楽しんでいただけると嬉しいです。
謎の人物の乱入により、戦況は一変した。
一騎当千と言って差し支えない力を持つ彼女は次々と危機に陥った兵士たちを助け、魔物たちを殲滅していく。
負けじと俺もサーヴァントたちに命令を出して、彼女の指示通りに水をかぶった兵士たちの奮闘もあり、すぐに戦闘は終わった。
「これで……最後!」
マシュが大楯でワイバーンの頭を思い切りぶん殴る。バキッという頭が砕ける乾いた音がして、地面に落ちる。
「ふぅ、戦闘終了です」
「お疲れ様、マシュ」
「はい、先輩こそ指揮お疲れ様です」
マシュをねぎらいつつ、周囲を見渡す。
見たところ、もう敵らしき影はない。兵士たちは勝鬨をあげており、完全に戦闘が終わったことを感じる。
あの人物を探すと、生き残ったことを互いに喜ぶ兵士たちを見つめていた。そのやや細身な背中には、どこか哀愁が漂っていて。
「藤丸さん、お疲れ様です」
「ルーソフィアさんもお疲れ様」
話しかけようか迷っていると、ルーソフィアさんが歩み寄ってきた。が、バーサーカーの姿が見えない。
「あれ、バーサーカーは?」
「少し遅れるとのことです。どうやら篝火を見つけたようですので」
「ふーん、そっか」
篝火は以前聞いた通り、別の場所にある篝火に移動するだけでなく様々な恩恵がある、不死人にとって重要なものらしい。
バーサーカーの奮闘は、凄まじいものがあった。誰よりもワイバーンを多く撃ち落として、しかも魔術でこっちの援護もしてくれる。
「戻ってきたらバーサーカーにも、お疲れ様って言わないと」
「きっとお喜びになられます……それでは、あの方にお話を伺いましょう」
「危険ではないでしょうか?」
一緒に戦ってくれたからといって、こちらの味方とは限らない。レフの一件で、少し疑心暗鬼になってるんだよな。
そういう経過の意味も含めて聞くが、しかし彼女はいつも通りの落ち着いた様子で微笑みを浮かべた。
「彼女のソウルはとても落ち着いています。万が一のことがあっても、キリエライトさんが警戒すれば問題ないでしょう」
『うん、僕もいざとなればどうにかできると思うよ。モシャモシャ』
通信越しにドクターがバーサーカーに同意する。ていうか……
「……ドクター、何か食べてます?」
『あ、ばれた?実は司令室に饅頭とお茶があってさ。ちょうど甘いものを補給したかったから食べちゃった』
このゆるふわ野郎!人が必死に戦ってる時に悠々自適に甘いものなんて食べて!
「ドクター、それはカルデアに帰還した際の労いとして私が先輩に用意していた饅頭ですね」
『そうだったの?でもうん、これ美味しいし、藤丸くんも気にいると思うよ!』
「……マスター、令呪を一画残しておいてください。たった今エネミーを発見しました」
「あ、うん」
マシュの体から闘気が立ち上っていた。気持ちはわかるので特に止めない。ていうか俺もちょっとイラっときた。
それより、あんなものを用意してくれるなんてやっぱりマシュは気の利く優しい子だと思いマシュ。
…………俺何言ってんだろ。疲れてるのかな。
「ボンジュール、あなたはサーヴァントの方でしょうか?」
そんなくだらないことは隅に置いといて。突然の攻撃に対応できるよう、マシュが警戒態勢のまま話しかける。
戦闘中の凄まじい動きからして、この人はおそらくサーヴァントだ。一応ドクターにももう確認済みだ。
白い外套の人物は、ゆっくりとこちらに振り返る。そしてフードで上半分が隠れた顔の、唯一見える口を開いた。
「はい、その通りです。ですがここで話をするのは少し……」
一瞬、砦の中に入っていく兵士たちを見るその人。どうやら何か事情があるようだ。
それなら別の場所に移動しようか、と提案しようとした時、不意に胸が暖かくなった。これは、ソウルが繋がった感覚だ
『マスター、彼女を連れて砦に来てくれ』
「バーサーカー?」
語りかけてきたバーサーカーに砦の方を見ると、先ほど狙撃していた場所で手を振っていた。
『知り合いが私に話しかけてきた。全員で砦に来てほしいそうだ』
「知り合いが?」
ふと脳裏に、さっきの剣士の姿がよぎる。強さからしても、もしかしてあの人が知り合いだろうか?
「危険とかないの?」
『ああ、むやみに危害は加えられないはずだ。私が保証しよう』
「先輩? バーサーカーさんがどうかしましたか」
「うん、この人を連れて砦にきてほしいって」
「えっ?」
予想外、といった声を漏らすその人。しかしそれも一瞬で、すぐに逡巡した様子になる。
「俺は行こうと思うけど、みんなは平気?」
「先輩が行くのなら、このマシュ・キリエライトどこまでもついていきます。それに、一緒に戦った仲ですし攻撃される心配はないと考えます」
「私も問題ありません」
二人の了承を得られたところで、肝心の白フードの人に聞く。すると彼女はかぶりを振った。
「……私は、遠慮しておきます。きっと彼らを混乱させてしまうでしょうから」
「混乱……?」
砦の人たちと、何か因縁でもあるのかな……?
『では念のため、反対側の裏門から入ってくればいい。そのあとは私がその人物の元まで案内すると伝えてくれ』
「うん、わかった」
バーサーカーに言われたことをそっくりそのまま伝えると、その人はしばらく迷うそぶりを見せる。
「……貴方はなぜ、その方のいうことが真実であると確信できるのですか?」
やがて、おもむろにそんなことを聞いてきた。フードの裾から覗く青い瞳には、試すような光が見て取れる。
なんでそんなことを聞いてきたのかさっぱりわからないが、俺の答えは最初から決まりきっていた。
「だって、俺が一番頼りにしてるサーヴァントだから。だから全力で信じなくちゃ」
そう答えれば、彼女は息を呑むような仕草をした。なぜか俺の答えに相当驚いたようだ。
が、どうやらお気に召す答えだったようでふっと微笑むと「わかりました、ともに行きましょう」と答える。
無事に解決したということで、バーサーカーに言われた通り砦の裏側に回って、そこで小さな鉄扉を見つける。
「ここかな?」
「はい、合っています。見張りは……いないようですね」
その人物は慣れた手つきで扉を開けた。これ幸いと全員中に入る。
「ふー、結構遠かったな」
「来たか、マスター」
誰にも見られてないか確認したあと、扉を閉めるのと同タイミングで石造りの廊下の暗がりからバーサーカーが出てくる。
「あ、バーサーカー」
「うむ……そこの貴公。私はバーサーカー、故あってマスターとともに旅をしている。以後お見知り置きを」
「……はい」
顔合わせもそこそこに、バーサーカーの先導に従って知り合いとやらのいる場所へと向かう。
砦の中は案外、静かだった。あんなのに勝ったんだからてっきり大騒ぎかと思ったが、そうでもないらしい。
ワイバーンを知っている様子からして、もう何度も来ているからか、あるいは……そんな余裕がないのかもしれない。
「あの、貴方のお知り合いとやらは何故ここに?貴方やその方もこの時代の英霊なのでしょうか?」
兵士たちについてそんなふうに考えていると、不意に白フードの人物がそんなことを聞いた。
「そういうわけではない。というよりも、私もなぜ〝彼女〟がここにいるのかわからないのだ」
「そうなのですか?てっきりバーサーカーさんと同じように、現代まで生きていた不死人の方と推測していたのですが……」
「いや、彼女は人間だ。
だからこそわからない、というバーサーカーの要領を得ない言葉に、全員が首をかしげる。一体どういうことだろう。
考え込んでいるうちに、とある一室の前に到着する。途中いくつか見た扉よりもずっと大きく、特別な部屋っぽい。
「ここだ」
バーサーカーが扉を押し開く。軋んだ音を立てて開いた扉の向こうから、陽の光が差し込んだ。
「う……」
手で目元をかばいながら、露わになった部屋の中を覗く。
部屋の中は、少し薄暗かった。壁にはめ込まれたガラス窓から差し込む陽光だけが、部屋の中を照らしている。
様々なものが置かれた会議室らしきその中で、誰かが背を向けて佇んでいた。そのシルエットには見覚えがある。
「言われた通り、来たぞ」
「……お待ちしていた」
ゆっくりと振り返る人影。やや深みのある声音は、女性のもの。
いまだ全貌を掴めない人影はカチャリ、カチャリと足音を立てて、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
やがて、あと数歩のところまできた。そこまで来て初めて見えたその人は、やはりあの時ワイバーンを倒した人だ。
「やはり、貴公だったか」
「お久しぶりでございます」
鴉のような兜をかぶった女性は、右手を胸に置くとバーサーカーの前に跪く。まるで、臣下が礼をするように。
「我らが王、人の世を作りし者よ。今一度お目にかかれて光栄だ」
「……やめてくれ。私は貴公も裏切った。そう呼ばれる資格はない」
「貴方がどう思おうと、我らが人の王はただ一人。それは幾星霜を経ようと、決して変わることのない真理に他ならない」
「……貴公もまた、変わらないのだな」
な、なにやら物々しい雰囲気だ。バーサーカーは声が強張ってるし、仮面の女性はずっと礼をしたままでいる。
「あの、バーサーカーさん。この方とはどういうお知り合いで?」
「ああ…………彼女の名は」
「
言いにくそうにしていたバーサーカーの代わりに、ルーソフィアさんが一歩前に出て女性の名前を明かした。
「貴女もいたか、我が王の寵愛を受けたものよ」
「ええ、お久しぶりですユリア様」
そこで初めて顔を上げて、フフフフフ……と笑い合うルーソフィアさんとユリアさんというらしい女性。
うん、さっきとは別の意味で雰囲気が重くなった。どっちも仮面をしてて顔が見えないせいか余計に怖い。
「ま、マシュ、なんであの二人笑ってるの?」
「さ、さあ……」
「……あの、そろそろよろしいでしょうか」
マシュと二人で縮こまっていると、白フードの人がルーソフィアさんたちに話しかけた。
そこでようやく不気味な笑いあいは止まり、とりあえず全員部屋の中に招き入れられる。内心ホッとした。長い時の中を生きる魔法。まさしくファンタジーな力だ。
「遅れてしまったが、貴公のことを聞こうか」
「はい」
フードを取り払う女性。中から出てきたのは金色の髪と青い瞳を持つ、若干幼さの残る女性の顔だった。
「改めて、自己紹介を。サーヴァントルーラー、
「ふむ、ジャンヌ・ダルク殿というのか」
「「……!」」
バーサーカーが冷静に受け答えをする中、俺とマシュは密かに驚いていた。
ジャンヌ・ダルク。大して真面目に授業を受けてなかった俺でも知っている。確か、フランス軍を率いて戦った聖女だ。
詳しい話までは覚えていないが、その……火刑になって悲劇の最後を迎えた、という話はかろうじて頭に残ってる。
「ふむ……これは興味深い。
「……え?」
今、なんて言った?ジャンヌ・ダルクが、もう一人いるって、ユリアさんは言ったのか?
「それは……どういうことだ? もしや存命の彼女がいるという意味で?」
「そんなことあるの?」
「これは召喚された際の知識だが、私やマシュ殿などの特例を除いて除いてサーヴァントとは〝座〟に登録された英雄の影法師だ。故に本人が存命している場合も、稀に召喚される場合もあるようだ」
へえ、そんなこともあるんだ。不思議だなぁサーヴァントって。
「いいえ灰の方、それはあり得ません」
「……む?」
だが、それをルーソフィアさんが否定した。
「ユリア様、現在の暦は?」
「そうだな……この時代で六月の末といったところだ」
「ではやはり、言うのは心苦しいですが彼女は処刑された後になります。つまり……」
「
今度はマシュの問いかけに、神妙な顔で頷くジャンヌ・ダルクさん。だめだ、頭がこんがらがってきた。
えっと、この時代のジャンヌ・ダルクは死んでいて、目の前にサーヴァントのジャンヌ・ダルクがいる。
で、さらにもう一人のジャンヌがいて、ジャンヌがジャンヌでジャンヌのジャンヌをジャンヌに……
「……あれ?ジャンヌってなんだっけ?」
「いけません、先輩がゲシュタルト崩壊を起こしました!」
「ややこしいですよね、すみません。でも確かに、このフランスにもう一人の私がいるようなのです」
申し訳なさそうにそう言うジャンヌさんを、なんとか頭の中に溢れたジャンヌ・ダルクの文字を消して見る。
「もしかしてそれが、この状況と関係しているのか?」
「ご名答だ、我が王」
答えたのはユリアさん。全員の目がそちらに向く中、彼女は立ち上がり言葉を続ける。
「私からも説明しよう。なぜ私がここにいるのか、砦の指揮をとっているのか……」
そしてユリアさんは、机の上に広がっている地図に手を置いて。
「今このフランスで、何が起きているのかを」
次回は説明会です。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。