灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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うわー、アクセスと評価ガクッと下がったな……前回書き直そうか。
最近ダクソの4P漫画見つけたんですけど、すごく面白いです。JK異世界転生INロードランってやつなんですけど、臨場感もあってかつほっこりして。
今回は灰の話です。そしてあのタグの本領発揮……!
楽しんでいただけると嬉しいです。


貴方に温もりを

「バーサーカー君も、空いてる部屋があるから使うといい。いくらサーヴァントになっていると言っても、休める場所は必要だからね」

 

 そんな彼の……今はロマニ・アーキマンといったか……一言で、私にはカルデアの一室があてがわれることとなった。

 

 火継ぎの巡礼では泥水の上でさえ眠った経験があるのだ、最初は必要ないと言ったのだが……マスターにまで言われては仕方がない。

 

 今の私は彼のサーヴァント、共に戦うもの。なればこそ重責を背負うことになった彼に心労はかけられない。

 

「「…………」」

 

 そういうわけで、私は職員の一人に導かれてその部屋へと向かっていた。

 

 白い廊下の中、私のブーツと職員の彼女の靴が床を打つ音だけが響く。それ以外の音は時折横を通り過ぎる、他の職員のもののみ。

 

 曰く、このカルデアの外はかつて雪に閉ざされていたと言う。それに加え入り組んだ廊下は、冷たい谷のイルシールを想起させた。

 

「……ふむ」

 

 いや、それはどうだろうか。己の思考に対しふと疑問のつぶやきを漏らす。

 

 ド腐れケツ毛法王(サリヴァーン)の一派によって支配されていたあの美しき廃都とここは、間違ってもにても似つかないだろう。

 

 なぜなら、ここにはまだ人が生きている。亡者となって徘徊する騎士や奴隷たちではなく、意思を持つ人間たちが。

 

 

 

 

 

 最初にマスターを見つけた時。私の心には、溢れんばかりの歓喜があった。

 

 

 

 

 

 彼は死の淵に立たされて、自らの身を諦めるのではなく最後まで睨みあげたのだ。己の命を奪おうとする理不尽を、真正面から。

 

 それは、とうの昔に私が失ったもの。不死人となってから、私にとって〝死〟とは次に難敵に勝つための手段でしかなくなったのだ。

 

 いいや、私だけではない。ソウルを求め彷徨う亡者ばかりが溢れかえっていたあの時代、誰もが諦めと絶望を心に抱いていた。

 

 どうせ皆、最後には亡者となる。昨日共に戦っていたものも、明日には己を失いソウルを求めて襲いかかってくるかもしれない。

 

 事実そうだった。かの神喰らいを倒すため旅をし、時に共闘したあのアストラの騎士たちは、結局亡者となってこの手で斬り伏せた。

 

 故に。その反抗に、生への執念に、心の底から喜びを覚えたのだ。ああ、ようやく人はあるべき姿を取り戻したのだ、と。

 

 擦り切れたはずの善性が、無意識に救済を選ぶほどに。

 

「着きました。ここが貴方の部屋です」

 

 虚空を見つめていると、そんな言葉が聞こえていた。どうやら考え事をしている間に着いたようだ。

 

「ここまでの案内、感謝する」

「いえ。それでは確認してください、お気に召さないようなら変更しますので」

「ああ、おそらく心配はいらないよ」

 

 なにせ毒沼ですら歩き回った身。どんなに劣悪な環境だろうと、少なくともあの時代よりはマシだろう。

 

 そう思い、金属でできている扉の前に立つ。案内をしてくれた職員の女性は、そんな私のことを傍らで見ていた。

 

 

 プシュッ。

 

 

 扉が横に移動し開いたので、中へ足を踏み入れる。現代の部屋というのは、一体どれほどの……

 

 

 

「…………………………何?」

 

 

 

 しかし。部屋の内装に対しての感想より先に私の口から出たのは、そんな疑問の声だった。

 

 確かに想定していた、見慣れぬ様相の部屋ではあった。マスターに聞いていた白い壁やベッドも、申し分程度の植物もある。

 

 カルデアに来る時、私はフェイトなる召喚陣を介してオーブで飛んできた。その際に再度付与された知識で、風呂やトイレというのもわかる。

 

 なるほど、確かに私がこれまで見たどの環境より新鮮で、かつ快適だろう。部屋の中央にある、唯一つのものを除いて。

 

「……なぜ、ここに〝篝火(かがりび)〟が?」

 

 それなりに広い部屋の中、いっそ不自然なほど自然にそこにあったのは、とても見慣れたものだった。

 

 我ら不死人の寄る辺にして故郷。そう言われる、不死の遺骨を薪に、捻れた剣を支えに絶えず燃える歪な火。

 

 ロスリックの各所で見た篝火が、そこにはあった。

 

「確かに、酔狂な場所にある篝火も多く見たが……よもやこのような所にもあるとはな」

 

 篝火を誰が設置しているかは知らない。常にどこかにあり、呪われ人たちの帰る場所となってきたのだ。

 

「どうでしょうか?」

 

 なんとも言えぬ感慨を抱いていると、背後から声が聞こえる。

 

 振り返れば、そこには変わらず立っている職員がいた。その白銀の瞳には、篝火があることへの疑念は感じない。

 

「……君は、何者だ?」

 

 そのあり方に疑問を抱いた。不死人ならともかくとして、現代の人間がこのようなものがあれば驚かないはずがない。

 

 警戒心を立ち上げ、いつでもソウルから武器を取り出せるようにする。よもや、奴らの回し者では……

 

「そうですね。ではこうお呼びしましょう……お久しぶりです、()()()()()()()

「……………………え?」

 

 ……今、彼女はなんと言った?

 

 聞き間違えでなければ、私のことを〝火のない灰の方〟と──そう、呼んだのか?

 

 その呼び方をする人物を、私はこの世界で一人しか知らない。しかし、その人物はもうはるか昔に……

 

 

 

「………………火防女(ひもりめ)…………なのか…………?」

 

 

 

 ありえない。そう思いながらも私は震える声で彼女に問いかける。その時の私の声は、きっとすがるようなものだっただろう。

 

 警戒も忘れ、ただ答えを待っていると……彼女はふわりと微笑んだ。古びた記憶の中に焼きついたものと、同じ様に。

 

「覚えていただけて嬉しいです。ええ、私は貴方に仕え、火を守るもの。瞳の()()()()女……火防女でございます」

 

 その言葉が、私にとっては何よりの証明となった。

 

「本当に、君、なのか」

 

 私は今、幻覚を見ているのではないか。ふらふらとおぼつかない足取りで彼女に歩み寄っていく。

 

 手の届く距離まで来て、とても重たく感じる右手を彼女の頬に伸ばす。けれどあと少しのところで止まった。

 

 触れていいのだろうか。記憶の中にあるよりさらに、ずっと美しくなった彼女に、この穢れた手で。

 

「大きなお手です」

「あ……」

 

 私が逡巡しているうちに、この手は彼女自身の手で頬に触れた。

 

 手甲に包まれた手のひら越しに感じる、仄かな温もり。まるで残り火の様なそれは、それだけで安心できる。

 

「〝あの時〟と……変わっていません」

「……!」

 

 だからだろうか。彼女がそう言った瞬間、思わず抱きしめてしまったのは。

 

「あっ……」

 

 彼女の吐息が聞こえる。当たり前だ、いきなりこのようなことすれば誰だって驚くほかにない。

 

 それでも私は、ひたすらに彼女の華奢な体を抱きしめた。この身に宿る強大な力で壊してしまわないよう、優しく。

 

「君に……君に、会いたかった」

 

 彼女を()()()()()()私には言う資格のない言葉が、無意識に口からこぼれる。

 

 この12000年、彼女のことを忘れたことはひと時もなかった。常に彼女のことが、心の中にあった。

 

 だから、零れ落ちた。もし彼女にもう一度会うことができたとしても、決して言うまいと誓ったはずの思いが。

 

「……ええ。私もです、灰の方」

 

 なのに、彼女は受け入れてくれた。背中に手を回される感覚を覚える。

 

 ああ……この温もりだ。この温もりが、私を私でいさせてくれた。壊れかけた魂を繋ぎとめてくれた。

 

 彼女がいなければ、あるいは私は火継ぎの巡礼を終わらせられずに、途中で亡者となっていたかもしれない。

 

 それほどに、私は彼女が──いや。

 

「それこそ、私に言う資格はない、か……」

「……灰の方?」

 

 ゆっくりと、彼女から離れる。火防女はすぐに察して私の背中より手を離した。そうすると至近距離で見つめ合う。

 

「すまない、いきなりこのようなことをして。迷惑だったろう」

「いいえ。貴方様の手は優しく、私の体を気にかけていらっしゃいました。迷惑などとはとても思いません」

「そうか……だが、どうしてここに?」

 

 私の案内を任された時のカルデアの職員たちとの空気から察するに、彼女はある程度の期間ここにいるように思える。

 

 見た目にしても、仮面をつけていたので確信は持てないが少し違う。その白銀の瞳は、確かに私が〝無縁墓地〟で手にしたものだが。

 

「皆様が力を貸してくれたのです」

「皆が?」

 

 火防女曰く。祭祀場に残っていた人々で、あるものを作り上げたという。

 

 それは、〝魔法〟。魔術でも、呪術でも、奇跡でもない、さらにそれ以上の神秘。かの白竜シースですら生み出せなかった力。

 

 それを使うことで不死人をして悠久と感じる時を超え、ここにいると彼女は言った。そんなものがあったのか。

 

「そして貴方様がくれたこの瞳こそが、その魔法の依り代……〝ソウル継ぎの瞳〟」

「〝ソウル継ぎの、瞳〟……」

「この瞳は私の子孫に受け継がれ、貴方様がこの世に帰った時にこそ力を発揮するもの。すなわち……貴方様が再び、火継ぎの巡礼をするときに」

「な……!」

 

 それを聞いて絶句した。まさか、まだ彼女は火継ぎに囚われているというのか?

 

「本当に、それでよかったのか。だって君は……」

 

 私は君に火防女としてでなく、ひとりの女性として……

 

「いいのです、灰の方。私は火防女、貴方の旅の助けとなるためだけにいる存在。どうか、心配なさらないで」

「…………すまない」

 

 そうだ、彼女は決意をしてこの時代までやってきたのだ。私のわがままによって、それを蔑ろにすることはできない。

 

「しかし、あの彼らが力を合わせるとは。奇妙なこともあるものだな」

「ふふ、そうですね」

 

 脳裏に、祭祀場にいた人々が思い浮かぶ。

 

 鍛冶屋のアンドレイ。不死街のグレイラット。大沼のコルニクス。カリムのイリーナとイーゴン。ヴィンハイムのオーベック。薄暮の国のシーリス。闇術の魔女カルラ。不屈のパッチ(ド畜生ハゲ頭)

 

 

 

 そして……ロンドールのユリア。

 

 

 

 全員一癖も二癖もある、厄介な人物たちだ。だが良い人たちでもあった。彼らには様々なものをもらったのだ。

 

 アンドレイ殿には武具を鍛えてもらい、オーベック殿とカルラ殿には魔術を。コルニクス殿には呪術を、イリーナ嬢には奇跡を。

 

「彼らのおかげで君と会えたのなら……まあ、私もそこそこ幸運なのだろう」

「ありがとうございます、灰の方……さあ、それでは篝火に火を」

「ああ」

 

 彼女を連れ添って、篝火の前まで戻ってくる。

 

 手をかざし、ソウルを少量送り込むと……ボウ、という音とともに篝火が点火した。途端に部屋の居心地が良くなった気がする。

 

 早速腰を下ろした。片膝を立て、その上に腕を置きもう一方の脚を伸ばす。疲れが癒え、消費したエスト瓶や灰瓶が補充されるのがわかった。

 

「ふぅ……さて」

 

 一つ、やることがある。

 

「火防女、少し離れてくれるか」

「はい」

 

 火防女が一歩引いたのを見て、私は右の手甲を外した。すると中から焼け爛れた己の手が姿をあらわす。

 

 手甲を傍らに置き、自分の内側に意識を向けて……ソウルからとあるものを震える手の中に呼び出した。

 

 

 ポゥ……

 

 

 出てきたそれは、小さなソウル。今にも消えてしまそうな、脆弱な魂の光。

 

 それを消さないようにそっと手を動かして……そのまま篝火の中に突っ込んだ。途端に激しい熱が腕を焼く。

 

「──ッ!」

 

 苦悶の声が漏れた。わずかに火防女が身じろぎしたのを感じ、手で制する。

 

「灰の方」

「平気、だ……!」

 

 骨の髄まで侵す熱に耐えて、私はソウルに〝力〟を送り込む。それはこの身に残された、はじまりの火の力だ。

 

 わずかに残っていたそれを使い、ソウルを復元していく。だがなにぶん初めての作業だ、どんな魔術を使うより集中力を要した。

 

 しばしの試行錯誤の末、ようやくその道筋を見つける。一気に力を注ぎ込み、そのソウルに()()を刻み付けた。

 

「オ、オオォオオ……!!!」

 

 

 ボワァアッ!!!!!!!

 

 

 最後に、私が器の中に溜めていたソウルでそのソウルを補強する。すると途端に、篝火が激しく燃え上がった。

 

 天井に届こうかというほどに荒れ狂う火は、少しずつ形を成していく。やがてそれは人の形となり、実体となって──

 

 

 

 

 

 

 

「──────ぁああああっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──火の中から、叫ぶ少女が復活した。

 

「っと!」

「あうっ!」

 

 床に落ちるところだったのを、なんとか受け止める。だが作業で精神力を消耗しきったせいか、尻餅をついてしまった。

 

「はぁ、はぁ……なんとか、うまくいったか」

 

 己の手の中に収まった少女── 一糸纏わぬオルガマリー嬢を見て、そう呟く。

 

 その胸には、見慣れた黒い刻印が浮かび上がっていた。

 

「バー、サーカー、さ、ま……?」

「……今は、眠りなさい。その苦しみを、ゆっくりと癒すのだ」

「あ……」

 

 頭を撫でると、オルガマリー嬢はカクンと首を落とした。すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

 少しの間それを見つめ、磨耗していた精神力を灰瓶で回復するとオルガマリー嬢を横抱きにして立ち上がった。

 

「灰の方、これを」

「感謝する」

 

 火防女が手渡してくれた制服の上着を着せて、ベッドに寝かせる。

 

 白い布……現代ではブランケットといったか、をかけると篝火の前に戻ってきて、ドサリと勢いよく座った。

 

 それからぼうっと篝火を眺めていると、隣に誰か……といっても一人しかいないのだが……が座った。

 

 横を見ると、そこには火防女がいる。いつの日からだろうか、彼女はこうして私の隣に座るようになった。

 

「お疲れ様でした、灰の方」

「……案外、やればできるものだな」

 

 爛れが消え、元に戻った自分の手を見て呟く。一か八かだったが、なんとか成功した。

 

 

 

 私のしたことは簡単だ。

 

 

 

 不死人は死んだ際、肉体が消滅する。そして篝火にて復活を果たすが、昔考えたのだ。呪いは体ではなく魂に刻まれるのではないかと。

 

 そうして魂に記憶された肉体が再構築される。そうでなければ体が消滅する説明がつかないし、死体が残るはずだ。

 

 その法則を逆手にとって、はじまりの火の力を使ってわずかに回収できたオルガマリー嬢のソウルにダークリングを刻み、復活させた。

 

「おかげで完全に火は消えたが……まあ、軽い代償だろう。どのみち王たちを倒さねばならないのだからな」

 

 マスターたちには言っていなかったが、今の私にはじまりの火の力はない。今回ので完全に《薪の王》ではなく、元の名もなき不死人だ。

 

 故に特異点に潜んでいるだろう《薪の王》たちをもう一度倒し、王の薪を集め、はじまりの火を灯す。それが私の目的だ。

 

「今回も、長く険しい旅路になりそうだ」

 

 だが、どんな苦難が待ち受けようとも関係ない。

 

 この事態を引き起こしたものすべてを倒し、私はまた最初の火の炉へ──

 

 

 スッ……

 

 

「……火防女?」

 

 唐突に自分の手に重ねられた白い手に、困惑して彼女を見る。

 

「震えております」

「……っ!」

「恐ろしいのですか、己のしたことが」

 

 火防女の質問は、要領を得ないものだった。

 

 しかし、何を言いたいのかはすぐにわかった。

 

「……………………もっと、手があったのでないかと思うのだ。これ以外の、より良い方法が」

「……はい」

 

 私は彼女を、不死人として復活させた。だが、それは決して正しいことではない。

 

「私は彼女に、重荷を負わせてしまった」

 

 彼女はとても苦しむだろう。己が不死人であることに怯え、恐れ、あるいは狂ってしまうかもしれない。

 

 いつだってそうだ。守りたいと思ったものには手が届かず、何かを犠牲にすることでしか何かを救えない。

 

 壊す力はいくらだってあるのに、救う力はない。これがお前の運命であると決められているが如く、大切なものは手から滑り落ちていく。

 

「だから、全てを終わりにしたのに。なのに……っ!」

「灰の方」

「あ…………」

 

 手を握られることで、正気に戻った。すぐに心の奥から自己嫌悪が滲み出てくる。

 

「……すまない」

「お気になさらずに。それより一つ、してみたいことがあります。よろしいでしょうか?」

「えっ? あ、ああ」

 

 いきなりの言葉に素っ頓狂な声を上げると、「では」と彼女は私の頭に手を回し……なんと膝の中へ誘った。

 

 激しい動揺、再び。えっ、なぜ私は膝枕をされているのだ!?と、とりあえず傷つけないように兜はソウルにしまって……

 

「ひ、火防女? これは……」

「灰の方、貴方様もお休みください」

 

 そう優しい声で言われて、頭を撫でられる。するとどうだろう、とっくに忘れたはずの眠気が襲ってきた。

 

 必死に抗おうとするが、それを阻むように火防女はそっと瞼を閉じさせてくる。途端に視界が暗闇に閉ざされて……

 

 

 

 

 

「どうか、今このひと時は……貴方に温もりを」

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に、眠りに落ちた。

 




また賛否両論分かれるなぁこれ。生存っていうか復活だし。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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