灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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どうも、とても悲しいことがあった作者です。
これまでの人生で何よりも悲しいことですが、なんとか乗り越えて、これからも頑張ります。
楽しんでいただけると嬉しいです。


二人のジャンヌ・ダルク

 

 

 事の始まりは6月2日。

 

 

 

 その日、オルレアンで一人の少女が復活した。名をジャンヌ・ダルク、フランスの救世主と崇められた少女である。

 

 かつて聖女と呼ばれた彼女は、かの神の子のように処刑から三日の後に蘇ったが……。しかし、その性質は善ではなかった。

 

 その真逆……悪逆の魔女として、竜とともに地獄より来りし彼女は、その日のうちに司教をはじめとした聖職者たちを虐殺。

 

 

 

 そして……休戦協定を結んでいたシャルル7世までも殺害した。

 

 

 

 これによって、フランスは戦乱の渦に逆戻りしたのである。今度は人間対竜という、絶望的な戦争に。

 

「イングランドは即座に撤退、残った市民たちと兵士らはワイバーンの襲撃に怯え続けています」

 

 地図に置かれた赤い駒……〝竜の魔女〟と呼ばれるジャンヌ・ダルクによって破壊された街を指し示して言うユリアさん。

 

 その数は十数に及び、どれだけの被害が出ているのかがよくわかる。つまり、そこにいた人たちも当然……

 

「これが、大まかな現在のフランスの状況だ」

「なんでそんなことを……」

「さあ。だが他の街の様子からして、この国の人間を恨んでいるのは間違いないだろな」

 

 恨み、憎しみ、か……言葉では知っているけれど、平凡な人間だった俺には想像もできない強い負の感情だ。

 

「そんな、どうして……」

 

 当然、誰よりもショックを受けているのは当人(?)であるジャンヌさんだ。顔をうつむかせ、とても沈んでいる。

 

 さっきの発言からして、もう一人自分がいることは知っていたみたいだけど、まさかそんなことをしてるなんて思わなかったようだ。

 

 ある意味別人とはいえ、自分が大虐殺をしてるなんて知ったら、俺だったらその場で発狂するな……

 

「ジャンヌさん、一回深呼吸して」

「え、ええ」

 

 深く息を吸って、吐くを繰り返すジャンヌさんの背中をさすった。こうすると不安が軽減されるのだ。

 

「……もう平気です。ありがとうございます」

「そう? 話し続けても大丈夫?」

「はい」

「そっか」

 

 しばらくさすって、ジャンヌさんが十分に落ち着いたところでユリアさんに向き直って話を始める。

 

「それで、本当にそれはもう一人のジャンヌさんで間違いないの?」

「ああ、一度この砦の近くを通った時に竜の背に乗っているのを見た。間違いなく彼女だ」

 

 断言するユリアさんに、もしかしたら違うかも、なんて俺の希望的観測はあっさりと打ち砕かれた。

 

 いや、最初からわかってた。今の話もそうだし、そもそもジャンヌさん本人がもう一人の自分を認識している。

 

 何とか、ジャンヌさんを励ましたかったんだけど……

 

「…………」

「ごめんね、ジャンヌさん」

「いえ、お気遣いありがとうございます」

『でもこれで合点がいったね』

 

 次に何を言おうか言葉を選んでいると、実はさっきから参加していたドクターがいった。

 

「Dr.ロマン、それはどういうことですか?」

『歴史上、フランスは最初に人間の自由と平等を謳った国だ。多くの国がそれに追随し、結果としてその尊厳が認められた。それは現代社会の礎の一つだ』

「私もお手伝いしましょう」

 

 説明を始めたドクターに、立ち上がったルーソフィアさんがどこからともなくホワイトボードを出した。

 

 多分ソウルの術なんだろうなぁと思いつつ、ボードに書かれたドクターの説明を簡略化した図に目を向ける。

 

「現在、このフランスは復活したジャンヌ・ダルクによって戦争状態。史実では休戦状態のはずなのに、です」

『つまり、終わった戦争が終わってない。それは主張がその分遅れるということであり、そもそもそれをする人たちも殺されている状況だ』

「よって権利の主張とやらが帳消しにされ、文明が停滞すると?」

 

 大きくバツ印がされた〝自由と平等〟の言葉を見たバーサーカーが疑問を投げかければ、二人は頷いた。

 

「これが認められなかった場合、現在も私たちは中世のような生活をしていたことでしょう」

『貴族はどこまでも裕福に、そして平民はどこまでも貧しい圧倒的格差社会。いやー考えるだけで恐ろしい』

「でも、平民も割と悪くないんですよ?」

『あっ、そうだった。ジャンヌ・ダルクは平民出身だったか……これは失礼しました』

「いえ……」

 

 ジャンヌさんに謝るドクターとルーソフィアさんの説明を頭の中で反芻していると、ある一つのことに気がつく。

 

「でも、そんなことになったら俺たちは……」

『そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 肯定するドクターと、頷くルーソフィアさん。やっぱり、そういうことなのか。

 

 本当は認められたものが消え失せ、死ぬべきでなかった人たちが死ぬ。そうすることで、文明の進歩が止まる。

 

 それすなわち、時代の歪み。本来あるべきはずのものがねじ曲げられた世界。史実から外れた、狂った歴史の種。

 

「そうか、これが特異点の原因か!」

『だろうね。ということは必然的に、僕たちの目標は彼女を止めることになる』

 

 告げられた目的に、自然と全身に力が入る。また、サーヴァントと戦うことになるとは。

 

「私たちにできるでしょうか……」

「……やるしかない、マシュ」

 

 未来を取り戻したいのなら、生き残りたいのなら、どんな相手だろうと立ち向かうしかない。

 

 その決意を宿して見つめると、マシュもあの光景を思い出したのか。一瞬瞠目した後に、強く頷いた。

 

「この時代の状況は概ね理解した。それで、ジャンヌ殿はこれについて何か情報があるか?」

 

 と、まだまだ話は終わってなかった。二人揃っていそいそと席に着く。

 

「……わかりません」

「というと?」

「自分がジャンヌ・ダルク、ルーラークラスのサーヴァント、というのはわかっているのですが……それ以外の全てが欠如しているのです」

「どういうこと?」

「それが……」

 

 なんでもルーラーというのはエクストラクラスに分類されるサーヴァントのようで、特殊な力を持つらしい。

 

 召喚された際に与えられる、聖杯戦争に参加しているマスターとサーヴァントついての知識に、強力なステータス。

 

 さらには裁定者(ルーラー)の名の通りサーヴァントに対する令呪に、真名看破までできるとか。まさに特別(エクストラ)だ。

 

「しかし、今の私にはその全てがない。現界したのも数時間前ですし、唯一生まれ故郷なので言葉が通じたため、かろうじてもう一人の(ジャンヌ)の存在を知ったのです」

 

 まあ、盗み聞きなんですけどねと苦笑するジャンヌさん。そっか、だからさっき兵士たちに会いたがらなかったのか。

 

 出会ってからごく短い時間しか経っていないが、彼女が優しい人柄なのはわかる。きっと混乱させたくなかったんだろう。

 

「間違いなく、もう一人のジャンヌ・ダルクに全て奪われたのだろうな。それらは全て聖杯から与えられる能力だ」

「その根拠は?」

「竜だよ、我が王。現在の世界において竜を召喚・使役するのは最上級の魔術だ。それを、一国を陥れるほどの数を使役する力を与えられるのは……」

「……それもまた、聖杯ということか」

「そうすると、目的の二つが一つになるな」

 

 レイシフト前にドクターから課せられた三つのオーダー。そのうち二つがもう一人のジャンヌ・ダルクに収束する。

 

 時代の修正と、聖杯の回収。特異点の発生が聖杯によるものである以上、必然的に関係するとは思ってたけど……

 

「あの、そういえば聞きそびれていました。貴方たちはこの時代の人間ではありませんね?ここにはどのような目的でやってきたのでしょう」

「それは……」

 

 マシュとバーサーカー、ルーソフィアさんに目配せする。三人とも頷いたので、こちらの事情を話すことにした。

 

 人理の焼却、七つの特異点、聖杯……それらのことを全て説明する。ジャンヌさんは最後まで真剣な様子で聞いてくれた。

 

「──ということなんです。だからこの時代を修正するために、俺たちはここにいます」

「……なるほど、よくわかりました。まさか、人理そのものが焼却されているとは」

 

 世界そのものが燃え上がっていると知って、ジャンヌさんはやや同情的な目を向けてきた。

 

 言葉にしなくても、どう思っているのかはわかる。俺だってこんな事態を受け止めるなんて夢にも思わなかった。

 

「お互い、大変ですね」

「そうみたい」

「私も感謝するよ、我が王の契約者。ようやく目覚めた理由を知れた」

 

 その言葉に、揃ってユリアさんを見る。今のはどういう意味だ?

 

「ちょうど良いタイミングだ、聞こうユリア」

「なんなりと」

 

 椅子から立ったバーサーカーがやや硬い口調でユリアさんに歩み寄る。緩やかな動きでユリアさんもバーサーカーを見た。

 

「貴公はなぜ、この時代にいる?人の身でありながら、どうやって火の時代の終わりから今まで……」

「お戯れを。貴方はその真実を誰より身近に侍らせているではないか」

「……なに?」

 

 試すような口調のユリアさん。バーサーカーはその言葉にしばらく沈黙して、やがて何かに気付いたのかハッとした。

 

 そして、ゆっくりとルーソフィアさんを見る。彼女はいつものように何も言わず、ただ微笑んで立っている。

 

「……そうか、〝ソウル継ぎ〟の魔法か」

「ご明察。私もまた、その恩恵に預かった」

「それって確か、魂を受け継ぐっていう?」

「さすがは我が王の契約者。その程度は知っているか」

 

 感心したような様子のユリアさん。まあ、知ったのは最近なんだけど。

 

「……火の時代?ソウル?あの、なんの話ですか?」

「あっ、すみませんマドモワゼル・ジャンヌ。私から説明しますね」

「ありがとね、マシュ」

「いえ」

 

 マシュがジャンヌさんに説明をする中、俺はユリアさんの話に耳を傾けた。

 

「かつて、火の時代が終わった時。私は自らの血に魔法をかけた。その後に世界を回り、人が著しく数を減らした中で各地に子孫を残した」

 

 そしてユリアさんは産んだ子供の魂に刻んだという。その血を絶やすことなく増やし続け、再び文明を興すという使命を。

 

 その目論見は成功し、成長した子供たちは子を産み、またその子が子孫を残し……世代を経るごとに人の数が増えていき、文明は発展した。

 

 当時の人間の全体数が少なかったこともあって、現在ではほぼ全人類に……彼女の血が流れているという。

 

「つまり俺にも?」

「そうだ……血が続く限り、私の魔法は永続的なもの。しかし、西暦2015年まで確定していた子孫の数が一定数を下回った」

 

 そしてそれこそが、ユリアさんが目覚めるトリガーだという。特異点が発生し、本来ありえない死者が出たからってことか。

 

「でも、なんでそんな物騒な事態をキッカケに……」

「私の使命は、()()()()()()()()()()()()()()()。なればこそ、その危機が迫った時に力を尽くすのが我が務め。それが王より賜った、唯一にして最初の命令ゆえに」

「バーサーカーが?」

 

 驚いてバーサーカーを見れば、彼は深い溜息を吐いた。

 

「あれは命令ではない、ただの願いだ。私は貴公にも亡者ではなく、新しき世界で人として生きて欲しかったのだ」

「だからこそだよ、我が王。人を導き、その行く末を監視することが私という人間のあり方なのだから」

「……まったく、私の知己は誰も彼も頑固者だ」

「ふふ、申し訳ありません」

 

 口元に手を添えて笑うルーソフィアさんに、バーサーカーの雰囲気が少し和らいだ。

 

 ルーソフィアさんをあんなに大事にしているんだし、何だかんだ知り合いがいるのが嬉しいのかな。

 

「先輩、説明が終わりました」

「お疲れ様」

 

 ちょうどいいタイミングでジャンヌさんへの説明が終わった。見ると、彼女は物珍しそうな目でバーサーカーたちを見ている。

 

「あの……貴方がたは、すごい方々だったのですね」

「私など大したものではない。命尽きるその瞬間まで国を救わんとした貴公こそ、英霊にふさわしいだろう」

「そんな、英雄だなんて……私はただの田舎娘。主のそうあれという言葉に従っただけの、無知な小娘です」

 

 謙遜するジャンヌさんに、しかしバーサーカーは首を横に振った。

 

「いいや、だから貴公は英雄なのだ。力を持っていたくせに、肝心な時に何もできなかった私とは…………」

「……?」

「………………まあ、この件はともかく。これからの方針を決めよう」

「そうだね」

 

 話が逸れたのを戻して、全員顔を突き合わせると相談を始める。

 

「俺たちは元の目的どおり、この時代を修正する。そのために、もう一人のジャンヌ・ダルクと戦おうと思う」

 

 詳しく状況を知った今、もとよりあった決意はさらに強固なものになった。なんとしても、もう一人のジャンヌ・ダルクを止める。

 

 そうしなければもっと被害は増えるし、特異点は修正されず俺たちに未来はやってこない。これ以上、何かが失われるのは沢山だ。

 

「三人とも、力を貸してくれる?」

「はい、それが私たちカルデアの使命ですから」

「無論だ。これは私にとって大切な旅でもあるからね」

「微力ながら、お力添えしましょう」

「ありがとう」

 

 俺の感謝の言葉に頷いたバーサーカーは、ユリアさんの方を向く。

 

「ユリア、貴公も協力してくれるか?人類の存続を守る貴公も目的は同じだろう」

 

 ふむ、と兜の顎の部分に指を当て、しばらく考えた後にユリアさんは頷く。

 

「我が王のためならば、このユリア喜んで力を貸そう」

「ユリアさんもありがとうございます……それで、ジャンヌさんはどうする?」

 

 いろんな意味で一番複雑だろう人に、恐る恐る問いかける。

 

 自分と戦うなんてのは、俺にはまったく想像できない。でも今までの反応を見る限り、相当辛いことのはずだ。

 

 そう思って聞いたのだが……しかし、俺の予想に反してジャンヌさんは迷いのないまっすぐな目で返事をしてきた。

 

「私も戦います。ルーラーとして、ジャンヌ・ダルクとして。まずはオルレアンを奪還しましょう。そしてその障害となるであろう、ジャンヌ・ダルクの排除を」

「……すごいねジャンヌさんは」

 

 ここまで吹っ切れているのは、英霊だからだろうか。いや、きっと彼女という人間が強いんだろう。

 

「それじゃあ、俺たちも協力していいかな?」

「はい、むしろこちらからお願いしたいくらいです。一人では、さすがに厳しいですから」

「意見は一致したな。それでは今後の具体的な動き方を……」

 

 そうして協力関係を結んだ俺たちは、日が沈み夜がやってくるまで、ドクターたちも交えて会議を続けたのだった。

 




だめだ、頭の中で全然まとまらない。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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