灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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楽しんでいただけると嬉しいです。



まだ誰にも

 

 

 

「……なん…………だって?」

 

 所長が………………もう、死んでいる?

 

 嘘だ、とすぐに思った。だって所長は、こうやって俺たちの目の前にちゃんといるじゃないか。

 

 そう叫ぼうとしたのに……なぜだか、舌が喉に張り付いて声が出ない。まるで、それは無駄なことだというように。

 

「トリスメギストスも残酷なものだ、ご丁寧に残留思念と化した君をこの地に転移させるなんて」

 

 言葉を失う俺たちに、レフ教授は心底可笑しそうに、それでいて見下した目で所長を見た。

 

 直にその言葉を受けた所長は、まさしく顔面蒼白といった様子でいる。この状況で自分が死んでるなんて言われたら、そうなるのも当然だ。

 

「え、あの、れ、レフ? いったい、何をいってる、の? 私、意味が……」

「わからないのかい?君にはレイシフトの適性はなかった。だが今ここにいるのはなぜだと思う?」

 

 そう、だ。

 

 所長は、マスター適性がなくてレイシフトができなかったって言ってた。そのせいで色々と苦労してきたって。

 

 これまでは何かの偶然かな?って適当に流してたけど……よく考えると、なんで適性のない所長がここに来れたんだ?

 

「ならなぜここにいるか。簡単だ、君は肉体を失ったことで初めて、あれほど切望していたレイシフト適性を手に入れたのさ」

「「────ッ!?」」

「……やはりそうか。ソウルのあり方がサーヴァントに近いとは感じていたが……よもや、すでに死んでいたとは」

 

 息を呑む俺たちとは対照的に、バーサーカーの冷静な呟きがやけに冷たく響く。

 

 なんで教えてくれなかったのかなんて疑問が浮かんだけど、それを口に出す時間はなかった。

 

「だから君はカルデアに戻ることはできない。なぜならその時点で、君の意識は消滅するのだから」

 

 どこか嗜虐的に、そして嘲笑うように。レフ教授は両手を広げ、大仰な手振りで宣言する。

 

 

 

「…………嘘、よ」

 

 

 

 それを聞いた所長の顔は──まさしく、絶望に染まっていた。

 

「私が、消滅?カルデアに……戻れない?」

「そうとも。だが、それではあまりに哀れだ」

 

 高揚した様子から一転、レフ教授は以前のように微笑む。

 

「生涯をカルデアに捧げた君に、今のカルデアがどうなっているのか見せてあげよう」

 

 そしておもむろに片手を上げ、指を鳴らすと──その背後の空間に、紫色の穴が空いていった。

 

 バーサーカーの宝具と何処か似て非なるそれの向こうにあるのは……あの時と変わることなく、真っ赤に染まったカルデアス。

 

「な…………によ、あれ。カルデアスが、赤く……う、嘘でしょ?ただの虚像でしょう?ねえ、レフ」

「紛れもなく本物だよ。君のために繋げてあげたんだ。聖杯があればこんなこともできるのだよ」

 

 聖杯は、万能の願望器。なら空間を繋げるなんて造作もないのか!

 

「さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。あれがお前たちの愚行の末路だ。人類の生存を示す青はなく、燃え盛る赤のみが存在するこの星の姿だ!」

 

 レフ教授の手から何かの力が放出される。すると所長の体が浮き上がり、どんどんカルデアスに近づいていった。

 

「えっ、なに、何よこれ!?」

「さあオルガ、君の()()とやらに触れるがいい」

 

 口の端を歪め、悪魔のごとき笑顔を満面に浮かべるレフ教授はショーの司会のごとく、両手を広げ叫ぶ。

 

 その言葉に、全身からブワッと冷や汗が吹き出てきた。触れるって、まさか──っ!

 

「所長ぉっ!」

「ダメです先輩!」

 

 飛び出そうとして、マシュに手を掴まれる。

 

 振りほどこうとすると、今度は「すみません!」と羽交い締めにされた。なおも暴れて抜け出そうとする。

 

「離してくれマシュっ、所長が、所長がぁっ!」

「今行けば、先輩まで殺されます!」

「ぐぅ…………!」

 

 サーヴァントの力を持つマシュにはいつまでも抵抗できず、無駄だとわかっていながら所長を見上げた。

 

「触れるって、まさか……や、やめて!お願い!」

 

 果たして、所長が考えたのは俺と同じことのようで。必死といった様子で叫んだ。

 

 けれど、レフ教授はただニヤニヤと気味悪く笑っているだけだった。

 

「おや、何をそんなに嫌がる?」

「だって、カルデアスよ……?高密度の情報体で、次元の違う領域、なのよ……?」

「ああ、ブラックホールと何も変わらない。あるいは太陽か?まあ、どちらにせよ」

 

 

 

 やめろ。

 

 

 

 その一言が自分の口からほとばしるには、俺はあまりにも無力で。

 

 どんなにこの頼りない手を伸ばしても、何もかも手遅れだった。

 

 

 

 

 

「人間が触れれば分子レベルまで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ」

 

 

 

 

 

「いや……いや、いやぁああああああっ!助けて!誰か助けて!私、こんなところで死にたくないっ!」

 

 所長が叫ぶ。少しずつカルデアスに近づきながら、死にたくないともがく。

 

「貴様ァアアッ!!!」

 

 バーサーカーが叫び、地面を盛大に粉砕しながら大斧を手に悠然と構えるレフ教授に向けて飛んで行った。

 

 神霊とすら互角に戦ったバーサーカーの一撃が、レフ教授の体を容易く切り裂く──ことはなく。一歩手前で何かが割り込んだ。

 

 

 ギィンッ!

 

 

「ぬぅっ……!?」

 

 唸り声を漏らしたバーサーカーは、その何者かが仕掛けた追撃によって弾き飛ばされ、こちらに吹っ飛んできた。

 

 流石というべきか、墜落する直前に体をひねって着地する。それを見終えると、邪魔をした相手を確かめた。

 

「……………………」

 

 それは、一見してとても細身だった。白い鎧を着込み、全ての無駄を廃したような、洗礼された肉体をしている。

 

 片手には炎を纏う錆色の大剣を、もう一方の手には紫色のオーラを纏う大剣を携えていて、顔は格子のような兜で覆われて伺えない。

 

 なにより、とても巨大だった。隣に立つレフ教授のゆうに三倍以上の巨体をしている。あれじゃまるで巨人だ。

 

「貴様は、サリヴァーン………!」

「言っただろう〝火のない灰〟? 王は全て回収したと。無論、それに連なり召喚されたものも全て我らが手中の内なのだよ」

「くっ……!」

「さあ、どうする?私を斬ろうとするのはいいが……そいつの相手をしているうちに、オルガマリーはカルデアスに飲み込まれるぞ?」

 

 なんてやつだ。こっちの最大戦力であるバーサーカーを封じて、所長を助けられないようにするなんて。

 

 言われた通り、ここであの細身の巨人と戦うのは無意味だと思っているのか、バーサーカーは全身を震わせる。

 

 でも、事実だと思ってしまったのだろう。やがて、ふっと武器を握る手から力が抜けていった。

 

「いや、いやいやいやいやいやいやいやぁ!!!」

 

 最後の望みが絶たれ、いよいよもって所長がタガが外れたように何度も〝いや〟と繰り返した。

 

 でも、誰も助けられない。アーサー王の宝具を耐えたマシュも、いつもならすぐに全ての敵を倒すバーサーカーも。

 

 もちろん……俺だって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、まだ誰にも褒められてない!誰も、私を認めてくれてないじゃない!どうして!?どうしてこんなことばかりなの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰も私を評価してくれなかった!みんな私を嫌っていた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、死ぬのなんか嫌!だって何もしてない!何も成し遂げてない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生まれてからずっと、ただの一度も、まだ誰にも認めてもらえなかったのに──────────っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 最後まで涙を流しながら、所長は……カルデアスの光の中に、飲み込まれていった。

 

「あ、ぁあ………………」

 

 俺は、本当に最後の最後まで、何もできなくて。

 

 とっさに立ち上がって振り上げた、このちっぽけすぎる手じゃ所長の手を掴めなくて。

 

 できたのは所長が消えていったカルデアスを見て、絶望を味わうことと、情けない声を落とすくらいだった。

 

「ああ、やっと静かになった。まったくいつもやかましい小娘だったよ」

 

 パチン、と指を鳴らすレフ教授。繋がっていた空間が狭まっていき、完全に閉じた。

 

 その瞬間、本当に所長が死んだことを実感し膝から崩れ落ちる。

 

「人紛いめ…………!」

「ふん、やはり魂を見る貴様には私の正体は見えているか。ならば改めて自己紹介するとしよう」

 

 先ほどまでのことなど何もなかったかのように、レフ教授は……いや、レフ・ライノールはにこやかに笑う。

 

 そうすると泰然とした構えから片足を引き、片手を後ろ腰に回し、もう片方を胸において……

 

「私の名はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ」

 

 どこまでも慇懃無礼な態度で、そう名乗ってみせた。

 

 あまりに白々しい態度に手の平の皮膚が破けんばかりに手を握りしめ、唇を噛みきってしまうほど噛み締めて睨みあげる。

 

「聞いているなドクター・ロマニ?ともに魔導を研究した友として、教えてやろう」

 

 俺の視線など意に返さない、それどころか存在そのものを無視してレフ・ライノールは語り始めた。

 

「カルデアは用済みになった。お前たち人類は、()()()()()()()()()()

『レフ教授……いや、レフ・ライノール。それはどういう意味ですか。2016年以降の未来が見えないことに関係があると?』

「関係も何も、もう終わったことなのだよ」

 

 瞬く間に元の不遜な態度に戻り、レフ・ライノールはホログラムのドクターをあざ笑う。

 

「〝未来が消失した〟? 笑わせてくれる。まさに()()()()()だ。未来は消えたのではない、()()されたのさ」

「焼却だと……?」

 

 バーサーカーが、恐ろしく低い声で反応を示す。その声は激しい怒りに満ち、尋常な人間の出せるものではない。

 

「そうとも、〝火のない灰〟。貴様が数万年大事に見守り続けた人類の未来は燃え上がり、滅びが確定した。この先に、貴様らの時代は存在しない」

『では、外部との連絡がとれないのはやはり……』

「……相変わらず貴様は賢しいな。ああ、その通りだ。カルデアスの磁場でカルデアは守られているが、外はこの冬木と同じ有様だ。まったく、貴様を真っ先に殺して置かなかったのが悔やまれる」

『それは、遠慮しておきたいかな』

「安心しろ、2017年を過ぎればカルデアも宇宙から消滅する」

「そん、な……」

 

 それ、じゃあ。

 

 俺の、家族は。友達は。爺ちゃんとたくさんの楽しい時を過ごした、何より大切なあの家は。

 

 すべて、燃やされたというのか。許す許せない以前に、もうとっくになくなっていたと、いうのか。

 

「ふざ、けるな……!」

「うん?」

「返せ……!俺の大切な人たちを、返せよ……!」

 

 こんな理不尽なことがあってたまるか。ある日突然、なにもかもなくなったなんて認められない。

 

「ふん、愚かしい人間のいいそうなことだ。君はどこまでも平凡で面白みがない人間だな」

「っ……!」

「君の意思など関係ない。全ては無駄な抵抗だ。もはや誰にもこの結末は変えられない。なぜならこれは、()()()()()()()()()()()に他ならないのだから!」

「な……」

「お前たちは進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との戦争で滅びるのでもない! その無意味さ故に! 無能さ故に! 我らが王の寵愛を失ったが故に! 無価値なゴミクズのごとく、消え去るのだ!」

 

 舞台の上で踊る主人公のごとく、どこまでも残酷に、狂気的に嘲るレフ・ライノールに、何か言い返そうと口を開いて……

 

「……なるほど、どうりで私が召喚されるわけだ」

「……なんだと?」

 

 バーサーカーが、ぽつりと呟いた。俺を含め、全員の視線がそちらへ向く。

 

 そんな中、ゆっくりとバーサーカーはうつむかせていた顔を上げてレフ・ライノールを見上げた。

 

「今、ようやく理解した。なぜ抑止力が過去の王たちではなく、私を選んだのか」

「ほう? 言ってみるがいい」

「ーー私の義務だからだ」

 

 強く。確固たる意志を持った声で、バーサーカーは宣言する。

 

「裏切り、その果てに古い世界を壊し、新しき理を作った私が果たすべき絶対の義務。故にこの歴史を守るため、抑止力は前時代の残滓でしかない私をこの世に呼び戻した。なればこそ……」

 

 大斧が持ち上げられ、バーサーカーの視線がある一点に向けられた。

 

 その視線の先にいるのは……レフ・ライノール。

 

「全力をもって、私は貴様を殺そう。そこの木偶も殺そう。この焼却を行なったものを殺そう。私の前に立ちふさがるもの、全てを叩き潰そう」

「貴様……」

「王は全て回収した? そうか、ならばかかってくるがいい。もう一度全員殺すだけのことだ。どれだけの犠牲を払うとしても、この人理を続けるため私は必ずまた火を灯す」

 

 そう声高に言うバーサーカーの後ろ姿は、どこまでも力強く。

 

 

 

 

 

「異形のソウルを持つものよ、待っていろ──いずれ必ず、この手で殺す」

 

 

 

 

 

 英雄の姿を、幻視した。

 

「…………フン。やれるものならやってみるがいい。もっとも、この時代から出ることができればの話だがな」

 

 レフ・ライノールが言った途端、地面が小刻みに震え始めた。な、なんだ!?荒野全体が揺れてる!?

 

 程なくして地震と言っていい激しい振動に変わり、転びかけたところをマシュに支えられてことなきを得た。

 

「っと、ありがとうマシュ」

「いえ。それよりこれは、空間が崩壊を始めて……!」

「じき、この時代は崩壊する。せいぜい足掻くがいい。では私は次の仕事があるのでね、ここらで失礼するよ」

 

 虹色の渦が現れ、レフ・ライノール消えた。サリヴァーンと呼ばれた巨人も一度バーサーカーの方に振り返って、すぐに後を追う。

 

 残ったのは俺たちと、そして今にも崩れ落ちそうなこの時代のみ。沈黙もそこそこに、俺たちは騒ぎ出す。

 

「ドクター、至急レイシフトを行なってください!」

『今やってる!でもごめん、そっちの崩壊の方が早そうだ!』

「私にカルデアの座標を教えろ、なんとかなるやもしれん!」

 

 打開策を考えて騒ぐ三人を、俺はオロオロと見る。なんの力も持たない俺は、こんな時でさえ見てるだけだった。

 

 そうしている間にも周囲のものは崩れ、あれほど煌々と燃え盛っていた街は奈落に沈むように消えていく。

 

『っ、いけない!もう後わずかにしか時間がない!どうにかサルベージしてみるから……』

「そんな不安定な、あっ……!」

「うわぁっ!?」

「ぬっ!」

 

 いよいよ、この荒野も崩れ始めた。

 

「貴公、レイシフトを実行しろ!一か八かだ!」

『あ、ああ!』

「先輩、手を────!」

「マシュ────!」

 

 足場が崩れるのと同時に、全力でマシュに手を伸ばして。

 

 

 

 

 

 そしてその手を取ったのを最後に、俺の意識は暗転した。

 

 

 




次回はカルデアでの話です。

先に言います、今回のあとがきは切れます。不快な方は読み飛ばしていただいて結構です。

また批判コメきたので言いますけど、これをFGOで書く必要があるのか
くだらない質問しないでください。別に仕事でもなんでもなく、ただ書きたいから書いてるのにそんなこと言われる筋合いないです。
藤丸たちがオーディエンスになってる?当たり前だろ、これ灰が主人公なんだから別に見せ場用意するに決まってんじゃん。そもそも物語の序盤なんだからほぼ一般人の藤丸がマシュの手助け以上のことできるわけないだろうが。

ふぅ……すみません、言葉が荒くなりました。ただこれだけは絶対に言いたかったので。これによってお気に入りや評価に影響が出ても、自分は後悔しません。
それ以前に目次に合わないならブラウザバックって書いてるし。
別に良いコメントばかりくれとは口が裂けても言いませんが、やる気削ぐようなこと言うのはやめてください。

追記:活動報告ではなくここに書いたのは、読まれないでまた同じようなものが来るのを防ぐためです

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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