アイドルマスターシャイニーカラーズ 銀色の革命者   作:ヒロ@美穂担当P

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美世と岩崎のバトルは極限の領域に到達する!
そこにたどり着いた美世のGT-Rは……!!



STAGE37 覚醒の紅(ブレイクルージュ)

湾岸を直進していく2台のR。

(余裕なんてないっ!けど)

美世のRはまだ切り札が残っている。NOSだ。NOSを使用する事で70馬力分パワーが上がり、その間は720馬力を発揮する。

しかし岩崎のRもNOSはある。しかもそもそものパワーで既に差がある上、NOSを使っても差を縮めるのは難しく、NOSを使用しても200馬力の差がある。

美世はどこでNOSを使うかを見極めるべく、機会を狙っていた。

 

 

 

 

(マージンがなくなった……。流石だよ)

美世の紅いRとほぼ差がなくなる岩崎の蒼いR。このままだと岩崎の前に美世のRが出る。

 

 

 

 

美世は震えるような丸二灯テールランプの赤い光を見ながら考える。

いつ抜くか。それだけを。

その思考速度の中では一瞬の瞬きですら美世には永遠のように感じられた。

 

 

 

 

 

心臓の音が大きくなる。ドクン、とはっきりと聞こえそうな程。

その瞬間を待つ。

 

 

 

 

一般車が視界から消える。オールクリア。

「ここだーーーーーっ」

ステアリングに付いているNOS噴射スイッチに親指を伸ばす。

スイッチを押し込むとシリンダー内にNOSガスが噴射され、その瞬間パワーはさらに上がる。

美世の紅いRは咆哮し、蒼い標的(ターゲット)を狩ろうと加速する。

もちろん岩崎も黙って見ている訳はない。岩崎もNOSを使い、Rを加速させた。

2台のGT-RのRBサウンドは地響きのように周りを揺らさんと轟いた。

自分が前に出ると言わんばかりに並ぶ2台のGT-Rは加速を止めようとしない。

 

 

 


 

 

 

(あたしは、幸せだ)

(もっともっと走りたいんだ!)

 

 

 

 

「美世さんのRの色が変わってませんか?」

美穂も美世のRの色の変化に気づいた。明確に色が変わっていた。

 

 

 

 

(ステージに乗って輝いた……。ステージで輝いて……目覚めた)

(あの紅は『ライドオンレッド』じゃない)

 

 

 

(あの紅色は……『ブレイクルージュ』って言うべきなのかな)

美世の紅の変化。色を作った蓮でも予想していなかった事だ。

ボディの輝きが美世に呼応するかのように増していく。

(僕の色じゃない。『美世さん』の紅色なんだ)

 

 

 

 

 

 

「まっだまだぁ!!」

美世の高いテンションはGT-Rを突き動かすエネルギーのようだ。

それに応えるようにRB26も吠えた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

超高速エリア湾岸線。

ここで最後まで踏み抜く事ができるのは本当に僅かな人間だけだ。

そしてそれができる美世と岩崎。

 

 

300kmオーバーでのスラロームを繰り返しつつ加速を続ける2台。少し離れた位置に蓮と美穂のFCが続く。

 

 

 

 

(300km以降は……苦しい)

いくら蓮の技術があってもパワーの差は埋められない。

美世のR34の丸いテールランプが離れていく。

(美世さん……)

 

 

 

 

 

トンネルを抜けると街頭が並ぶ。

道を教えるソレに照らされてボディが輝いている。

「最後の……足掻きです」

美世はR34の最後の武器(NOS)を使う。これで前に出られなかったら負け。

 

 

 

(頼んだよ!!)

Rに頼むようにしてNOS噴射スイッチを押し込む。

GT-Rの過給音が大きくなり、体感できる限りで最高の加速を見せる。

 

 

 

310km。美世のRが蒼いRと並んだ。まだ互角。

 

 

315km。エキゾーストノートがあらゆる音を無にする。タコメーターの針の動きが止まりそうになる。

 

 

320km。加速が終わると感じた美世。それでもアクセルは踏み続ける。

空気の壁がRを押し戻そうとする。壁を押し返そうと吠えるR。

 

 

325km。美世のRの加速が完全に止まった……。

しかし……!

 

 

 

 

(まだ!あたし踏み切ってない!!)

岩崎のRの背後に食らいついた。スリップストリームを再び狙う。

深夜とはいえ車が多い。一瞬でも読み違えば一般車へ突き刺さる状況で果敢に攻める美世。

そして訪れた一瞬のチャンス。

「いっけーーーーーーーーーっ」

残ったNOSをフルショット。最後の武器を使う。

 

 

 

 

「やっぱり……天才だ、原田さん」

美世のGT-Rが並ぶ。そして追い抜かれる様子に直面しても岩崎は笑みを浮かべていた。

(……俺はもう悔いはないさ、原田さん)

 

 

 

 

 

 

美世はリアバンパーをつつかれた事に気づいた。トン、と静かに。

美世のRをつついた岩崎のRは息がたえだえになっているかのように失速していった。つついた時も最後の力を使ってバトンを渡したみたいに。

美世がそう思った瞬間……

 

 

 

 

 

 

ギャアアアアアアアアァ……

 

 

 

ガッシャアアアアアッ

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「岩崎さん!!」

燃え上がる蒼いR34GT-Rに駆け寄る美世と蓮。

蓮が燃えるRから岩崎を助け出した。

「岩崎さん!」

「原田さん……俺は平気だ」

「それより……ありがとう。俺は今まで乗った中で最高のGT-Rに巡り会えた。原田さんがやらなかったら、こんな最高の走りはなかった」

「でも、Rが……!!」

「元々眠らせるつもりだったんだ。原田さんも気づいてたハズだ。Rのボディの終わりに」

美世が高木の工場に岩崎のRを持っていく前に見つけたボディの歪み。

大パワーと引き換えにするボディの寿命。ボディが歪んだ時点で岩崎のGT-Rはほぼ死んでいたと言えたのだ。

「それでも……このGT-Rを覚えてくれていた原田さんの前にこのGT-Rを出さないのは俺自身が許さなかった」

ボディが終わっているGT-Rで美世とのバトルを望んだ岩崎。

それはこのGT-Rでの最後の走りを覚悟していたからだ。そして今それは成し遂げられ、GT-Rは役目を終えた。

「これで俺は……プレッシャーから解放される。『迅帝』っていうプレッシャーから」

「そして、過去からも」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「迅帝が事故った!?」

「マジかよ!?」

辰巳PA内は大騒ぎ。

十三鬼将メンバー達も動揺を隠せない。ただ1人、藤巻を除いては。

 

 

 

(それで……満足か?Rを降りて……)

(お前はまだ『ある』だろ?)

 

 

 

雲に隠れて時折見える月を見て藤巻はこの場にいない岩崎に問う。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「美世さん、行きましょうか」

蓮が美世に聞く。

「うん。みんなが待ってるだろうし」

美世は自身のRに岩崎を乗せてこの場を去る。蓮と美穂のFCも続いて闇の中へ消えていった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

翌日。

走り屋達は昨日のバトルの話題で賑わっていた。

伝説(迅帝)を下したアイドル原田美世。ストリートでの勝負でも美世が岩崎を超えたと。

 

 

 

 

 

 

 

「本日をもってアイドル活動を再開する事を許可しよう」

美世は2週間の雑用が終わり、常務から復帰を認められた。

しかし美世はあまりいい顔をしていない。

目の前で憧れだった車が無くなってしまったからだ。

あの後岩崎のGT-Rから出た火は消し止められたが車体の大部分が焼失。

生き残っていた部分も再利用ができない状態と判断され、GT-Rは廃車となったそうだ。

だが岩崎は「これでよかった」と言っていたらしい。「GT-Rで最後に戦えたのが原田さんで本当に嬉しかった」と。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

数日後、スーパーGT最終戦。

雨が降るツインリンクもてぎでのレース。美世は第2戦では予選しか走れなかった。やっと決勝レースでここを走れるのだ。

慣れた様子で準備を終わして美世のGT-Rはピットアウト。

 

 

 

 

 

決勝レースはGT300クラスで菊地真一レーシングのGT-R GT3がスピンするなど波乱のレース展開に。

GT500クラスでもデンソーSC430がコースオフするなど雨の中で激しい順位変動が何回も起きた。

そんな中で激しい首位争いを繰り広げていたのは美世のモチュールGT-Rと岩崎のカルソニックGT-Rだった。

 

 

 

 

(ここだーーーーーーっ)

岩崎に激しいプレッシャーをかけられながらも美世は粘る。

レインタイヤを履いても自身からマシンのコントロールが失われるような路面で激しいプッシュ。岩崎の本領発揮である。

 

 

 

 

 

 

 

最終コーナーを立ち上がった2台のGT-R。

その光景は先日のバトルにどこか似ていた。

あと一歩及ばなかった岩崎の青いGT-Rが美世の赤いGT-Rに続いてゴールラインを通過していった。

美世は1位でゴールラインを通過したのである。

 

 

 

 

 

 

美世達モチュールはチームランキング3位でシーズンを終えた。

ドライバーランキングは6位であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

レース後。

それぞれチームが集まってパーティーが行われている東京都内某所のホテル。

様々なチームの監督達が話す中、美世は岩崎の元へ。

「また負けたよ(笑)」

「……はい」

美世はまだ岩崎のGT-Rの事が離れず、岩崎と話しても若干暗い。

「……原田さんが覚えているだけで俺はあのRを走らせた意味があったと思うんだよ」

「たとえみんなが忘れていても……原田さんだけは覚えていてくれた。それだけでも俺は嬉しいさ」

「……」

ここで岩崎が思い出したように美世に聞く。

「そういえば……原田さんは知ってるかい?『銀色の革命者』って」

「えっ!?知ってます!」

「俺も噂でしか知らないけど……銀色のランエボだそうだ」

「そうです、銀色のエボⅩです」

「原田さんのプロデューサーも関係してるんじゃないかい?FC……いや、普段はFDに乗ってる原田さんのプロデューサー」

「あたしも『彼』は本当に革命者って思いましたよ。フツーの学生が東京(こっち)に来てから次々すごい事を起こすきっかけになるなんて」

「原田さんが知っているなら頼みたい。『彼』と俺は戦ってみたい」

岩崎の口から出た言葉に開いた口が塞がらない美世。

「え、でもGT-Rが……」

岩崎は愛機GT-Rがない。どうやってバトルしようというのか。

ライバル(相手)となる車で俺は戦うさ」

「……まさか!?」

「ああ、そのまさかさ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

平日のある日。

「そろそろ行かねえとな……」

「どこに行くの?」

夕美が夢斗に聞く。浩一はバイトに行っている。

「宇都宮。もうすぐで『あの日』だからさ」

「……そっか。夢斗君、『いつも話せて楽しいよ』って伝えてあげてほしいな」

「わかった」

 

 

 

 

 

(1年……。俺はやっと前を向いて進めるようになった)

 

 

 

 

 

 

エボⅩで移動していた夢斗のスマホから着信音に設定しているブルー○ードが流れ出す。

「もしもし誰っすか?」

「夢斗君?」

「ああ、美世さん?どーしたんですかいきなり……。つかどうやって俺の番号知って」

「夢斗君にバトルしたいって人がいてね……それだけ教えようと。あ、蓮君に教えて貰ったからネ」

「小日向さんならいいや。で、俺に挑みたいって?」

「うん。どうしても戦いたいって」

「……ま、いいんですけど。誰でもばっちこいなんで。んで何時っすか?」

「来週の土曜日の夜10時に大黒で待ってるって」

「……わかったっスけど遅刻するかもしんないっス」

「遅刻しないでお願い」

 

 

 

 

 

電話が終わった後夢斗はため息をついた。

「なんでよりによって『あの日』なんだよ……」

 

 

 

 

 

 

夜、久しぶりに浩一とC1(外回り)を走る夢斗。

浩一は春の頃とは比べ物にならない程腕を上げていた。

(いい車だよな……。『遊び』と『本気』の狭間で上手くバランスが取れてる)

(ああいうのがチューニングカーの手本だろうな)

浩一のFDは快適性を損なわない程度にチューンされている。しかし本気で走っても通用する性能。

それに対し自身のエボⅩは走りだけを求めた車。普段の足として使うにはあまりにも不便。誰かを乗せるのも向いてない。足が硬い、2シーター、ロールケージで乗り降りしにくい、遮音材ナシと嫌われる要素の塊みたいな車だ。

 

 

 

 

 

「見てろ、FDの底力をっ!!」

浩一がミサイルスイッチオン。その瞬間FDはエボⅩをオーバーテイクしようとどんどんスピードを上げた。

 

 

 

「なんかやったな……」

FDの加速を見ていた夢斗はステアリングに取り付けられたNOS噴射スイッチを押し込む。するとエボⅩもさらにスピードを上げていく。

エボⅩとFDが並ぶ。後は前の車を回避しながらどこまで踏めるかのチキンレースだ。

 

 

 

 

霞ヶ関トンネル付近。

(だめーーーっ)

「!?」

夢斗は謎の声を聞いた。その直後……

「浩一っ!!逃げろっ!!」

 

 

 

 

 

「うわ!?」

浩一のFDの前を走っていたトラックが軽自動車に追突。トラックに押されて吹っ飛んだ軽自動車が浩一のFDの前に出てきたのだ。

「ーーーーーーーーっ」

浩一はスピンで逃げようとするが場所が場所だ。下手したら自分が事故を起こすきっかけにもなる。

「どうする!?」

そう言う間にも目の前に迫る軽自動車。万事休す。

 

 

 

 

 

キュイイイイイイイイイッ

 

 

 

「させません!」

夢斗のエボⅩの背後から飛び出してきたのは蒼いS30。悪魔のZだ。

Zは浩一のFDを押し出す。FDはギリギリの所で軽自動車を避ける事ができた。

今度はZに追突したトラックが迫るが貴音は加速してすり抜けた。

「あぶねっ!!」

夢斗のエボⅩもドリフトして回避。この場を切り抜けた3台だった。

 

 

 

 

 

 

 

下道に降りた後3人は合流。

「助かった……。ありがとう、貴音ちゃん」

「ぜっとが『助けたい』と言ったような気がしまして……ただそれだけです」

「なんだったんだ……一体」

「夢斗?」

「誰かがあぶねえって教えてくれた気がするんだよ。もしもそれが聞こえなかったら浩一は今頃死んでると思う」

「そ、そんな事言うなよ……!?」

「これはマジだ。貴音がいたからよかったけどさ」

「星名夢斗……。貴方は霊が見えるのですか?」

「いや、俺霊感ないし。でもさ、はっきりと聞こえたんだ」

「……こわっ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

翌週の金曜日。現在午後8時。

夢斗は荷物をエボⅩに詰め込んでいた。これから栃木に向かうのだ。

東京から宇都宮までは約100km。トバせばそれほど遅く着かない。

夢斗はエボⅩのシートに座り、エンジンを始動させる。

 

 

 

 

「んじゃ……行くか」

まだまだ賑やかな東京の夜。ネオンで眩しい街中をエボⅩはつむじ風のように走り抜けていった。

 

 

 

 

 

 

東京郊外から離れるとあっという間に都会らしさが消え、田舎らしさが溢れる景色が見えてきた。

駐車場での1時間の仮眠を挟んで再び出発した。

 

 

 

 

 

 

 

夢斗が栃木県に入る頃には日付が変わっていた。現在午前0時。土曜日になった。

夢斗にとって一番迎えたくなかった日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

美世と岩崎のバトルは激闘の末、美世が勝利。しかし美世の目の前でR34は焼失してしまった。だが岩崎は夢斗とのバトルを望む。

そして夢斗は1年前の悲劇が起きた『あの日』にバトルする事に……。




美世と岩崎のバトルは衝撃的な結末で幕を閉じた……。
だが岩崎の走りはまだ終わっていない。岩崎が狙っていたのは銀色のエボⅩだった……。




ネタ解説です。
・ライドオンレッドからブレイクルージュへ
美世に共鳴するかのように色が変わった紅いGT-R。元ネタであるアイテム「ブレイクルージュ」はモバマスで「ブレイク」する際に必要なアイテムです。ここでは美世の特殊能力「ブレイク」と結びつけて蓮が呼んだ色となってます。
・浩一のバイト
外伝「星色の花は天使の手に」での出来事が関係してます。「物が多い工場の秘密基地っぽさは異常」は今回の話の数日前の出来事でした。
・夢斗のスマホの着信音
いきものがかりの「ブルーバード」です。少し前に「ガルパ」でカバー曲として追加されました。





今日は美世の誕生日!ということでグランツーリスモSPORTでモチュールオーテックGT-Rをベースに美世の痛車を制作しました。
ベース車は14年度のモデルですがデザインは13年度のモノを元に様々な年度のデザインが入ってます。細かい所の再現度が低いですが許して。なおゼッケン番号は美世が物語で乗る34号車と同じ34と日産のエースナンバー23の2種類があります。
13年度にした理由は次回作でGT-Rが非常に重要な役割を持つ車になるからです。また、次回作が13年を始めとするので。

リバリー名:原田美世 MOTUL AUTECHGT-R
タグ:imas、346、h34

【挿絵表示】



リバリーの使用はご自由にどうぞ。




次回、夢斗の全てが変わってしまった日に明かされる真実。
夢斗が走り出した理由。そして夢斗の今。
革命者達は伝説に挑む。

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