スノウホワイトはギシンとアンキに依頼を受けた。
「新たなナイトメアが現れました」
 現場に向かった彼女は、そこで見たくもない、恐ろしい光景を目にする。

※ハッピーエンドではありません。

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正義ノ一威ハ正義ヲ砕ク

 世界とは往々にして残酷だ。真っ白をたたえた少女、スノウは述懐しながら己が槌を再び構え直した。

「キヒヒヒ」

「趣味の悪い」

「アハハハハ」

 彼女は今狩りをしている。ぐちゃぐちゃになった血肉の感触が手に染み付いてくる。この正義を貫くため。主を復活させるため。彼女は徹底して破壊する。自らに仇なす悪を。自らの正義を謗る者を。

「このナイトメアは――私なのだろう?」

 ――鏡写しの自身たちを。辛うじて人間の形を保っただけの少女然としたソレは、既に何故敵を討つかという理由を失った、破壊兵器に成り果てた。スノウの一振りがまた一体を叩いた。拠り所にしていた首を失い、頭を美しく飾っていた白髪が宙に弧を描く。体がナニカに冒され、自らの縁であった正義が心ごと食い千切られてしまった「スノウホワイト」のモノガタリ。今スノウは、自らもそう成り得るかもしれない「亡霊」を、潰している。

「そんな、脆い正義で」

 槌を握り締める手に赤が籠る。それは血だった。それは力だった。それは正義だった。それは――憤怒だった。

「私を、名乗るなぁッ!!」

 理不尽な破壊が戦場を蹂躙する。正義は揺るがない。正義は崩れない。正義は折れない。正義は死なない。彼女はその体現だ。彼女の信念はその正義にある。いや――そうでなくては、スノウホワイトという少女は崩壊する。目の前に群がる虚像のように。

 かつてその双眸に正義を爛々と湛えていた美しい少女――その成れの果て(ナイトメア)どもが、弾けた。

「あああああああッ!!」

 自らの正義を絶対のものにするために、彼女は今一度暴虐と成り果てる。

 

 

「蠱毒を知ってイマスカ?」

「古代中国の呪いデス」

「狭いトコロに沢山の動物を入れテ殺シ合イさせるんデス」

「沢山のスノウを殺シたスノウは果たしてドウなるのデショう!?」

「ワー、ドウなっちゃうノ?」

「………」

「………」

「……ア、コレ何も考えてマセンね」

 

 

 真っ赤なペンキでぐちゃぐちゃにしたような戦場の中、ただ一つだけ動くのは、やはり正義だった。正義の極北。正義の果て。自らの愛槌を拠り所に辛うじて立っているのは、紛れもなくスノウホワイトだった。

「私の正義は、決して揺るがない」

 噛み潰したような小さな声が口角から漏れた。幾千、幾万という自らの末路を見ても彼女は正義を固持していた。

 

 

「正義ハ他の正義を殺シマス」

「誰かノ正義ハ誰カの悪デスカラね」

「悪ヲ貫けバ正義ニなるかもシレマセンネ!」

「万人殺セバ英雄!」

「殺しタケレば殺すダケノ正義ヲ見せツケまショウ!」

 

 

 正義を失った、スノウホワイトの姿をしたソレは、正義を固持し続ける彼女が戦う相手にはあまりにも脆かった。芯のない鉛筆をへし折るように、まるで手応えなく消し飛ばせた。さながら凶器を持っただけのか弱い少女のように。彼女が正義を求めなければなったであろう、ただの麗人のように。

「――」

 肺から息を絞り出して、静かに座り込む。思い出したように噴き始めた汗が彼女の身体中に着いた汗を落とそうとする。が、那由多の血に一掬いの雫など焼け石に水。流れても流れても、皮膚とドレスにこびりついた熱と怨嗟を拭い去ることはできなかった。

 脳裏によぎる自らの写し身たちの声。

 ――なぜ戦う。              なぜ

  ――主とは何だ。

 ――誰も認めない正義に何の価値がある。          なぜ

   ――なぜ認めない。      なぜ

 己の過ちを。己の不義を。己の歪みを。己の穢れを。己の瑕疵を。己の醜悪を。己の愚図を。己の矛盾を。己の悪徳を。己の残虐を。己の己の己の己の      なぜ

ナゼ   なぜ   ナぜ

 なぜ、なぜなぜ、なぜなぜなぜなぜ――。

「黙れ」

 小さく、か細く、しかし声に籠められた信念は不撓。折れた正義に諭されるほど彼女の正義は脆くない。いや、脆ければ彼女は先ほど破壊の限りを尽くした亡霊の一体と成り果てて、いつか何者かがその身を砕いてくれるのを待つしかなかった。正義という己が身唯一の柱を失ったスノウホワイトから生まれたナイトメアに残るものなど何もありはしない。

「この純白を汚すことは、たとえ主であろうと許さない」

 言葉に付き従うように彼女の脚が力を取り戻す。そうだ、終わってなどいない。これだけではないはずだ。今ここにたまたま「正義を失ったスノウホワイト」が集められただけに違いない。まだ残っているはずだ。正義を欠かした鏡写しの存在を見逃すことは許されない。

 彼女は往く、己が四肢に全てを託して、あらぬ心をした自分自身を滅する為に――。

 

 

「キヒヒヒヒヒヒヒ」

「キヒヒヒヒヒヒヒ」

「ドコにいるんデショウね」

「ドコカにいるんデショウね」

「正義ガ言うんデスから」

「デモ本当に悪ダケ潰しテくれルんデスカ?」

「正義が歪マなけレバ」

「正義ガ悪ヲ捏造しナケれば」

「キチントやってくれマスヨ」

「キヒヒヒヒ」

「キヒヒヒヒヒヒヒヒ」




 個人的にスノウのジョウで一番好きなのは和装で、次に好きなのがクラッシャーです。

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