はい、言い訳もここらにしておいて。今回は前回の続きです。投稿時間が空いた分長くなっております。
楽しんでいただけると嬉しいです。
で、今に至る。
俺の発言で闘争心に火がついた二人は、料理対決をすると言い出した。なんでもこの二人、普段から密かに競い合ってたらしい。
その日に頼まれたお互いの料理の総数で勝敗を決め、負けたほうは次の日の仕込みと皿洗いをすべて受け持つルールだとか。
止める間もなく電光石火の勢いで準備が進められ、今や《審査員》のプラカードが立てられた席に座っている始末である。
「「……………………」」
対して、所狭しとたくさんの食材と簡易的なコンロが置かれた舞台の上では二人がすごいオーラを発していた。
ちなみに不穏な空気を察知した職員の人たちは驚きの速さで食事を済ませて食堂から退出していった。
さすがは人理保障機関の職員であると言わしめる、実に鮮やかな動きだった。
「うぅ、俺が迂闊なこと言わなきゃ……」
「いえ先輩、事前に言っていなかった私も悪いです……」
思わずつぶやくと、隣に座るマシュからフォローされてしまった。
何か言おうと口を開くと、トントンと小さく音を立てて審査員席の横の司会席(ダンボール製)にいた女性が立つ。
白銀の瞳と髪を持つその人の名は、ルーソフィアさん。前の一件で、悠久の時を経て来たバーサーカーの恋人とわかった人だった。
「それではこれより、チキチキ!〝第一回 カルデア料理対決〟を開始いたします」
透き通るような声で、ルーソフィアさんが言った。その瞬間、さらに二人の放つ重圧が倍ほどに増す。
うん、怖い。始まってすらいないのにすでに逃げたくなってきた。でもそんなことをしたらお玉と雷が飛んでくるのは必須だ。
俺は英雄じゃない、ただの一般人だ。サーヴァント二人から逃げられるような力は持ってない。
ならばもう、腹をくくろう。元はと言えば、俺の一言が元凶なのだから。
「絶対に、乗り越えてみせる……!」
「先輩……!」
「司会進行は私、エミリアが担当いたします。そして審査員の皆様方、よろしくお願いいたします」
ルーソフィアさんがこちらを見て、俺とマシュ以外の審査員たちを見る。
「ったく、面倒なことになっちまったぜ……」
「ボヤいてももう仕方ねえだろ」
同じ顔をした二人は、言わずもがなあの場にいたキャスニキと槍ニキ。どちらもなんで俺がって顔をしてた。
「私はなぜ、こんな所に座らされているのでしょうか……」
さらにその隣にいるのは、長身の美しい女性。やや大胆な服に身を包み、額には不思議な模様が浮かんでいる。
ライダーと呼んでいる彼女は、召喚されたサーヴァントの最後の一人である。タイミング悪く食堂に入ってきたため、これに巻き込まれた。
ちなみにオルトリアさんはそういうのに興味がないのか、残りのハンバーガーを持って部屋に帰ってしまった。
そして、4人目にして最後の審査員は……
「……私も審査員でいいのか?」
腕組みをして座る彼──いつものように古びた騎士鎧と外套に身を包んだバーサーカーは、不思議そうに尋ねる。
「はい。灰の方も是非」
「うむ……」
それにルーソフィアさんが優しく微笑んで頷けば、バーサーカーは少々気難しい声を漏らした。
この三週間の中で、何度か見た光景である。どうもバーサーカーは、ルーソフィアさんに弱いみたいだ。
ここにいるのだってそう。普通に会話はしてくれるんだけど、数回誘ってみたものの一緒に飯を食うことは叶わなかった。
〝サーヴァント以前に、不死人になりきった自分にはそれは不要〟の一点張りで、取りつく島もないのだ。
時々、食堂に来てはいるみたいだけど……
「バーサーカー」
「……どうしたマスター?」
「元凶の俺が言うのもなんだけどさ、参加してみない……?」
ともかく、これはチャンスかもしれない。これを機にもう少しバーサーカーと仲良く……!
そう思い言ってみれば、バーサーカーはふむ、と兜の顎の部分に手を添えた。それが妙に様になっている。
「そうだぜ、せっかくなら参加しろよ」
「俺も賛成だ」
「私もです」
「みんな……!」
賛同してくれたことに感動を覚え、サーヴァントたちを見る。
が、全員の眼に浮かぶ「テメェだけ逃げるとか許さねえぞコラァ」という無言の訴えに速攻目を逸らした。
そ、それはともかく。バーサーカーは真剣に考えこんでいる。参加するか悩んでいるのか、あるいは断る言葉を考えているのか。
「……別に、貴公らが楽しむのはいいだろう」
やがて、おもむろにバーサーカーは話し出した。
「サーヴァントはいっとき人に戻れるやもしれんし、マスターやマシュ殿は気概を保つこともできる」
淡々と話すその声は、やけに真剣で。思わず居住まいを正してしまう。
「だが、私は違う。食事という概念は遠い記憶の中にある知識でしかない、とうの昔に捨ててしまったものだ。それではあまりに彼らにも、食材にも失礼だろう」
「バーサーカー……」
「故に、貴重な資源を使ってまで行う催しに私のような者が参加するのは、と思ってな」
そんなことない、と返そうとしたけれど……その言葉は、決して俺の口から外に出ることはなかった。
だって俺は、不死人じゃない。バーサーカーの気持ちもわからないのに、むやみに否定などできるはずがないのだから。
食堂を、これまでとはまた違う意味で沈黙が包む。他のサーヴァントたちも、思うところあるのか複雑そうな顔で口を噤んでいた。
「灰の方」
いよいよ気まずい雰囲気が最高潮に達する時──ルーソフィアさんが声を上げる。
その声に、ゆっくりとルーソフィアさんの方を見るバーサーカー。つられて見れば、彼女はまた微笑んでいる。
「かつて、あなたは私に仰いました。火防女ではなく、一人の女性として生きて欲しいと」
「……ああ、そうだった。けれど、それが?」
「私も同じでございます。どうか、ここにいる間は貴方様に人でいてほしいのです」
「……火防女」
そっと胸に手を置いて、慈しむような表情で言うルーソフィアさん。あまりに綺麗なその微笑に若干見惚れてしまう。
「これは火防女ではなく、貴方様を想う一人の女としての私の願いです。どうか、お聞きくださいますよう」
「………………」
また沈黙してしまうバーサーカー。先ほど以上に真剣な様子で、ルーソフィアさんに言われた言葉を考えている。
俺たちはただ、答えが出されるのを待った。さっき以上の緊張で手が力んで、ズボンを軽く握りしめる。
「……………………ふぅ。やはり君はずるいな」
やがて。深いため息とともに、バーサーカーはやや明るげな声でそう言った。
思わず笑顔になって、マシュと顔を見合わせる。サーヴァントたちも笑顔になって、空気は和らいだ。
何はともあれ、バーサーカーも無事参加するということで料理対決が始まった。
「お題は〝サンドイッチ〟です。お二人とも、頑張ってください」
サンドイッチか……シンプルだけど、その分作り方ではっきりと味の良し悪しが出るよな。
まあ、この二人なら平気だろうと見るとものすごく真剣な顔をしていた。まるでその体から滾るオーラが見えるようだ。
「それでは、よーい……」
すっとルーソフィアさんが手をあげる。二人は瞑目し……相変わらず無名の王はわからない……その時を待つ。
それは俺も同じであった。まるで高く振り上げられた剣のようなその手に、ゴクリと喉を鳴らした。
「始め」
そして、ルーソフィアさんが手を振り下ろした瞬間──戦いは始まる。
腕組みをしていた姿勢から一転、瞬きする間に包丁を持った二人。そしてその手が食材の山に伸びる。
一瞬の思考、その後に迷いのない動きでそれぞれの食材を決め、まな板の上に置いて狙いを定めた。
「ハッ!」
「まずエミヤ選手が手に取ったのはキャベツ、どうやら千切りにするようです。鮮やかな包丁さばきと完璧な猫の手ですね」
す、すごい!とんでもないスピードでキャベツが解体されていく!うちの母さんよりも断然早いぞ!?
「ハァァアア!」
「どうやらあまりの速度に壊れないよう、包丁とまな板を魔術で最大限堅牢にしているようです。素晴らしい強化魔術ですね」
「魔術の無駄遣い!?」
一切無駄のない動きは、彼が料理のプロであることをうかがわせる。スキルにしたら料理人EXとかじゃないだろうか?
「一定のリズムで奏でられる包丁の音が小気味良い中、無名の王選手は……」
「………………!」
エミヤが猛烈な勢いで野菜を刻む一方、無名の王は慎重な手つきで魚……アジを解体していた。
滑らかな手つきで鱗と……確かゼイゴだっけ?を削ぎ、頭を落として血抜きをする。エミヤに勝るとも劣らない素早さだ。
「無名の王選手が作ろうとしているのは、推測するにフィッシュサンドかアジフライサンドでしょうか。どちらにせよ、無名の王選手の腕前ならば十分に期待ができます」
ルーソフィアさんが解説をしている間にエミヤはキャベツを切り終え、同時に無名の王は水でゆすいで綺麗にしたアジを再びまな板へ。
引き続き無名の王が魚の解体を続ける中、エミヤが次に選んだのは──豚肉だった。厚みのあるロース肉だ。
脂肪と赤みの部分に包丁を入れ、鮮やかな手並みで剥離させる。おお、あんな滑らかにできるのはすごい。
「俺も一息にやろうとするんだけど、時々脂が残っちゃうんだよね」
「へえ、そういうものなんですか」
「おや、藤丸様は料理の経験がおありで?」
突然話しかけられてびっくりする。しどろもどろになりながら、なんとか答えを返した。
「あ、はい。爺ちゃんにちょっと仕込まれて」
「そうですか。それでは藤丸様を解説役にしましょう」
「ええ!?」
そんないきなり言われても!?
すぐに辞退しようとするが、面白がって賛同するサーヴァントたちと「先輩、大抜擢ですね!」というマシュのキラキラとした目に負けた。
ということで、俺のプレートの右上にはちょこんと〝解説役〟の文字が。
「責任重大になってしまった……」
「先輩、頑張ってください!」
「……ところで今更だが、君はなぜ司会を?」
「エミリアとしての私は、よくそういう役回りでしたので……さて、それでは試合の実況に戻りましょう。エミヤ選手、脂と赤みを分け終えて次の段階に入っています」
うなだれるのもそこそこに視線を戻すと、エミヤは綺麗な赤いロース肉に独特なポーズで調味料を振りかけていく。
「解説の藤丸さん、あのポーズにはどんな意味があるんでしょうか?」
「えっと、特にないと思います」
「そうですか。では今度は無名の王選手を見ましょう」
無名の王は、変わらず魚をさばいていた。が、その光景があまりに異様過ぎた。
バヂッ、バヂッバヂッ!
なんと、無名の王の体から出る雷によって包丁が浮かんでおり、本人以外にももう一匹平行して処理していたのだ。
しかも無駄に正確であり、雷によって焦がしたりしないよう細心の注意を払っている。その手つきは、まるで達人のごとく。
「無名の王選手、自分の能力を使った作業の短縮化を図っています。実に賢いですね」
「こ、こっちはこっちで結構な力の無駄遣いのような……」
「さて、ここからどういう展開になるのか楽しみです」
そんな俺のつぶやきは軽やかにスルーされた。ガクッとうなだれると、マシュの手が肩に乗せられる。
まあ、そんな俺の内心はともかく。エミヤも驚いたようで、黙々と魚を解体する無名の王に不敵に微笑んだ。
「ふっ、なかなかやるな」
『………………そちらもな』
それから数分、ほぼ同時に無名の王が魚をさばき終えるのと、エミヤが下準備を済ませる。そうすると次の段階に進んでいく。
「両選手が取り出したのはバットと卵、小麦粉、そしてパン粉です。ここで両者とも揚げ物系で攻めることが確定しました」
「無名の王はアジフライ、エミヤはトンカツだね」
俺たちの予想通り、小麦粉をつけたアジと豚肉を溶き卵に絡め、さらにパン粉をしっかりと両面につけた。これで後は揚げるだけだ。
俺たちが見守る中、作業と同時進行で温められていた揚げ油に物が投入されていく。その際のジュワ、という音が心地よい。
約2〜3分ほど揚げられた後に油の中から現れたアジと豚肉は、見事なきつね色をしていた。
「おぉ……」
思わず声が漏れる。母さんの天ぷらが好きで、よく台所で手伝いをしながら作るのを見てた。
感動もそこそこに、サクサクと良い音を立ててカットされた具は他のものと一緒にパンに挟まれ、サンドイッチが完成する。
「ではまず、最初は私からいこうか」
最初に出てきたのは、エミヤのカツサンド。
一見して普通のサンドイッチ、なのにあんな勝負を見た後だからか妙に緊張してしまう。
「それじゃあ、いただきます」
俺が手を合わせるのを皮切りにいただきます、とみんな言ってサンドイッチを手に取った。
見つめるのは一瞬、程良い大きさにカットされたカツサンドを口に入れる。そして噛んだ瞬間──カッと目を見開いた。
「おいしい!」
「とてもおいしいです!」
衣のサクサクとした食感、ふんわりとしたパン、何より分厚いカツからあふれ出る肉汁!どこを取っても一級品!
それでいて余計に脂っこくなく、食べやすい。すでに昼食を食べたから不安だったが、これなら全然いけるな。
ちなみにお残しなどしようものなら問答無用で剣槍が飛んでくるので、カルデアで誰一人としてご飯を残す人はいなかったりする。
「ふむ、良いですね……」
「おお、こりゃ確かにうめえな」
「弓兵、おめえ料理人に転職したらどうだ?」
「あいにく、これでも一応英霊なのでね」
他の英霊たちにも好評の中、ふとバーサーカーを見ると……未だ腕組みをしていた。
「バーサーカー、食べないの?」
「……ああいや、すまないマスター。数千年ぶりのまともな料理でな、つい眺めてしまった」
さらっと重いことを言いつつ、バーサーカーは籠手を取ると兜に手を伸ばし、留め具らしきものを外した。
そうしてゆっくりと脱ぎ去って……中から出てきた顔に、重わずぽかんと口を開けてしまう。
初めて見るバーサーカーの顔は、とても凛々しかった。
長い睫毛にシャープな顎ライン、すっと通った鼻筋の下には引き締まった薄い唇。枯れたような白い髪は短く切り揃えられている。
何より印象的なのは、その瞳。
切れ長のそれはまるでルビーか何かのように真っ赤で、深い叡智を宿しているように思えた。
「……? マスター、どうかしたのか?」
「っ、あ、いや、綺麗な目だなって思って」
とっさに思ったことを口に出すと、バーサーカーは少し驚く。その後にふっと微笑んだ。
「そんなことはないさ。私よりも、マスターの瞳の方がまっすぐで良いものだよ」
「あ、ありがとう?」
しどろもどろに答える俺にバーサーカーは微笑み、一瞬の後に真剣な顔になるとサンドイッチを手に取る。
またしばらく見つめて、やがて意を決したように口の中に入れて……軽く目を見開いた。
「どうかね?君には初めて料理を食べてもらうわけだが」
問いかけるエミヤに、自然と全員の目線がバーサーカーに集まる。
「…………あむ」
止まっていたバーサーカーは、しばらくしてゆっくりと咀嚼を始めた。
恐る恐るといった様子は、本当に久々の食事なんだなと思うほどに緩慢だ。それはまた、味わっているようにも見える。
数分して、ゴクリとサンドイッチを飲み込むバーサーカー。果たしてその感想は……
「ふむ。肉とはこういう味だったか」
『そこから!?』
「……ふふっ」
笑うルーソフィアさんを除いて全員ずっこけた。そりゃあ何千年も食べてなかったらそうなるか!
「……随分な食生活を送ってきたようだな」
「まあ、良いとはいえないだろう。ともあれ、苔玉よりは断然美味い」
苔玉て。
ひくっとエミヤの口角が引き攣る。さしものエミヤも、苔と比べられるのは思うところがあるらしい。
悲惨な食生活を想起させるバーサーカーは、黙々とサンドイッチを平らげると「良かった」とだけ言った。
『次は…………俺だな…………』
食べ終わった皿が片付けられ、今度は無名の王のサンドイッチが机の上に置かれる。
『銀騎士の…………盾サンドだ…………』
真っ白な皿に乗るサンドイッチは、盾みたいな形にカットされていた。
茶色い焦げが模様のようになっている上、おまけにトマトには剣の形をした小さな串が刺さっている。
いつも通りの独特な外見に苦笑しつつ、手に取る。そうすると思い切りかぶりついた。
次の瞬間、じゅわっと口内いっぱいに広がる衣と油の食感。次いでアジ自体の柔らかな身を噛み砕いて咀嚼する。
「ん〜、おいひい!」
「はい、いつもながら実に美味しいです!」
『……それは…………よかった…………』
エミヤのも最高だったけど、無名の王のもやっぱり美味しい。
時折ピリッと絡む辛子の味を堪能しつつ、先ほど同様美味しそうに食べるサーヴァントたちの向こうにいるバーサーカーを見る。
一見して、さっきと同じように黙々と食べている。なんともいえない感想を言っていたが、今回はどうだろうか……?
『……………………どうだ』
それまでいつものように黙して俺たちが食べる様子を見ていた無名の王が、不意にバーサーカーの方を見て問いかける。
最初に厨房に来た時以来、無名の王の方から食事中に声を発したことはない。珍しい光景にちょっと驚いてしまう。
「……そうだな。やはり魚とはこのようなものだったか、という思いが強い」
「あ、やっぱり」
『……………………』
心なしか、無名の王がシュンとしているように見える。まあ、料理に関してはかなり真剣(物理込み)だしなぁ。
「だが」
これはダメかと思ったのもつかの間、バーサーカーの言葉には続きがあった。
「なぜだろうな。少し、
「……!」
バッと顔を上げる無名の王。
変わっていないはずのその顔は、どことなく輝いているように見える。
『……そうか…………懐かしいか…………そうか……』
なんとなく嬉しそうな声音で、繰り返す無名の王。なんでだろう、いつも怖いのになんか上機嫌に見える。
ふとルーソフィアさんを見ると、少し楽しそうに食べるバーサーカーを見て慈しみにあふれた微笑みを浮かべていた。
それから約十分、全員食べ終わって諸々の片付けを終えた二人が机の前に立つ。
そうするとバチバチとメンチを切り合った。うん、さっきまでのちょっと和やかな雰囲気がどこにもない。
「それでは採点に入りましょう。審査員の皆さん、お願いします」
「採点?」
あ、いつの間にか机の上に1〜5の番号が書かれた丸い棒付きプレートがある。あれだ、バラエティ番組とかでよく見るやつだ。
「皆様、一斉にお願いします。ではまずエミヤ選手から、せーの」
はい、とルーソフィアさんが手を叩くのと同時に、全員がプレートを挙げる。
「藤丸さんが5点、キリエライトさんが5点、クー・フーリンのお二人が4点、ライダーさんが4点、灰の方が3点、ですか」
バーサーカーの評価が思ったより低かった。てっきり久しぶりの食事だから満点になるかなと思ってたけど。
「灰の方、その点数の理由をお聞きしても?」
「何、単なる私の気持ちの問題だ。これまでの食生活を鑑みるに、それと比べて最高の評価を出すのも安易と思ってな」
「なるほど……では、無名の王選手に移りましょう。審査員の皆様、同じようにプレートをあげてください。それではせーの」
再びあげられるプレート。
そしてその内容は、ちょっと驚きのものだった。
「藤丸さんとキリエライトさん、先ほどと同じく共に5点。クー・フーリンさんたちが4点と3点、ライダーさんが3点。そして灰の方が……5点」
先程から一転、満点を出したバーサーカー。心なしか無名の王が嬉しそうだ。
「同点、ですね」
「うん」
ということは……
「今回の勝負は、引き分けになります」
「……ふむ」
『………………ほう』
その結果を聞いて、鋭い目で真正面から睨み合う二人。
やがておもむろに、どちらからともなくスッと手をあげる。まさか、結果が気に食わなくて物理的な戦いを──!?
「良い勝負だった」
『…………ああ』
と、そんな俺の不安は杞憂に終わり。
二人は不敵な笑みを……無名の王は全くわからないけど、雰囲気的に……浮かべ、固く握手を交わした。
ホッとしつつ、無事に終わってよかったと心底思う。いやぁ、口は災いの元だね。
というわけで、第一回カルデア料理対決は無事終了した。
次回からいよいよオルレアン、頑張るぞ!
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。