楽園の素敵な先代巫女   作:TS百合好きの名無し

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ついに投稿してしまった……
原作は未プレイです。
リハビリがてら書き始めた作品ですが楽しんでいただけると幸いです。



先代巫女な私

 

 

 

「あなたにこの子を預かって欲しいのよ」

 

 その日、友人の妖怪からそう言って差し出されたのはすやすやと眠る一人の赤ん坊であった。

 

「人間の赤ん坊……?」

「ええ、たった今拾ってきたばかりのね」

 

 詳しく聞けば捨て子らしいが、どうやら類稀な素質を秘めているため次代博麗の巫女として育てたいのだと言う。試しに自分でもその潜在能力を探ってみれば彼女の言う通り素晴らしい素質持ちだと分かった。一体どこでこんな逸材を見つけてきたのやら。

 

 だがしかし、赤ん坊を育てろと言われても私に経験など全くないので不安しかなかった。藍とか手伝ってくれないかなあ、なんて考えつつ、まあとりあえず名前だけでも聞いておこうと私は友人に声をかけた。

 

「紫、この子の名前はもう決まっているの?」

「ええ。霊夢……それがその娘の名前よ」

「…………ぱーどぅん?」

 

 思わず紫の顔を二度見してしまった。

 この賢者さんは今なんと言った? 霊夢……そう言ったのか? マジで?

 

「霊夢よ。気に入らなかったかしら」

「い、いや良い名前だと思う……よ?」

「……?」

 

 動揺する私を不思議そうに彼女が見てくるが、私は内心それどころではなかった。何故ならとある事情から私はこの赤ん坊の未来を誰よりもよく知っていたからである。

 

 この赤ん坊……後の主人公やんけーー!?

 

 

 

 

 

 

 

 突然だがあなたは転生というものを信じるだろうか。ちなみに私は自分で体験するまであまり信じていなかった。

 だがある日、目が覚めたら私は見知らぬ幼女になって神社へと続く階段の途中で倒れていたのだ。周囲の見慣れぬ景色と体。加えてとても夢とは思えぬリアルな感覚。もちろん当時は大パニックに陥り、おまけに幼い体に精神も引っ張られたのかその場で泣き出してしまう始末。

 すると声を聞きつけたのか誰かが私へと声をかけてきた。

 

『……また外からの迷子かしら? ねえあなた、こんなところでどうしたの?』

 

 そして声の主を見た私は思わず涙が引っ込むほどの衝撃を受けた。

 まるでドアノブカバーのようなZUN帽と呼ばれる帽子を被り、紫のドレスを身に纏った怪しげな金髪美人……妖怪の賢者八雲紫がそこにいたのだ。

 その姿を見た瞬間、私は漠然とある予感を抱き始めた。

 

 ……ここってもしかしてあの東方projectの世界ではなかろうか?

 そして実際にその予感は正しかったのだ。

 

 その後、私には巫女としての高い素質があることが明らかになり、なんやかんや私は紫にお願いされるまま博麗の巫女としてこの世界で生きていくことになった。美人の頼みは断れないからしょうがないね。

 あと正直な話、この世界で目覚めてから知識を除いた以前の記憶がごっそり抜け落ちてしまっていて、元々男だったのか女だったのかすら私は覚えていなかったりする。……俗に言う東方ファンだったのは確かだけどね。

 まあ真実がどうであれ、私が今の博麗の巫女であることに変わりはない。

 

 先代巫女は私がこの世界へやって来る少し前に妖怪退治で亡くなっており、すぐにでも次の巫女を用意する必要があったこともあって、私の新しい生活は多忙を極めた。

 とにかく修行三昧な数年を経て、すぐさま巫女としての実戦へ。初陣の時の肉体年齢はたしかまだ現代でいう小学生くらいだったはずだ。

 ……今考えても小さな子供一人に妖怪との殺し合いを全て任せるとか幻想郷ハードすぎである。ホントよく死ななかったな私。

 そうしてこれまでくぐり抜けてきた死線は数知れず……まあおかげさまで齢十五にして名だたる実力者の仲間入りとなった。本気で戦えば大抵の相手には負けない自信もある。

 

 昼も夜も巫女の仕事に明け暮れ、時に殴り、時に助け、時に交流を深めながら、私は博麗の巫女として人妖問わず様々な交遊関係を持ち続けてきた。

 かくして妖怪からは歴代最強の鬼巫女と恐れられ、人間からは心優しき巫女として広く慕われる存在となって今に至るのである。

 

「ううむ、これまでも色々とあったけどまさかこんなことになるとは……」

「おかあさん、どうしたの……?」

 

 舌足らずな声の主は頭に私手製の赤いリボンを着けた巫女服姿の黒髪幼女。

 今年で五歳になる霊夢が私の目の前できょとんと首を傾げる。あーもう可愛いなあ。なでてあげるからこっちに来なさい。

 

「……えへへー」

「うっ……!」

 

 ……やべえ、娘が可愛すぎて心停止するところだった。これも全て霊夢が可愛すぎるのが悪い。紫にさんざん親バカだのなんだのと笑われているが知ったことではない。可愛いは正義なのだ。

 

 時が経つのは早いもので、私が紫から霊夢を預かったあの日からすでに五年の月日が経つ。

 いきなり一児の母親にさせられた当時の私に子育ての知識など無きに等しく不安しかなかったが、霊夢が驚くほど手のかからない子供だったため特に大きな問題もなくここまで母親を続けることができていた。

 仕事を終えて家に帰る度に「おかーさんおかえり!」と出迎えてくれる霊夢に何度癒されたことか……

 

 最近はそんな可愛い霊夢に博麗の巫女としての知識や技術を教えるのが私の日課となっている。

 

「おかあさん、きょうはなにをおしえてくれるの?」

「ふむ、そうだね……今日は霊夢に巫女の必殺技を教えてしんぜよう!」

「ひっさつわざ……!」

 

 ぎゅっと握り拳を作り、目をキラキラさせて喜ぶ霊夢。可愛い。なでなでしたい。あ、もうなでてたわ。

 

「……今日霊夢に教えるのはこれよ。よーく見ておきなさい? あ、的はあそこに立てた木の棒ね」

 

 霊夢が真剣な顔つきになったのを確認して私は自身の手に持つお札に霊力をこめることに集中する。

 繰り出す技は───

 

「霊符───『夢想封印』!!」

 

 宙に放り投げたお札が消失する代わりに色とりどりの巨大な光弾が私の周囲に出現し的へと殺到。過剰すぎる攻撃力によって的は一瞬で木っ端微塵となった。ついでに地面もめっちゃ抉れた。もはや小さなクレーターレベルである。

 

「あー……」

 

 ……内心やりすぎたと反省している。霊夢の前だからとちょっとテンションが上がりすぎた。だが彼女の方を見ればどうやら大変お気に召された様子。

 

「……すっごい!」

「うんうん、すごいでしょう。まさしく必殺技よ!」

 

 ええもう本当に。過去の戦いにおいてこの技で何度とどめを刺してきたのか数えきれないほど長いこと愛用してます。

 

「わたしにもできる!?」

「そうね、とりあえず物は試しと言うし……」

 

 この後用意したお札を霊夢に渡してやらせたところ、まだまだ荒削りなものの、なんと一発でほぼ成功してしまった。

 ……さすが主人公の一言で済ませていいことなのかこれ? 霊夢まだ五歳やで? 開いた口がしばらく塞がらなかったぞ。うちの子天才すぎワロタ。

 

 意外と私の出番はすぐになくなってしまうのかもしれないな。

 

 

 

 本日も博麗神社では平和に時間が流れ、もうすぐ夕食の時間である。調理はもちろん私が担当。今日は霊夢が初めて夢想封印を使えるようになった日なので、記念に豪華にしてみた。

 メニューは霊夢が大好きな一口ハンバーグである。

 

「これは……もうよしっと」

 

 焼き終えたハンバーグをさっと食器に移しそのまま次のハンバーグを素早く焼いていく私。台所にはジュウジュウと焼かれるハンバーグの良い匂いが充満している。

 よしよし、今回のハンバーグもなかなかいい感じに出来たようだ。これなら霊夢も大喜び間違いなし!

 

「~♪~~♪……ん?」

 

 鼻歌交じりに料理をする中、ふと気配を感じて食器に移したハンバーグの方を見るとご飯泥棒を一匹発見。

 

「うーまーいーのーだーーー!!」

 

 小さな両手を頬に当てつつ、カッと目を見開いて叫ぶご飯泥棒。その姿は頭の左に赤いリボンのようなお札をつけた黒白洋服の金髪幼女である。可愛い。

 ふむ……喜んでもらえたようで何よりだ。私も自分が作った料理をうまいと言われて悪い気はしない、が……

 

「……それとこれとは別の話よルーミア」

「あだーーーっ!?」

 

 軽く霊力を纏わせた拳骨をルーミアに落とす。妖怪である彼女には結構効くはずだ。まったくこの食いしん坊はホントに……

 

「私の許可なく勝手に食べるなっていつも言ってるでしょう?」

「ごめんなさい……我慢できなかったのだー」

「しょうがない子ねえ……」

 

 叱られ、しゅんと俯いてしまった彼女の頭をポンポンなでてやるとすぐにへにゃりとした笑みに変わる。本当に反省しているのだろうか。すぐに許しちゃう私も私だが。

 

「ねえルーミア、あなたいくつ食べた?」

「んー? まだ一つだけだぞー」

 

 一つだけねえ。それにしてはおかしい。私の記憶が正しければハンバーグがあと一つ多く皿から消えているのだ。だがルーミアに嘘をついている様子はないし、つくとも思えない……となると。

 

「ふむ……」

 

 犯人は気配を消すことが得意な者だな。紫ならば堂々とつまみ食いするだろうから犯人から除外。霊夢もありえない。そうなると心当たりは一人だけ。

 もう一匹のご飯泥棒を捕らえるべく、私は台所全体に届くように大きめの声で話す。これで出てこなかったら実力行使しかない。

 

「オイコラ無意識少女、早く出てこないとお前の分だけデザート作ってやらんぞ」

「そ、それは卑怯だよ!」

「確保ぉ! そして天誅ー!」

「痛あーーーっ!?」

 

 慌てて私の目の前に姿を現した妖怪少女をすぐさま捕獲。こちらにもルーミア同様に霊力を込めた拳骨を与える。

 

「あう、ごめんなさい……」

「まったくもう……」

 

 癖のある若草色のセミロングに緑の瞳。服装は薄い黄色のリボンの付いた鴉羽色の帽子を被り、黄色い生地の服と緑のスカートで、閉じた青のサードアイとそこから伸びた管が特徴的な容姿の少女───古明地こいしは私に帽子ごと拳骨を食らった頭を手で擦りつつ、若干涙目で言う。

 

「だって美味しそうだったんだもん。それに一つくらいならルーミアのせいってことで誤魔化せるかなって」

「残念ながら誤魔化せなかったわね」

「残念だったのだー」

「うー」

「罰として二人とも夕食の用意を手伝って頂戴。それが終わったらみんなで一緒に食べましょう」

「「はーい!」」

 

 人数が増えたが今日は奮発したので材料にはまだ余裕がある。子供二人ぐらいなら大丈夫だろう。どこぞの亡霊少女じゃあるまいし。

 元気よく返事をした二人と協力して残りの夕食の用意を進め、料理を居間へと持っていくと霊夢にキラキラとした顔で出迎えられた。料理の匂いはここまで届いていたみたいだし、本当に楽しみに待っていたんだろう。

 

「ハンバーグ? ハンバーグ?」

「正解」

「わーい!」

 

 その場でぴょんぴょん跳ねて全身で喜びを表す霊夢が可愛すぎる件。君はお母さんを萌え殺す気かね?

 

「あと今日もルーミアたちが来てるからよろしくね」

「はーい!」

 

 霊夢の許可が得られたのでこれで問題は何もない。

 全員の食器と料理を並べ終え、私たちはちゃぶ台の四方を囲むように腰掛ける。

 

「それじゃあ……いただきます」

「「「いただきまーす!」」」

 

 奮発した料理は全員に大好評だった。

 

 

 

 

 

「どうやら次代の巫女の育成は順調のようね」

「あのさ紫、いつも言ってるけど背後から急に出てこないでくれると嬉しいなって」

 

 夕食後も軽くくつろいでから帰っていったルーミアたちを見送り、夜に霊夢を寝かしつけて一人月見酒を楽しんでいると、急に背後にスキマが開き紫が顔を出してきた。いつものことだが心臓に悪いのでやめて欲しい。

 ジト目で抗議するも紫は悪戯な笑みを浮かべるだけだった。

 

「はぁ……紫も飲む?」

「いただくわ」

 

 家の中から新しい杯を持ってきて酒を注ぐ。

 

「はいどうぞ」

「ありがとう」

 

 二人で同時に一杯。ぽかぽかと火照ってきた体を心地よく感じながら月を眺める。しばしの沈黙の後、先に口を開いたのは私だった。

 

「……紫。霊夢はやっぱり天才だね。あの子ったらあの歳でもうすでに『夢想封印』をほぼ完成形にまでもっていけてるんだよ? 我が娘ながら恐ろしい才能の塊だね」

 

 東方ファンとして元々霊夢という人間が規格外なのは知っていたが、それでも実際にこの目で見ると驚かざるをえなかった。すでに中級一歩手前の妖怪までならば一人で退治することも可能だろう。

 まあ、だからと言って私も簡単に抜かされるつもりはないのだけど。

 

「ええ知っているわ。おかげで次代の心配はしなくとも良さそうね。でも、だからといってあまり無茶をしてはダメよ? 霊夢にはまだまだあなたが必要なんだから」

「分かってるって」

「……本当かしら」

 

 これはきっと紫なりの気遣い。私はそれに笑って応え酒を飲む。

 ああ、今夜も月が綺麗ね。

 

 ……私は簡単には死なないよ紫。あなたたちがくれたこの幸せを絶対に手放すつもりはないから。

 

 




現状

二話→八割完成
三話→書き終えている
四話→二話が出来次第

東方projectのキャラクターってなんであんなに魅力的な娘しかいないんだろうか。

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