今回からオルレアンです、楽しんでいただけると嬉しいです!
いざ、特異点へ
ふわふわ、ふわふわ。
キラキラ、キラキラ。
その方は、とても美しい。
雪の中で踊る様は、まるで妖精のよう。
我が役目は、彼女を……
………………彼女を、なんだ?
何故だ、思い出せない。
私は誰だ。ここはどこだ。目的は?
この人は、いったい誰なのだ?
すると、指輪が言う。
お前は、〝獣〟だ。
蹂躙し、粉砕し、全てを壊す、獣だと。
そうか。私は、獣だったのか。
ならば獣らしく、主人の側についていよう。
私の頭を撫でる、誰とも知れない
ああ、顔も思い出せぬお方よ。
この■■■、最後まであなたのお側に──
●◯●
第一回カルデア料理対決から、一週間ほど経った頃。
ついにカルデア職員たちが、特異点の明確な位置を特定した。すぐにその情報は俺たちにも行き渡り、早速レイシフトすることに。
というわけで、俺も現在進行形でレイシフトの準備をしているわけだけど……
「うーん、なかなか恥ずかしいなこれ」
「フォウ?」
ぴっちりと肌に張り付くようなデザインのスーツに、むず痒い気持ちになって頬をかく。するとベッドの上のフォウが首を傾げた。
なんでもこのスーツ、レイシフトの安全性を上げるための魔術的な効果があるらしく、着るのを必須と言われた。
あっちに行ったら霊子変換の応用とかなんとかで、ここ数週間で着慣れたカルデアのマスター用制服に変わるらしい。
すごい技術だな、と思いつつやっぱり少し恥ずかしく思っていると、コンコンと扉がノックされた。
「はーい?」
「先輩、マシュです。準備は終わりましたか?」
「うん、今行くね」
フォウが肩に飛び乗ったのを確認すると、壁にある装置に手を押し当てて扉を開く。
スライドして開いた扉の向こうには、俺と同じような紫色のスーツといつものパーカーを着込んだマシュがいた。
「おはよう、マシュ」
「はい、おはようございます先輩」
体のラインがはっきりとわかるスーツに一瞬どきりとしながらも、なんとかいつもの笑顔で言う。するとマシュも笑顔で挨拶してくれた。
「体調はどうですか?」
「うん、バッチリ。そういうマシュこそ、気分は平気?」
脳裏に、瓦礫に押しつぶされていた彼女の姿がよぎる。
普通に考えて、下半身が潰れるなんて一生のトラウマものの体験だけど、大丈夫だろうか……?
「私も大丈夫です。心配してくださってありがとうございます」
「うん、それじゃあ行こっか」
部屋を出て、マシュと並んで中央管制室に向かう。この数週間で食堂、トイレ、会議室、中央管制室への道は完全に記憶した。
「もう完全に私の案内はいらなくなっちゃいました」
「いやいや、まだ知らない場所もいっぱいあるから今後も頼ると思うよ」
「それなら、まだまだ私が教えることもありますね!」
グッと両手を握り、花が咲くような笑顔で言うマシュ。ああ、すごく可愛い。なんかこう、こっちの頬も緩む。
そんなことを思いつつしばらく歩いていると、見覚えのある通路に差し掛かる。最初にカルデアに帰ってきた時、バーサーカーたちと会った角だ。
十字路のようになっているその通路を通り抜けようとした、その瞬間──
「む、マスターか」
「おはようございます、藤丸様、キリエライト様」
もしかしてと思ったら、本当に角の向こうからバーサーカーが姿を現した。隣にはいつも通り、ルーソフィアさんを連れている。
この二人、恋人だってことはわりと周知の事実なんだけどいつも一緒にいるよな。はっ、もしや既に同棲してるとか……!?
「おはよバーサーカー。それにルーソフィアさんも」
「お二人も管制室に向かうのですか?」
「ああ、そうだ。貴公らもか?」
「うん。どうせだから一緒に行こう」
「ふむ……いいだろう。目的地は同じだからね」
二人と合流し、四人で向かう。この組み合わせもわりと馴染んできた。
あの料理対決から、バーサーカーはちょくちょく食堂に来るようになった。
まあルーソフィアさんに連れて来られるの方が正しいけど。それでもちゃんと来て、ご飯を食べるようになったのは事実だ。
バーサーカーは決まって無名の王の料理を頼む。それによって無名の王が上機嫌になる反面、エミヤはちょっと悔しそうにしてた。
あと、それとは別に食事を部屋に持ち帰ってるみたいだ。食べるときはルーソフィアさんと食堂でだし、一体どうしてるのかな?
「マシュ・キリエライト、藤丸立香、サーヴァントバーサーカー、エミリア・フィー・ルーソフィア、入室します」
なんてことを考えていたら、管制室の前まで付いていた。自然にスライドしたドアをくぐり、中に入る。
サーヴァントたちの助力もあって随分元どおりになった管制室では、今日もカルデアスが赤く輝いていた。
その下にいるのは、ふわふわとしてそうなポニーテールの男。彼は振り返り、柔和な笑みを浮かべる。
「来たね。藤丸君、マシュ、ルーソフィアさん、それと……バーサーカーくん」
「……ああ」
一瞬、ドクターとバーサーカーが真剣な様子で目線を交わらせる。会うと必ずこうなるけど、何かあるんだろうか。
「……っと、それよりも。二人ともなかなか似合ってるじゃないか」
「ありがとうございます?」
お礼を言いつつ、ドクターに近づく。
「前にも説明したけど、それはレイシフトをするときには必ず着てね。じゃないとすごく危険だから」
「あれ、でも冬木の時は……」
「あれは奇跡みたいなものだから。本来ならそのまま消滅してもおかしくなかったんだよ」
「……ちゃんと着ます」
安全性を上げるとは聞いていたが、流石にそんなことを聞いては恥ずかしいなんて言ってられない。
しばらくすれば慣れるだろ、なんて考えていると、コツコツと足音が近づいてきた。顔を上げると、見覚えのある人物がこっちに来る。
「そ。とっても危ないから、今回から私もサポートに入るよ〜」
「あ、ダ・ヴィンチちゃんだ」
「もうすっかり呼び慣れてくれたようで何より♪」
パチンとウィンクをかますカルデア技術部門トップの名誉顧問レオナルド、またの名をダ・ヴィンチちゃん。
改めて見ても、これがかの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチとは思えない。モナ・リザが好きすぎて自分をモナ・リザにしちゃうとか。
本人曰く、天才なんてみんなこんなもんって言われた。これから会う芸術家系サーヴァントも偏執者ばっかだよとも。
相変わらずキャラ濃いなあと思いつつ、ドクターの呼びかけで最後のブリーフィングに移る。
「それじゃあ、改めて確認するよ。君たちに向こうでして欲しいことは大まかに二つだ」
一つ、特異点の調査及び修正。
その時代における人類の決定的なターニングポイント、事変。これを調査・解明して、本来の形に戻さなくてはいけない。
そうしなければ世界は元に戻ることはなく、2016年以降の未来はない。改めて自分のすることの重大さを理解する。
二つ、『聖杯』の調査。
これはドクターとダ・ヴィンチちゃんの推測らしいが、特異点の発生及び維持には、あのレフも持っていた聖杯が関わっている。
万能の願望機であるそれを使って、レフやその背後にいる人理焼却の犯人は歴史を変えてしまったのではないかという話だ。
というわけで、特異点を修正するだけでなくその大元と思われる聖杯を回収すること。これが二つ目。
あとは補給物資や通信のために霊脈を見つけて、召喚サークルを作るように言われた。そこが俺たちのホームにもなるようだ。
「と、ここまで説明したけど。わかったかな?」
「しっかりと」
もう一度聞くと、自分にそんな大それたことができるのか不安になってくる。けどあの日、抗うと決意したのだ。
これから俺は、戦わなくてはならない。ドクターには今回の特異点は一番揺らぎが少ないと言われたけど、油断は禁物だ。
決意を新たに気を引き締めつつ、マシュを見ると頷く。よし、頑張ろう。
「よろしい。それじゃあ目的も理解できたところで早速レイシフトの時間だ。すまないが時間的余裕がなくてね」
「大丈夫ですよ、いつでもいけます」
「結構、藤丸くん。さて、他の三人も準備はいいかい?」
「え?」
後ろを見ると、マシュ、ルーソフィアさん、バーサーカーが全員頷く。あれ、俺とマシュだけじゃないのか?
召喚サークルから英霊も呼ぶって言ってたし、てっきりバーサーカーもルーソフィアさんも見送りに来ただけだと思っていた。
「我々不死人は篝火を使い、様々な場所へ飛ぶことができる。その際一度肉体は分解され、別の篝火で再構築されるのだ。故にレイシフトにも耐えられる」
「なるほど……あれ、でもルーソフィアさんは?」
「私は単純に、レイシフトの適性を持っておりますので」
そう言いながら、ルーソフィアさんは医療スタッフ用の制服を脱いだ。
すると、法衣のような形の真っ黒な衣装を着ている。それは俺たちが着ているのと同じ、レイシフト用のスーツ。
「……ドクター、レイシフトできるのは俺だけって話じゃありませんでしたっけ?」
「マスターという点なら、だね。彼女はその特異性からかレイシフト適性はあるが、マスター適性が全くないんだよ」
「はい、私は灰の方の従者ですので」
「む……」
にこりと微笑みを向けるルーソフィアさんに、バーサーカーが兜の奥からくぐもった声を出す。あ、照れてるなあれ。
「彼女には軍医として同行してもらう。幸い彼女はソウルの術で、相当量の荷物を持てるからね」
「怪我をした際はすぐにおっしゃってください、速やかに治療いたします」
「よ、よろしくお願いします」
マシュ曰く、ルーソフィアさんはかなり優秀なスタッフらしいのでいざという時安心だ。俺応急処置くらいしかできないし。
『…………待て……』
そういうわけで四人でレイシフトすることを知り、巨大な魔法陣の上に設置された
「無名の王!?どうしてここに……」
ドアが開いて、無名の王が管制室に入ってきた。厨房から出てきたことにびっくりして凝視してしまう。
『これを……持っていけ…………』
「わ、っと……これって弁当?」
手渡されたのは、風呂敷に包まれた五段くらいの重箱。まるでお花見の時に食べるおせちばりの重さがある。
『奴と俺で……作った…………腹が減っては…………戦はできぬ…………せいぜいあっちで……腹ごしらえしろ………………』
「……うん、ありがとう無名の王」
『ん……グッドラック……』
ピシッと親指を立てた無名の王は、用事は終わったと言わんばかりに管制室を出て行った。これを渡すためだけにきたようだ。
持って入れないということで弁当は一旦バーサーカーに預かってもらい、コフィンに入ってレイシフトが始まる。
『アーテステス、聞こえる?どうだい藤丸くん、コフィンに入った気分は』
「……狭いです」
『ははは、だよね!』
てへぺろするダ・ヴィンチちゃんに苦笑しつつ、目を閉じて感覚に身を委ねる。
《アンサモンプログラム スタート。 霊子変換を開始 します》
するとすぐに、アナウンスが聞こえてきた。あの日炎の中で聞いた、無機質な声が。
けれどあの時と違い、妙に安心感がある。コフィンに入っているからだろうか、不思議と大丈夫に思えるのだ。
自然と全身から力が抜けていき、フラットな気持ちになる。暗く閉ざされた視界の外では、アナウンスが鳴り響いていた。
《第1
《全コフィンのパラメータ 確認完了。 続いて術式起動 〝チャンバー〟 の形成を開始 します》
《〝チャンバー〟形成。 生命活動「
《第1
《全コフィンの準備……終了。 補正式 安定状態へ移行。第3
《──完了。全
果たして五分か、十分か、あるいはそれ以上か。
いよいよ全ての準備が完了し、ドクターの「実証開始!」という号令とともに──
《〝グランド・オーダー〟 実証を開始 します》
──俺たちは、はるかなる過去への旅を始めた。
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第一特異点 人理定礎値 C +
A.D.1431 邪竜百年戦争オルレアン
救国の聖処女
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人理修復、開始。
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