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夢
……どこかで、火が燃えている。
無数の武具が佇む荒野の中、捻れた剣の下で死なず人の遺骨を薪に燃える火。
それは儚くて、しかしとても暖かい。
その火は、世界を照らす安息の光。絶えず継がれてきた、始まりの火。
それが今、陰ろうとしていた。
〝さあ、この穢らわしい世界を■■しよう〟
誰かの声がそう言った。
そして
それは、全てを焼き尽くす光。
人も、物も、等しく〝人理〟という標そのものごと燃え上がらせる絶対の炎。
光に包まれて火は陰り……そして鐘の音が鳴り響く。
棺より古い王たちが呼び起こされ、火のない灰……否、〝最後の火継ぎ〟が目覚める。
火の陰る時、王たちに玉座は無く。
そして火を継ぐため彼は起きるだろう。
再び世界を照らすために。
己の求めるもののために――
●◯●
「フォウ……? キュウ……キュウ」
「……んごっ」
何かに頬を舐められる。
まるでうちの近所にいる猫にされた時みたいな感覚に身じろぎした。
「フォウ! フー、フォーウ!」
すると、今度はテシテシと軽い衝撃が肌を打った。今、何かの鳴き声が聞こえたような……?
うっすらと目を開ける。すると最初に見えたのは……自分の顔を覗き込む生き物。
「フォウ? フォフォウ!」
リスとも犬とも思えない謎の生き物は、俺が目を開けたのを見て飛び跳ねる。
可愛らしいそれをぼーっと見ているうちに、謎の生き物はどこかへといってしまった。
「なんだったんだろ……」
不思議に思いつつふわ、とあくびをしながら上半身をもたげる。
「また見たな、あの夢」
ほんの少し前まで瞼の裏にあった光景を思い出す。小さい頃から幾度となく見てきた、不思議な夢だ。
無限とも思える剣や槍の刺さった荒野、その中心で燃える〝篝火〟。そこで休息をとる、ひとりのボロボロの騎士。
まるで名画のようなその光景を、繰り返し見ている。
「ってて……」
それにしても、身体中が痛い。そりゃそうか、床に寝てればどんな体勢でも痛いに決まって……
「……床?」
そこで俺は、自分がどこかの通路で寝てたことを自覚した。
「……ここ、どこ?」
真っ白な知らない通路に、壁に描かれた綺麗なエンブレム。等間隔にはめ込まれた窓の向こうには雪景色。
何もかも未知の場所。見てみれば、よくわからない構造の服も着せられている。え、なにこれちょっとかっこいい。
「一体なにがどうなって……」
「あの、質問よろしいでしょうか……先輩?」
「おわっ!」
いきなり後ろから話しかけられて、ビクッと飛び上がる。
恐る恐る振り返ると……そこには女の子がいた。薄い紫色の髪に半分隠れた瞳、その輝きを眼鏡が包んでいる。
今まで見たことないほど端正な顔に少しあっけにとられていると、謎の少女はためらいがちに話しかけてきた。
「随分とお休みだったようですが、床で眠る理由がちょっと。硬い場所でないと眠れない体質なのですか?」
「そうそう、畳じゃないと寝れなくて…じゃなくて」
ついノリで答えてしまった。少女は「なるほど、ジャパニーズカーペットですね……」などと頷いている。
「あの、どっかで会ったことある?」
「いえ、初対面ですが?」
「え、じゃあなんで俺のこと――」
「マシュ」
先輩って呼ぶんだ? と聞こうとした瞬間に誰かの声が誰かの名前を呼んだ。
おそらく少女の名前だろう単語を言った誰かに振り返ると、そこにはクセの強い緑色のスーツの男がいた。
「駄目だよ、勝手に出歩いては――と。先客がいたのか」
あの棘のついたネクタイ結ぶの大変そうとか思っていると、男はこちらに気がついて手を差し出してきた。
これ幸いとその手を取って立ち上がる。男はニコリと真摯な笑みを浮かべた。なんだかいい人そうだ。
「初めまして、レフ・ライノールだ。君は今日配属された新人だね?」
「あ、
それって、一体なんのことだ?
「あの、俺――」
「適応番号48、藤丸立香。君が四十八番目のマスター候補というわけだ!」
「……は? マスター……候補?」
いよいよもって、俺の思考は混乱を極めた。知らない場所にいると思ったら、マスターなんて大層なものの候補だという。
そんな俺を見て二人は首を傾げて、そしてまさか、という顔になった。なんだ、俺何かしちゃったのか?
「もしかして……藤丸君。君、なにも知らなかったりするのかい?」
「はい。実は……」
そしてレフさんに俺は事の次第を話した。
気がついたらここにいたこと、床で寝てたこと、謎の生物に起こされたこと、今に至るまでの全てを。
聞き終えたレフさんは、とても難しい顔で眉間のあたりを揉む。なんだろう、妙に様になってて面白い。
「つまり、君の話を整理するとこうだね? たまたま献血のバイトに行った帰り、妙な男に家までつきまとわれ、仕方がなく頼みを聞いたところ目と耳を塞がれ。そしてここに連れてこられたと」
「はい、そうです」
「……申し訳ない!」
いきなり頭を下げるレフさん。何が何だかわからない俺はうろたえるばかりだ。
「まごうことなき拉致ですね、裁判になったら確実に負けます!」
「その通りだマシュ、謝ろう!」
「あー、いえ、もういいです。それより俺、これからどうすれば?」
そう、なんでもこの施設……確か話を聞いてもらってるうちに聞いた名前だと、〝人理保障機関カルデア〟? だっけ。
ここは極秘の場所にあるらしく、帰ることはかなり難しいとのこと。なので何か目的が欲しい。
ちなみにここで寝てた理由は、入館の際の量子ダイブとやらの影響らしい。半ば夢遊病みたいな感じでここまできて寝てたとか。
「そうだね、これからここの〝所長〟の説明会がある。それを聞けばなぜここに連れてこられたかもわかるはずだ。案内しよう」
「ありがとうございます」
「あの、レフ教授。私も一緒に行ってもよろしいでしょうか?」
「また藤丸君が寝てしまってはいけないからだね? いいだろう」
「フォフォウ!」
そんなことを話していると、少女…多分マシュさんでいいと思う…の背中からにゅっとあの謎生物が出てきた。
「あ、フォウさん」
「あ、さっきの謎生物」
「紹介します、彼はフォウさん。このカルデアの中を闊歩する特権生物です」
「フォウ!」
よろしく! とでもいうように手をあげる謎生物……フォウ。つられて手を振りかえせば、ぴょんと肩に飛び乗ってきた。
「わあ、すごいです。フォウさんは私以外には懐かないのですが。おめでとうございます、先輩は二人目のフォウさんのお世話係に任命です」
「うーん、嬉しいようなそうでないような」
「フォウ!」
ぺろぺろと頬を撫でるフォウの頭を撫でながら、曖昧に笑う。マシュさんもふふっと笑った。やばい、すごく可愛い。
とまあ、そんなこともそこそこに。いざその説明会へ行こうといった瞬間、マシュさんが何かに気づいたような顔をした。
「あの、先輩。何か落ちていますよ」
「ん? あっ」
地面に落ちていたものを拾う。多分寝てる間に腕から外れてしまったんだろう。
「ありがとう。これ、大切なものなんだ」
「そうなんですね。なんだかとても、古いアンティークのようですが……」
「爺ちゃんからの貰い物でね。言ってくれなかったら忘れるところだったよ」
しっかりとそれ……〝狼のレリーフの刻まれた指輪〟をリングについている皮のベルトで手首に巻きつける。
しっかり固定されたのを確認すると、俺はレフ教授さんとマシュさんの案内で説明会とやらに向かうのだった。
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