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その結果がこの微妙な絵になります。色はまだつけてませんが、バーサーカーはだいたいこんなイメージをしていただけると。背景?ハハッ(目そらし
楽しんでいただけると嬉しいです。
ああ…………また、この夢だ。
闇の中を、誰かが歩いている。
何もかも全て黒い中、その誰かは歩き続けていた。
折れた右手は垂れ下がり、潰れた片足を無理やり動かし、もう一方の手では血に濡れたとても長い剣を引く。
ひどく疲れ果てたその後ろ姿は、先の見えない闇を見つめていた。
心に繰り返し浮かぶのは、たった一つの疑問。
多くを見た。
多くを知った。
多くを裏切った。
多くを斬った。
そして、多くを失った。
数えきれないほど、この手から取りこぼした。
長かった。自分の齢すら忘れるほど旅をした。
……………………だが、私は。
その果てに、何かを手にできたのか?
……答えるものはいない。
彼の周りにはもう、誰も……
それでもただ、探すのだ。
己の旅の、終わりを。
●◯●
「……ぱい? 先輩!」
「っ!」
聞き覚えのある声に、ハッと目をさます。
普通なら少しの間ぼうっとするところを、すぐさま周囲の状況を理解するために視界を左右に巡らせた。
見えるのは木と、雑草の生い茂った地面と、そして自分を心配そうに覗き込む前髪で片目の隠れた可愛い女の子。
「ましゅ……?」
「はい、あなたのサーヴァントマシュ・キリエライトです」
「フォウ!」
パッと笑うマシュと、忘れるなというように太ももに飛び乗って自分を主張してくるフォウ。
そこまで見れば、もうそれを思い出すのは簡単だった。ああ、そうか。自分は眠っていたのかと。
「先輩、大丈夫ですか? またうなされていたようですが……」
「……ああうん、平気だよ」
笑顔を作ってマシュに向け、スッと迷いのない動きで自分の頬を撫でる。
すると感じるのは湿った感触。生暖かいそれに指を見てみれば、そこにあったのはいつものように一雫の涙。
「……また、か」
「フォーウ?」
「ん、平気だよ」
いつもこうだ。あの夢を見ると、目が覚めれば泣いている。自分でもなぜかわからないことに、必ず。
「……あの夢、ですか?」
「ああ」
心配そうに声をかけてくるマシュに言葉を返しつつ、いつの間にか握りしめていたもう一方の手を開く。
やはりそこにあるのは、爺ちゃんからもらった指輪。古ぼけた狼の刻まれた、人が見ればガラクタといいそうなそれ。
「それもいつも通りですね。一体どういうことなんでしょうか?」
「わからないよ。なんでこうなるのか」
ずっと昔から、同じ夢を見る。闇の中で、誰かが歩いている光景。
どこか見覚えのある、でもぼんやりとしてよくわからない誰かが、ずっと、ずっと、一人で歩き続けている。
先も元の道も見えないそこは暗くて、恐ろしくて、寂しくて……とても、悲しくて。つい、泣いてしまう。
ドクターやダ・ヴィンチちゃんにも相談したものの、原因不明。魔術的な何かもされてないという。
「いつも心配してくれてありがとね、マシュ」
「大丈夫なのですか?」
「平気平気、もう長いから」
小さい頃は怖くて、父さんや母さんの布団に潜り込んだけど。流石にもう慣れてしまった。
何も思わないわけじゃないけど、特別何かを感じるわけでもない。変な夢を見るのは今に始まったことじゃないし。
ただ、以前に比べて少し頻度が増えた気がするが……まあ、気のせいだろう。
「さ、行こう。二人も待ってるでしょ?」
「はい、すでに準備は完了してお待ちです」
「フォフォウ!」
よっと両足に力を込めて立ち上がり、尻の汚れを払う。
そうするとフォウを肩に乗せて、マシュと木の密集帯の入り口に行った。
「あ、藤丸君にマシュ。よく休めましたか?」
「はい、ありがとうございました」
「監視ありがとう、ジャンヌ」
そこにいたのは白い外套を脱ぎ、青と銀の鎧姿のジャンヌさん。風になびく金髪を一瞬美しいと思った。
すぐ近くの木にはバーサーカーが寄りかかっている。その側には当然、背筋正しく座るルーソフィアさん。
「少しは休めたか、マスター?」
「おかげさまで」
「ご無理をなさらないよう。気分が変調した時は私に言ってください」
「わかった……さあ、出発しよう。あとちょっとだよね?」
「はい、もう少しでラ・シャリテです」
ジャンヌの言葉に頷き、四人+一匹と一緒に草原に出るとある方向に向けて進み始めた。
ここはラ・シャリテという街にほど近い場所だ。
現在、俺たちは砦から離れている。早朝に出て、太陽の高さからしてもうすぐ昼ごろってとこか。
ユリアさんと会議をした結果、やはり情報収集をしなければいけないということで、自由に動ける俺たちがその任務に。
元からそのつもりだったので、一番近いラ・シャリテという街に向かっていたのだが……
「ごめんね、いきなり休みたいなんてわがまま言って」
「いえ、私たちサーヴァントと違って藤丸君は人間なのです。慣れない場所なのですから、休息を取るのも重要ですよ」
「先ほども言いましたが、体調の変化にはお気をつけを」
「そう言ってもらえると助かるよ」
度々襲いくる骸骨たちとの戦闘、戦況の把握に慣れないサーヴァントへの支持、土地勘のない場所で歩く不安。
爺ちゃんとの地獄キャンプで慣れないところで寝るのは問題ないけど、何せ心持ちが異なるから疲労の溜まる早さも違う。
とはいえ、もう十分に休んだ。これでしばらくは大丈夫だろう。
「でも、本当にこのまま街に行っても大丈夫なのでしょうか?」
「それは実際に人に会ってみないとわかりません。何せ現代の魔術とは異なる力ですので……」
曰く、ユリアさんは血を介してソウルに語りかけることで、ある程度人の意識を操れるらしい。
顔を隠すために視界が狭まっては戦闘に支障が出る、ということで人がジャンヌさんを見ても騒がないようにしたとか。
「問題ない。いざとなれば私が〝見えない体〟を使おう。ジャンヌ殿はまだ霊体化はできないのだろう?」
「はい、何せサーヴァントの新人のような感覚なので、うまくコツがつかめず……」
「すぐに慣れるさ……それより、少し急ごう。ユリアの話ではまだ無事のようだが、街が心配だ」
自分の血が流れた人がいる場所ならば、どこでも現界することができるユリアさん。その在り方はサーヴァントに近いらしい。
現状、人間が密集している場所……街や砦にいるのだが、バーサーカーのソウルを感じてあの砦にいる個体に力を集めたとか。
そのため、ラ・シャリテの街にいる分体はほとんど戦闘能力がなく、もし襲撃されればかなりまずい。
もしその間にワイバーンが襲ってきたら……そう考えると自然に早足になった。
ププー
歩き出してから、三十分くらい経った頃。最近聞きなれてきたどこか気の抜ける電子音が鳴った。
「ん、通信だ」
「あちらで何か捉えたのでしょうか?」
「出てみるといい」
すぐに腕輪を胸のあたりまで持ち上げて起動する。ホログラムのスクリーンが表示され、ドクターが映り込む。
「ドクター、どうかしました?」
『突然だが、君たちの行く先にサーヴァント反応だ。場所は……君たちの目的地の街!?』
「「「「「────ッ!」」」」」
瞬間、全員の顔に緊張が走る。街にサーヴァントって、まさか冬木の時のあいつらみたいに……っ!?
『それと……なんだこれ? サーヴァントっぽいけど、なんか違うような……』
ドクターがなんかブツブツ言ってるけど、今はそれを気にしていられる状況じゃない。いや、なくなった。
動揺は一瞬。ほぼ同時に互いの顔を見合わせ、頷きあうと一斉に街に向けて走り出した。
「悪い予想は当たるっていうけど……っ!」
「急ぎましょう、手遅れになる前に!」
「ああ!」
必死に足を動かして、三人についていく。頭の中に過ぎる予想を、無理やり奥に押し込めて。
五分か、十分か。あるいは数十秒だったかもしれない。息が切れ、胸が痛くなってきた時、また通信が入った。
『サーヴァント反応、遠ざかっていく。どうやらこちらには気づかなかったようだ』
「街は!?」
『………………』
ドクターは、何も答えなかった。その沈黙に、隠した嫌な予感が脳裏からじわじわと全身に押し寄せる。
それでもこの目で見るまでは信じないと、少し高い丘を登ったとき──視界には、〝赤〟が広がった。
ゴオオオオオオオオ…………
「あ………………」
街が、燃えていた。
これでもかというほどに真っ赤な炎が、街を一つ飲み込んでいた。それは壁を、旗を溶かし、そして……
その先を考えて、冬木の光景がフラッシュバックする。途端に力が抜けて、その場に座り込んだ。
「街、が……」
「そんな…………」
「……間に合わなかったか」
……間に……合わなかった…………?
「そうだ……」
「……藤丸君?」
「俺が、休憩なんてしなければ……!」
もっと早く行っていれば、間に合ったかもしれない。そう思うと、一時間前の俺を無性にぶん殴りたくなった。
たとえ疲れていても、足が痛くなっても、体に鞭打って歩き続けるべきだったんだ。そうすればもしかしたら……!
「くそっ、くそぉっ……!」
「……先輩」
「いや、マスター。まだ嘆くには早いぞ」
「……え?」
バーサーカーの言葉に、ゆっくりと顔を上げて彼の指差す方を見る。
すると、今にも崩れ落ちそうな城門をくぐって、たくさんの人が悲鳴をあげて出てくるところだった。
兵士の人たちが一般人の背中を突き飛ばすようにして外に促し、街から出ようとしている。紛れもなく、生きている人間だ。
「ま、まだ生きてる!どうして!?」
「……そうか、ユリアか!彼女がかろうじて守ったのだろう!」
「もしかして、先ほどの魔術越しの彼の言葉は……」
ジャンヌさんの呟くような声にハッとする。
そういやドクターがサーヴァントっぽい反応がなんちゃらとか言ってたような……あれってユリアさんのことか!
「ですが、とてもあれで住民全員とは思えません。おそらく大部分は……」
「それに、まだ安全ではないようです」
城壁を飛び越えて、ゾンビみたいな怪物や空の彼方からワイバーンが向かってくる。このままじゃあの人たちが危ない!
「兎も角、だ。生き残ったものたちを救出するぞ」
「ああ! 三人とも、力を貸してくれ!」
「「「了解!」」」
『こちらでも敵の情報を解析する!頑張ってくれ!』
安堵に抜けそうになる力を押しとどめて、立ち上がってそれぞれに指示を出す。
バーサーカーはあの時のように、ここでワイバーンの狙撃を。ルーソフィアさんは結界を張って支援。
近接系……旗が武器かは謎だが……の二人は直接戦闘に割り振る。
「って感じで行くけど……これでいい?」
「はい、シンプルイズベストです!」
「私もステータスは下がっていますが、精一杯戦います」
二人は踵を返して、一足飛びに丘から跳躍すると逃げ惑う人々を助けに行った。
「こちらも始めようか」
ソウルから、身の丈を超える鉄塊のような弓……〝竜狩りの大弓〟を出現させるバーサーカー。
下部についているアンカーを地面に深く突き刺し、ほぼ背負っている状態の矢筒から槍のごとき大矢を取り出す。
そしてそれを大弓につがえ、ギリギリと鉄骨が軋むような鈍い音を立てて引いていき……
「ハッ!」
ドンッ!
射出。
腹の底に響くようなそれは轟音を立てて飛んでいく。目で追いかければ、ワイバーンの頭を三つ同時に貫いた。
「相変わらずすごい迫力だな……」
「次はもっと撃ち落として見せよう……それよりもマスター、貴公にもできることをしたまえ」
すでに次の大矢を番ながら言うバーサーカーに頷き、俺は俺にできるせめてものことを実行する。
先ほどの二人のように丘を降りると、バーサーカーが援護してくれると信じて右往左往している人たちに声を張り上げた。
「おぉぉおおおぉぉい!こっちに逃げてくださぁぁぁあああああい!」
腹の底の底から全身を使って叫び、大きく手を振る。
いち早く気づいたサーヴァント二人がこっちを向いて、指差してなにかを叫んだ。すると人々の視線がこちらに向く。
手を振る俺を見て、次いで後ろにいる結界の中のルーソフィアさんを見ると、皆一目散にこちらに駆け出す。
ギャォオオオオ!
グルゥアァア!
「やらせぬよ」
ビシャァアアアン!
逃げる人々を追いかける魔物たちの頭を、天より降り注ぐ無数の雷が焼き焦がした。後に残るのは黒い残骸のみ。
さらに背後からマシュとジャンヌさんが挟撃し、逃げ道を塞ぐ。唯一空に逃げれるワイバーンも雷で落とされる。
「こっちです!」
「ヒィ、に、逃げろぉ!」
「追いつかれるぞぉ!」
火事場の馬鹿力が働いてるのか、さっきとは段違いの速さで丘を登って結界に転がり込んでくる人たち。
「あっ!」
「っ!」
続々と結界に避難していく中、白いフードを被った中年の女の人がつまづいて転んでしまった。
まずい!そう思ったのと足が前に動いたのは同時で、ほぼ滑り降りるようにして丘を降りるとその人に走り寄る。
「大丈夫ですか!手を貸します!」
「あ、ありがとうございます」
手を差し伸べて女の人を立たせて、その背中を押す。よし、これで……
グルァ!
「え?」
聞き覚えのある声に、後ろを振り向く。すると視界いっぱいに広がる、鋭い牙とぬらぬらとした口膣。
それがワイバーンの口だと気付いた時にはもう遅く、真っ白に染まった頭の中に単純な言葉が並んだ。
あ、やばい。死ぬ。
「やらせぬと、言っただろう!」
しかし、俺の頭がかじり取られることはなく。代わりに、ワイバーンの頭に剣槍が突き刺さった。
それを握るのはバーサーカー、ワイバーンの頭に着地した彼はそのまま頭部を地面に叩きつけ、粉砕する。
「あ、え……?」
「無事か、マスター」
腰が抜けて立てないでいると、絶命したワイバーンから剣槍を引き抜いたバーサーカーが振り返る。
「俺、生きて、る?」
「ああ、そうだとも。さあ立ち上がれ、まだ戦いは終わっていない」
恐怖に惚ける俺の腕をとって無理やり立たせて、バーサーカーはそのまま近くのワイバーンに走っていった。
ぼうっとその後ろ姿を追いかける。十秒もするとハッと我を取り戻して、あの女性はどうなったか見た。
「よかった、結界の中にいる……」
命がけで助けたのに、死んでしまったらどうしようかと思った。
女性と、自分の命が助かったことに安堵しつつ、震える足を叩いて黙らせると未だ激突音のする前方を見た。
マシュたちはまだ戦闘中、残っている人はもういない。ルーソフィアさんの支援を受けた兵士の人たちも、まだ平気そうだ。
「みんな、いくぞ!ラストスパートだ!」
己を鼓舞するために声を張り上げ、止まりかけた思考をまた巡らせて。
それから十五分後、戦闘は終了した。
ユリアの存在により、ごく少数生き残りました。あるキャラの登場のために。
思ったこと、感じたことを描いていただけると嬉しいです。