灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

2 / 98
どうも、友達に合わせてたら体力テストで持久走ビリッケツだった作者です。



ロマニ・アーキマン

「痛い……」

「災難でしたね」

 

 ひりひりする頬をかきながら、廊下の中を歩く。となりのマシュさんから同情的な声がかけられた。

 

「まさか、始まって十分もしないうちにまた眠りだすなんて……先輩はレムレムするのが得意なんですね」

「いやぁ、面目無い」

 

 ついさっきまで俺は、管制室……大きな天体みたいな機械のあった部屋で説明会を受けていた。

 

 だけどまだ量子ダイブとやらの影響が残ってたみたいで、話を聞いているうちにだんだん瞼が落ちていったのだ。

 

 すると突然鋭い痛みとともに眠気と頬が張り飛ばされ、そのまま所長さん……たしかアニムスフィアさんだったっけ? に追い出された。

 

 アニムスフィアさんはなんというか、すごく神経質そうな人だった。あれだ、うちの学校の生徒会長に似てる。

 

「それにしても、オルガマリー所長の張り手は相当なものだと思ったのですが。よく一般人の先輩がかすり傷程度で済みましたね?」

「なんか昔から無駄に頑丈なんだよね」

 

 多分、爺ちゃんの影響だろう。爺ちゃんは古風な人で、男ならこれくらいって少し護身術を教えてくれた。

 

 その過程で、夏休みとか爺ちゃんの家に泊まりに行くと必ず筋トレ地獄だったんだよなぁ。まあ、爺ちゃんっ子だから嫌じゃなかったけど。

 

「なるほど、だから先輩はスタイルがいいのですね。一般人の平均的な体型より多少ガタイが良いのは、そういうことでしたか」

「そうそう」

 

 あ、そういやこの指輪を肌身離さず持っとけってもらったのも最初に受け身習った時だったっけ。

 

 まあ、それはどうでもいいとして……改めて見ると、この子本当に可愛いなぁ。友達の中にもこんなレベルの子はいなかった。

 

「あ、着きましたね。ここが先輩のお部屋です」

「え、あ、ああ」

 

 テクテクと歩くマシュさんをみてるうちに、どうやら俺にあてがわれる部屋に到着したようだ。

 

「その、できれば状況を説明したいのですが……」

「いいよいいよ、そのうち誰か捕まえて聞くからさ。管制室? に戻るんでしょ? ここまでありがとう」

 

 お礼を言うと、マシュさんは少し驚いたようだった。

 

 しかしすぐに、ふっと微笑みを浮かべる。初めてみたその顔に、不覚にもどきりと胸が高鳴った。

 

「なんの……先輩の頼み事なら、昼食をおごる程度までなら承りますとも」

「それは頼もしいな。それじゃ」

「はい。ではまた、運が良ければ」

 

 そう言うと、マシュさんは踵を返して管制室に戻っていった。残ったのは俺と、肩に乗るフォウだけ。

 

「お前は一緒に行かなくてよかったのか?」

「フォウ、フォーウ♪」

 

 よいではないかー、と俺の頬をテシるフォウ。まあいいか、と納得して扉に向き直った。

 

 するとまるでコンビニのドアのごとく、鉄の扉がスライドする。学校のドアもこうだったらいいのに。

 

「はーい、入ってま――」

 

 そして。

 

 ドアが開いて最初に見えたのは――見知らぬ男のパンツだった。こう、カラフルな赤と白のボーダーの。

 

 しばし硬直。俺は絶句し、ズボンを履きかけている男も固まってこっちを見ている。時間にして十秒くらいか。

 

「――うぇえええええええ!? 誰だ君は!? ここは僕のサボり場だぞ!?」

「お前こそ何者だ!?」

「何者って、どこからどう見ても健全なお医者さんじゃないか!」

 

 腰に履きかけのズボンをひっかけて、ばっ! と両手を広げる男。なんだろう、無性にイラァ……っときた。

 

「というか、ここが俺の部屋って案内されたんだけど……」

「うっそ! なら君が新しいマスター候補の一人なのかい?」

 

 ちょっとまってね! と男はいそいそとズボンを履く。野郎の着替え姿なんて見てても虚しいので目をそらした。

 

 一分ほどして、いいよ〜と声がかかる。視線を戻すと、ズボンを履いて両手に手を添える男がニコニコと笑っていた。

 

「やあやあ、初めまして。予期せぬ会い方だったけど自己紹介しよう。僕はロマニ・アーキマン。このカルデア医療部門のトップだ。よろしく」

「はぁ。俺は藤丸立香です。よろしくお願いします」

 

 とりあえず挨拶して手を差し出す。ロマニさんはちゃんと挨拶できてえらいね、と笑って手を取った。

 

「あ、僕のことはDr.ロマンと呼んでくれていいよ。みんななぜかそう呼ぶからね」

「ああ……ゆるふわ系か……」

「ゆるふわ? ああ、この髪のことかい? 時間がないからいつも適当にセットしてるんだよね」

 

 ホワホワ笑うドクター。本当に愛称の通りテキトーっぽい性格の人だな……でも、なんか悪い人ではなさそうだ。

 

 自己紹介も済ませたところで、ドクターが紅茶とお菓子を用意してくれる。一応俺の部屋のはずなのだが、手慣れた様子だった。

 

「しかし、今は説明会の途中だろう? もしかして追い出されたクチかい?」

「はい。量子ダイブの影響でこう、うつらうつらと……」

 

 こう、パシーンとやられましたとジェスチャーする。ドクターは愉快そうに笑った。

 

「なるほど、あれか。ということは初めて? 訓練は?」

「恥ずかしながら、全くしてません……」

「ああ、君は一般枠の新人なんだね…………あれ。あの枠の勧誘ってかなり強引だった気が……」

「ええ、サスペンス並みの誘拐劇でした」

「ええっ、平気かい? どこも怪我とかしてないよね?」

 

 慌てて俺の体を触り、心配するドクター。こういうところを見ると、医療部門のトップというのも本当なのだろう。

 

 というか、仮にも一部門の長なら事情に詳しいはずだ。ちょっとここのことを詳しく聞いてみよう。

 

「そういえば、ここってどこにあるんですか?」

「うん? そんなことも知らされてないのか。まあ簡単に言えば、標高6,000メートルの雪山の地下だよ」

「ろっ……!?」

 

 なんだそりゃ!? いったいどんな人外魔境に連れてこられたんだよ俺! 

 

「まあ、驚くのも無理はないよね。だが、こうして僕と君は出会えた。そう思うとあながち悪くないじゃないか」

「ええー……」

「その反応はひどくないかな藤丸君!?」

 

 いやだって、この施設変な人しかいないんだもん。いきなり先輩呼びしてくる子とか、謎生物とか。どっちも可愛いからいいけど。

 

「ま、まあともかく……もうすぐレイシフト実験が始まるのは知ってるよね?」

「なんとなーく、聞いたような聞いてないような……?」

「どれだけ前の段階で寝たんだい……」

「……割と最初の方?」

「その反応を見るにそのようだね……で、話を続けるけど。実験にはスタッフが総出で駆り出されるんだけどね、健康管理が専門の僕は暇だったんだよ。で、手持ち無沙汰にしてたら所長に〝ロマニがいると空気が緩むのよ! 〟って叩き出されたわけさ」

「それはまた……道理ですね」

「そ、そこは理不尽ですねっていうのが普通じゃないかなぁ……」

 

 だって本当に、この人がいるだけで空気が緩みそうだもんなー……クラスにいたら自然と空気が和む感じの人だ。

 

 確か親戚にそういう天然気質の人がいた。確か……名前はそうだ、白崎さんだ。同年代だったと思うけど。

 

 そんなことを思いつつ、ドクターと会話を交わす。幸い友人にはなぜかオバケと言われるコミュ力があるので苦ではなかった。

 

「で、その時の所長の顔と言ったらねー」

「あはは、あとで怒られたんじゃないですか?」

「まあね……君、すごいねぇ」

「……いきなりなんですか?」

 

 突然の言葉に面食らってしまった。

 

 俺のどこがすごいというのか。俺なんてせいぜい、平凡もいいところだというのに。

 

「いや、その落ち着きようがさ。普通、こんなことになったらもっと騒いだりヒステリックになるものだろう?」

「そんなもんですかね?」

「うん、その順応の早さは見事だよ」

 

 むしゃむしゃとクッキーを頬張りつつ首をかしげる。そんなに変だろうか。あ、フォウの毛皮ここのあたりが他より少し柔らかい。

 

「まあ、確かに驚きはしましたけど……みんな、いい人そうなので」

「そうかい? なら僕も……ん?」

 

 不意に言葉を止めて、視線を固定するドクター。

 

 不思議に思い、その視線を追いかけてみると服の裾から覗く指輪だった。古いものだから気になったのだろうか。

 

「藤丸君、それは……」

「あ、これですか? 爺ちゃんからの貰い物です。今じゃ大切な形見ですよ」

「……そうか」

 

(あれは、もしかして()()狩人たちの? いや、でもなぜ一般人の彼の祖父が……)

 

「? どうしたんですか?」

「……いや、なんでもないよ。それより紅茶のお代わりいるかい?」

「あ、いただきま――」

 

 

 ピピー

 

 

 カップを差し出した瞬間、ドクターの手首につけられた機械から音がした。つられて俺たちはそちらを見る。

 

『ロマニ、あと少しでレイシフト開始だ。万が一に備えてこちらに来てくれないか?』

「レフか。それはいいけど、何かあったのかい?」

『いや、Aチームは問題ないがBチーム以下の慣れてないものたちに変調があってね。おそらく不安によるものだろう』

「あらら、そいつはいけない。なら麻酔でも打ちに行こう」

『助かるよ。今医務室にいるだろう? そこからなら二分でこれるはずだ』

 

 その言葉を最後に、レフ教授の声は止まった。ドクターはあちゃー、という顔でこちらに振り返る。

 

「隠れてサボってるから……」

「まずいぞ、ここからだとどう考えても五分以上はかかる」

 

 めっちゃ慌ててティーセットを片付けるドクター。うん、この人やっぱりテキトーなのかもしれない。

 

「それじゃあ藤丸君、おしゃべりに付き合ってくれてありがとね。今度医務室に来てよ、美味しいケーキを用意しておくから」

「あ、はい。じゃあ俺も――」

 

 俺も戻って所長に謝りに行こうかな、と立ち上がった瞬間――フッと明かりが消え目の前が真っ暗になった。

 

「あれ? いきなり停電なんて、何が――」

 

 

 

 

 

 ドンッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 ドクターが言いかけた時、とてつもない揺れが部屋全体を襲った。ティーセットが飛び跳ね、俺たちも浮き上がるほどの規模だ。

 

 いきなり何が、そう困惑していると今度は天井に埋め込まれた装置から甲高い警報が鳴り始める。

 

「な、なんだ、何が起こって――」

 

 

 

 

《――緊急事態発生、緊急事態発生。中央発電所および中央管制室で、火災が発生しました》

 

 

 

 

 俺の疑問に答えるように――そんなアナウンスが、けたたましいアラームとともに流れてきたのだった。




読んでいただき、ありがとうございます。
感想をお願いします。
実はこれともう一つ、以前から考えていたものを投稿してみようと思うのですが、どうでしょう?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。