今回はオリジナルなので自信は皆無、ですが楽しんでいただけると嬉しいです。
「……はい、処置が完了しました」
「ありがとうございます」
ルーソフィアさんの手から放射されていた黄金に近い白い光が止み、すっかり腕の傷が元どおりになる。
まくっていた袖を戻すと、ふと影が差した。見上げてみれば、そこには険しい目つきのマシュとジャンヌさんがいる。
「先輩、無茶をしすぎです。気をつけてください」
「ご、ごめん……」
「なぜ逃げなかったのですか?」
「だって兵士さんが」
「「だって?」」
「なんでもありません、はい……」
ゴゴゴゴゴ、とか擬音のつきそうな雰囲気で詰め寄る二人に、座っている以上逃げることもできずがくりとする。
ううむ、流石にゾンビを蹴り飛ばすのは無茶だったか。兵士さんの一人が不意打ちされそうになってたから助けに入ったんだが。
「でもほら、せっかく身体強化の魔術を習ったんだし、動きも鈍かったからいけるかなって」
「結果として怪我をしているようではいけません。スクロールの数にも限りがありますので」
「おっしゃる通りです……」
医療人であり、身体強化の魔術を教えてくれたルーソフィアさんにそう言われてしまっては敵わない。
なんでも、ルーソフィアさんの依り代になっている女性は、ロンドンの時計塔を首席で卒業したのだとか。
その能力を買われて前所長……所長のお父さんにスカウトされて、カルデアに医療スタッフとしてやってきたとかなんとか。
「でも……なんとか全員、助けられたね」
振り返って、結界の中で休む人々を見る。すると二人の顔も柔らかくなり、ルーソフィアさんも頷いた。
奮闘の甲斐あって、一人も死なせることなく助けることができた。その前に助けられなかった町の人たちは悔やまれるが……
「今は、この人たちだけでも助けられたことを喜ぼう。みんな、改めてありがとう」
「いえ、先輩の指示があってこそです」
「藤丸君、元は一般人とは思えないほど板についていましたよ」
「そ、そう?」
へへ、なんて後頭部をかいていると、ガチャ!と音を立ててすぐそばに鎧を着た人物……バーサーカーがどこからか着地した。
「マスター。残党狩りは終わった、周囲の安全は確保できている」
「一番戦ったのにごめんね、バーサーカー」
「ふ、こういう時は礼を言うものだぞ。その方が報われる」
「……それじゃあ、ありがとう」
「ああ、確かに受け取った」
言葉とともに差し出された手を取って立ち上がる。
その時、握った手に何かを感じた。あれ、この手の逞しさ、どこかで覚えがあるようなないような……
そう考えた瞬間、脳裏にあの夢がよぎる。そして〝彼〟の半ばから手甲が壊れた折れた右手を思い出した。
「……? なんで今あれを……」
「? マスター、どうかしたか?」
「あ、いや、なんでもない」
パッと手を離す。その瞬間頭の中のビジョンは消え失せ、感じていた何かも嘘のように消え失せた。
首をかしげていると、ププーと通信音。腕輪をタッチすると出てくるのはドクターの気の抜けそうな笑顔だ。
『いやー、よかったよかった。なんとか勝ったみたいだね』
「うん、ドクターも敵の弱点とか教えてくれてありがとう」
『なんのなんの。でも無理はいけないぞう、藤丸君は唯一のマスターなんだからね』
「それは肝に命じました」
背後からくるマシュの心配そうな視線に苦笑して、そう答える。ドクターはうむ、と頷いて、情報収集を提案してきた。
こちらもそのつもりだったので了承、もしものことが考えられるジャンヌさんと、そういう役割はあまり得意でないバーサーカーを除いて、三人で行った。
「すみません、ちょっと聞きたいことがあるのですが。いいですか?」
「あ、ああ。あんたらは命の恩人だ、俺たちに答えられるならなんでも答えるぜ」
これ幸いと、腕輪についている録音機能を起動しつつ兵士さんの話を聞く体制に入る。
それからいくつか事前に決めていたことを質問して、答えられた中で疑問に思った箇所を訪ねて、とやっていった。
元々こっちが持っている情報はさほどなかったので、体感で十数分ほどで問答は終わる。次の質問で最後だ。
「最後に、街を襲ったやつのことを聞きたいんですけど」
「……あれは、黒い竜だった」
「黒い竜?」
「ああ。一瞬にして街が焼き払われ、教主様が身を呈して人々を庇ってくださったが……一番奥にいた俺たちしか助からなかった」
「そんな強力な相手が……」
きっと、これまで幾度か戦ったワイバーンとは別物だろう。そうでなければ、ここまで怯えた顔はしないはず。
さらに詳しく聞くと、その背には黒い聖女……もう一人のジャンヌ・ダルクが騎乗していたと言う。竜の刻まれた、旗を持って。
そこまで聞いたところで、兵士さんが震え始めたので質問を切り上げた。
「すみません、思い出したくないことを聞いちゃって……」
「いや、別にいい……それより、あんたたちは、あの魔女と戦うつもりでいるのか?」
「そうですけど……」
そうしなければ特異点は修復されないし、この時代の人たちは死に続ける。やらなければいけないのだ、俺たちが。
すると、話を聞いた兵士さんや近くにいた同じ兵士の人たちが神妙な顔になり、互いに頷きあうと俺を見た。
「……だったら、その時は俺たちも戦うよ。あんたみたいなガキがやろうってんだ、兵士である俺がやらなくてどうする」
「……いいんですか?」
「元々この国を守るのが使命だ。だからあんたも、死ぬんじゃねえぞ」
革命の時代を戦い抜いた兵士さんの言葉は、とても重みがあった。一般人である俺には、重すぎるほどに。
それでも一つの時代と一つの世界、背負っているものだけは同じくらいでかい。その責任もまた、受け止めなければいけない。
だから、その覚悟は少しだけわかった。
「はい。頑張って、生き残ります」
「おう」
軽くお辞儀をして、マシュたちと合流してバーサーカーたちの元に戻る。
「マスター、どうだった?」
「上々、いくつか重要そうな情報を手に入れられた。マシュたちは?」
「こちらもいくつか有意義な情報を得られました」
「お二人も含め、まずはそれを共有しましょう」
「感謝します」
互いの情報を話し合って、聞いたことを把握する。結果、いくつかのことがわかった。
まず俺が聞いた情報だが、オルレアンは完全に占拠されているみたいだ。包囲戦に参加した兵士さんが言うには、地獄絵図らしい。
無数のワイバーンが飛び交い、おぞましい蔦で塔や城は包まれて、城下には魔物が跋扈する。まさに魔境だ。
次に、他の町から唯一生き残った伝令の話によると、黒いジャンヌ・ダルク……黒ジャンヌって呼ぶか。
黒ジャンヌは、サーヴァントらしきもの達を従えている。ワイバーンの他にも彼らを使って街を蹂躙しているとか。
「極め付けには、もう一人のジャンヌ・ダルクが操っていると思わしき黒い竜、か……」
「ドクター、何か心当たりはある?」
『うーん、黒竜というのは伝説には割とありがちだからなぁ。代表格としては、ファヴニールとかかな?』
「確かジークフリートに倒されたドラゴンだっけ?」
「邪竜ファヴニールの血を浴びた英雄ジークフリートは、不死性を得たとも言われていますね」
「まあ、実際に見ないことにはわかるまい。次の話に行こう」
今度はマシュたちの情報だが、そのサーヴァントたちによって破壊された町のうち、食糧庫などの要所もいくつか破壊されたそうだ。
それによって立ち行かなくなった人々が他の町に避難し、結果その町の食糧も不足して……と負のスパイラルに陥っている。
「曲がりなりにも軍人の意見としては、これが一番痛いですね。食糧がないだけで人々の士気は致命的に落ちます」
「不死人である私やサーヴァントと違い、普通の人間は食時をしなければ生きられないからな。それに、体力が低下すれば迎撃も何もあるまい」
「俺たちじゃあ食料はどうしようもないしな……」
カルデアから持ってくるわけにもいかないし、出発前に聞いたらユリアさんも色々とやりくりしてもギリギリだと言う。
魔物の襲撃に加えて飢餓まで加われば、ますますひどいことになるのは目に見えている。どうしたものか……
「それについて、一つ情報が」
「ほう、何かあるのか?」
ルーソフィアさんはコクリと頷いて、マシュが口を開いてあとを引き継ぐ。
「実は……各地を転々としている人物がいるようなのです」
「人物?」
「なんでもその人物はふらりと現れては、無償でどこからか持ってきた食料や武器などを配っているようで……」
「そんな人が……?」
曰く、その人物が持ってくるのは壊滅した町で生産していたものや、それを作る職人が死んでしまった武具などのようだ。
それによってなんとか凌いでいる町もあるらしく、兵士たちも情報を求めているが、一向に足がかりが掴めないらしい。
おまけに身一つで現れたのに、どこからか大量の品物を取り出すそうだ。街を去るときも、どこかに荷物を消すという。
そこで、ある予想が頭の中に浮かぶ。同時に全員がバーサーカーの方を見た。
「それってもしかして、ソウルの術を使える……」
「……ありえない。私以外に、この人理に不死人は一人とて残っていないはずだ」
手の中にソウルから火炎壺を取り出して言うバーサーカーを見て、それもそうかと思う。でもそしたら一体何なんだろう……
「可能性が、あるとすれば」
声をあげたのは、ルーソフィアさんだった。彼女を見ると、バーサーカーの方を向いている。
「何か心当たりがあるのか?」
「サーヴァントとして蘇った、祭祀場にいた人間でしょう。彼らは魔法を完成させた後、己の好きなように生き、死んでいきました」
「……そうか、彼らは
「……? 残したって、何を?」
「いや、こちらの話だ。しかしそれならばつじつまが合う。だが、それでは一体誰かという話になるのだが……」
面頬の顎の部分に指を当てて悩むバーサーカーだが、その祭祀場の人たち?というのは彼とルーソフィアさんにしかわからない。
なのでその様子をぼんやりと見る。すると、ガシャガシャという音が結界の方から近づいてくるのが聞こえた。
歩いてくるのは兵士さんの一人。他の皆も気づいて彼を見る。ちなみにジャンヌさんはサッとマシュの盾の裏に隠れた。
「なあ、少しいいか?」
「何かご用でしょうか?避難に関しましては、もうすぐルーソフィアさんが砦に送る手はずになっていますが……」
「いや、そうじゃない。用があるのはあんたにだ」
「……私にか?」
ああ、と頷いた兵士さんは、腰の懐から何かを取り出して差し出す。バーサーカーはそれをやや慎重に受け取った。
「あんたら、さっきあの男の話をしてたろ?実はつい最近この町にも来てよ、なんか『儂の勘が正しければ、もうすぐいろんな武器を使う古い鎧を着た男が来る。そうしたらこれを渡してくれ』ってよ」
「あの男というのは、例の人物のことですか?」
「ああ。あの男が言ってたのって、あんたのことだろ?」
「……さてな」
答えつつ、バーサーカーは渡されたものを見て──ピタリ、と動きを止めてしまう。
微動だにしなくなったバーサーカーに首を傾げ、近寄って全員で彼の手の中を覗き込んでみる。
それは、大きな宝石のはめられた指輪だった。男である俺でも美しいと思うほど大きな、雫型の青色の宝石。
「わあ、綺麗ですね」
「これは、サファイアでしょうか?こんなに大きな宝石は初めて見ましたけど……」
「知らないけど、とにかく渡したからな」
「あ、はい。ありがとうございます」
兵士さんは結界の方に走っていき、元のように俺たちだけになる。
バーサーカーは未だに硬直していた。じっと青い宝石のはまった指輪を見て、何かを考えているみたいだ
「バーサーカー、どうしたの?」
「…………」
俺の問いかけに答えず、バーサーカーはもう一方の手に白い鈴を取り出して、奇跡を使う。
「〝助言求め〟」
チリンと清涼な音が響きわたり、その光に当てられて指輪の縁の部分に白い楔のような文字が浮かび上がった。
「わっ、すごい。何これ?」
「私たちの時代の文字だ。そしてこれは…………」
バーサーカーは文字を読んで、フッと息を吐く。それは随分と柔らかいもので。
「〝約束〟、か……そうだったな。それが貴公と私の、最初の……」
『取り込み中すまないが、ちょっといいかな!』
「うわっ!」
突然ドクターのホログラムが浮かび上がって仰け反る。いつもいきなり来るからびっくりするなあ!
「ドクター、なにか非常事態でしょうか?」
『残念なことにその通りだ!いいか、落ち着いてよく聞いてくれ!』
焦燥を顔に浮かべたドクターは、そこで一旦言葉を切り。そして険しい目つきで……
『今その場に、さっき離れたサーヴァント反応が向かっている!』
次回、ついに襲来。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。