楽しんでいただけると嬉しいです。
新たにキャスターを加えた探索は、順調そのものといってよかった。
大聖杯に向かいながら一番安全なルートを通り、時折現れる骸骨と髑髏仮面をバーサーカーたちが倒す。
鉄壁の防御を誇るマシュに、オールマイティなバーサーカー、強力な炎の魔術を使うキャスター。
人数が増えてきたこともあって、戦闘にも随分と余裕が出てきた。所長も最初ほど怯えなくなったし。
そして俺は今……
「へえ、バーサーカーは27歳で不死人になったのか」
「ああ、そうだ」
バーサーカーとコミュニケーションを取っていた。
「俺だったら想像できないなぁ、いきなり不死身になるなんて」
「それはおかしなことではない。事実私も当時は若いこともあってかなり混乱したものさ。なぜ私が、とね」
弓を構えていた骸骨の頭骨や胸骨の中心を正確に射抜きながら、バーサーカーは俺の言葉に答えてくれる。
周囲にはすでに事切れた何体かの骸骨の残骸と、瓦礫に少々ショッキングな感じで髑髏仮面が磔になっていた。
「でも今は落ち着いてるよね。やっぱり納得するのは時間がかかった?」
「勿論。だが私の場合は、自分のことより大切なものがあった。だから長くは悩んでいられなかったよ」
しばらく周囲を見渡していたバーサーカーは、ふぅと息を吐くと弓を下ろす。どうやらもう敵はいないようだ。
「それって家族とか?」
「いや、私にその類の相手はいなくてね。もとよりいつ亡者に落つるとも分からぬ身だ、そういう存在は作らなかった」
はい、と手を差し出す。バーサーカーはそれに自分の手を乗せ、弓を生成した分の魔力を俺から補給した。
それが終わると、槍に持ち替えて俺の隣につく。ありがとうとお礼を言いつつ、踵を返してきた道を戻っていった。
「それじゃあ……王様とか?ほら、バーサーカーって騎士っぽいし」
「仕えるべき主人という意味なら、あながち間違いというわけでもない」
「やっぱりそうなんだ。バーサーカーらしいなぁ」
「そう見えるのなら恐縮だ」
ふっと兜の下で微笑む……気がするバーサーカー。
かなりの時間話したけど、最初の頃に比べてあ、今笑ってるなっていうのがわかってきた。これは大きな進歩だ。
所長に対抗するわけじゃないけど、バーサーカーを召喚したのは俺だ。仮にもマスターとして、なるべくバーサーカーのことを知りたい。
そう思って俺のコミュ力を総動員し、色々と話してみたけど……うん、これはいい感じに親睦を深められているのではないか。
「あ、じゃあ好きな食べ物とかは?俺は唐揚げなんだけど」
「ふむ、食事をしたのは随分と昔だが。何だったかな……と」
そうこう話しているうちに、分かれ道の分岐点まで帰ってくる。
そこでは先客が待ち構えていた。
「遅い!早く来なさい!」
乱暴な声で俺を怒鳴りつけてくるのは、おなじみ所長。
仁王立ちして、瓦礫の上で腕組みをしている。傍らにはマシュとキャスターがいて、こちらに片手を上げていた。
「うわ、所長がご立腹だ」
「これは早く戻った方が良いのではないかな?」
「みたいだね」
バーサーカーと肩をすくめあって、小走りに所長たちのところに行く。
到着するやいなや、また「遅い!」とお小言をもらった。すみません、と頭を下げればふんっと鼻を鳴らすのが聞こえる。
「で、そっちは片付いたの?」
「はい、でも行き止まりでした」
「ったく、ならさっさと戻ってきなさいよ。バーサーカー様の手を煩わせて……」
ブツブツ言う所長。二手に分かれて先の道を確認する時、バーサーカーを連れてったのがよほど不満らしい。
いやぁ、あの時の所長はちょっと可愛かった。こう、子供みたいにプクって頬を膨らませて……
「先輩、頬が緩んでます……」
「え、マジで」
「あんた今変なこと考えてたわよね?ガンドブチ込むわよ?」
「すいませんでした」
そのガンドが何なのかはわからないけど、痛そうなのはわかる。
「……む?マシュ殿、魔力の通りが良くなったか?」
「え?」
「先ほど別れた時よりも、ソウルの質が上がっている。いや、サーヴァントとしての格が上がったというべきか」
「そうなのマシュ?」
見た感じ、俺にはわからない。
あ、でも少しマシュの表情が明るくなっているような気がしないでも……
「ああ、嬢ちゃんが宝具が使えねえって悩んでたからな。ちょいと訓練つけた」
「ほう、貴公の仕業かキャスター。で、成果のほどは?」
「上々ってとこだ。真名まではいかなかったが、擬似的に宝具を解放はできた」
「それは素晴らしい。マシュ殿、よく頑張ったな」
「は、はい!」
「いやぁ、しこたま敵ぶつけて煽ってから、手加減したとはいえ宝具かましたら一発で開きやがった」
「さっきの音はそれかーっ!?」
なんかマシュたちのいった道の方からすごい音が聞こえてきたと思ったら、キャスターの宝具を使った音かよ!
「名付けて〝ロード・カルデアス〟。英霊そのものではなく、未熟でもいいから何かを守りたい。まったく、とんだ御伽噺を見たわ」
「所長……」
「ただの嫌味よ、そんなに気にしないで。そんなことより、残る道はあと一つでしょ?さっさと行くわよ」
話もそこそこに、所長は最後の分かれ道に入っていく。
俺たちは顔を見合わせ、やれやれとでもいうように肩をすくめて後を追った。俺たち、いいチームになってきたかもしれないな。
「キャスター、大聖杯まであとどれくらい?」
「この道を抜けた先のすぐだ。だがそこに厄介なのが……あん?」
不意に、キャスターが訝しげな声を上げる。
「どうしたのキャスター」
「いや、この先にバーサーカーがいたはずなんだが……」
「……?」
「マスター、バーサーカーさんのことではないです。おそらく大聖杯に呼ばれた冬木のバーサーカーのことです」
「あ、そっちか」
そうだよな、バーサーカーは俺が喚び出したんだし。それとは別にここのバーサーカーがいてもおかしくないか。
「ああ、それならば先ほど応戦した。マスターたちがサーヴァントと遭遇した時だ」
「マジかよ、よく死ななかったな。ありゃセイバーでも手を焼く相手だぞ」
「仕留めるのには相当手こずったさ。最初は別のサーヴァントと戦っていたのだがね」
どうも、最初はアーチャーと遭遇して戦闘したのだが、バーサーカーに勝てないと分かった途端アーチャーは逃走。
それを追いかけていると、図っていたのかタイミング良くバーサーカーが現れてそちらの相手をすることになった。
一度倒しても復活したらしく、そのあと戦うことなく撤退していったらしい。
「おかげで援護射撃をできたから、ある意味助かったがね。いやはや、サーヴァントというのはかくも面妖なものだな」
「とんでもねえ数の武器を自在に操るお前さんだけには言われたくなかろうよ。ところで、手頃な槍とか持ってるか?」
「槍か?そういえば君はランサーが本来の霊基と言っていたな」
バーサーカーがどこからともなく、洗礼されたデザインの槍を取り出す。
ずっと不思議だったのでさっき聞いてみたら、ソウル……魂の中に格納しているらしい。ファンタジーだ。
「これはどうだ?竜を狩るための槍だ」
「おっ、いいね。少し持たせてもらっていいかい?」
「これから決戦へ向かうのだ、構わないさ」
「悪いな。それじゃあお手並み拝見と……」
キャスターは杖を脇に挟んで、バーサーカーの差し出した槍を手にとって……
「うおっ!?」
そして思いっきり槍に体を持ってかれてすっ転げた。
「「「…………」」」
「…………なんだよその目は。仕方ねえだろ、この霊基の俺筋力Eだぞ」
「すまない、よほど自信があるようだったので最も重いものを渡してしまった」
「畜生!マジでランサーの霊基じゃねえのが恨めしいぜ!」
そんなこともありつつ、道を進んでゆく。
やがて視界が開けると、そこには洞窟の入り口がぽっかりと口を開けて待ち構えていた。
中からは得体の知れない雰囲気が漏れ出している。サーヴァントじゃない俺でも、ここは他と違うとはっきりわかった。
「ここか?」
「ああ。大聖杯はこの中だ」
「よし。では私が先頭。マスター、オルガマリー嬢と続き、マシュ殿とキャスターにしんがりを頼みたい」
「了解しました」
「おう」
武器を弓から盾と雷の斧……竜断の斧というらしい……に持ち替えたバーサーカーを先頭に、隊列を組んで洞窟に入る。
ちなみにダメ元で言ってみた結果、名前で呼ばれることになった所長はご満悦の様子であった。
「ここは元から冬木にあった、天然の洞窟なのでしょうか?」
「でしょうね。所々に痕跡があるあたり、おそらく半分は人工……魔術師が長い時間をかけて広げた魔術工房だと思うわ」
「へえ、そんなこともわかるんですね」
「当たり前よ。それよりもキャスター、肝心なことを聞いてなかったのだけど」
所長の言葉にキャスターが顔だけ振り返り、なんだ?という目をする。
「これまでの話の中で、セイバーのことを知っている口ぶりだったけど。あなたはセイバーの真名を知っているの?」
「ああ、知ってる。というより奴の宝具で察しがついた。ほかのサーヴァントが負けたのも、宝具が強力すぎたせいだ」
じゃあそのセイバーのサーヴァントも、バーサーカーの戦ったヘラクレスと同じでかなり強くて有名な英雄ってことになる。
そのセイバーに負けたサーヴァント相手でさえ死にかけた俺が、その場にいて果たして生きて帰れるのだろうか。
……いや、弱気になっちゃいけない。怖がっていたって何も変わらない。俺は三人のマスターなのだ、頑張らなくては。
「そう気負うな坊主、適度にリラックスしとかねえと肝心なとこでヘマするぜ」
「そう、だよね。ありがとキャスター」
「おう。で、その宝具だが……王を選定する岩の剣のふた振り目。お前さんたちの時代において最も有名な聖剣」
どくん、と胸が高鳴る。その聖剣の名前は、あまり英霊に詳しくない俺でも何度も耳にしたことがある。
例えばゲームとかアニメとか……とにかくそういうジャンルのものに興味があるなら、絶対に知っているだろう名前。
それは……
「その宝具の名は……」
「
キャスターの話を聞きながら、洞窟の中でもひときわ大きな部屋に入った瞬間──その声は聞こえた。
全員が前方を見る。バーサーカーたちは戦闘態勢に入り、俺たちは後ろに回って声の主を油断なく見据える。
「へっ、やっぱいやがったか〝アーチャー〟。相変わらず聖剣使いを守ってるみてえだな」
そこに佇んでいたのは、これまで同様に不気味な黒いオーラを纏う一人の男だった。
赤い線の浮き出た褐色の肌に白い髪、革製の軽装と腰に巻かれたボロボロの赤い外套、手にはそれぞれ巨大な白と黒の双剣。顔は日本人だけど、サーヴァントらしい格好だ。
右目はくすんだ金色の瞳をしているが、左眼の瞳は血のように赤く染まり、こちらを冷めた目で睨んでいる。それを真っ向から睨み返すキャスターとの間で、険悪な雰囲気が漂っていた。
「ふん、そういう貴様は新しい仲間を連れてきたか。まあその霊基では仕方がないだろうな」
「テメェ、丸焼きにしてやろうか?」
「できるものならやってみたまえ、その前にこの剣で狂犬のごとき性根ごと叩き切ってくれる」
雰囲気どころか、めちゃくちゃ殺伐としてた。一触即発とはこのことか。
「先ほどぶりだな、アーチャー」
「……やれやれ、やはり生きていたか」
バーサーカーが一歩前に出る。アーチャーはキャスターから視線を移して、面倒臭そうにため息を吐いた。
「こちらのバーサーカーと相討ちになってくれればよかったものを」
「あいにくと、そう簡単にはやられないよ」
「そのようだ。まったく、一介の弓兵ごときにこの数は酷というものだ」
「丁度いい、ここらで決着をつけようや。いい加減、この狂ったゲームの駒を進めないとな?」
「その口ぶりからするに、事態は分かっているか……いいだろう」
「へっ、今度こそその澄ました顔をぶち抜いて……」
「だが、相手は私だけではない」
「……何?」
アーチャーがそう言った途端、天井から轟音を立てて何かが落ちてきた。
地面がえぐれ、土が舞う。目に砂塵が入らないよう手でかばい、土煙が収まるのをじっと待った。
やがて、少しずつ煙が薄らいでゆく。ほとんど消えると恐る恐る手を退けて、アーチャーの方を見てみると……
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────ッ!!!!!!」
そこには、筋肉モリモリマッチョマンの化け物がいた。
もう見慣れた黒いオーラを纏い、巨木のような体に腰巻だけという斬新なスタイル。手には剣みたいな、斧みたいな鈍器を携えている。
「ひぃっ!?な、なによあれぇ!あれもサーヴァントなの!?」
「……もしやと思ってはいたが、やはり出てきたか」
「もしやって……じゃあ、あれが冬木のバーサーカー?」
俺の問いかけにこくり、と頷くバーサーカー。うん、確かにあれは強敵だろう。みるからに強そうだ。
「やれやれ……ほら嬢ちゃん、盾を構えな。俺とあんたであの弓兵を潰すぞ」
「はい!」
「一度相見えた相手だ、今度こそ倒させてもらおう。マスター、指示を」
「うん、わかった」
その場にいるサーヴァント全員が己の武器を構えて、臨戦態勢に入る。
早々に所長は岩陰に避難して、俺は指揮をとるために三人の後ろに立った。
「それじゃあみんな……いくよ!」
「ああ」
「おう!」
「了解です、マスター!」
号令とともに、バーサーカーとマシュが駆け出す。アーチャーとあちらのバーサーカーも武器を手に、こちらに突撃してきて──
──壮絶な戦いが始まった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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