離して、また操作して、またポケットに入れた。
「彼って誰?」
「この場で、待っていてちょうだい。あなたの知りたい答えが、わかるわ」
そういわれれば、そうするしかなかった。
私は、待つことにした。
私の目は自然と、この巨大な地下室に鎮座する、巨大な卵にじ、と引き寄せられた。
その虹色の卵は、不思議だった。
美しかった。
禍々しかった。
懐かしかった。
守りたかった。
守られたかった。
壊したかった。
脈絡もなく、相反さえする感情が、その卵を見ていると、私の心に沢山わいてきた。
まるで、その卵を見た沢山の人たちが、それぞれに抱えるであろう思いが、私の中に一度に存在しているかのような、不思議な感覚。
どこかで、足音が聞こえ始めた。
カツンカツンカツン。
足音は、段々と、自分に近づいてきた。
だけど、私は、卵に魅入られていた。
カツンカツンカツン、ピタ。
足音が、止まった。
「詩穂・・・・・・?」
声がした。私の声でも、ベルベラの声でもない。
その、何度も聞いたことがある声色が、私を引き戻した。
私は、声のした方向を、見た。
「おとうさん・・・・・・?」
父が、立っていた。