灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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【闇朧】

ロンドールのユリアの得物、見えぬ刀身を持つ魔剣。
黒教会の指導者の一人であるユリアは卓越した剣士であり、この一振りで百の騎士を葬ったという。



乱戦

 

 バーサーカーの言葉に従い、俺たちはフランス兵たちを追いかけた。

 

 

 

 といっても一緒に行く、というわけではないようで、どうやらその知り合いとやらに秘密裏に呼ばれたらしい。

 

 そのため、こっそり後をついていく感じで移動していたのだが……一つ、彼らに関して気がかりなことがあった。

 

 時折、というか頻繁に上空を見上げているのだ。最初は特異点に来た時の俺たちのように空の輪を見ているのかと思ったが……

 

 

 

 得体の知れない空の輪に対する畏怖ではなく、もっと空の彼方を見て、別の()()を恐れているように見えた。

 

 

 

「ん?あれは……」

 

 それを不思議に思いつつ歩くこと、三十分ほどか。前方にぼんやりと巨大な建築物が見えてきた。

 

「あれって……砦?」

「そのようですね。ですが……」

 

 そこまで言って、マシュが言い淀む。それも仕方のないことだった。

 

 その砦は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。遠目から見てもボロボロで、とても普通とは思えない。

 

 爺ちゃんと一緒に、長期休みの間に博物館巡りへ行ったことがあるけど、そこで見た戦時の写真にあった建物の状態が一番近いだろう。

 

「一体なにが……」

「確か休戦中のはずだよね?」

「はい、シャルル7世とフィリップ3世の間で協定が結ばれているはずです」

 

 補足を入れてくれたルーソフィアさんの言葉に、より疑問が頭を埋め尽くす。休戦中なのに、戦時中のような砦。

 

 まるでチグハグな光景だ。いや、あるいは特異点になったことによって、本来休戦中のはずがそのまま戦争してたり……?

 

「……ん? なにやら前方が騒がしいな」

「え?」

 

 バーサーカーの呟きに、傷ついた城壁から兵士たちに視線を戻す。

 

 すると、ここからでも聞こえるような大声で先頭に立っていた人が戦闘準備を叫び、慌てた様子で兵士たちが各々武器を取る。

 

 まさか俺たちにか、と背筋が寒くなるが、こちらに目もくれず来た道の向こうを見る彼らに勘違いだと悟る。

 

「……! 敵性反応を確認!マスター、何か来ます!」

 

 小さな声で叫ぶという器用なことをするマシュと二人で、道の両端にあった石垣からひょっこりと顔を出す。

 

 すると、土煙を上げてなにかが砦に近づいてきているのがわかった。そいつらは見覚えのある姿で……

 

「あれは……冬木にもいた骸骨!?」

「魔力によって動く骸骨兵です。さほど強くはありませんが、数が多いですね」

 

 斥候部隊のためか、一個小隊……目算で30人弱のフランス兵たちに対して、迫り来る骸骨兵たちはその倍はいる。

 

 火事場の馬鹿力があったとは言え、俺でも蹴り飛ばせだくらいだからそんなに強くないのは本当だろうけど、流石に数が数だ。

 

「どうしますか?」

「──行こう」

 

 即答する。同時に、脳裏にあの……カルデアに帰ってきた時に見ていた夢がよぎった。

 

 全てが燃え上がった街、目の前で黒炭と化した両親。本来目を覚ませばすぐに忘れるはずのそれは、今もなお頭に残っていた。

 

 

 

 もう二度と、目の前で誰かが死ぬのは見たくない。

 

 

 

「マスターならばそう言うと思っていた。さあ、蹴散らすぞ」

「行きましょう!」

「私も微力ながらサポートを」

「ああ!」

 

 石垣の陰から飛び出し、いよいよあと十メートルで衝突するフランス兵と骸骨兵のちょうど間に割り込んだ。

 

「ふぅ…………」

 

 一度目を瞑り、深く息を吐く。力んでいた両肩から力を抜いて、精神を落ち着ける。

 

 そうするとかっ!と目を見開き、右手を前に突き出すと大きく口を開けて頼もしい仲間(サーヴァント)に命令を下した。

 

「バーサーカー、火炎壺!」

「フッ!」

 

 バーサーカーがソウルから火炎壺を取り出して、骸骨兵に向けて投げつける。

 

 プロ野球選手も顔負けのスイングで飛来した火炎壺は先頭の一体に当たり、大きな音を立てて爆発して炎を撒き散らした。

 

 粉々に砕けたリーダー、さらに爆炎の余波で数体が吹き飛んで後ろの骸骨兵に当たり、ドミノ倒しとごとく半数ほど動きが止まる。

 

「今だマシュ、シールドバッシュ!」

「はぁっ!」

 

 よろよろと立ち上がる骸骨兵に向かって突進したマシュの大楯により、一気に十体ほどまとめて吹き飛んだ。

 

「よし、そのまま蹴散らして!」

「了解!」

「任された!」

 

 かたや大楯を、かたや双槌を手に突撃していき、怒涛の勢いで骸骨兵たちを駆逐していくサーヴァント二人。

 

 よし、出だしは順調だ。サーヴァントへの指揮の仕方をダ・ヴィンチちゃんに習っといてよかった。

 

 ちなみに、なんでそんなこと知ってるのって聞いたら『天才だからね♪』で済ませられたけど。うん、意味がわからない。

 

「な、なんだお前たちは!」

「俺たちはあなたたちの味方です!加勢します!」

 

 事前にバーサーカーによってソウル?を少々いじられ、理解できるようになったフランス兵の言葉に叫び返す。

 

 先ほどとは違うどよめきが広がったが、今はそんな場合ではないと判断したのか。雄叫びをあげて、兵士たちが戦いに参加した。

 

 

「〜〜〜〜♪」

 

 

 怒号と雄叫びが支配する平原の中、どこからか美しい声が響く。

 

 地面に白い円陣が広がり、俺を含めてその場にいる兵士たち全ての体に白光が染み込んでいった。

 

 すると、ここ一時間ほど歩いて疲れていた足が軽くなっていく。驚いて後ろを見ると、ルーソフィアさんが歌っていた。

 

「これは……!?」

『恐れる必要はありません。〝光の恵み〟により、貴方達の体力を回復しています。痛みを恐れず戦ってください』

 

 魂を介して、脳裏にルーソフィアさんの声が響く。そうか、これは彼女の力なのか。

 

 同じく声を聞いたのか、兵士たちは頷くと一際大きな雄叫びをあげて骸骨兵に剣を、槍を振るい始めた。

 

「焦るな、奴らは脆いぞ!」

「クロスボウ隊、前へ!」

「押せ、押せぇぇええええ!」

 

 多少の傷ならば気にすることがなくなった兵士たちの怒涛の活躍により、瞬く間に骸骨兵たちは数を減らしていく。

 

「シィッ!」

「うりゃあっ!!」

 

 さらにそこにうちで1番の力を持つバーサーカーの剛撃に、マシュの大楯が加わり、三十分もする頃にはあと僅かになっていた。

 

「これなら……!」

「マスター、何かくるぞ!」

 

 優勢な戦況にそうこぼすと、骸骨兵の剣を蹴りで弾いて頭部をハンマーで粉砕したバーサーカーが叫ぶ。

 

 彼は片手の槌を投擲し、走り寄ってきた骸骨兵を吹っ飛ばして人差し指で空の彼方を指し示した。

 

 それに従って、空を見上げれば──遥か空の向こうに、ポツポツと黒い点がいくつかあるのが見える。

 

「なんだあれ…………?」

 

 最初はカラスか何かかと思ったが、だんだんと黒点は大きくなっていき、やがて大まかな形が見える距離まで近づいてくる。

 

 そうして解った黒点の正体に──俺はあんぐりと口を開けた。なぜならそれは俺にとって、あまりにもありえないものだったから。

 

『大変だ藤丸くん!今君たちのいる地点に向かって大型の生体反応が近づいてる!しかも図体のくせに速いぞ!』

「もう、見えてます」

 

 通信を入れてきたドクターに、俺はかろうじて言葉を返してそいつらを見上げた。

 

 長い首に爬虫類のような鱗と顔立ち、黄金の瞳と蛇のようにうねる尾。トカゲならば前腕がある部分には、翼が付いている。

 

 それを鳥が飛ぶようにはためかせて、近づいてくるのは……

 

「ドラゴン!?」

 

 

 

 

 

ギャォオオオオオオオオ!

 

 

 

 

 

 俺の言葉に答えるように、それ──幻想の中に存在する怪物は大きく口を開けて金切り声を上げた。

 

「いえ、あれはワイバーンという龍の亜種体です!間違っても、15世紀のフランスにいていい存在ではありません!」

「来たぞ、奴らだ!上からの奇襲に気をつけろ!」

 

 驚いて固まる俺とは裏腹に、さっきから命令を出している隊長らしき人が()()()()()()そう叫ぶ。

 

 そのことに違和感を覚えた。マシュは今、この時代にドラゴンなんかいなかったって言ってなかったか?なのになんで不思議がらない?

 

 ……もしかして、もう既に知っていた?じゃあしきりに空を見上げていたのは、ワイバーンが来るのを恐れてたのか!?

 

「マスター、色々と考えているところ悪いが増援だ!」

「っ!」

 

 その言葉に無駄に早く回転していた思考を打ち切り、前を見る。

 

 するとさらに骸骨兵がこちらに向かってくるところだった。数は最初の一団とそう変わりないように見える。

 

「くっ、どうすれば!」

 

 極力心を落ち着けてなんとか保っていた平静は、一瞬にして崩れた。

 

 焦りが視界を狭め、どうすればいいのかわからなくなる。自分の経験不足が恨めしい。

 

 

 

 

 

 ──スパン。

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 どうしようか迷っていると、不意に空気を切り裂くような乾いた音が耳に入った。

 

 不思議に思い周囲一帯を見回してみるが、特に変わったことは何もない。兵士の怒号と、剣戟と、骨の砕ける音だけ。

 

 聞き間違いかと首をを傾げていると、ちょうど顔のすぐ横を何かが通り過ぎた。立て続けに、ベチャッという音。

 

「今、何かとお、って……」

 

 振り返って、唖然とした。

 

 そこには、ワイバーンの首が転がっていた。断面からはピンク色の肉が丸見えで、いっそ綺麗なほど平らになっている。

 

「グ、ォ、ァア…………」

 

 さすがは架空の生物と言うべきか、数秒呻き声を上げた後にワイバーンの首は息絶えた。口の端からだらしなく舌が溢れる。

 

 黄金の瞳から光が失われてから、まるで思い出したように血が地面に広がった。その生臭さに思わず口元を押さえる。

 

「な、何が……!?」

 

 空に視線を戻せば、ちょうど首を失った体が地面に落ちるところだった。それも一体ではなく、五体もの首なしワイバーンが。

 

 見るからに重い体は高空から降り注ぐ砲弾になって、近づいていた骸骨たちの一部を地響きとともに押しつぶす。

 

「うわっ!?」

 

 気が緩んでいたためかバランスを崩し、その場で尻餅をついてしまった。空の上では、仲間をやられてワイバーンたちが叫んでいる。

 

「一体、誰が……」

 

 そう誰に聞かせるでもなくぼやいていると、ふと砦の方が気になった。

 

 自分でもなぜそちらが気になったのかはわからない。でも砦の方を見て……その人を見て瞠目する。

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 黒衣に兜を被った人物が、外壁の踊り場に立っていた。凛と立つその姿は、歴戦の剣士であることをうかがわせる。

 

 黒衣の剣士は振り抜いていた手に収まる()()()()()を鞘に収めると、そのまま跳躍して砦の内側へ消えた。

 

「先輩、平気ですか!?」

 

 その様子をぼーっと眺めていると、いつのまにか近くにいたマシュの声ではっと我に帰った。

 

「ま、マシュ、見た?」

「え、何をですか?」

「……いや、なんでもない」

「……?」

 

 首を傾げつつ差し出された手を取って立ち上がる。そうすると戦場を見回した。

 

「恐れるな!我らには()()()がついておられる!」

『オォオオオ!』

 

 なぜか一気に士気を増した兵士たちは、先ほどとは比べ物にならない動きで骸骨兵を押し込んでいる。

 

 何かに取り憑かれたように勢いを増した兵士たちのあまりの気迫に、むしろ骸骨兵たちが気圧されているように見えた。

 

「どうしたんでしょう、突然やる気になったみたいですが……」

「わからないけど……あ、それよりバーサーカーは?」

「あそこです」

 

 マシュの指し示す方には、先ほど黒衣の剣士がいた場所に立って、とんでもなく大きい弓を構えているバーサーカーがいた。

 

 番られているのは、その弓にふさわしい鉄塊と呼んでいいほどの太い矢。冬木でサーヴァントの肩を貫いたあれだ。

 

 

ドッ!

 

 

 空気を叩く音とともに発射された大矢は、寸分違わずワイバーンの一匹の頭を撃ち抜いた。力を失い落ちるワイバーン。

 

「バーサーカーさん、先程から既に四匹もワイバーンを落としています。冬木の時も思いましたが、彼の弓の腕は凄まじいものがありますね」

「そうだね、バーサーカーに任せれば大丈夫だ。とりあえず俺たちは骸骨兵を」

 

 

 

「うわぁ──────!」

 

 

 

 倒していこう、と言いかけた瞬間、どこからか悲鳴が聞こえた。

 

 マシュとシンクロして戦場を目を皿のようにして見渡して、尻餅をついている兵士を一人見つける。

 

 傍に剣を取り落とした兵士の目の前には、バーサーカーが撃ち漏らしたのかワイバーンが口を開けて滞空している。

 

 口の端からはチロチロと炎が見え隠れしており、今にも兵士を焼き殺さんとしているのがわかった。

 

「まずい、遠すぎる!」

「対象との距離を計算──ダメです、間に合いません!」

 

 マシュの報告にくっと歯噛みして、無駄だとわかっていても走り出す。

 

 必死に足を前へ、前へと動かすけれど、兵士とワイバーンとの距離は一向に縮まったように思えない。

 

 本人も助からないことをわかっているのか、ガクガクと震えるだけで一向に逃げる気配がなかった。

 

 

 

 ガァアア……!

 

 

 

 そんな兵士を嘲るような唸り声をあげて、ワイバーンは大きく炎を溜めた顎門を開く。

 

「やめろぉ──────────!」

 

 叫びながら手を伸ばす俺の前で、ワイバーンは無慈悲に兵士を焼き殺──

 

 

 

 

 

 

パァンッ!!!

 

 

 

 

 

 ──すことは、なかった。

 

 どこからともなく現れた白い影が、兵士の前に立ったかと思うと手に持っていた長物を一閃したのだ。

 

 その一撃によってワイバーンの体に大穴が開き、残った翼や頭がやけにスローモーションな動きで地面に落ちる。

 

「え、あれ、生きて、る……?」

「──大丈夫ですか?」

「え?」

 

 呆然とする兵士に、白いローブで正体を隠した何者かは女性特有の高い声音で問いかけた。

 

 騒音の嵐である戦場の中で不思議と明瞭に聞こえたそれは透き通っており、彼女は兵士が答える前に再び声を張り上げる。

 

「兵士たちよ!水を被りなさい!それが一時とはいえ、あれらの火を防ぐ!」

 

 片手に持った槍……いや、純白の戦旗を掲げ、彼女は兵士たちに呼びかけた。

 

 

 

 

 

「戦士たちよ!さあ、私と共に────────!」

 

 

 

 

 

 それが、俺たちと彼女の出会いだった。




うむむ、アクセス数が。これはちゃんと更新しなくては。
次回、聖女と……彼女が登場。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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