灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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どうも、イルシールまで進んだ作者です。ウォルニール限界ギリギリだった…
ところで薪の王について、主人公が倒せるのは火が陰った時のみ復活して、火を継いだ時点で不死性を失うのではとか妄想してます。いや、ただのゲームのシステムですけどね
楽しんでいただけると嬉しいです。




「バーサーカーがやられたか……!」

「よそ見してる暇あんのかよ!」

「くっ……!」

 

 キャスターの振り下ろした杖を、双剣で受け止めるアーチャー。

 

 しばらくせめぎ合い、アーチャーが双剣を無理やり振って杖を弾いた。その勢いに乗ってキャスターは後ろに飛ぶ。

 

「っと……はん、まだまだやれるようだな」

「当たり前だ。といっても、その数を相手は勘弁してほしいがね」

「助太刀しよう」

 

 槍を構えてバーサーカーが一歩踏み出す。二対一なら確実に勝てるだろう。

 

 だが、隣に並ぼうとしたバーサーカーをキャスターは手で制した。

 

「いや、その必要はねえ。俺一人で決着をつける。お前らは先にいきな」

「……良いのか?」

 

 バーサーカーの問いかけに答えず、杖を地面に打ち付けるキャスター。

 

 すると防壁のルーンが広がり、キャスターとアーチャーを内側に包み込む。普通とは逆の使い方で隔離したのか。

 

 どうやら言った通り、自分一人で倒すつもりらしい。キャスターの横顔は真剣で、決意は固いみたいだ。

 

「フジマル、ここは任せるべきよ」

「所長」

 

 どうしようか悩んでいると、いつの間にか後ろに所長が立っていた。岩陰から出てきたみたいだ。

 

「見た所、キャスターが優勢なのは明らか。私たちはセイバーの打倒を優先すべきだと思うわ」

「……わかりました。キャスター!」

「おう」

 

 ひらひらと手を振るキャスター。俺たちはうなずき合って、防壁の横を通り抜けて広場を後にした。

 

「ふん、余計な真似を」

「構えな弓兵。その心臓、貰い受けるっ!」

 

 背後から武器がぶつかり合う音が聞こえる。振り返りたくなりながらも、きっと歯を食いしばって走った。

 

「キャスター……」

「いらない心配してんじゃないわよ。本来の霊基じゃなくても、立派なサーヴァントなんだから」

「それはそうですけど……」

 

 やっぱり気になるものは気になる。本当においてきてしまって良かったのだろうか。

 

『藤丸くん、所長!話しているところ悪いけど、洞窟から出るよ!』

 

 ドクターの言葉に前方を見ると、行く先に光が見えた。

 

 

 

 一気に駆け抜けて、薄暗い通路を抜けると──そこには広大な荒野が広がっていた。

 

 

 

 これまでで最大の空間の中心にある一段高い崖の上に鎮座するのは、巨大な一つの光の柱。

 

 不気味に紫色の光を内側から放つ光の柱は、まるで噴火のよう見える。いや、焼け落ちた街を見るとその通りなのかもしれない。

 

「もしかして、あれが……」

「大聖杯……!」

 

 あれが、この騒動の原因ってわけか……!

 

「何よこれ、超抜級の魔力炉心じゃない……どうしてこんなものが極東の島国にあるのよ」

「……どうやら、疑問の答えを探す時間はないようだぞ」

 

 バーサーカーが崖の上を指で指し示す。

 

「…………」

 

 そちらを見ると……そこには漆黒の鎧を着込んだ騎士が、底冷えするほどに冷ややかな目で、静かにこちらを見据えていた。

 

 暗く輝く長剣を地に刺し、泰然と構える様はまさしく王者。大聖杯を守るように、その威容は凄まじい威圧感を放っている。

 

「なんて魔力放出……間違い無いです、あれが」

「あれが、アーサー王……!」

 

 でも……

 

「女の子……?」

 

 そう。黒い騎士の顔は、どう見ても女の子だった。よく見れば鎧でわかりづらいが、体の線も細い。

 

『伝説とは性別が違うけど、おそらく王座に就くために男装をしていたんだろう。宮廷魔術師マーリンの悪知恵だよ』

「な、なるほど……」

「用心しろ、マスター。あれは……かつての《薪の王》たちに匹敵する怪物だ」

 

 竜狩りの大弓を取り出し、構えるバーサーカー。すると、スッとアーサー王がバーサーカーに視線を移す。

 

ほう……狂わないバーサーカーに異様なサーヴァントか。なかなか面白い

 

 氷のようなその声は、やはり女性のものだった。値踏みするがごとくバーサーカーとマシュを交互に見る。

 

「そういう貴公こそ、随分と歪んだソウルをしている。相当()()()()()ようだね」

「ソウル?……ああ、貴様は()()()()()とやらか。マーリンが最古の遺物だとこぼしていたな」

 

 このサーヴァント、バーサーカーの正体を知っている!?

 

「だが、そうか。ならば貴様には奴がお似合いか?」

「悪いが、これ以上話す余裕はこちらには……ない!」

 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 大弓から矢が放たれる。

 

 空気を切って飛ぶそれは、棒立ちのアーサー王を貫いて──

 

 

 

 

 

 ヒュンッ!

 

 

 

 

 

 ──倒すことは、なかった。

 

 どこからか飛来した雷の槍が、矢を飲み込む。勢い衰えることなく、そのままこちらに向かって落ちてきた。

 

「なっ!?」

「くっ!」

「防ぎます!」

 

 とっさにマシュが目に出て、大楯で雷の槍を防ぐ。鎌のサーヴァントとは比べ物にならない衝撃が盾を打った。

 

 なんとか耐え凌ぎ、マシュが大楯を下ろす。そうすると全員で雷の槍が飛んできた方向を見上げた。

 

 

 ポタ……

 

 

「うっ……」

 

 頬に落ちた雫をぬぐう。見ると、それは透明の液体……水滴だった。

 

 首を傾げていると、再びポツリと鼻頭に水滴が落ちてくる。上を見上げるが、そこには厚い雲しかない。

 

 ………………雲?

 

「これって……雨?」

 

 俺の言葉を肯定するようにポツポツと荒野全体に水滴が降り始め、やがて大雨になって強雨風が吹き荒れる。嵐だ。

 

「ちょ、ちょっと!いきなり何よ!これもアーサー王の力だっていうの!?」

『いや……違う!上空にもう一つ反応!アーサー王とは別に何かがいるぞ!』

 

 え、と声が漏れるのと、雲を突き破って巨大な黒い影が俺たちと大聖杯の中間に地響きを立てて着地するのは同時だった。

 

 突然現れた見上げるようなそれは、カラスのような巨大なモンスター。甲高い声のもれる嘴からは鋭い牙がのぞいている。

 

 でも、そんな大怪鳥の見た目のインパクトは一瞬にして消えた。その背中に乗っている、とてつもないオーラを放つ存在に視線が釘付けになる。

 

 それは、一見して戦士のようだった。干からびた身体に荒ぶる白い髪。鎧とボロ布をまとい、バーサーカーが持っていたのと同じ槍を携えている。

 

「………………」

 

 最初のアーサー王と同じく、真っ黒な眼窩で静かに俺たちを見るそれは、アーサー王に匹敵する圧を纏っていた。

 

『な、なんだそいつは!?魔力量計測不能……これじゃ神霊クラスだぞ!?』

「はぁ!?バカ言ってんじゃないわよロマニ!そんなの本当なら、それこそなんでこんなとこにいるのよ!?」

『そ、そんなの僕が聞きたいよ!』

 

 しんれい……シンレイ……神霊!?あれ、神様のサーヴァントなのか!?

 

「なぜ〝無名の王〟がここに……いや、私の中に宿るソウルが縁となり、サーヴァントとして奴を呼び寄せたのか!」

「〝火のない灰〟よ、貴様はそいつと遊んでいるがいい」

『グルァアアアァァァアアァッ!!』

 

 戦士が槍をバーサーカーに向けると、大怪鳥が叫び声をあげてこちらに突進してきた。

 

 その瞬間バーサーカーが俺たちから離れ、凄まじい速度で遠ざかっていく。大怪鳥はそれを大口を開けて追いかけていった。

 

「バ、バーサーカーさん!」

「こいつの相手は私がする!貴公らはアーサー王を倒したまえ!」

 

 それだけ言って、バーサーカーは大怪鳥を連れて行ってしまった。残ったのは俺とマシュ、所長の三人。

 

 恐る恐る、アーサー王を見る。相変わらずこちらを絶対零度の目で見下ろす彼女は、マシュのことを見ていた。

 

「さて、邪魔者はいなくなった」

 

 ゆっくりと、黒い聖剣が引き抜かれる。その瞬間、アーサー王の全身から一気に赤黒いオーラが溢れ出し、全身がビリビリと震え上がった。

 

「では、サーヴァントもどきの娘──その宝具を使いこなしてみせろ」

 

 そして聖剣を両手で握った瞬間、アーサー王の姿が消える。

 

 どこに、そう思った時──アーサー王はもう目の前で聖剣を振り上げていた。

 

「ふっ!」

 

 目にも留まらぬスピードで、アーサー王と入れ替わりでマシュが眼前から消える。

 

 一拍遅れて、剣を振った衝撃波で吹き飛んだ。地面に体を激しく打ち付け、肺から空気が抜ける。

 

「かはっ!」

 

 痛みに悶えそうになりながらも、なんとか仰向けになった体を反転させてさっきまでいた場所を見た。

 

 すると……入り口の上の壁に、マシュがめり込んでいる姿が目に映った。それに向かって跳躍し、聖剣を構えるアーサー王も。

 

「マシュっ!!!」

 

 あわやそのまま切り裂かれるか、と手を伸ばすが……俺の予想は外れた。

 

 何かに気づいたアーサー王は、軌道修正して聖剣を後ろに振る。甲高い音を立てて何かが弾かれる。

 

 くるくると宙を舞って地に落ちたのは、先端からねじれ曲がった槍。着地したアーサー王はそれを見つめ、俺の後ろを見た。

 

「フン、あれを相手にしながらこちらに槍を投げるとは……〝火のない灰〟め、つくづく厄介な存在だ」

「バーサーカーが……?」

 

 後ろを振り返ると、バーサーカーは大怪鳥と戦士の攻撃を回避しながら弓で撃ち落そうとしている。

 

 どうやら、バーサーカーが助けてくれたらしい。あと少し遅かったらマシュが……と思うと、どっと体から力が抜ける。

 

「くっ……!」

 

 そうしている間に、聞きなれた声がした。

 

 視線を戻すと、壁に空いた穴のくぼみからパラパラとこぼれ落ちる小石の中心で、マシュがなんとか立ち上がっている。

 

「ほう、我が一撃を受けて沈まないとは……その宝具を待つだけのことはある」

「まだ、いけます……!」

「いいだろう。ならば、どこまで耐えられるか見せてみろ!」

 

 再び聖剣を振り上げ、アーサー王はマシュと戦い始めた。

 

 とっさに構えたマシュの大楯に、聖剣が振り下ろされる。接触の瞬間激しい衝突音が木霊して、余波で小石が吹っ飛んだ。

 

 その中でも大きなかけらが偶然こちらに飛んできて、「うわっ!?」と言いながら思わず両手で顔をかばう。

 

「はっ!」

 

 しかしそれは、突如現れた黄色の壁に弾かれた。

 

 反射的に見上げると、そこには所長がいる。先程までの怯えた様子はどこへか、その横顔は凛々しいものだった。

 

「所長!」

「立ちなさい、フジマル。ここが正念場よ」

「っ、はい」

 

 痛む身体に鞭を打って、どうにか立ち上がる。

 

「フォウ!」

 

 どこかに飛ばされていたフォウが肩に乗ってきた。その頭を撫でて、マシュに視線を戻す。

 

「どうした。前には、出てこないのかッ!」

「くぅっ……!?」

 

 マシュは相変わらず、一人でアーサー王の剣を受け止めていた。時折崩れかけながら、歯を食いしばって踏ん張っている。

 

 数度、本当に転倒してしまってもまた大楯を持ち、立ち上がってアーサー王の剣戟を受けていた。

 

「マシュっ!」

「待ちなさい!」

 

 障壁の裏から出ようとすると、所長に制された。

 

 どこかデジャヴを感じつつ、なぜと所長に表情で問う。所長はあの時より強く、威圧感を伴う目でかぶりを振った。

 

「あの時とは状況が違うわ。相手はアーサー王、一介のサーヴァントとは比べものにならない英雄。今回こそ、あなたにできることは何もないわ」

「でもマシュがっ!」

「あなたの気持ちは痛いほどわかるっ!!!」

 

 これまでで一番大きな声に、自然と口をつぐんだ。

 

「でも、だからこそあなたを行かせられない」

「っ……!」

「あなたはマスターで、あの子はあなたのサーヴァント。なら、マシュを信じなさい。信じて、最後まで見届けるの」

「く……!」

 

 そう言われては、何も言えない。

 

 出しかけていた足を引っ込め、歯を食いしばって前を見る。俺たちの代わりに戦っている、一人の少女のことを。

 

 

 

 そして、絶望的な戦いが幕を開けた。

 

 




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