この感激を胸に、これからも頑張ります。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「──はっ!」
唐突に目が覚める。
その勢いに任せて飛び起き、全力で周りを見渡した。
「はぁっ、はぁっ……」
しかしどこにも炎はなく、代わりにあるのは見覚えのある部屋だけ。
途端に心に安堵が広がった。タオルケットを握り締めていた手から力が抜けて、顔の強張りが解れていく。
激しく高鳴っていた心臓が穏やかな鼓動を始めたのを確認すると、もう一度部屋の中を見る。
「……ここは……カルデア?」
白い壁に白い天井、隅に置かれた申し分程度の植物のなった植木鉢。自分の寝るやや硬い純白のベッド。
間違いない、俺の部屋だ。馴染みとは言えないが、知っている場所でほっとする。
「助かった……のか?」
いや、ここにいるということは夢じゃない限り助かったのだろう。
覚えているのは崩れる世界と、握ったマシュの手の感触。それから意識が暗転して、気がついたらここにいた。
言葉に出して初めて、自分が生き残ったことの実感が湧いてくる。どっと気が抜けてベッドの上に倒れた。
「……マシュの手、柔らかかったな」
まだ手にその時の感触が残っている気がする。デミ・サーヴァントであるはずの彼女の手は、俺より小さかった。
「いや、何考えてんだ俺」
また起き上がって、すべすべだったなぁなんて感想を頭の中から振り払う。女の子の手の感触思い出すとか変態か。
それはともかく、かすり傷やススだらけだったのにやけに綺麗な体を見ると、治療を受けたみたいだ。
「なんにせよ、死ななくてよかった」
……でも、所長のことは助けられなかった。
自分の両手を見つめる。この手はその気になればすぐに伸ばせたのに、俺は最後までなんにもしなかった。
俺は、生き残った。でもそれだけで、他には誰も救うことができなかった。後悔と悔しさが心に広がる。
もっと、何かできたんじゃないか。たらればは意味がないというけれど、それでもどうしても考える。
「ん、あれ。指輪がない。治療の時に外されたのかな」
周りを探してみると、枕元のテーブルの上にあった。
持ってかれてなくて良かったと思いつつ、手首につけ直す。なんだかつけてないと落ち着かないいんだよな。
「よーしよし、キミは随分いい子でちゅねー。何か食べる?木の実?魚?」
「ん?」
どこからか、女の人の声が聞こえた。
声のした方に振り返ってみると、そこにはフォウを膝の上に乗せてあやしている……モナ・リザが座っている。
いや、何言ってんのか自分でも全然わかんないけど、そう形容するしかない絶世の美女がいたのだ。
ただ、片手にガントレットをつけてるのと、不思議な衣装を着ている。まるでサーヴァントみたいだなと思った。
「んー、可愛いけどイマイチなんの生き物かわからないなぁ」
「あの……」
「ん?おお、起きたんだね」
声をかけると、モナ・リザさん(仮称)はこちらをみる。深い叡智を宿す青い瞳に射抜かれて、少しどきりとした。
「おはよう藤丸くん。気分はどう?意識ははっきりしてる?」
「え、ええ、一応。それであなたは」
「あ、起きたら部屋に絶世の美女がいることに驚いた?わかるわかる、でもそのうち慣れるよ」
自分で絶世の美女っていうんかい。ていうかそんなのに慣れるのはなんかやだ。
「私は……まあダ・ヴィンチちゃんとでも呼んでくれたまえ。端的に言えばカルデアの協力者だよ」
「はあ……」
そこまで会話して、ふと気づく。もしかしてさっきの見られてた?
いや、雰囲気からしてずっと前からいたみたいだし、確実に見られてるだろう。どうしよう、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「ささっ、話はここまでにして管制室に行きなさい。キミを待っている人がいるよ」
一人で顔を青ざめさせていると、ダ・ヴィンチちゃん?は軽い調子でそういう。
ちらりと顔を伺うが、特に何かを含んだ様子はない。今の所は安心してもいいのだろうか。
「待ってるって……誰が?」
「んもー、察しが悪いなあ。とにかく、ここで寝てても仕方がないから」
「え、わ、ちょっ」
ダ・ヴィンチちゃんに特異点でもつけてたブレスレットと新しい制服を無理やり押し付けられて、部屋を出る。
部屋の外は、これまた真っ白のかなり無機質な感じだった。あの時は急いでてろくに見れなかったからな。
後ろを見ると、ドアは既にしまっている。
「戻る……訳にもいかないよなあ」
仕方がない、管制室に向かうか。そこにマシュやバーサーカー、ドクター達がいるはずだし。
うろ覚えな記憶を頼りに歩き始める。気分は未知の遺跡を探索する探検家だ。目指すは管制室、いざ冒険!
「なんて考えてた時期が俺にもありました……」
が、歩き始めて10分も経たないうちに自分がどこにいるのかわらなくなった。
「ここ、めっちゃ広くないか……?」
右を見ても白い壁、左を見ても白い壁。
名前の書かれたナンバープレートはあれども、地図なんて親切なものはどこにもない。是非とも設置してほしい。
途中何度か人とすれ違ったが、みんな尋常でない表情だったので道を聞くこともできなかった。
「どうしたものか……」
「何かお困りですか?」
不意に、背後から声が聞こえた。
てっきり一人だと思っていたので、びっくりして後ろを振り返る。
「あ……」
そして……そこにいた人を見て、喉の奥から感嘆のため息が漏れた。
その人は、とても美しかった。マシュや謎のダ・ウィンチちゃんとはまた違った、浮世離れした美しさ。
たおやかに微笑む口元、美しい顔立ちに均整のとれた体、肩口で切りそろえられた白い髪。
なにより印象的なのは、その瞳。
とても深い光を内包する白銀の瞳は、なんだか儚くて。まるで、今にも消えかかっている日を見つめているような……
「どうかなさいましたか?」
「っ! あ、えと、道に迷って、まして」
「まあ、それは大変です。どちらに?」
「管制室、です」
「では、途中までご案内いたしましょう」
しどろもどろになって答えると、女の人はそういった。
その際の微笑みに胸を高鳴らせつつ、職員の案内なら間違い無いだろうと歩き始めた女の人についていく。
女の人の足取りには、迷いがなかった。とても綺麗な動きで廊下を進み、時折俺に一声かけてから角を曲がる。
「「…………」」
歩いている間、必要以上に会話はなかった。淡々と歩く女の人の後ろ姿を見つめるだけ。
一体どこの国の人なんだろう。日本語は驚くほど流暢だったけど、顔つきからして日本人ではない。
それはすれ違った他のスタッフの人たちもそうだったから、別に不思議ではないんだけど……
「考え事ですか?」
「っ!?」
女の人のことについて考えていたら、いつのまにか目の前に女の人の顔があった。
危うくぶつかりそうになるのを、なんとか足を止めて回避する。危ない、あのままいってたらまずいことになってた。
「そのっ、すみません」
「いえ、お気になさらず。この先の角を曲がれば、管制室です」
いつの間にかついていたらしい。考え事をすると時間が経つのが早いな。
「ありがとうございます。えっと……」
「名前を覚える必要はありません。それでは名も知れぬ方、あなたに良い導きがありますよう」
お辞儀をして、女の人はどこかへいってしまった。ミステリアスな人だったな。
「っと、そんなこと考えてる場合じゃないか」
もしかしたら待たせているかもしれないと、角を曲がる。すると管制室の扉が見えた。
その手前で、見知った人物が壁に背中を預けている。思わず名前を呼んで走りよった。
「バーサーカー!」
「やあマスター、目覚めて何よりだ。体に問題はないか?」
「うん、おかげさまで。バーサーカーも、カルデアに来れたんだ」
「なんとか、な」
そう言いつつも、バーサーカーはどこか余裕そうに肩をすくめる。その仕草にバーサーカーが潜り抜けた修羅場の数を感じた。
「それではマスター、中へ入ろうか」
「あれ、もしかして待っててくれたの?」
「まあ、そのようなものだ。私は貴公のサーヴァントだからね」
「そっか。ありがとう」
「礼を言われるほどのことではないさ」
言葉を交わしながら扉の前に立つと、自動で開く。
その向こうには──
「マシュ!」
「あ、先輩!」
こちらを振り返ったマシュに駆け寄る。
「よかった、戻ってこれたんだね」
「はい、ドクターが間一髪のところでサルベージしてくれて、バーサーカーさんの道具でカルデアまで戻ってこれました。先輩も平気なようでなによりです」
「マシュ達のおかげだよ。俺一人だったらあそこで死んでたし……」
「あー、こほん。再会を喜ぶのもいいけど、こっちにも注目してくれるかな?」
二人で話し込んでいると、咳払いが聞こえた。
そちらを見れば、苦笑気味なドクターが立っている。その姿に変わりはなく、どこか安心感を覚えた。
「まずは、生還おめでとう藤丸君。そしてミッション達成お疲れ様」
「いや、俺は大したことは……」
戦ってたのはマシュたちで、俺は後ろで見ているだけだったしな。
「いや、なし崩し的にあんな状況に巻き込まれたのに、君は勇敢に事態に挑み、見事解決した。それだけで賞賛に値するよ」
「あ、ありがとうございます」
「うん。君のおかげで、僕たちカルデアもマシュも救われた。心からの尊敬と感謝を君に贈ろう」
その言葉に、一瞬頬が緩みかけて。脳裏に所長の泣き叫ぶ姿がフラッシュバックした。
「…………でも、犠牲は大きかったです」
「……そう、だね。でも、どうしようもなかった。僕たちでは彼女は助けられなかったんだ」
「っ……」
わかってるさ、そんなこと。
でも、もしかしたら助けられたんじゃないかって、何度もそう思ってしまうんだ。
「……藤丸君。彼女のことを悼むというのなら、僕たちは彼女に代わって人類を守らなくてはいけない。それがせめてもの手向けだ」
「守る?」
人類を守るって……どうやって?
「これを見てくれ」
ドクターが手を上げて、近くにいたスタッフの人に指示を出す。するとスタッフの人は機械を操作した。
次の瞬間、巨大なスクリーンが空中に映し出される。そこに写し出されているのは、社会の教科書で一度は見た世界地図。
「復旧させたシバでもう一度過去の地球の状態をスキャンしてみたんだ。その結果、冬木の特異点は消えた。君たちのおかげでね」
「でも、カルデアスは……」
スクリーンの後ろにあるカルデアスは、未だに真紅に燃え上がっている。所長を飲み込んだ時と、同じように。
「そう、未来は変わっていない。ならばまだ他に原因があると僕たちは考え、もう一度観測をし直した。その結果……」
世界地図の各所に、七つの黒点が浮かび上がった。渦巻くそれは、まるでブラックホールのようだ。
「これは!?」
「これらは新たに発見された時空の乱れ、冬木とは比べ物にならないほど狂った時間軸。つまり特異点だよ」
ドクター曰く。
世界には修正力があり、映画で見るようにちょっとやそっと過去を変えた程度では未来が変わることはないらしい。
多少その時代で何かをしても……例えば死ぬはずの人を一人二人助けたりとか……、結局最後には同じ結果になる。
「だが、この特異点だけは違う」
「えっ!?」
ドクターの言葉に思わず声をあげた。
過去は些細なことじゃ改変できないって言ってたよな。なのに違うって、どういう……?
「これは、人類のターニングポイントだ」
「ターニング、ポイント?」
こくりと神妙な顔で頷いたドクターは、詳しく説明してくれる。
ターニングポイントというのは、現在の人類のあり方を決定づける究極の選択点のことだという。
「〝この戦争が終わらなかったら〟。
〝この航海が成功しなかったら〟。
〝この発明が間違っていたら〟。
〝この国が独立できなかったら〟。
……そういった、決して間違ってはならない選択。一つでも欠けることがあれば、人理が崩れる場所。それを、この特異点は変えてしまった」
「それじゃあ……」
嫌な予感が頭をよぎる。炎の中に沈んだ冬木の光景が鮮明に頭の中に浮かび上がる。
あの光景を、所長はなんらかの……大聖杯によって結果の変わった、本来ありえないものだと言っていた。
ならば。あの冬木と同じように、この特異点が史実と違うものだとしたら。
「そう、七つの黒点は間違った選択の末生まれたイフの時代。これが存在することは、
「な……!」
「──けど、僕たちだけは違う。カルデアはまだその未来に達していないからね」
絶句する俺に、ドクターは強い口調でそう宣言した。まだ、完全に終わったわけではないと。
「僕たちだけがこの間違いを修正できる。今こうして崩れている特異点を元に戻せる」
「そんなこと、どうやって……」
「君もすでに知っているよ、レイシフトだ」
あっ、そうか。レイシフトをして、過去に飛んでその特異点をなんとかすればいいのか。
「結論を言おう。レイシフトを行い、歴史を元に戻す。それが唯一人類を救う手段だ」
「なら、すぐにでも!」
「だが」
叫んだ俺の声を制するように、ドクターは言葉をかぶせる。
「現在レイシフトができるのは、
そして。そんな事を言ってきた。
「………………え?」
「知っての通り、君以外の全てのマスターは瀕死の重傷で凍結処理済みだ。残ったレイシフト適性を持つのは……藤丸君。君だけだ」
そん、な。
じゃあ、俺は。これから……
「今からとても残酷な事を言うよ……マスター適性者48番、藤丸立香君。君はこれからたった一人で、
「──ッ!?」
その言葉に、頭が真っ白になった。
あれを、あの光景をあと7回も経験しなくてはならないのか?いつ命を落とすかもわからない、地獄を?
「その覚悟はあるか?君に、人類の未来を背負う力はあるか?」
ドクターのその問いかけは、俺にとっては死刑宣告に他ならなかった。
様々な思いが頭の中を駆け巡る。恐怖、不安、怒り……理不尽な状況へ、数々の負の感情が湧き出てくる。
「…………最初、ここにきた時」
しばらく考えて。
「電話を、しようと思ってました」
最初に口からこぼれたのは、そんな言葉だった。
「両親も、友人も、俺がいきなりいなくなって心配してるだろうって。だから……電話を、しようと」
「藤丸君……」
頬を涙が伝う。激しく締め付けられるような感覚を覚える胸を掴む。
「でも、もう遅かった。全部燃えてしまった。俺の大切なものは、何もかも」
「先輩……」
眠っていた間、夢を見た。
いつも通り俺の部屋で起きて、不思議に思って部屋の外に出てみても、家の中はどこも真っ暗で。
ふと気になってカーテンを開けると──そこには燃え上がった街があったんだ。これが夢だと、俺に告げるように。
「俺に、人類の未来を背負う力なんてありません。今の話だって全然受け止めきれない」
俺には何もない。マシュみたいなデミ・サーヴァントじゃないし、魔術師でもない。
でも。
「それでも、こんな理不尽は受け入れられない」
結局のところ、俺の考えが行き着くところはありきたりな答えだった。
懸命に生きていた人たちの命を奪ったことが許せない。なにより、家族や友人を奪ったことを許せない。
「受け入れられないからこそ、何もしないなんてできない」
世界の命運は、この手にもう委ねられてしまった。嫌だなんて言ってられない。逃げたいなんて許されない。
「だからそれが、俺に出来る事なら」
どんなに怖くたって、抗ってやる。未来を焼却するなんて、そんなの絶対に阻止してやる!
「……やはり、私の見立ては間違っていなかったか」
「バーサーカー?」
それまでずっと後ろで無言で話を聞いていたバーサーカーが、何かを呟いた。
振り返ると、バーサーカーは俺の前まで歩いてきて……なんと、跪いた。いきなりの行動に目を見開く。
「ば、バーサーカー?」
「マスター。貴公のソウルは、そこに宿る意思には揺るぎがない。それは私にとって何よりの証明だ。貴公の決意、確かに見た」
「!」
バーサーカーにそんなこと言われるなんて、なんだか嬉しくなる。
「私はこれより貴公の剣となり、あまねく敵を狩り、盾となってあまねく危機より守護する。その誓いを、今ここに」
「バーサーカー……」
「サーヴァント・バーサーカー、真名〝火のない灰〟。マスターに忠誠を誓い、ともに戦い抜くことを約束する」
「……うん!改めてよろしく、バーサーカー!」
右手を差し出す。バーサーカーは俺の手を見て、フッと短く笑って立ち上がり鎧で包まれた手で握り返してくれた。
「……ありがとう、藤丸君。その一言で、僕たちの運命は決定した」
俺の言葉を聞いたドクターは、とても慈しみに満ちた笑顔を浮かべる。しかしそれも一瞬のことだった。
「全カルデア職員に告ぐ!これよりフィニス・カルデア前所長オルガマリー・アニムスフィアから、このロマニ・アーキマンが司令権を引き継ぐ!」
一転して真剣な顔になると、管制室全体に響き渡るような大声で宣言した。
その声に職員の人たちは作業の手を止め、集まってくる。その中にはいつの間にか俺の部屋にいたダ・ヴィンチちゃんもいた。
全員が集まったところで、ドクターはカルデアスの下に移動すると両手を後ろに組み、堂々と立つ。
「カルデアは予定通り、人理継続の尊命を全うする。目的は人類史の保護、および奪還。探索対象は七つの特異点と、発生の原因と思われる聖遺物・聖杯の回収」
改めて言われて、自分のすることがどれだけ重大で己の身に過ぎたことであるかを認識した。
「我々が戦うべき相手は歴史そのものだ。立ちはだかるのは数多の英雄、伝説になるだろう。それは挑戦であると同時に、過去に弓引く冒涜だ。我々は人理を守るため、人類史に立ち向かうのだから」
体が震える。心が怯えを叫ぶ。そんなことはできないと、できるはずがないと拒否しようとする。
「けれど、生き残るにはそれしかない。未来を取り戻すためには。たとえ……どのような結末が待っていようとも、だ」
でも、やるしかない。この手でやり遂げるしかないんだ、全てを元に戻すためには。
「以上の決意をもって、作戦名はファーストオーダーから改める」
そのために、俺は戦う。
「これはカルデア最後にして原初の使命。
俺の旅は──ここから始まる。
うーん、心配…
次回は灰の回になります
思ったかや感じたことを書いていただけると嬉しいです。