しかし、ついにお気に入りが減っていく状態に入ったか……
楽しんでいただけると嬉しいです。
ゴォォォォオ!!!
「相変わらず、すごいなこれっ……!」
俺は今、冬木の時と同じ光のトンネルの中にいた。全身を押す、相変わらず凄まじい力の本流に声を上げる。
傍らには特異点Fで見たサーヴァントの姿となったマシュが、そして片手にルーソフィアさんを抱きしめるバーサーカーがいた。
「これは、地下墓の覇王の時を、思い出すな……!」
「何、それ!」
「覇王の杯に、一度飲み込まれたことが、あってね!」
「そんなこと、あったんだ!」
そんなことを話している間に、より一層強く光の先に体が引っ張られた。これ、もしかして外に出るんじゃ──!
パァ──────!
そう思った次の瞬間、全身を引っ張っていた不思議な感覚が消える。同時に青一色だった視界がパッと開けた。
恐る恐る顔をかばっていた手を退けると、目の前は緑一色だった。右を見ても、左を見ても木と雑草が生い茂っている。
「着いた、のか……?」
「どうやらそのようだな」
早速武器を取り出して、周囲を見渡し警戒するバーサーカー。取り回しを考えてか、丸い鉄球が棒についた左右一対のハンマーだ。
「少し周囲を探索してくる。マシュ殿、二人の護衛を頼む」
頼もしいサーヴァントを心強く思いながら、自分の体を見る。言われた通り、カルデアの制服に戻っている。
ついでにとルーソフィアさんも見てみると……
「……あれ? ドレス?」
ルーソフィアさんは、俺やマシュともまた違った変化をしていた。かといってバーサーカーみたいに鎧を着たわけでもない。
黒い装束に上質そうなローブ、茶色い長手袋。極め付けには顔の上半分を覆う、複雑な装飾の施された銀色の仮面をつけている。
「これが火防女の正装です」
「そうなんだ……あれ、でも前見えるの?」
「本来私は瞳のない女。問題はありません」
「へえ」
つまり見えてなくても平気、ってことだろうか。さすがは火の時代の人というか、バーサーカーの恋人というか……
「……懐かしいな。その姿でいつも出迎えてくれたのを思い出す」
引き続き警戒しつつ、バーサーカーがルーソフィアさんの格好に聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟いた。
一番近くにいた俺でも聞き逃すかというそのつぶやきに、しかしルーソフィアさんはバーサーカーを見て微笑む。
「ふふ、覚えていらしたのですね、では、これは?」
その場でくるり、と回転するルーソフィアさん。それにバーサーカーは声を出さなかったものの、なんかぽわっとした空気になった。
「ンー、フォウ!」
それを眺めていると、聞き覚えのある声とともに何かに足を叩かれる。
見下ろせば、そこには白い毛玉。カルデアでほとんど一緒にいた、謎極まる生物がいた。
「フォウ!?」
「先輩、どうやら周囲に敵影はありません……ってフォウさん!?またついてきてしまったのですか!?」
驚くマシュちょっと可愛いなんてくだらないことを考えながら、フォウをつまみあげて肩に乗せる。
フォウはしばらく俺の右肩と左肩をくるくると回って、やがてそっちが気に入ったのか右肩に座ってフォウ、と鳴いた。
「フィーウ、フォーウ」
「先輩の肩がお気に入りのようですね」
「だね。ていうかこいつ、冬木の時もいたけどレイシフトできるのか?」
「おそらく、私たちのコフィンのどれかに入り込んだのでしょう。カルデアに帰還すれば、一緒に帰れると思います」
ふーん、とマシュの説明に納得して、フォウの頬を指で撫でる。フォウはテシッと俺の指をはたき落として、そのあとぺろぺろ舐めた。
どっちだよと苦笑いしつつ、マシュとバーサーカーから報告を聞いてすぐに対処すべき危機はないことを知る。
「時代の座標も確認できました、1431年で間違いありません。ちょうど百年戦争の真っ只中というわけですね」
「あー、授業で聞いたようなそうでないような」
世界史選択だったので、ぼんやりと頭に残っている。なんだっけ、フランスとどこかがずっと戦ってたんだっけ。
「百年戦争。フランス王国の王位継承およびイングランド王家がフランスに有する広大な領土をめぐり、フランス王国を治めるヴァロワ朝と、イングランド王国を治めるプランタジネット朝およびランカスター朝というフランス人王朝同士の争いに、フランスの領主たちが二派に分かれて戦った内戦です」
マシュとダ・ヴィンチちゃんの世界の歴史復習講座を思い出そうとしていると、ルーソフィアさんが教えてくれた。
そうだ、確かそんな内容だった。いやあ、頭の片隅には残ってるけど使わないと忘れちゃうもんだね。
「現在はちょうど休戦状態に入った年のはずです。この時代の戦争は緩やかなものでしたから」
「戦争に休止ってあるんだ」
「はい、何も名の通り100年継続して戦争をいていたわけではありません」
ふむふむと思いながら、そういえば大砲の音とかも聞こえないよなと思ってなんとなしに空を見上げて──絶句した。
「捕らえられた騎士がお金を払われて釈放されるなど、日常茶飯事だったそうで……先輩?」
言葉を止め、マシュが不思議そうな声を出す。しかしすぐに右から左に流れていって、俺の目は〝それ〟に釘付けになった。
やけに静かな中、ガチャリとバーサーカーの鎧が擦れる音が聞こえる。一拍おいて、三つの息を飲む音も。
ププー
『やっと繋がった!映像も荒いけど受信できるようになったぞ!』
立ち尽くして空を見ていると、気の抜けた音とともにドクターの声が聞こえた。
『あれ、おーい?聞こえてる?なんで四人とも空なんて見て……』
「ドクター。あれは、何ですか?」
『え?』
変な声を上げるドクターとマシュの疑問の言葉に、俺は自然と腕輪のはまった右腕を上げて空に向けた。
すると、あちらでも〝それ〟が見えたのだろう。ホログラム越しにざわざわとスタッフの人たちの困惑した声が聞こえる。
『これは──光の輪、いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か…………?』
そう、俺たちの見上げる空には──とてつもなく巨大な、光の輪があったのだ。
それが青空の一部どころか相当な部分を覆い隠しており、とても自然にあるものとは思えなかった。
「バーサーカー、ルーソフィアさん、あれが何だか、わかる?」
火の時代を生き抜き、様々なものを見ただろう二人に問いかける。
だが、返ってきた答えは望むものじゃなかった。
「……いや、私もあのようなものは見たことがない。激しく困惑している」
「ダークリング、ではないようですね」
「ああ……しかし、あれはソウルの、いやその熱のみを抽出した──?」
どうやら、二人にもよくわからないらしい。ドクター達でさえ驚いているのだ、であれば俺にわかるはずもなかった。
『あれがなんであれ、1431年にあんな現象が起こったという記録はない。間違いなく未来消失の理由の一端だろう』
『解析はこっちでやるから、君たちは現地の調査に集中してくれていいよ〜』
ドクターと、ついでにダ・ヴィンチちゃんの声が聞こえる。そこでようやく完全に我を取り戻した。
「はい、霊脈の発見に特異点の情報の収集、現地の人間との接触……やることは山ほどあります。行きましょう先輩」
「そうだな。では街を目指すとしよう。私がしんがりを引き受ける、大楯を持つマシュ殿を先頭にマスター、火防女の順で行こう」
バーサーカーの指示で速やかに隊列を組み、森の中へ入っていく。
そうするとドクターの指示に従い、この時代の地図に載っている街のある方角へ進路を決めた。
『………………』
全員無言で、周りに気を配りながら進んでいく。時折カサリと鳴る音一つにも用心をした。
森の中というのは不思議なもので、都市の中心にいるわけでもないのに何かの気配があり、それに見られているように思える。
時々ほんとうに野生動物に見られてたりして、爺ちゃんが視線一つでどんな動物か当てるのが面白かった。
ちなみに同じことしろって言われても絶対無理。どんな感覚してたら足音と目線だけで特定できるのか。
「先輩、もしかしてまたお祖父様のことを考えていらっしゃるのでしょうか」
「えっ、なんでわかったの?」
「先輩が少し難しい顔をしているときは、お祖父様とのサバイバルのことを思い出してる時なのでそうなのかな、と」
そんな顔してたのか、俺。そーいや友達とグループでキャンプ行った時も「藤丸、キャンプ苦手だった?」って聞かれたな。
それはともかく……それがわかるくらいマシュに見られてた、ってことだよな。そう考えるとすっげえ嬉しいような、恥ずかしいような。
「マシュはよく人のことを見てるんだね」
「はい、マシュアイは今日も健在です!」
とりあえず笑って誤魔化すと、そんな答えが返ってきて少し吹き出す。割とノリがいいんだよなーマシュって。
それからどうせなら、ということで百年戦争のことをルーソフィアさんに教えてもらっていると、ふとマシュが立ち止まった。
「マシュ?」
「マスター、頭を下げろ。人の気配だ」
いつの間にか隣にいたバーサーカーの言葉に、とっさに目の前の茂みより姿勢を低くする。
枝の間からそっと様子を伺うと、本能十数メートル先に街道らしき草のなくなった道があった。どうやら森を抜けたみたいだ。
さらに様子を伺うと、道の向こうから一段が来るのが見える。皆同じ鎧を着て、旗を掲げながら規則的に進んでいた。
「確認……あれはフランスの斥候部隊ですね」
「確かに、言われてみればあれフランスの国旗だね」
かなり距離は離れているが、念のため小声で言葉を交わす。魔術とか色々知った後だとこういうのもドキドキだ。
「統率の具合からいって、正規の兵たちだろう。私が様子を探ってくる、貴公らはここにいてくれ」
「いいのですか?」
「一度、最高の盗人とともにとある城に忍び込んだことがあってね」
スゥ……
いうや否や、バーサーカーの体が足元から火の粉のような赤い粒子に変わって、あっという間に消えてしまった。
サーヴァントは霊体化ができる。最初にそれを知った時、バーサーカーは「これで〝見えない体〟いらずだな」と言っていた。
足音も聞こえないため、なんとなくバーサーカーがいなくなったことを肌で感じる。
「バーサーカー、大丈夫かな」
「彼ならきっと大丈夫ですよ、無名の王さんも一人で撃退したのですから」
「私には灰の方のソウルが見えていますので、ご安心を」
こそこそと話しながら、ちょっと複雑な心境で様子を伺う。
バーサーカーなら大丈夫だろう、という安心。でももし何かあったら、という不安。それが半々で混じり合っていた。
『──────────』
それから観察を続けて、体感で十分くらいだろうか。にわかに兵士たちの様子が騒がしくなり、進行が止まった。
「ど、どうしたんでしょう」
「まさか、バレたのか……?」
バーサーカーに限ってそんなことはない。そう思おうとするが、心の中で不安の部分が一気に大きくなる。
「これは……灰の方のソウルが揺れています。困惑しているようです」
「な、それじゃあ……」
「本当に、見つかった……?」
ルーソフィアさんのその一言で、さらにバーサーカーの安否がとてつもなく心配になった。本当に大丈夫だろうか。
飛び出そうとする足を抑えながら待っていると、ふと隣に気配を感じる。
「……?」
「やあ、マスター」
試しにそちらを見てみれば、そこには無言で立つバーサーカーが。思わず腰を抜かしてしまった。
「うわっ、びっくりした!」
「すまない、驚かせたか」
申し訳なさそうに少し頭を下げるバーサーカーに、別にいいよと手を振る。同時に内心では無事でよかった、と安堵した。
「先輩、大声をあげては……」
「あっ」
慌てて口を塞ごうとした瞬間、「いや」とバーサーカーに手で制される。
不思議に思ってマシュと二人で見上げれば、バーサーカーはいつものように冷静な様子で頷く。
「今更隠れなくても平気だよ、マシュ殿」
確信めいたその言葉は、危険がないことを言外に俺たちに伝えてくる。一体どういうことだろうか。
「……それは、見つかっても問題ないということですか?」
「それは後で説明する……ともあれ」
マシュに答えを濁し、茂みの外を見やるバーサーカー。
尻についた草を払って同じ方を見ると、ちょうど斥候部隊が目の前を通り過ぎるところだった。
一瞬ひやりとしたが、俺たちに気がつく様子もなく兵士たちは進行する。最後の一人が通り過ぎたところで、ほっと息を吐いた。
「それでバーサーカー、どういうこと?」
「少々コンタクトをとった、というべきか。それとも取られた、というべきか」
「?」
要領を得ない言葉に首をかしげる。バーサーカーが濁すなんて、少し珍しい。
「とにかく、彼らについていこう。その先に砦があるようだ」
「なぜわかるのですか?」
「少し
そこで一回、バーサーカーは言葉を切って。
「そこに、私の知り合いがいるようだ」
うーむ、完成度が微妙すぎる。
バーサーカーの知り合いとは……?
そしてちょこっと重要な情報混ぜました。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。