というか、アクセス数一気にガタ落ちしましたね。私は悲しい…(トリスタン感
今回はかなり難産でした、楽しんでいただけると嬉しいです。
……何度、聖剣を受けただろうか。
「フンッ!」
「くぁ……っ!?」
大楯に打ち付けられた黒い豪剣を、一歩分後ろに引いた片足を踏ん張ることでなんとか受け止める。
しかし、そんなものは関係ないと言わんばかりに聖剣は容易く私の腕を揺らし、体全体を痛みに等しい衝撃が走った。
その度に、恐怖が心を這い回る。アーサー王の魔力が物理的な圧を持っているのではないかと錯覚するほどに膝が笑う。
まるで、私にはここに立つ資格などないと誰かが言っているように。
「防ぐだけでは、私には勝てんぞ!」
「あっ……」
横に薙いだ聖剣により防御の姿勢が崩れて、無防備な状態になる。
「ハッ!」
アーサー王が聖剣から片手を離し、拳を突き出す。無造作に放出された魔力に、いとも容易く吹き飛ばされた。
どこか心もとない浮遊感、一瞬の後に激しい痛み。攻撃の余波でめくれ上がった砂利の上に、強く背中を打ち付ける。
歯の間から苦悶の声が漏れる。砂利や石の破片が突き刺さる背中をよじって、なんとかうつ伏せになった。
「う、うぅ……」
強い。
これが、サーヴァント。たまたま力をもらった私とは決定的に違う、歴史に名を刻まれた本物の英雄の実力。
とてつもない実力の差に、涙がこぼれそうになる。自分がこの場にいることすら間違っている気さえしてきた。
もういっそ、このまま眠ってしまえたら。そんな考えが脳裏をよぎり……
「ッ……!」
ふと顔を上げれば……あの人が今にも飛び出しそうな顔で私を見てる。
爪が食い込みそうになるほど拳を握りしめて、歯を食いしばったとても辛そうな表情は、助けたくても自分が無力であることを知っていて。
それが否応なしに、戦えるのが私だけだということを自覚させる。
「………………」
歯を食いしばって、どうにか体を起こし始めた。こうして立つのも何度目だろうか。10を超えてから数えていない。
そばに落ちている大楯を持ち上げ、それを支えにして重い体を持ち上げた。そうするときっとアーサー王を睨む。
「ほう、立派なものだ。技はなく、力もなく。だが勇気はあるか」
「…………!」
この体を貫くような視線に、また手が震える。武者震いだとごまかして、振り上げられた聖剣に盾を構えた。
受けて、怯んで、それでもなお立ち続ける。手が痺れ、冷や汗が頬を伝い、膝が笑っても盾を手放すことはしない。
そうしていると、ふとなぜ私がここにいるのだろうかと考えた。
あの時、私は本当なら死んでいるはずだった。どうすることもできずに、ついぞ何も成し遂げることもなく無意味に。
冷たさが体を覆っていく感覚。自分の中から決定的なものがこぼれ落ちて消えていく、とてつもない悍ましさ。
今もはっきりと覚えているそれは、あの瞬間を再現するようにじわじわと体を蝕んでいる。
なのに。なぜ私はまだ、抗っているのだ?
「オォオッ!」
「あぐっ!」
また盾が弾かれる。最初に比べるとひどく重く感じる大楯に、たまらずバランスを崩しかけて踏みとどまった。
荒い息を整えて、最初の位置から動いていないアーサー王を見る。それだけの光景が明確に優劣を見せつけた。
「……娘。貴様、迷っているな?」
「っ!」
まさか、表情に出ていた?
そう思ってアーサー王を見てみれば……鉄面皮に、わずかに怒気のようなものが混じっていた。
「半端な覚悟で戦場に立って、それで私に勝てると思ったのか。随分となめられたものだな」
……いいや、最初から勝てるなどとは思っていない。
だってサーヴァントを相手にするには、私ではあまりに不釣り合いだ。それこそ大英雄でもなければ勝負にすらならない……。
それでも、私がここで倒れれば先輩や所長はあの聖剣の餌食になってしまう。そうすれば特異点の修復はかなわない。
いや……それもあるけれど、本音は私を救ってくれた人の前で敗れることの悔しさと、この盾を託してくれた名も知れぬ英雄に申し訳ないからだ。
だから絶対に勝てないとわかっていても、私は……!
「そのような心でその宝具を持つというのなら……私が引導を渡してやろう」
「っ!」
聖剣が迫る。もう幾度となく見たそれは、しかし私が知っているものよりはるかに速かった。
ガァアン!!!
今までの倍以上の衝撃と轟音を伴って、大楯が軋んだ音を上げた。まずい、あと一瞬遅かったら両断されていた!
「まだこれを受け止めるだけの力は残っているか。だが、所詮それまでだ!」
二度、三度、尋常でない威力の斬撃を大楯で受ける。先ほどまでは本当に試されていたのだとようやく自覚した。
そして、アーサー王の言ったことは事実になる。
「いい加減、くどい!」
「あうっ!?」
それまで防戦一方で体力が減っていたのもあって、渾身の薙ぎ払いで大きく吹き飛ばされる。
そのまま弧を描いて飛んでいき、先輩たちの目の前に落ちた。数え切れないほど倒れたので、なんとか受け身を取る。
「う、あ……」
「マシュ!」
「ちょっとマシュ、起きなさい!あんたがやられたら終わりなのよ!」
所長の言葉に、はいと私は口の中で返事をして立ち上がろうとして……腕に力が入らなかった。
あ、あれ?おかしい。少し前まで、ちゃんと立てたのに。手も足も震えて、うまく力をいれることができない。
「あ……」
そうか。私は、怖いのだ。
英雄でもなんでもないのにあんな相手に挑んで、ギリギリだった心がいよいよ限界に達した。
「私は、戦うことが……」
もう何をしたって、私ではあれには歯が立たな──
「諦めるな!」
その時、言葉が聞こえてきた。えっ、と声のした方を振り向く。
そこには、謎のサーヴァントと鍔迫り合いをしているバーサーカーさんがいる。いつのまにか近くに来ていたのか。
「バーサーカーさん……?」
「マシュ殿、何を諦めている!貴公がマスターを守るのだ!」
「わ、私では倒すことが」
「甘えるなッッ!!!」
バーサーカーさんの大声にビクリと肩を揺らす。
「今ここでマスターらを守れるのは貴公だけだと自覚しろ!貴公が諦めればそれまでだぞ!」
「でも……」
「貴公はこれまで、戦う側の人間ではなかったのだろう!いきなりこのようなことになって受けとめる自信がないのだろう!だが戦場に立った時点で、貴公はもう一人の戦士だ!」
「バーサーカー、さん……」
サーヴァントの剣のような大槍を蹴りつけ、大斧を押し込んだバーサーカーさんはこちらを見る。
「戦士ならば戦え!その盾を掲げろ!諦めれば命を失うことになる!」
「……!」
「いいか、よく聞け!貴公は
貴公ら人間は、たった一つしか命を持っていないのだから。
そう言って、バーサーカーさんはサーヴァントを連れて離れていってしまった。ポツンと取り残された気分になる。
「余計なことを……だが、もう遅い。そろそろ飽きた」
アーサー王の冷徹な声が響き渡る。
視線を戻せば──両手で振り上げられた聖剣に、黒い光が収束していた。とてつもない魔力の放出と収束……!
「まずいわ、聖剣がくる!」
「聖剣って、えっ!?」
「っ……!」
金切り声をあげる所長と、うろたえる先輩。怯えている場合ではないと、震える体に鞭打って大楯を手に取る。
「卑王鉄槌、極光は反転する──光を飲め、〝
それを待っていたのか、はたまたただの偶然か。膝立ちになって盾を構えた瞬間、黒い奔流が視界いっぱいに広がった。
それは地面をえぐり、大気を揺らし、全てを滅さんと破壊の限りを尽くした。先輩を背中に、その直撃を防ぐ。
「あ、ああ、ああああああああ…………!」
揺れる。崩れそうになる。半端な体勢で踏ん張るのは、まさに今の私の心境を表しているかのようで。
恐い。あまりに強くて、恐ろしくて、今にも逃げ出してしまいたくなる。こんなもの、私一人で受けきれるはずがない。
ズシリと盾が重くなる。だめだ、支えられない。私ではこの人たちを守れない。やっぱり役者不足だったのだ。
誰か、誰か助けて…………っ!!
トン。
そんな時──盾に誰かの手が添えられた。
「……先、輩?」
「………………」
無言で俯いているのは、他でもない先輩だった。
そうだ、私には先輩がいる。
あの時もそうだったみたいに、先輩ならきっと私を助けてくれる、支えてくれる。
先輩、先輩、私を助けて…………
「……たく……い……」
…………………………え?
「死にたく、ない……!」
先輩は、泣いていた。
涙を流して、歯を食いしばって。震える足を無理やり押さえつけて、キッと奔流を睨みつけていた。
……私は、何を勘違いしていた?
いつからこの人が、英霊を相手でも平気で立ち向かえると錯覚していた?
だってこの人は勇敢なんじゃなくて、ただ……他の大勢の人達と同じように、死にたくないんだ。
だからなけなしの勇気を振り絞って、立ち向かっていたのに。
「どうして、私は……!」
どうして守られようとしたのか?立ち向かうべきは私なのに……。
それなら、立ち上がって。
そんなの、許されない。だって私はもう……戦士なんだ。
だから。
「たとえ、この身が英霊でなくても……!」
「マシュ…………?」
何も偉業を成し遂げていないとしても。
万夫不当の力も、一騎当千の技も、何一つ持ち合わせていないとしても。
それでも今の私は、
「あ、あああああ……!」
一歩、前に出る。負けないように、失わないように。
「っ……聖剣が、押される……!?」
盾が光り輝く。そうだ、使わなきゃ。そうしないと、みんな消えてしまう!!!
──さあ、使えマシュ・キリエライト。君は一体なんのために、その力の一端をかりそめの宝具として解き放った?
誰かの声に後押しされて、さらに一歩踏み出した瞬間──目の前に光の紋章が現れた。
それは瞬く間に堅牢な壁となって、聖剣の極光を受け止め、それどころか押し返していく。
それに何か気づいたのか、先輩が何か呟いた。次の瞬間、魔力が体を駆け巡る。この光は、令呪の輝き!
これなら、いける!
「はあああああああああああああああ────────っ!!!!!」
「バカな、我が剣光が全てかき消されて────!?」
「〝
擬似真名を叫んで、大楯を前に突き出す。
壁に押されて光は弾け、聖剣の極光は消え失せた。
「はぁっ……はぁっ……」
荒く息を吐いて、盾に寄りかかる。やった、防ぎ切れた……!
でも、まだ油断はできない。アーサー王を見ると、かなり魔力を消費したのか苦しげな顔ではあるものの、また健在でいる。
「先に、こちらの魔力が尽きるとはな……!」
「くっ……!」
「だが、まだだ……!」
「──いや、終わりさ」
聞き慣れた声が、耳朶を震わせた。
突如アーサー王の足元から、炎の円陣が浮かびあがり真っ赤な炎が噴き上がる。それは黒き王を捉え、檻のごとく広がってゆく。
「我が魔術は炎の檻、
いきなりのことに目を見開いていると、背後より現れた詠唱者は、私達の隣を通り過ぎる瞬間に一言。
「よくやったな」
司祭のような装束に、杖を構えたその男性は──
「キャスター!!」
キャスターさんはそのまま盾の前に躍り出ると、詠唱を続ける。
「倒壊するは……
次の瞬間、アーサー王の足元から巨大な木組みの何者かが現れた。やがてそれは、頭、胴体、腕と順に姿を現し、その姿にこの場の全員が目を見開く。
やがて、全てを現したとき──そこには、見上げるような木組みの巨人が立っていた。
巨人は、頭の上から跳躍しようとしたアーサー王をその巨大な剛腕でいとも容易く掴む。魔力の減少が、アーサー王に決定的な隙を作ってしまった。
「なっ……!?」
そして巨人はアーサー王を、檻のような形状になっている胴体へと放り込むと、鉄の扉を固く閉ざし、炎の中に身を投げ込む。
そうすると熱風が荒野を満たし、木組みの巨人から火山の噴火のように噴き出した焔は、暗雲をかき分け天を突いたのだった。
炎が消える。茫然自失といった様子で、煤だらけのアーサー王は崩れ落ちた。が、すんでのところで持ちこたえた。
「油断したな、セイバー」
「貴様……!」
「キャスター!」
「キャスターさん!」
「おう、お前ら。待たせたな」
キャスターさんはよっ、と軽い声とともに一足飛びで私たちの前に着地する。そしてニッと笑った。
「よくぞここまで持ちこたえた。嬢ちゃん、誇っていいぜ。坊主も大した度胸だ」
「あ、その、ありがとう、ございます」
「ありがとうキャスター」
「いいってことよ」
快活に笑うキャスターさん。
見れば上半身は裸で、片腕が肘から先が失われ、ところどころに裂傷を負っている。アーチャーとの戦闘はかなり激しかったらしい。
「フ……聖杯を守り通すつもりが、己の執着に傾いた結果この有様か。結局どう転ぼうと、私一人では同じ結末になるのだな」
「……なんだと?セイバー、テメェ何を知ってやがる」
「いずれあなたも知る、アイルランドの光の御子よ」
体から粒子が立ち上り始める。それでもなおアーサー王は変わらぬ瞳で、こちらを見た。
「グランドオーダー────聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだということをな」
その言葉を最後に、アーサー王は完全に消滅した。後には黄金色の結晶体が残り、静かに浮遊している。
「おい待て、そいつはどういう意味──ってうぉお!?」
その声に隣を見れば、キャスターさんも強制送還されるところだった。アーサー王を倒したことで、聖杯戦争が終わったからか。
「くそ、納得いかねえが仕方がねえか。おい坊主、次があるときはランサーとして召喚してくれや」
「あ、はい」
「んじゃな、またどっかで会おう──」
キャスターさんも消滅した。それを見届けた瞬間、どっと疲れが湧いてきて先輩と同時に地面に座り込む。
「マシュ、すごい。本当にすごかったよ。ありがとう」
「いえ、精一杯できる限りの事をしただけですので……」
「それでもだよ。俺も頑張ってよかった」
まだ若干震えているのに、あのときみたいに笑う先輩。
ああ……私はその笑顔を、守りたかったんだ。
「
「? あの所長、どうかしましたか?」
「うぇっ!?あ、ああいや、なんでもないわ。それよりほら、立ちなさい」
差し伸べられた手を取って、二人で立ち上がった。
「とりあえず、よくやったわ。不明な点は多いけど、大金星よ」
「はい!」
「お褒めに預かり光栄です……っと、そういえばバーサーカーさんは……?」
アーサー王のことでいっぱいいっぱいだったけど、バーサーカーさんは神霊クラスのサーヴァントを一人で相手していた。
もしやられていたらと、三人で周囲を見回す。しばらく見渡して見つからないと、ふと空を見上げて──
オォオォォ………………
──そこに開いた、大きな黒い穴を見た。
読んでいただき、ありがとうございます。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。