アイドルマスターシャイニーカラーズ 銀色の革命者 作:ヒロ@美穂担当P
ついに打たれる終止符。バトルの結果は!?
そして……夢斗は目的を作る。
湾岸線を320kmオーバーで走るエボⅨとZ。極度の緊張状態の中でありえないくらいアドレナリンが分泌される。視界が変わり心拍数が跳ね上がる。
非日常なスリルが生むモノ。選択肢を間違えたら結果はどう転んでも元の生活を送れなくなる。選択肢を間違えないという選択肢はもうない。
それでも首都高を走る理由。
それは「誰が一番速いのか」それだけを決めるため。
普通に考えて馬鹿げてる。何の意味もない。自慢にもならない。
「でも……やめようとは思わなかった」
「この首都高の空気を知って引き返せなくなった」
「走り続けてきて、今こうやって最高の走りに繋がった」
「そう考えると……私とエボの走りは決して無駄なんかじゃなかった」
同時刻。
ここはとある番組の生放送中の会場。内容は歌唱祭と題したアーティスト達の歌番組だ。
そこにいるのは765プロが誇る歌姫である如月千早だ。
「続いては765プロの蒼き歌姫如月千早です!曲は『目が逢う瞬間』!」
「たくさんの人の波」
「あの人だけは分かるーーー」
「夢斗達が近づいている……!!」
微かに聞こえた夢斗のエボⅩ特有のハイトーンのエキゾーストノート。
「Ahーーーー」
「奪ってほしいーーーーーーー」
ファアアアアアアアアアアア
咲耶と貴音の前に蒼いインプレッサが現れた。しかしその後ろに続いているはずの銀色のエボの姿はない。
「夢斗は……!?」
少し遅れて銀色のエボⅩがやってきた。しかしいつもの余裕はどこにもなく、夢斗らしくない焦りが見える。
「夢斗!もうヤメましょう!このままでは本当にあなたが死んでしまいますよ!」
遥の必死の叫びも今の夢斗には届かない。
夢斗の必死の抵抗虚しく、岩崎のインプレッサとのアドバンテージは広がる。
「俺らはまだ終わんねえ……!そうだろう!?エボッ!!」
全身全霊でインプレッサに迫ろうとする。間違いなく今夜の夢斗は今までで最高の調子で乗れている。それをも上回る岩崎の技術。プロとアマの差がハッキリしていた。
時速300kmオーバーの世界。
スピードはいつだって裏切ろうと機会を伺っている。
「あと少し……っ!!」
夢斗のエボⅩがやっとインプレッサをロックオンしたその時。
ギャアアアアアアアアア
「夢斗!!」
咲耶の眼前で起きた出来事はあまりにも衝撃的だった。
銀色のエボⅩが外へはらんでいく。ズルズルと流れていったエボⅩは蒼いインプレッサから遠ざかり、そのまま単独スピンに突入した。
300kmオーバーでのコントロール不能は死を意味するーーーー。
「夢斗ーーーー!!」
遥は死を覚悟した。明日には新聞に死者として自分の名前が載るだろう。
「……」
夢斗はコントロール不能になったエボを立て直す気も無かった……
「……ちゃん」
「お兄ちゃん」
「……?」
自分を呼ぶ声。その声は夢斗には馴染み深い声。
「お兄ちゃん」
「……!?カナ……?」
そこには奏夢がいた。1年間に死んだはずの奏夢が夢斗の前に立っていた。
夢斗は悟った。自分は死んだのだと。目の前にいる奏夢は自分を迎えに来たのだと。
「ははっ……カナ。俺、死んじまったみたいだ」
「最後の最後まで……俺は誰も信じられなかった」
「上っ面だけだったよ、信じていたって」
「お兄ちゃん……お兄ちゃんは死んでないよ」
「どういう事だ?」
「ここはお兄ちゃんの精神世界。お兄ちゃんの心の中だよ。私はお兄ちゃんのイメージの中の存在」
「お兄ちゃんは生きてるよ。最も、このままだと死んじゃうけど」
「いや……もういいんだ」
夢斗は諦めた様子だった。
「俺は約束を守れないやつだし。カナがいない日常に虚しさを感じ続けながら生きるのがもうしんどくてしょうがなくて……。周りが俺を信じても俺が周りを深くまで知ることができないんだ」
「だから……もう俺はいいんだ。ここで死んじまった方がよっぽど楽だ」
「違うよ……っ!お兄ちゃんはなんでそんな後ろ向きなの!?」
奏夢の涙声。
「お兄ちゃんは私の分まで生きるって言ってくれた!お兄ちゃんがそう言ってくれたのがすごい嬉しかったんだよ!」
「お兄ちゃんの周りの人達はいつだってお兄ちゃんの味方だったよ!お兄ちゃんが挫けたって隣にいてくれた」
「お兄ちゃんがみんなの支えにもなっているから!みんなの力にだってなれるの!」
夢斗の頭に浩一の言葉が不意に浮かんだ。
(お前は気づいてないだろうけどな、お前は皆を動かす原動力だ。お前が迷ったら皆も止まる)
「だから生きようよ!一度しかない人生を精一杯生きようよ!!」
「私もお兄ちゃんの力になるから!だから!」
「お兄ちゃんはすごいって!みんなが認めてるから!!」
泣く奏夢の頭に手を乗せる夢斗。
「カナにここまで言われてしかもカナを泣かせたんだ。俺だって……プライドがある」
「俺は今さっきまでの自分をぶん殴りたいって思ってる。うじうじした俺をな!」
「カナ、俺はもうカナに会えないのはわかってる。だから俺はっ!!」
「カナに再び会える時まで悔いのない生き方をしてみせる!バカな俺でも……これだけは……絶対に守ってみせる!!」
「お兄ちゃん……」
「ああ、反撃開始と行くか!!」
夢斗の手に奏夢の手が添えられる。その瞬間夢斗の体に力が溢れ始めた。
「エボ……ッ!!俺に、俺達に力を貸せ!!」
超高速スピンしていたエボⅩが壁にぶつかるギリギリで体制を立て直した。
銀色のエボⅩは槍のように真っ直ぐに突き進んでいく。
「速い!あれがエボⅩなのか!?」
咲耶は先程とまるで違う車のようなエボⅩの加速に驚いていた。まるでRB26に載せ替えられたと錯覚しそうな勢いで迫るエボⅩ。
エボⅩは最後尾から先頭を走っていた岩崎のインプレッサにあっという間に追いついてしまったのだ。
「何をしたかは知らないが……!面白い!」
岩崎がついに本気を出した。さらにペースアップするインプレッサにエボⅩが追従する。
爆走する2台を追いかけるエボⅨとZも激しく争う。
「ここで突き放す……!!」
岩崎のインプレッサは発揮できる全てのパワーをエボⅩを突き放す事に回す。
だが……!!
(なんでさらに伸びていくんだ!!)
(こっちはもう踏んでいけないんだっ)
エボⅩは離れていなかった。最初の苦戦が嘘のようにエボⅩはインプレッサに近づいているのだ。
(夢斗に一体何が……!?)
遥は一変した夢斗の走りに驚愕を隠せない。最初焦りを隠さなかった夢斗がスピンした後からまるで別人のような走りを見せている。そんな夢斗に応えるかのようにエボⅩも変化が起きていた。
明らかにエンジンの吹けが良くなっており、回転が非常に軽い。そしてパワーが桁違い。夢斗によればNOSを使うと580馬力に達するというエボⅩ。だが今だけはそんなパワーが出てるとは思えない。岩崎のインプレッサを超える加速をしているのだ。体感とはいえ700馬力以上は出てるだろう。
超ロングストレートが姿を表す。岩崎と夢斗は並んだ。
2人の闘争心がぶつかり合う。「俺が前に」。そう言わんばかりに蒼いインプレッサと銀色のエボⅩは突き進む。
「いっけえええええええええええっ!」
夢斗の叫びに呼応するようにエボはさらに加速。
「まだだっ!」
岩崎も負けじと加速。この時点で2台のスピードは330km。
「うぉぉおおおおおおーーーっ!!」
エボⅩがインプレッサの前に僅かに出る。抜かれた岩崎は巻き返しを狙うが……。
「これ以上は……!!」
「あの光は……」
蒼い炎のようなオーラに包まれたエボⅩの内側から金色の光が出ていた。あの光が夢斗から出ているオーラとは思えない。あれは一体。
(こっちは……350kmだった。あのエボ……一体何km出ていたんだ!?)
岩崎がアクセルを抜く直前にスピードメーターが指していたのは350km。350km出ていたインプレッサをさらに突き放せる程の加速を見せたエボⅩ。
ありえない。それしか言葉が出ない。しかし、インプレッサの前にエボⅩが出たという事実だけがそこにある。
(俺もまだまだか……)
岩崎は悔しさよりも不思議な爽快感を感じていた。
頭が真っ白になるような体験を久しぶりにできた。岩崎の表情が緩む。
咲耶達も勝敗が決まろうとしていた。
咲耶のエボⅨがZを
「ぜっとが流れたら当たる……。それでも攻めるとはっ」
貴音のZが外へ膨らんだらエボⅨに当たる。接触するというリスクを取ってまで前に出ようとエボⅨは速度を上げた。
(信じてる……エボ!)
エボⅨはZに被さるように前に出た。四駆のメリットを最大限発揮してZを抜いた。Zも離されないとばかりにスロットルON。
2台のスピードは時速330km。エボⅨは全く姿勢を乱さずに直進していった。ZはエボⅨのテールに近づくものの、前に出られない。
「ぜっと!」
貴音の思いはついに届かずZはパワーを完全に失った……。
無我夢中で運転していたため、Zの前を自分が走っている事にしばらく気が付かなかった咲耶。ようやく状況を把握すると張り詰めていた糸が切れた。
「私が……勝ったのか?」
「私が……悪魔のZの前を走ってるのか」
やっと事実を認識した咲耶。喜びもあるが喪失感も感じた。
「ぜっと……よくやりましたね」
Zを労る貴音の表情はどこかスッキリとしていた。
「お兄ちゃん」
「私、もう行かなきゃ」
「どういう事だよ、カナ」
奏夢が突然言った。夢斗は奏夢に理由を聞くが……。
「私がお兄ちゃんと会えるのは今日だけだから」
今日は奏夢の命日。この世とあの世の境目が最も曖昧になる日。
今日と言う日だけ現世に奏夢はやってくる事ができたのだ。しかし、今日はあと5分で終わろうとしている。5分後には次の日になるのだ。
「そんな……。早すぎる」
「ごめんね、お兄ちゃん。帰らないとこの世とあの世の境目を永遠に彷徨う事になるの」
「わかった。……カナ」
「また会えるんだよな?」
「……うん」
「そん時はゆっくり話したいぜ」
「私も。こんな状況でお兄ちゃんと話す事になっちゃってごめんね」
「いいんだ。カナがいただけでもーー」
岩崎のインプレッサを撃墜した銀色のエボⅩの車内。
「すごいですよ夢斗!あの岩崎さんに勝ったなんて!」
「もう、どうしたんですか夢斗……!?」
遥が運転席の方を向くとそこには涙を流す夢斗の姿が。
「カナがいたんだよ……。信じないだろうけどカナがそこにいた」
「カナに助けて貰わなかったら俺は負けた」
「妹さんが?……信じます。私は」
「え?」
「夢斗が大切に思う物を笑うなんて私は出来ませんから」
「あなたの涙は『本物』ですよ。心からの涙です」
集合場所に戻った一同の元に遅れて蓮が到着。
「夢斗君……美穂ちゃん。無事で何よりだよ」
「俺はあと少しでやばいってなりましたけど」
「夢斗が立て直さなかったら私も死んでましたけど!?」
「……負けたよ。原田さんのプロデューサーさん」
「彼のあの走りは俺達はできない。彼だけの走りなんだよ」
「最もそれを知っているのは君だろう」
岩崎の言葉を肯定する蓮。夢斗の走りはどこかぶっ飛んでいて、しかし速い。それを見てきた蓮は自然と頷いていた。
バァァアアアアアアアアア
「なんだ……?」
一同の前に現れた蒼いZ34。見たことがない。
「あれは……」
いや、ただ1人。美世だけはZのドライバーを知っていた。
「Z……また会えたな」
「元気そうだぜ。相変わらず」
「北見さん!一体どうして……」
蓮はZ34から降りてきた人物に驚いた。
彼は北見淳。悪魔のZを作り上げた「地獄のチューナー」の異名を持つ男。
なぜここに。そしてもう1人は何者だ。
「アキオさん……」
「やあ、久しぶり」
美世はある人物と1年振りの再会。
彼の名は「朝倉アキオ」。かつて悪魔のZを駆り、首都高にその名を轟かせた伝説の男。首都高の伝説は彼から始まった。
「アキオ?まさか……」
「朝倉アキオさ。もう一度だけZに会いに来た」
岩崎もその名を知る首都高の生きる伝説。岩崎や藤巻よりも前に首都高を駆けた男なのだ。
「貴方は……」
「俺はかつてそのZに乗っていた。……たぶん現役の君には届かないだろうけど」
悪魔のZの現在のパートナーである貴音と対面するアキオ。彼女はZを速く走らせられると伝わる。
「いえ、貴方は本物とわかります。貴方は私よりも長くこのぜっとに関わっているのですから」
「……ありがとう。でも降りてしまった俺をZは再び認めるかな……」
「認めるでしょう。貴方が本気でぜっとの事を思っているならぜっとだって応えるでしょう」
「もう一度だけ……乗せてくれ」
アキオがZに乗り込む。
十数年振りに乗るZの車内はアキオが乗っていたあの時のままだ。隣には今のZのパートナーである貴音が。キーをひねりエンジン始動。
Zの心臓部たるL28は咲耶とのバトル直後でも元気よく回る。
アキオは久しぶりに、しかし慣れた手つきで発進前のチェックをしていく。
「水温OK、油温OK、アイドル問題なし」
「OK。ーーーーZ」
アキオの中で欠けていた物が戻ってくる感覚があった。
「さて……行くか」
パーキングエリアを出発した蒼いS30Zに続く夢斗の銀色のエボⅩ、岩崎の蒼いインプレッサ、美世の紅いR34、美穂の白いFC、蓮の黄色いFD、そして咲耶の黒いエボⅨ。
日付が変わっても湾岸線には車が多い。物流を担う大型トラックなど一般車が多い。
「湾岸はよく走ってるけど……車こんな多いっけ?」
「私達から見たら普通ですけど」
「だよなー……。昔の俺でもそう言いそうだ(笑)」
悪魔のZを降りてもZ34で走っていたアキオ。しかし昔と比べると走る頻度は落ちていた。それもあってか一般車の多さに困惑しているようだ。
「君は……なぜZを選んだんだ」
「まともではないこのZを乗り続ける理由……それを知っておきたくてね」
Zに乗り始めたばかりの頃はアキオもZに手を焼いたものだ。Zに自身を拒否されて事故を起こす事もあった。
それでもアキオはZに乗り続けた。普通ではないZに魅入られていた。
自分がZを降り、Zは新たなパートナーと巡り会う。自分もZに再び乗る。しかしそのZはS30の後継機であるZ34型。
「私はぜっとに似ているのかもしれません」
「どういう事だ?」
「私は幼い頃に故郷を離れているのです。ぜっとも造り手の元を去り、各地を転々としていたとお聞きしております」
「生まれの地を離れて、向かった場所で出会いがあり。私達は似た者同士だと言われた事がありまして」
「ぜっとと言う車は存在感を感じると周りから言われます。もしも私が港でぜっとと出会う事がなければ今日という日はありません」
貴音がZと初めて出会った時、Zはボロボロの姿であった。朽ち果てそうになっていたZのその姿は貴音に一種の存在感を示した。
そんなZになにかを感じた貴音はZを「物の怪」と呼びながらもZが生きていると認めていた。その貴音の行動はZを降りる前にアキオが言っていた「長く生かしてほしい」という願いを守る物だった。
「ぜっとは妖しい魅力を持つ、と教えられました。実際その通りに。でもそんな所に私は堕ちていきました」
「君もか……」
Zの持つ魔力はいつだって人を惹きつける。この場の全員がそれを知っている。
(ーーーーZ)
(お前は再び俺を認めてくれるか)
(お前を見放した俺を呪ってもいい。いっそ殺してもいい)
(けど俺はお前じゃないといけないんだ)
多摩川方面を加速する蒼いS30。前方に車はない。オールクリア。
(もう一度ーーーー)
(その領域にーーーーーー!!)
アキオが操る悪魔のZがしなやかに加速する。一気にスピードメーターは300kmを指した。
(310km)
200マイルに迫るスピード。久々に感じるスピード感。アキオは忘れかけていた感覚が蘇っていた。
(素晴らしい……)
数十年振りにZに乗るというアキオだが、全くそんな風には見えない。Zの現パートナーである貴音の目から見ても毎日のように乗っているような走りだ。
「いつまでも生きる、か」
「北見さん?」
蓮のFDのナビシートに座る北見は呟く。
北見は19歳の時にあの蒼いZを初めて見た。そしてZに全てをつぎ込み、そのZは「悪魔」と呼ばれた。
そのZに魅入られてZに乗った者はZに拒まれてしまった。ある者はこの世を去り、またある者は長い入院生活を送る事になり。
それでも何回でも蘇って走り出したZ。求めていた真の乗り手がアキオだった。
アキオも当初はZに拒まれた。何回も。それでもアキオはZを見放す事無くZを信じ続けた。
アキオをパートナーと認めたZは最前線を走り続けた。ランエボやS2000など新型の車と渡り合った。
その姿から時代を越えて走り続ける車とも呼ばれた。
スピードを求め続けた最速の蒼い化身。その車はいつまでも走り続ける。
「やっぱ……速い!」
岩崎のRを下した美世のR34がZの前に出れない。首都高の最前線を走り続けたベテランであるアキオが駆る悪魔のZは本当に速い。
美世は1年前にアキオに初めて会った際にアキオと走っている。アキオはその際Z34で美世のR34と走っているが美世はZ34に全くついていけなかった。しかもアキオはその時全く本気を出していなかった。
「本当に不思議な車だな……」
Zのテールランプを見ながら岩崎は思う。
S30型こと初代フェアレディZが発売されてから今年で43年。もう少しで半世紀前の車になるS30Zが最新型の車に負け無しというにわかには信じがたいことだ。しかしそれは事実。
加えて「悪魔」と呼ばれているその背景には物騒な噂もある。
某所で「首都高に巣食う魔物」「何十年も前に走っていた伝説の走り屋の亡霊」と呼ばれる悪魔のZがかつての乗り手と戻ってきた。
ごく僅かな間だが首都高全盛期に首都高を盛り上げた伝説の車と伝説のドライバーが再び超高速ステージに姿を見せている。それだけで今日首都高に来た意味がある。
「Z……行くぞ」
アキオがアクセルを踏み込んだ。空気を震わせるエンジン音が轟き、Zは前に前に突き進む。
(320kmーーーーーーッ)
時速320km(200マイル)に到達してもなおスピードを上げる。
どこまでも突き抜けて行くZは地平線の彼方へ消えた。
首都高を降りて大黒へ戻った一同。
Zから降りたアキオはどこか寂しそうに、しかしスッキリした表情を浮かべていた。
「ようやく俺は悔いが無くなった。結局一度降りたZに自分の意思でまた乗る事になるとは俺も思っていなかったけど……。ありがとう」
「私もぜっとをより深く知る事ができました。ぜっとは貴方の走り方を形にしているようでした」
「自分の手足のように……自在に操る。私もまだまだだと」
「そうか……。Zをよろしく頼むよ」
アキオと北見はZ34に乗り、大黒を後にした。岩崎や蓮、美穂達も帰り大黒に残ったのは夢斗、遥、咲耶の3人だけになった。
「ようやく終わった……。これで私も降りれる」
咲耶の発言が引っかかる夢斗。
「どういう事だよ……咲耶」
「私はずっと降りるタイミングを探していた。何故首都高を走り続けているのか。自問自答を繰り返していた。自分の中で答えは出ていた。悪魔のZに勝つためにと」
「やっと勝てた。目標を達成して私は走る意味がもうないんだ」
「だから……私は」
「……戦え」
「夢斗?」
「もう一度俺と戦え!」
「咲耶はそれでいいんだろうけどさ。俺はダメだ」
「初めて俺を負かしたのは咲耶だ。そして咲耶は俺より長く走ってる」
「悔しいんだよ、正直。咲耶は前に言った。『たくさんの事を教えてもらってます』って。むしろ俺が教えられてんだよ」
「だからさ……俺がもっと上手くなったら俺と本気で戦え。今度は俺が勝つからさ」
いつもの軽いノリで言う夢斗だが、夢斗の眼差しは真剣そのもの。
「……そうか。夢斗、夢斗は何を求めている?」
「?」
「首都高に。なぜ走る?」
「自由があるから、かな。そして『みんな』がいる」
「んで、俺が勝ちたいって思うのが咲耶ナ」
「伝説に勝っても夢斗がこだわるのは私か……。ふふ、本当に変わっているね」
「そりゃあ天才なんで(笑)」
「しかしプロドライバーに勝ってしまうとは……。夢斗、何か決めました?」
遥が夢斗に質問する。岩崎はスーパーGTで活躍するドライバー。モータースポーツの最前線で活躍しているのだ。そんな岩崎に勝ってしまった夢斗。
「俺もモータースポーツやってみたいって思った。ストリート上がりの人が大勢に注目される事ができるのが俺は羨ましくて」
「公道では『なんだコイツ』ってなる事がサーキットに行けば『あいつスゲーじゃん』ってなるのがな(笑)」
「だって車ぐらいしか俺の取り柄ないし。それをフルに活かしたい」
「夢斗らしいですね……。実は私もモータースポーツに関わりたいと思ってました」
「はい?」
「プロデューサー、それは初耳だよ」
「実は父の知り合いから相談を受けて。まだ決めたわけではないですが……」
「最も、プロデューサー業が続けられるか怪しくなるので決めかねてますが」
「小日向さんはレーサーしながらプロデューサーやってるじゃん」
「あ、本当だ……」
「遥って妙なとこ抜けてるよな」
「さてと、遅いし帰るか」
「ですね」
「ああ。行こうか」
エボⅩ、エボⅨ、インプレッサが大黒を後にした。
(変わってる……本当に)
(でも……悪くないですね。あの『変わってる』は)
夢斗は変わってる。しかしその方向はいい意味で。
目指している物にとことんまっすぐな夢斗の考え方は遥を動かす。
(夢斗は周囲を一変させる。いつか必ず)
(私にこだわる……か)
自分よりもレベルが高い相手を打倒しても自分と戦う事を望む理由。
(みんながいる……)
首都高を走り始めた頃の咲耶は周りに誰もいなかった。周り全てが敵だった。
しかし貴音のZに負けた後に少しづつそれが変わり始めた。そして出会った夢斗。
(なぜ人を惹き付けられるんだい、夢斗)
(何やろうかね、モータースポーツ)
プロドライバーを本気で目指そうと決めた夢斗。しかし何をやるか決めていなかった。しかし岩崎や蓮との出会いが夢斗の進路を決めたのは確かな事。
(明日決めよ)
場所は変わって346プロ女子寮。
部屋のベッドに寝転がる美穂は夢斗達の走りを思い出していた。
「私は前を走るよりもずっと側にいて見届けたい。蓮さん達が頑張る姿勢を応援したい」
「私は私なりの走り方で蓮さん達について行く」
テクニックは蓮達に及ばない。それでも見届ける。憧れを近くで見続けたい。
(ななさんと一緒に走りますから)
伝説を打ち破った革命者達。
伝説との出会いを経て革命者達は未来へ再び進み始める。
ついに打たれた終止符。そして悪魔のZに再び乗ったアキオ。
伝説達との出会い、そして走りを経て夢斗達は……。
ネタ解説です。
・美世とアキオの再会
前作「疾走のR」で美世とアキオは会っています。その際美世はアキオにあっさりと完敗しています。さすが伝説の男。
・悪魔のZにまつわる噂
「首都高バトル」シリーズで登場する最後のライバル「???」。どう見ても悪魔のZにしか見えないこのZ。このZの解説文の中からいろいろ噂を持ってきてます。
次回、ついに最終回。夢斗達の選ぶ道は。
そして……。
「俺は決めた」
あたし、
ただひとつ、首都高を走る走り屋という事を除いて……。
疾走のRから続く物語の最終章。
蓮が、夢斗が、そして明日翔が首都高を駆ける。首都高ランナー達の
新小説「アイドルマスター 最高への挑戦」連載予定!!
「銀色の革命者」最終話をゆっくり待っててください。